060628sugawaram

 

菅原美沙希 「日本におけるフィットネス市場の現状と今後について」

 

 近年、日本では健康志向が注目され、さまざまな製品が売り出されている。食べるものに気をつけて健康な身体になろうと考えるのはもちろんのことだが、それに加えて運動不足を気にする人が増えている。現代人は運動不足が著しく、それによって健康を害すケースも少なくない。いざ運動をしようと思っても、都市部においては広い公園は少なく、ジョギングをするにしても都合のいい場所はなかなか無いのが現状である。そんななか注目され始めたのが、さまざまなマシーンを使って効率よく体を動かすことができる「フィットネスクラブ」の存在である。地価が高く限られた広さしか確保できない都市部では、スペースを有効に使って運動できるフィットネスクラブがどんどん増加している。

 

 日本におけるフィットネスクラブの歴史としては、東京オリンピックとほぼ同時期である1965年に民間のスイミングクラブが登場。1969年、大手企業であるセントラルスポーツクラブが設立される。1970年代はジョギング、ダンス、テニスが社会的ブームとなり、各スポーツクラブの一号店がぞくぞくとでき始める。1980年代はさらにエアロビクス、スイミングスクールがブームとなり、プール付きの大型クラブが増加していく。この時期からフィットネスクラブの企業的価値が注目されるようになる。1987年は成長期と呼ばれ、都心だけでなく郊外にも大型クラブが拡大されていった。また、企業側が対象とする年齢を20代女性から3040代男女へ拡大したのもこの時期である。1991年のバブル崩壊後もフィットネスクラブの増加は治まることはなく、逆にどんどん件数を増やしていった。2000年のシドニーオリンピック以降は、格闘技系のプログラムが人気を呼んだ。現在もフィットネス人気はまだまだ衰えていない。

 

 現在の日本全国にあるフィットネスクラブの件数は、約2100件とも言われている。今もなお新しいクラブが作られている。そのほとんどが会員制と呼ばれるもので、クレジットカードからの引き落としとなっている。月9000円ほどの会費を払って、あとは自由に何度でも利用できるのが特徴である(レッスンによっては別料金がかかる場合もある)。しかし利用者の中には、この料金システムに対して不満を持っている人も少なくない。一回ごとに料金を支払うシステムを希望する人が増えているのが現状である。一回ごとに料金を支払う場合と会員制で月会費を支払う場合でどちらが得かということを考えると、利用回数によっても違ってくるが、一般的に見て、会費を払ったほうが安く済む。また、経営者側からしても、会費制のほうが管理がしやすく、会員獲得による利益も重要である。一回ごとに料金を払うシステムだと、日常的であるはずのフィットネスが長続きしにくいという懸念もある。利用者側からのニーズはあるものの、それが実現できていないのが日本のフィットネスの現状である。

 

 この利用者のニーズにいち早く対応したのがフィットネス大国・アメリカである。アメリカでは日本でフィットネスが広まる前からのダイエットブームにより、フィットネスクラブに通う人の割合も日本とは比べ物にならないほど高い。社会的問題となっている肥満対策のために多くの人が通っている。フィットネス需要が高いため、フィットネスクラブも数多く存在し、会員獲得のために必死の宣伝をしているところも多い。最近では、24時間営業のクラブも出てきているという。

 

 フィットネス需要の高いアメリカにおいても、やはり料金システムについての不満はあった。これに対してアメリカのフィットネス業界の対応としては、新たな料金システムを導入した「コンビニフィットネス」の提案だった。コンビニエンスストアのように、誰でも行きたいときに行ける手軽なフィットネスクラブのことで、アメリカではブームになっている。会員にならなくてもいいので、出張先や出掛けた先で簡単に運動することができるのが利点であると考えられる。経営の面から見ても、狭いスペースでコストも低くはじめることができるので、民間の経営者も多くいる。行きたい時にその分の料金を払うので、無駄なお金がかからないという考えが、コンビニフィットネスが広まった要因のひとつであると考えられる。

 

 これは日本でも受け入れられると考えられる。現にフィットネスクラブに通う人々のニーズに合っているのだから、すぐに広まるだろう。ただしそれは利用する側からの意見であり、経営者側からしてみればコストと利益の問題があってなかなか実現が困難なのであろう。成功を収めている海外の企業が日本でも経営をするとなれば、彼らにとっては願ってもない市場となる。全世界で約9000店舗を展開しているアメリカ最大手のコンビニフィットネスクラブは、日本国内で2008年までに2000店の出店を目指しているという。そうなれば、利用者にとってはフィットネスがより身近な余暇を過ごす空間になるし、現在のフィットネスクラブ経営者にとっては厳しいビジネス環境になる可能性がある。海外企業の国内進出に対する早急な対応が求められる。

 

 2007年以降は、余暇ビジネスにとって本格的拡大期のなると思われる。団塊世代の退職期にあたるため、時間的にも経済的にも余裕のある人々が増加する。また、医療や介護、年金などの社会保障負担の増加が懸念されていることに伴って、中高年者の健康志向が高まっている状態にある。さらには、介護保険法の改正により、ホームヘルパーによる介護から、筋力トレーニングや栄養指導などの予防重視の介護サービスへの移行が行われる。余暇として楽しみながら、同時に健康な身体を維持することにつながるフィットネスクラブは、ビジネスチャンス拡大の大きな契機をむかえることとなる。この機会に、海外の企業に市場をすべて占められることのないよう、利用者のニーズを実現できるような企業展開を試みる必要がある。

 

 

<参考URL>

日本のフィットネスクラブ産業史 http://www.cmnw.com/industry/history/nenpyo.html