060628uedas
上田紗織 「旅行へのニーズの変化と旅行会社」
1.はじめに
旅行は、余暇活動の代表格といえる。近年日本人の余暇活動に対する意識が変化し、テレビ鑑賞や友人との付き合いなど、より日常に近い余暇の過ごし方が増加傾向にあるのと同時に、今後増やしたい余暇活動の第一位に旅行が挙げられている。※1 旅行を通して非日常的な体験がしたい、ゆっくりと休養したい、ひとときの贅沢を楽しみたい、また心に残る思い出を作りたいなどといった願望を持っているようである。
2.ニーズの多様化と個人旅行志向の高まり
そして近年、その旅行に対する人々の意識も変化している。もっとも顕著なのは、人々のニーズの多様化による個人旅行志向の急激な高まりである。海外旅行のリピーターをはじめとする旅行者は、旅行会社が提供する、決められた場所に行くことしかできないパッケージツアーではなく、旅程に全く制約がなく、好きな食事をして好きな宿に宿泊できる個人主体の旅行形態を好む傾向にある。このように団体でまとまってみな同じ行動をとるよりも、個人の自由をより尊重する形の旅行をFIT(Foreign Independent Travel) と呼び、一般的にFIT型旅行者は飛行機の航空券や列車やバスの乗車券、宿泊施設などを自ら決定し、手配して旅行する。このようなニーズの多様化やFIT型旅行者の増加の背景には、インターネットなどの情報源の充実がある。人々は大量の情報を通して、観光地などの情報をより深く、より多く知ることができるため、それに伴い旅行に求めるものも大きく、多くなっていく。更に、航空会社やホテルなどのサプライヤーによる直販体制もインターネットの進展によってより安易なものになったため、個人旅行が身近なものになっている。
しかし、このFIT型旅行にもデメリットはある。まず時間と手間と料金がかかる。すべて自分で手配するため、下調べから申し込みにいたるまでに多くの時間と手間がかかる。そしてパッケージツアーなどのように団体料金が適用されにくいため、料金が割高になってしまう場合がある。また、パッケージツアーでは個人での訪問が不可能な場所を見学できる場合もあり、個人旅行では訪れることのできない場所がある。更に最大の問題として、トラブルの対処が挙げられる。旅行会社による企画旅行等ならば旅行中に何かトラブルに遭った場合の対処や責任は旅行会社が負ってくれるが、個人旅行の場合は、すべてが自己責任であり、自分で対処しなければならない。言葉の通じない海外に旅行に行く人々にとって、これは大きな障害となるであろう。
3.旅行会社の対策
個人旅行志向が高まり、旅行会社の存在意義が危ぶまれる現代社会において旅行会社が生き残っていくための対策として効果的なのは、個人旅行のデメリットをカバーしつつ、ニーズの多様化に対応したパッケージツアーの提供であると考える。旅程におけるあらゆる面での選択肢を多様化することで、旅行者が旅行会社を介して個々の希望に沿った旅行の実現を可能とすることが重要である。その取り組み具体例として以下のことが挙げられる。
□滞在日数・フライト数・宿泊施設の充実
出発日や出発時間、そして滞在日数を旅行者が自ら選択できるようにすることで、個々の都合に合わせた旅行の提供が可能となる。
□ オプションの充実
基本となる旅程に加えて、文化の体験や伝統料理の飲食、主要観光地の半日ツアーなど、オプションを充実させることによって、旅行者それぞれが追加料金を支払うことで自分なりの旅をデザインできる。例えば韓国への4日間の旅に参加した場合、1日目の夕飯は韓国伝統料理のオプション、そして最終日の自由行動の日には自由行動の時間が確保されており、自分たちで市内を散策したり、南大門などの市場めぐりツアーを追加したりすることが可能である。
□テーマ性のある旅の提供
近年はSIT(Special Interest Tour) という、特別のテーマを持った旅行も増加している。スポーツや音楽、美術、食、ダイビングなど、ある一定の目的をもって旅行をすることで、達成感を得られる旅行の形態である。SITのひとつである、環境保護のための活動等を行うエコ・ツアーなどの人気が高まっている。
こういった対策によって多様化するニーズに対応できる企画旅行の提供は、気軽に比較的安価で行けるという旅行会社による企画旅行のメリットと、自分のやりたいことができ、行きたいところに行くことができる個人旅行のメリットを包括した、理想的な旅行の実現を可能にする。
4.まとめ
旅行は人々を癒したり、新しい刺激を与えたり、また国際交流を促進するきっかけになったりと、人々にさまざまな影響をもたらす非常に重要な余暇活動である。旅行者により満足できる充実した旅行を提供するため、彼らのニーズを敏感に察知し、できる限り多くの選択肢を提供するという、個人志向に対応した旅行が求められている。旅行会社が各々の企画能力やノウハウを以下に発揮できるかが、今後の旅行会社の生き残りの鍵を握っているのである。
※ 1 中央調査社「レジャー白書」より
参考
・ 国土交通省 「観光白書」
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/kankou-hakusyo/kankou-hakusyo_.html
・ 旅行企画戦略
http://www2.meijo.ac.jp/mei-suzu/Int'l%20planning%20strategy.htm
・旅行業入門