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高渕圭子「大型ショッピングセンターの増加における生活の変化」

 

 近年、郊外大型ショッピングセンターが地方にぞくぞくと進出している。大型ショッピングセンターは、その大きさだけでなく、地域経済、住民生活、周辺交通など、地域にもたらす影響も大きい。そこで、大型ショッピングセンターを余暇に楽しむ対象として捉えて、今課題ではそれのもたらす影響と対策、今後の展望を考察する。

 

 郊外に大型店を出店する利点は、まず土地価格の安さにある。人口が大都市ほど多くはない土地に、交通面での好条件、つまり発展の可能性がある場所を選ぶ。例えば、宮城県名取市に建設中のダイアモンドシティの周辺では、有料道路の開通、近接する仙台空港へのアクセス鉄道が開通するなどの交通計画が急ピッチで進められた。この名取のダイアモンドシティは、東北最大級規模となり、県外からの集客が見込まれている。

 

 名取市を例にとってみれば、駅から離れた西部にばかり開発されていた住宅地が、アクセス鉄道の開通によって、駅東の空港近く、現在田んぼの広がる地域も開発されていくことが期待される。しかしそこで問題となってくるのが、駅前に古くから存在する商店街の衰退である。駅前東地区は、スーパーへ行くにも陸橋を越えて西地区にいかなければならない。これをよく観察してみると、高齢で車の運転どころか、自転車、徒歩で出向くこともままならないようなグループに対して、消費活動を行う場所を奪うことにつながることが見えてくる。この地区には、バイパスとその前からあった旧国道があるのだが、商店街のある旧国道は、裏道として頻繁に利用され、交通量も並ではない。このSC出店により更なる交通量の増加が予想される。しかし、歩道も確保されていない上に、その改善計画は一連のダイアモンドシティ進出を確実に視野に入れて構想されたと思われる市の開発計画に組み込まれていない。したがって、この商店街の発展は難しいといえる。交通手段のないものは、気軽な買い物も容易ではなくなるとも考えられる。

 

 大型店と中小小売店が争うとき、ほとんどの場合で大型店が勝利する。地方にある小売商業は、SCのように存在感を前面に押し出したイメージを持っておらず、その価値は住民に格別の意義が感じられることは少ない。廃業した後に、街の雰囲気の違い、買い忘れに気づいたとき、車にわざわざ乗らなければならないことを知ったときに初めてその価値が認識される。大型店の強さの要因は、なんと言ってもそのマネジメント力にあると考えられる。それに対抗するために、地方ではさまざまな補助金等が投入されているが、ハード面のみでもともと衰退しかけていた商店街には効果をもたらすことはできていないという。大型店と中小小売店の違いは、地域コミュニティに属しているか否かの意識の違いであると考えられる。大型店は雲行きが悪くなると、撤退をしていく。このとき、ほかに大型店が近接している場合、話は別だが、その地域の生活基盤はその大型店によって食い散らされ、地域を自営していく力を失っているというのが現実である。

 

 では、どのように対策を講じていくべきなのだろうか。商店街にある既存の店経営者は高齢化しており、跡継ぎもいない。つまり、彼らが店を運営していくことが徐々に出来なくなって、商店街であったところが古い住宅になっていくという可能性が高いということになる。駅が近く、国道沿いであるという好条件の商店街をSCに対抗して『商店街』という、ものを売り、人が行き交う通りを維持、展開させていく提案が必要である。例えば、行政が出資者となって、新しく高齢者用商品を取り扱う店、デイケアサービス、子どものための塾などを連ねた通りをプロデュースするというのもひとつの手だと考えられるし、進出してきたSCがその経営知識を生かして商店街の開発に手を加えるというのもひとつの案である。車社会化した現代の日本では、駐車場の少ない場所での発展は見込められないということが言われていたことがあったが、それを逆手に長所として伸ばしていくことが「特徴」を押し出すという点でよい効果をもたらすのではないかと考える。普通、車をとめて買い物をするところを、商店街なのだからこそ、いくつかの商店をめぐり、歩いて買い物をするという、商店街のあるべき姿を再認識し、歩行者に安全な商店街、歩くことを楽しめる商店街をデザインするのもひとつの案として成り立つのではないだろうか。

 

大型店の出店は、地元商店街や交通環境を変えるだけではなく、漁民や市場にも打撃を与えるという。フグの漁獲量日本一を誇る下関では、日本全体の大型店の占める割合が大きくなったのに加え、地元に大型店の進出が見られる。それによる影響を仲卸は次のように話している。

 「3分の1くらいにまで魚価は下がっている。この10年間でいっきに値が落ちてきた」 なぜ魚価が安いのか仲卸に尋ねると、「輸入魚と大型店だ」と即答した。「市場や流通が量販店や大型ナショナルチェーンに牛耳られて、すごい勢いで変化している。やり方が破壊的だ。量販店のあつかう魚はほとんどが輸入魚。それに生産者が太刀打ちしようと思ってもむりな話。国内市場で輸入物とバッティングするから、全体の値を押し下げて、わしら仲卸だけでなく、漁師のみなさんを泣かせている」と説明する。

 つづけて、「輸入物とセットで量販店がふえたおかげで、街の魚屋さんがどんどんへっている。小売店がへっていくと仲卸にも影響は大きい。地元生産者がとってきた魚を地元市場で競って、地元仲卸が小売店に売りさばいていく、それが食卓に並べられるという図式が崩れてきている」と述べる。地元の商店が大型店につぶされることで、ますます漁業に携わる人々は影響をこうむっているというわけである。

http://www.h5.dion.ne.jp/~chosyu/gyogyoutubusuoogtatennosihai.htm(長周新聞2005/3/8「漁業をつぶす大型店の支配」)

 

 大型店という発想は、日本独自のものではなく、外から持ち込まれた。そこで、海外の大型店出店に対する法的規制について調べてみた。

 

 フランスでは、中小商店の保護と都市計画の適正化を目的とした「商業・手工業の方向性に関する法律」(旧ロワイエ法)により、大型店の出店に対し事前許可制度を取っている(九六年に改正強化、通称ラファラン法)。 同法は、売場面積三百平方メートル以上の店舗の新設を事前許可の対象としており、売場面積が千平方メートルを超える計画には、申請の際に区域内の商業や雇用への影響等を分析した書類の添付が必要とされている。さらに、六千平方メートルを超えるものは、公聴会の開催とあわせて、全国ベースの商業施設委員会(CNEC)での公共調査が義務付けられている。CNECは、中心市街地と周辺地域との都市圏の均衡、過疎地や山岳地帯における経済産業活動の維持、商業競争の確保、環境保護などの観点から許可審査をしている。

 

 イタリアは、「商業規制改革法」で、売場面積百五十平方メートル(人口一万人超の市町村では二百五十平方メートル)以上の商店の新規開業を市町村長による許可制(売場面積四百平方メートル以上では、州の許可も必要)としている。さらに、千五百平方メートルを超える計画は、事前に州・県・市町村の三者で構成する「開業審査会」による審査を受けなければならない。

 

 イギリスは、「都市・田園計画法」により、都市計画の観点から出店や建築に対する規制をしている。環境運輸省では、都市空洞化防止や周辺地の景観保護等の観点から、大型店をなるべく街の中心に設置するよう求める通達を出している。

http://www.jcp.or.jp/faq_box/001/210325_faq_daiten_kisei.html(しんぶん赤旗「ヨーロッパでの大型店規制の実情は?」)

 

 日本では、「まちづくり3法」(都市計画法、中心市街地活性化法大店法のうち前者2つ)が見直された。床面積一万平方メートルを超すスーパーなど大型集客施設が建てられる地域を、中心部の商業地域や近隣商業地域などに限る方針が決められた。

http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/00046100ss200612290900/shtmal(神戸新聞2005/12/9「まちづくり3法見直しでゆれる大型店」)

これは、事実上郊外などへの進出を禁止することになる。しかし、このことをよく読みくだしてみると、大型店の行き場がなくなるということにはなるのではないだろうか。もし、大型店が出店の計画を示したとして、中心市街地の既存中小小売店が反対したとする。そうなると、それはもう「計画を進められない」、ということにはならないだろうか。郊外に大型店舗が進出したために、街の機能が低下した。だから今度は郊外に出店させるのを止めよう。それでは、問題の根本的解決にはなっていないし、大型店進出によって得られてきた地域の新開発などの利点も活かされなくなる。

 

 私は、大型店の地域に及ぼす影響を今回考察してみて、SCの郊外出店について前面反対の立場をとらない。しかし、これまでにも述べたようにSC側と地域の商店街、中小小売店の結びつき、または関係性は大いに改善点があることを今回のレポートを通して認識した。大型店出店がその地域のさまざまな点での活性剤となるのが望ましいと思う。