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和気徹也「スローライフと環境問題」

 

まず、「スローライフ」の定義を考えたい。「スローライフ」とは、直訳すれば読んで字のごとく「ゆっくりと生活する」という意味になる。元々はイタリアで始まった「スローフード(丁寧に料理された食べ物)」を起源として、さらに意味合いが広がった造語のようだ。戦後から現在に至る日本社会においては、効率と利益ばかりを重視し、工業化を進め、金銭的には豊かになったといえよう。また、効率化を求める中で「スロー」であることを嫌うようになった。スピーディで便利な生活こそ快適であると考えたのだ。たしかに、飛行機・車・電車・インターネット・冷蔵庫などによって、スピーディで便利な生活を送れるようになったが、その生活に慣れすぎてしまった現代人は、逆に少し不便があっただけでストレスを感じてしまうようになった。快適さを求めた結果がストレスに繋がったというのは、実に皮肉なはなしである。「スローライフ」とは、こういった社会にあって、あえて文化や余暇を大切にし、人間らしく・自分らしく生きることを重視する概念である。

 

 次に、環境問題の現状について記す。現在最も深刻な環境問題の一つと言えばやはり、地球温暖化問題であろう。その主な原因とされるのがCO2に代表される温室効果ガスの増加である。なお、現在日本のCO2排出量は世界第四位である。しかしながら、この四位という判定も疑わしい。なぜならばその観測対象が明らかでないからだ。もし、この判定基準がその国内から排出されるCO2の量のみによるものだとしたら、この順位は現実とは異なるだろう。というのも、日本は他の先進国とは違い、多くの資源・農作物を輸入している。日本人が使う紙を作るために伐採された外国の木々が吸収するはずだったCO2量、日本人が食べる農作物を育てる際に発生するCO2、それらを運ぶ際排出されるCO2、などを考慮に入れれば、その順位も変わってくると思う。

 

 ここで、フード・マイレージという概念を紹介したい。フード・マイレージとは、食卓の上の食べ物が、そこに運ばれるまでの距離のことである。つまり、遠くの地域から運ばれるほどフード・マイレージが大きいということである。そして、日本はなんとこのフード・マイレージの長さが世界で断トツの一位なのである。今の時代、モノを運ぶためには当然CO2の排出が絡んでくる。運ぶ距離が長くなればなるほど、その排出量も多くなる。したがって、日本は実際の国内の排出量以上に温室効果ガスを出していると言える。

 

 しかしながら、このフード・マイレージという概念にこそ、スローライフと環境問題の接点が伺えるのではないだろうか。もし、消費者がこの概念を意識し、食品に限らず目の前にある物がどこから来たのかということに興味をもち、少しばかり値段が高くても国産のものを買うようにするだけで、環境保護につながっているのである。もしくは、ベランダなどで、何か一種類でも野菜を育てるだけでも地球温暖化防止になるのだ。仕事の合間の短い休み時間にご飯をかき込むのではなく、目の前の食べ物がそこに届くまでの道のりをのんびり考えながら食事をとるのも楽しいひとときであろう。また、育てている野菜がすくすく育っていくのをのんびり見守るのも立派なスローライフである。

 このように、スローライフを楽しみながら環境保護をすることは可能なのである。つまり、「環境保護をしよう!」と力まなくても、個人ができることはいくらでもあるのだ。環境問題、温暖化、砂漠化問題、と聞くと多くの人が「自分には何もできない」とか、「自分ひとりが何かやってもほとんど変わらない」と考えがちである。しかしながら、このスローライフという考えのもとでは、個人はただ単にのんびりとした生活を楽しめばよいのである。特に、自然とふれあうことに対しての楽しみを多くの人が感じられれば、それだけで結果的に環境問題解決に貢献しえるのだ。

 

 それは何も食べ物に限った話ではない。近くのコンビニへ行くのに、車を使うのではなく、自転車あるいは徒歩で行き、風を感じ、音を感じ、匂いを感じながらコンビニへの小旅行を楽しめばよいのだ。あるいは、休日に家族で近くの公園へ遊びに行く。これだけでも、家で過ごしていたら消費していたであろう電気・ガス等の節約になる。また、雨水をためて、夏の暑い日に外へ出て打ち水をする。その水でガーデニングをする。なども十分環境問題と結びついている。しかしながら、ここで重要なのは、「地球温暖化を防ぐためにやっているのだ」と思わないことである。そう思ってしまうと、「私がこれをやらなくても大して変わらない」と考えてすぐに止めてしまうからである。そうではない。私たちはスローライフを楽しむためにやればいいのである。

 

 しかし、単に楽しめばいいといっても、利便性・効率性を求める社会にドップリ浸かった私たち現代人にとって、自然とのふれあいを楽しみながらスローライフを送るということは、ときに難しいだろう。コンビニへ歩いて行くのも面倒だと考えてしまうかもしれない。ベランダで野菜を育てるなんて無理だと思うかもしれない。駅で、十分毎に電車は到着するのに、目の前の電車に乗り過ごしただけでストレスを感じてしまうかもしれない。スーパーで、欲しいものが売り切れだっただけでイライラしてしまうかもしれない。

 

 でも、頭の片隅にこの「スローライフ」という考えを持っていれば、そういった状況も少しは変わるだろう。初めは「楽しむ」ことはできないかもしれない。しかし、この言葉を知っていれば、積極的に自然とのふれあいの楽しさを探すことができる。初めのうちはイライラしたときに自分に言い聞かすように「スローライフ、スローライフ」と頭の中で唱えるぐらいでもいいだろう。徐々に自然とふれあうことの楽しさを見つけようとすればよい。「不便」と思うのではなく、「その手間を楽しむ」と思えるほどの心のゆとりをもつことが、環境問題へと密かにつながるスローライフなのである。

 

 それゆえに、この概念が多くの人に知られ、意識されなければならない。なにせ、現代人にとって「スローを肯定する」ということは全く新しい発想であり、パラダイムシフトを要求することになるからである。したがって、私のこのレポートを聞いたみなさんには、まず「スローライフ」あるいは「自然を楽しむ」ことを意識しながら今後生活してほしいと思う。そして、1人でも多くの人にその楽しさを伝えてほしい。スローライフは心を健康にし、地球を健康にしえる新しいパラダイムだということを。