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後藤平太「趣味における料理と仕事における料理の対象性」

 

 私にとっての余暇とは趣味の料理をしているときである。包丁を手に台所に立っていると私は一種のカタルシスを感じる。「息抜き感」に満たされる。しかし、私は飲食店でバイトをしているのだが、そこの厨房で働いている人の姿からは一切の「息抜き感」が見受けられない。バイト中にふと頭に浮かんだことではあるが、料理というひとつの行為を通して余暇と仕事の対象性を見つけることは出来ないだろうか。

 

 また料理を作るからにはそれを食べる人物がいるということになり、さらにその人物によって料理に対する評価も同時に行われる。いうなれば作り手と料理の間には第三者が存在し、第三者が料理を食し評価することで作り手にはある種の「義務感」が生じる。そして「義務感」を背負うことで「ストレス」が蓄積されるとはいえないだろうか。

 

 そこで二つの場面における料理という行為を「息抜き感」と「義務感」、「ストレス」の三つをキーワードにして比較することで、余暇と仕事の違いを探っていく。

 

 まずは余暇(趣味)における料理だが、今回は情報源をブログに求めてみた。「しあわせまんま。」という、趣味でその日のメニューなどを書き込んでいるブログを参照してみた。

 


[タイトル:うちのゴーヤちゃんぷるぅ〜]

ダイエット中の私にとって、ヘルシィかつお腹いっぱいで満足できる@品で、1週間に@回は食べます。これから、ゴーヤの時期、食べる回数はもっと増えるでしょうo(^-^)o中略)私も絶対にポーク入りが大好きだけれど、ポークってカロリーが高い。そこで、色も似てるし安いし簡単な魚肉ソーセージをポークの代わりに使ってます。[1]


 

 

 はじめに「息抜き感」だがこれは文章全体から見受けられる。ブログそのものが息抜き(余暇)の可能性もあるが、少なくともこの文章からは料理が嫌いな印象はない。むしろブログが息抜き(余暇)ならば、料理もブログという息抜き(余暇)の一部となりうる。また「食べる回数はもっと増えるでしょう」や「ポーク入りが大好き」などプラスのイメージが強い言葉が多々使われているため、このブログでは「息抜き感」>「義務感」となるだろう。

 

 続いて「ふんわり、とろ〜り。」というブログを参照してみる。ここでは特に第三者に注意したい。

 


[タイトル:ねぎまみれの塩ダレステーキ丼]

 相方の給料日は明日。すなわち今日を乗り切れば軍資金(食費)がいただけるのですp(w)q残り少なくなった財布を握り締め、いざ近所のスーパーへ!(中略)ねぎのおかげで以外にさっぱりいただけました。相方にも好評でしたよ。ちょうど肉が食いたかったんや〜と言うてました。よかったね(´")(中略)よし、これからの1ヶ月も頑張るぞ![2]


 

 このブログの場合、作り手はブログの筆者で食べるのは彼女と彼女のご主人ということらしい。注目すべき第三者は直接評価を言葉に出している。「好評でしたよ」と言葉にあるように、料理への評価が高ければ当然やりがいがあったというものだ。文章内の顔文字や「よかったね」という言葉から幸福感が見受けられる。

 

 しかし、ここでは義務感が「しあわせまんま。」の筆者よりも大きくなっていると思われる。文章の最後の「頑張るぞ!」という言葉はやる気の向上を表しているとともに、義務を背負っていることも暗示していると言えまいか。「息抜き感」<「義務感」とまではいかないにしろ、「息抜き感」≧「義務感」の可能性は拭いきれない。またおいしいものを作らなくてはと思ったことで若干のストレスも感じたことだろう。

 

 次に仕事で料理を行っている者のブログを見てみる。「料理・店舗立上げ・料理人業界のブログ」というブログなのだが、このブログの筆者は生粋の料理人で現在もその腕を振るっている。

 


[タイトル:丁稚の精神状態]

 板前の見習いを業界では”丁稚”と呼びます。昔から商いの見習いに良く使われた言葉です。(中略)いろんな若い丁稚がついてくれました。中には私に怒られ過ぎて自らの腕を無意識に柳刃包丁で突き刺したりした子もいます。毎日が真剣勝負の世界です。お客様がお金と引き換えにお料理を食べて行ってくれる訳ですから手抜きや妥協はできません。その為に私は、仕事は厳しい姿勢で臨みました。ついてくる若い子は大変です。その為に精神的にも疲労やストレスで限界を超えている者も多くいました。(中略)その子も最終的には500円玉程度に円形脱毛症になるくらいストレスがたまりましたが、一応仕事を覚え故郷の岩手へ帰りました。今では連絡も途絶えましたが、その時の”学ぶ”と言う気持ちを持ち続け生きて行ってくれればと時々あの頃を振り返り思い出します・・・・[3]


 

 自分の腕を柳刃包丁で突き刺すとは、その丁稚はどれほど追い詰められていたのだろう。それも無意識なのだから「息抜き感」が入り込む余地など微塵にも見受けられない。「義務感」のほかにも焦燥感やストレス、疲労などを背負わざるを得ない極限的な状況に置かれているといえよう。また「毎日が真剣勝負の世界」とあるように、もはや「息抜き感」は影を潜めるというわけではなく初めから存在しないことになる。

 

 次も同じ筆者のブログからの引用だが、今度は料理をしているものにはつき物の怪我についての記事である。

 


[タイトル:手を切ってしまう!]

 これは17歳の時、先輩にうなぎの頭と間違われて落とされた指です。関東式のうなぎ店にヘルプに行っていた私はうなぎを捌いていました。その横で先輩が捌いていたのですが、これまたへたくそでうなぎを逃がしてばかりいました。そうこうしていると先輩のまな板から脱走したうなぎが一匹、私のまな板に進入してきたので私が取り押さえると先輩が「そのまま捕まえておけ」と言うなりうなぎの頭めがけうなぎ裂き包丁を振り下ろしました。 運悪くうなぎの頭の横にあった私の人差し指が犠牲になりました。「うっ」と思った瞬間、指先から大量の血が流れ、すごい激痛が走りました。人間の指先は神経が集中しており、又、うなぎの血は危険で、人間の目にはいると失明の恐れがあるらしく、又傷口などに入ると炎症を起こします。包丁は鋭く、私の人差し指の爪の真ん中から3分の2ほど切ったくらいの骨で止まっていました。さすがにこの時は医者へ行きました。医者は「爪のところは治療の仕様がない、縫うにも縫えないから消毒だけしよう」と言うことでした。[4]


 

 私も包丁で手を切ったことは幾度かあるが、たいていの場合かすり傷程度である。包丁の切れ味の問題は置いておいて、最たる理由としては趣味における料理ではそれほど激しい作業がまずないからではないだろうか。自分の家の台所でうなぎなど捌かないし、包丁を振り下ろすこともない。だから包丁の刃が骨でとまることもない。つまりこの場合、危険と隣り合わせであるゆえに「緊張感」が生まれるというわけだ。「緊張感」はおいしいものを作らなくてはという「義務感」からも発生し、仕事で料理を行っている者は二つの「緊張感」で板ばさみとなり、そのストレスは計り知れない。

 

 余暇の料理と仕事の料理の二つの文章を比較してみると、余暇の料理の方は顔文字を用いるなど明るく柔軟な文体なのに対して、仕事の料理の方は堅苦しく緊張しているように思われる。ブログの筆者の年齢や性格に大きく左右されるだろうが、それぞれの料理に対する思いも映し出しているといえよう。

 

 また「息抜き感」は趣味における料理ではその存在感を示すが、仕事における料理に場を移すと存在すら出来なくなる。一方、「義務感」はどこの場面にも現れることが出来る。特にその存在感が大きくなるのは仕事の場面においてであろう。「義務感」は大きすぎれば「ストレス」までもが大きくなってしまい多大な負担となってしまう。だが「義務感」なくしてはおいしい料理は生まれない。自分で食べるものを自分で作るより、ほかの誰かが食べてくれるならおいしい料理を作ろうという気持ちになる。つまり仕事で料理をしている者は常にその気持ちであるわけだ。

 

とはいえ常に「義務感」を抱えたままでは「ストレス」でおかしくなってしまう。そこで料理人の胸中では「義務感」はいつしか似て非なるものである「使命感」に姿をかえる。「使命感」というと正義のヒーローのイメージが浮かび上がるが、言ってしまえば料理人もヒーローの一種ではあるまいか。正義のヒーローは他者を守ろうという「使命感」に燃え悪と闘う。料理人は他者においしいものを食べさせようという「使命感」に燃え料理を作る。これは趣味で料理を作っている者には当てはまらない。趣味で料理を行っているのであれば「義務感」は「使命感」に変われるほど大きくならないからだ。趣味でしか料理をしない私にとって料理人たちはまさに正義のヒーローなのである。

 

 



[1] ブログ「しあわせまんま。」より

 この記事のURL: http://blogs.yahoo.co.jp/gqgst227/3951771.html

 5/31参照

 

[2] ブログ「ふんわり、とろ〜り。」より

 この記事のURL: http://blogs.yahoo.co.jp/kfccx449/20250024.html

 5/31参照

 

[3] ブログ「料理・店舗立上げ・料理人業界のブログ」より

 この記事のURL: http://ameblo.jp/food-kitchen/theme3-10003247841.html

6/10参照

 

[4] ブログ「料理・店舗立上げ・料理人業界のブログ」より

 この記事のURL: http://ameblo.jp/food-kitchen/theme3-10003247841.html

6/10参照