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           蔵王温泉スキー場における政策

 

私の地元山形県の蔵王には、全国でも指折りの蔵王温泉スキー場がある。1925年、大正7年にスキーコースができて以来、蔵王連峰を望む壮大なスキー場と、世界でも珍しい樹氷、硫黄の温泉、お釜など、数々の天然資源に恵まれ、山形県で一番の観光スポットとなっている。しかし、近年のスキー人口の減少に伴い、来場客の減少に蔵王温泉観光協会は悩ませられている。私が小さいころは、週末にもなると家の近くの国道がよく大渋滞になっていたものだ。社団法人中央調査者の統計によると、日本人の余暇におけるスポーツの割合も年々減少している。観光、スポーツ、買い物に食と余暇の要素をたっぷり含んでいる蔵王に焦点をあて、近年の蔵王温泉スキー場の客呼び戻しの政策について考えたいと思う。

 蔵王というと、スキー場のイメージが強いが、その他にもたくさんのスポットやレジャーを楽しむことができる。まず、夏は登山にトレッキングである。20もの山が連なり蔵王連峰を形成しているため、非常にたくさんのコースがある。また、各地点にロープウェイがあるため、自分の体力に合わせてコースを選択することも可能である。登山中には、天然記念物のコマクサというかわいらしい花やその他珍しい高原植物に出会うことができる。また、刈田岳では日本一のカルデラ湖の通称御釜を眺められる。これは登山をしなくても車で上り、見ることができる。スポーツ関連では、パラグライダー、マウンテンバイク、カヌー、テニスがあり、貸し出しを行っている。スキーばかりが有名になってしまって、本格的な温泉街だということは忘れられがちな蔵王であるが、標高の高い場所にあるため、天上の湯として、昔から人々に大事にされてきた。白濁し、硫黄の匂いが鼻をくすぐる湯は酸性泉が主で、皮膚によいとされている。宿泊施設は124件あり、そのうち温泉があるのは54件である。名物はもち米とうるち米の中に餡が入った稲花もちで、天然の熊笹の上に載っている。蔵王の温泉を手軽に家で楽しめる湯の花や、丸いこんにゃくが串に刺さっており、からしをつけていただく玉こんにゃくなどがある。これらは各宿泊施設やスキー場で買うことができるが、15のお土産専門店が存在する。そひてメインのスキー場だが、上ノ台や、横倉をはじめとする14のゲレンデがあり、12の大きなコースがあり、それぞれに名前がつけられている。ロープウェイにのり、標高1600メートルの山頂まで行くと、世界でも珍しい雪のモンスター、樹氷を見ることができる。シーズン中はライトアップされ、昼間とは違った幻想的な姿をしている。

 これほどまで観光資源が整っている蔵王だが、スキー客は199293年シーズンの158万人をピークに年々減少。20042005年シーズンは60万人の利用にとどまった。蔵王は山形駅からバスで40分程度、宮城方面からは直接来られる蔵王エコーラインという道路があるし、さほど交通面が不便なわけでもない。では、どうしてこれほどまで来場客が減ってしまったのだろうか?やはりその原因はスキー人口の減少であろう。りそなグループのりそな経済調査によれば、2000年全国のスキー人口は1,160万人とピークの1993年の1,860万人に比べて37.6%減少しており、長期低下傾向が続いていることがわかる。また,10才〜30才台の若い男性の参加率が大きく減少し、特に20才台の男性では参加率が半減している。一方でパソコンの参加率が10%増加していることから、若い世代の関心がスキー(スポーツ)からパソコン(IT機器)に移ったことがわかった。また、不景気が続いていたということもあって、スキーのようなお金のかかるスポーツへの需要も減っていたということも考えられる。このような時代に蔵王はどのような政策をうちたてたのだろうか。「山形新聞」(2002/12/29)によれば、1995年から、中高年層のトレッキングブームなどで、蔵王の夏場(510月)の集客がスキーシーズンを上回るようになった。しかし全国のスキー場ベストテンに入る蔵王スキー場も、温泉地としてはまだまだ知名度が低く、30位にも入らないという。蔵王観光協会の岡崎良治常務理事は「“スキーの蔵王”は全国区だが、蔵王の温泉はスキーヤーやボーダー以外にはあまり知られていないことがわかった。温泉による夏場の誘客に活路を見出したい」と語った。99年に全国の老舗スキー場と連携し、加盟する野沢温泉に伴って、蔵王スキー場に“温泉”の文字を加えて正式に登録。2002年にはそれぞれ独自の活動をしてきた蔵王温泉観光協会と蔵王温泉組合が統合。一致団結して、蔵王温泉スキー場の名を売り出している。また、蔵王温泉の女将たちで結成された会「こまくさ会」のメンバーが山形市長をおとずれ、温泉街の振興政策について意見交換を交換し、アピールを行った。(「山形新聞」2006/6/13)日本のスキー人口減少に相反して、韓国では今スキーブームにわき、週末にはリフト待ちが混雑するほどである。大規模なスキー場が少ない韓国からは近年、北海道や新潟県などの大型スキーリゾートへの旅行者が増加し、山形県も2003年度から、韓国の旅行会社やメディアに蔵王温泉を「仙台空港から1時間圏内の大型スキーリゾート」とPRし、期待通りに韓国人客が増えた。しかし、受け入れ態勢の不備を認識せざるおえない事件が起きた。韓国人スキー客五人が行き止まりのゲレンデを滑走し、コース外に出たため一時避難した。かれらは無事発見されたが、捜索費11万の支払いを拒み、問題となった。蔵王温泉観光協会の伊藤秀幸会長は「スキー場にハングルの案内表示や放送があれば遭難しなかったかもしれない。外国人への配慮不足に気づかされた」と振り返った。(「読売新聞」2006/2/18)そこで、増加する韓国人、中国人のため、従来の日本語と英語に加えてハングル、中国語で表記したゲレンデ案内版65枚が設置された。宿泊施設でも、韓国語や中国語の話せる従業員をおくところが多くなっているという。

 このように、蔵王温泉スキー場では、来客復活のため、さまざまな努力をしてきた。調べるうちに気づいたのは、来場客減少の一番の要因となっているのは、日本人のスキー人口減少であるが、それにもかかわらず、このスキー離れに対する対策がほとんどなかったとことである。蔵王スキー場から蔵王温泉スキー場への改名は、スキーよりも温泉地ということを印象づけ、スキー目的以外の客層を狙っているし、もちろんスキーやボード客に温泉というオプションをつけることで、他のスキー場と差をつけることもあっただろうが。韓国や中国への海外アピールも国内の問題とは違う。とどまることのないスキー人口減少傾向に、協会はもう日本人スキー客を呼び戻すことにあきらめをつけ、新たな市場へと踏み出したのではなかろうか。ただ、これから更に来客の復活を目指すには、やはり日本人のスキーヤーとボーダーが必要である。これらの政策で、蔵王温泉スキー場が活性化し、新たな客を呼ぶことができたら成功といえよう。そのためには、冬季の日本人向けの政策が重要課題であると思った。

 

 

参考 「蔵王温泉観光協会ホームページ」http://www.zao-spa.or.jp