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常川久幸「政府によるレジャー政策 ―『国定公園整備プログラム』に注目して―」

国際学部国際社会学科 3年

 

1,国定公園の目的定義と現状

 国定公園とは、都市公園法で定められている大規模国営公園のことである。都市公園法では、「この法律において『都市公園』とは、次に掲げる公園又は緑地で、その設置者である地方公共団体又は国が当該公園又は緑地に設ける公園施設を含むものとする[i]」としておる。またその中でも「【イ】都府県の区域を超えるような広域の見地から設置する都市計画施設である公園又は緑地(ロに該当するものを除く)。【ロ】国家的な記念事業として、又は我が国固有の優れた文化的資産の保存及び活用を図るため閣議の決定を経て設置する都市計画施設である公園又は緑地[ii]」の二種類に分類されており、それぞれ各公園の目的に合うように設定配置されている。また、国定公園に関する法律は他に、「都市公園法施行令」などの政令として設置規定や運営費用の分担、管理の方法など細かく内容が定義されている。

 

 国が運営している公園である以上、どのような事業でも必ず目的や意義が存在する。この国定公園ではどうだろうか。都市公園法の総則では、「都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする[iii]」と大まかに目的が書かれている。この一つとして現在、国による国定公園の政策として、『国営公園整備プログラム』が念頭に行われているが、詳細は後ほど説明したい。このような政策の実行や企画、予算配分などを統括しているのは国土交通省が管轄している、「関東地方整備局(関東近辺の場合)建政部」である。「建政部」とは、都市計画に基づきながら管内の地方公共団体のまちづくりを進めている部署であり、主に都市公園管理などの直轄事業のほかに住宅整備などの事業も手がけている。ではそれら多々の事業の中で、果たして「国定公園」位置付け(事業シェア)はどのくらいなのであろうか。ここでは比較対照資料として、平成17年度の予算を検討してみたい。建政部の統計「都市・住宅関係予算概要」[iv]では、平成17年度の都市公園事業費としておよそ710億円の予算が配分されているが、これ以外の住宅や下水道などのインフラと比較すると、予算全体のわずか5%に過ぎない。平成16年度から比較するとわずかに上昇したものの、国の財政難が窺える。さらに、細かく国営公園事業費の詳細を分析してみると、関東一円五つの国定公園のすべてが、維持管理費よりも整備費の方がはるかに上回っている状況である[v]。やはり、集客率を上げようとイベントやアトラクションの建設などで試行錯誤しているらしい。人々の余暇に対する多様性の拡大を象徴するようであり、改めて余暇事業の集客困難さが受けて取れる。

 

2,『国営公園整備プログラム』

 上記で記したように、国が政策として国定公園を維持管理している。その大筋の提言が「国営公園整備プログラム」である。これは、より多くの来客を促すために各国定公園がそれぞれ定めた、現在の現状と平成19年度までの計画や運営方針などを示すガイドラインである。現在、関東地方整備局が維持管理している国定公園は全部で五つあり、その中で「武蔵丘陵森林公園」「昭和記念公園」「常陸海浜公園」「アルプスあづみの公園」の四ヶ所が、この整備プログラムを公示している。具体的には一章には、「全体計画及び開園状況」として、開園の経緯の振り返り、開園している施設一覧、そして入場者数の推移が示されている。そして二章には、「平成19年度までの整備及び管理運営の方針等」として、今後の具体的計画、地域への貢献、市民参加イベントの紹介などが記されている。かく公園がそれぞれ示しているので若干表現に異なりがあるものの大まかはこのような報告書にまとめられている。

 

各公園ともオリジナリティーを発揮しているが、この四つの国定公園には同一の方針が示されている。それが、「古都及び緑地保全事業[vi]」というものである。さらにこの計画は、「古都保存統合補助事業」と「緑地保全等統合補助事業」とに分かれており、それぞれ自然文化保全に着目したものである。「古都保存統合補助事業」では、その公園が存在する地元の歴史的風土を保存しようとする試みであり、技術や家屋といったものの買い入れや土地買収などを行っている。そして「緑地保全等統合補助事業」では、公園周辺の緑地を買い取ることやそのための土地を買収することで、数少ない緑を増やそうとする試みである。特にこの、緑地保全等統合補助事業に関しては、本来の国定公園の役目であるのではないかと私は感じる。そもそも国内外において国定公園とは、緑地保全と市民のレクリエーション施設として誕生したものである。さらにもう一つのコンセプトとして、災害時の緊急避難場所としても活用できるように広大な緑地スペースなどを完備しているところが多い。このように、国定公園は改めて原点に立ち返った方針を明確に提示しているのかもしれない。

 

3,常陸海浜公園の例

 ここでは国定公園の事業事例を見ていきたい[vii]。茨城県ひたちなか市に位置する、国営常陸海浜公園(公園名称:ひたち海浜公園)を例に挙げるとする。常陸海浜公園は昭和48年に米軍から返還された旧水戸射爆場跡地を国の総合計画として都市公園に再開発されたものである。全体が海岸線に位置しており、敷地の大部分が砂地であった。対象目的は首都圏を中心とする関東地方のレクリエーションであり、首都圏各地から年間百万人前後の来園がある。公園の計画面積は350hであり、平成18年度現在で125hまで進行しており、わずかながらも年々計画が続行されている。公園全体の構成は、松林など自然豊かな木々で囲まれ、サイクリングコースなどが巡る「樹林ゾーン」、視界が開けた大草原があり、近年ではロックフェスティバルなどの若者向け余暇イベントが催される「草原ゾーン」、そして“みはらしの丘”などに季節の花々が砂丘に咲き乱れる光景とその先に広がる大海とのコントラストが圧巻の「砂丘・海浜ゾーン」の三つに区分され、全体を通して『海と空と緑が友達』というテーマがあるほど、自然を重視した国定公園となっている。この公園の特徴として敷地面積と自然が多いことで、それに合わせた散策客の休憩する休憩場所の設置などを重点的に事業内容としている。また、そのようなオープンスペースを活用した自然の観察会なども休日の余暇に行っている。このように、豊富な自然をコンセプトとする都市緑化政策の一端がこの公園からは窺える。特に常陸海浜公園では、「花」をテーマとした緑化事業を展開するという独自の政策がある。例えば季節ごとに、スイセン、チューリップ、ネモフィラ、コスモスなど人々がそのときに来て楽しむことができる。またそのような自然の管理運営を市民に委託するという、市民活動の拠点としても事業計画として盛り込まれている。そして現在、新たな事業計画の案として、敷地内に「古民家園」の整備を挙げている。これは国定公園として、歴史文化を踏まえた“学びの場”の提供というものを掲げている。具体的には古民家などの“なつかしい”農村風景を再現することで、廃れつつある文化拠点を守るというものである。茨城県の農村文化を再認識できる場としてこれから期待したい。

 

4,見解

 今回は字数の関係上、常陸海浜公園の事例のみしか検証できなかったが、全体を通して国定公園の事業政策は当初の私の先入観とは異なっていたように思える。「国営」という、“お役所”的な放置事業展開を進行していたかのように思えたのだが、実際は積極的に市民のニーズに答えようと寛容に政策を展開していることが分かった。一方では、政府からの事業計画案の具体性が乏しく、将来的な国定公園の未来像が描けなかったことは少々残念である。しかし変革に柔軟な姿勢の中でも、国定公園のトータルステートメントである、“緑地化と文化保存”を守り続けていることもしっかりと受けて取れる。また目線を一歩海外に向けると、新たな展開像が見えてくるのも事実なのかもしれない。ニューヨークなど大都会の中心に自然豊かな国定公園が存在することも多く、朝の散歩やランチタイムの憩いの場など、人々の“日常”の余暇としての舞台となっている。日本ではまだ歴史が浅いせいか、余暇としての国定公園は、“休日”色が強い。もちろんこれから先、日常的な存在になるか否かは、これからの事業計画の推進によって左右されることである。

果たして行政政策としての国定公園は、これからどこへ向かって行くのだろうか。集いの場、『公園』の意義は果てしなく続く。

 

 



≪法務省 電子政府『e‐Gov』≫より [http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi

[i] 都市公園法【第2条】

[ii] 都市公園法【第2条2項(イ号・ロ号)】

[iii] 都市公園法【第1条】

 

[iv] 『都市・住宅関係予算概要』国土交通省建政部

  [http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/kisha/h16/753/city_park.pdf

[v] 同上『都市・住宅関係予算概要 〜W:国営公園事業の推進』

[vi] 『古都及び緑地保全事業』国土交通省建政部都市整備課

  [http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/city_park/city_park/kensei/tosiseibi/koen/02.htm

[vii] 『国営常陸海浜公園整備プログラム』常陸海浜公園管理事務所

  [http://www.hitachikaihin.go.jp/contents/000_new/01news/pdf20040323/03.pdf

『平成18年度 国営ひたち海浜公園事業概要』国土交通省関東地方整備局 〜記者発表資料

  [http://www.ktr.mlit.go.jp/kyoku/kisha/h18/054.pdf