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佐藤絵美 「ワールドカップ・ドイツ大会における環境対策について」

 

1.はじめに

 69日から710日にかけて開催されているワールドカップ・ドイツ大会。日本のメディアは挙ってこのことを取り上げ、連日どの局でもサッカー特集が組まれ、国民は試合の結果に一喜一憂している。このことからも日本におけるサッカー人気が高いことが知ることができる。しかし、世界的なスポーツの祭典が行われることによって多くの環境負担が生じる。例えば、612日夜のサッカーのワールドカップの日本戦テレビ中継で、全国の電力需要が約280万キロワット増えた。これは大型の原子力発電所2基分の出力に相当する。スポーツを楽しむことと環境への負荷を少なくすることはコインの裏表の関係だ。この関係を打開するような対策が今回のワールドカップ・ドイツ大会で行われている事を知り、どういった取り組みなのか、また今後の展望を考察していきたい。

 

2.環境先進国・ドイツ

 ドイツは世界有数の環境先進国として有名である。環境に対する意識も高く、国民は有権者として政党にプレッシャーをかけ、政権政党は厳しい環境関連立法で主として産業界に規制をかけている。例えば、日本ではゴミ箱は自治体が配置するという考え方で公園などに配置されているが、ドイツではゴミの元は産業界が作った商品なのだから回収する責任は産業界にあることを法律で定め、リサイクルボックスを産業界が設置している。またリサイクル・再利用・ゴミの分別の考えが市民生活に浸透しており、一人当たりのゴミの量は日本の家庭から出るゴミの量の約4分の1でしかない。

 

このように国民の環境に対する意識が高いのは、幼児期からの環境教育が徹底していることがあげられる。環境教育は持続可能な社会の形成にとって重要な役割を担うため、ドイツでは環境教育を重要な教育目標として法的に位置づけた。環境に対する意識を高めるために自然環境に触れ、自然を愛するための授業が数多くある。また、学校に限らず家庭・市町村・連邦といった様々なレベルで環境教育が行われてきている。環境教育を充実することで、環境保全的な世論の形成を通して政治厳しい環境規制法の施行を働きかけることを可能にした。そして環境団体の組織率を高め、肯定的な意味での圧力団体に発展させ社会システムの変革を促すことが実行されてきた。これが、ドイツが環境先進国と呼ばれる所以である。

 

3.グリーンゴールについて

 2で述べたようにドイツでは国民が環境保全に深い関心を持っている。環境のためには政治を変え、企業や行政も動かす社会システムを構築している。世界でもトップの環境模範国である。そのテーマの一つが「スポーツや休暇も環境に負荷をかけず楽しむこと」。

 

「グリーンゴール」とは国際サッカー連盟(FIFA)とワールドカップ・ドイツ大会組織委員会が打ち出した期間中の環境保護策だ。ワールドカップで初めて二酸化炭素(C0)排出量ゼロに挑戦する。開催国の枠を超え、地球の温暖化防止に力点を置いているのが特徴である。

 

グリーンゴールはまず大会期間中に利用される水、エネルギー、交通機関、排出されるゴミに数値目標を掲げた。水は競技場での消費を20%削減。フィールドの散水などは雨水などを利用、無線便器、節水コックなどを導入し水の節約をする。エネルギーでも消費を20%削減。太陽光発電機の導入、省エネ証明の利用、空調や冷房の熱の再利用、エネルギー管理システムの導入などが行われる。交通機関については、観客の50%が公共機関の使用することを目指し、そのために観戦チケットがそのまま地域公共機関の一日乗車券にも使えるなど工夫を凝らした。ゴミについては、リユースカップの使用、簡易包装を心がけるなど、ゴミの発生自体を抑制し、観客にも分別やリサイクルを呼びかけている。

 

世界から集まる選手やサポーター、観光客は三百万人以上。排出される温室効果ガスはC0に換算して約十万トンと推計されている。これを温暖化対策への投資を通じて相殺する。これは2006FIFAワールドカップが、「気候ニュートラル(カーボンニュートラル)」(温室効果ガスの排出を、植林など様々な方法でプラスマイナスゼロにすること)が行われる世界初の大規模スポーツイベントとなることを意味する。大会後援企業とともに約17千万円を拠出、同量の排出ガスを削減するプロジェクトを発展途上国で実施する。

 

選ばれた途上国の一つ、次期ワールドカップ開催国の南アフリカ共和国では製紙工場の廃棄おがくずでバイオマス(生物資源)発電を行い、おがくずから発生していたC0の二十倍の温室効果を持つメタンガスを減らす。汚水処理場のメタンガスも回収して発電に使う。もう一国、インドでは一昨年の津波被害に遭った一千家庭に一頭ずつ牛を提供、排せつ物から出るメタンガスで発電し各家庭に配るという。

 

現在、途上国における温室効果ガス削減プロジェクトはたくさんあるが、人々の生活向上には直接結び付かないものが多い。FIFAのプロジェクトの優れた点は、温室効果ガスを削減しながら、地域に住む人々の生活を持続的に発展させるところにある。

 

4.今後の展望と考察

 環境に配慮した催しは最近の流れである。昨年の愛知万博は環境万博とも呼ばれ、CO2量を目標の3割減に抑え、産業廃棄物も50%以上をリサイクルした。今年の2月に開催されたトリノオリンピックでは期間中に排出されたCO2十万トンを国内外の植林で相殺した。 

 

2008年度の北京オリンピックは「グリーンオリンピック」がテーマとなっている。2016年度の招致を目指す東京、福岡も廃棄物の全面リサイクルや施設新設の抑制を発表した。環境配慮をうたいグリーンオリンピックを全面に押し出している。

 

今後も世界的なスポーツイベントには環境に配慮した取り組みが多くなされていくだろう。しかしその取り組みは今回のFIFAの取り組みのように環境に配慮するだけでなく地域社会に根ざしたもので無ければならない。このグリーンゴールを機に国際的なイベントの開催における環境対策が、ただ単にCO2を削減するだけでなく、将来に渡って作用するような取り組みにシフトしていかなければならないだろう。

 

 

参考文献

朝日新聞 http://www.asahi.com/

福井新聞 http://www.fukuishimbun.co.jp/

大阪・神戸ドイツ連邦総領事館

       http://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/index.html

山陰中央新聞 http://www.sanin-chuo.co.jp/