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齊藤香織「日本の映画産業の発展について」

 

1、             問題の所在

近年、日本映画がアニメを筆頭に人気を博しているように思われる。これまで日本映画は財政的にも経済的にも減少傾向にあると言われてきた。最近のこの日本映画の人気にはどのような理由があるのだろうか。本レポートは、現在までの日本の映画発展における経緯とその諸要因を検証するものである。

 

2、             日本映画の死?

 これまで、日本映画が死につつある原因が以下のように述べられてきた。第一に観客の低レベル化が挙げられる。漫画や週刊誌で単調なものしか目にしない人々は単純な映画しか受け付けなくなってきている。また、話題についていくためだけにしか映画を見ない。「芸術」という言葉を聞くと拒否反応を示し、難しい本や映画は見ようとせず「万人向けでない」とけなす。第二に政府の無為無策である。政府は日々急変する映画業界の状況への対応が遅すぎる。最後に旧来の映画館の現象が挙げられる。今日、郊外型のシネマコンプレックス(複合型映画館)が増え続ける一方で旧来の映画館が姿を消している。首都圏や都市では多様な映画が封切られながら、地方では映画に接する機会さえないというはなはだしい不均衡状態にある。[1]

 

3、             近年の日本映画の伸び

2003年から2005年までの映画公開本数を調べた。その結果2003年度から順に邦画公開本数が287本(前年比98%)次いで310本(108%)そして356本(114,8%)となる。日本映画は2003年から355本(前年比96.5%339本(101,2%)375本(110,6%)であった。この結果からわかるように近年徐々にではあるが日本映画の公開本数が伸びてきている。外国映画の伸びよりも多いことも分かる。また、ポイントの2つ目としては、趣味・創作部門における「映画」の好調である。(これは、日本映画のみではなく外国映画にも現れている。)日本映画では、宮崎映画の大作「ハウルの動く城」が公開されたほか、「世界の中心で愛を叫ぶ」が若年層の間で大ヒットとなった。外国映画でも「ラストサムライ」「ハリーポッターとアズカバンの囚人」などいずれも好調で、映画の参加人口は前年より200万人以上の増加だった。「ヒット作だのみ」といわれ続けてきた映画業界であるが、平成13年の「千と千尋の神隠し」の大ブレイク以来参加人口は増加を続けている。[2]

4、             外国映画と比較して 映画発展の推移

近年の日本映画の産業発展は外国映画と比較してどのような違いがあるのだろうか。日本の映画鑑賞人口は1959年以降、テレビの普及やレジャー産業の拡大によって減少し、映画産業は斜陽化した。その後大手映画会社の業態は制作業務から配給業務へと縮小、撮影所システムは崩壊して新人養成機能は減少した。しかし、映画を志す若者たちは8ミリカメラなどで独自に映画を撮り、そこから時代を担う監督群が誕生するなど独立系映画の伸長と質的向上が図られる中、興行形態としてはシナマコンプレックスが急速に全国に展開して市場競争が起きたことなどによって近年の日本映画は全体としての下落傾向から上昇傾向に転じている。

一方、アメリカ映画産業を見てみると、ハリウッド・システム(製作の過程を細かく分業して娯楽的映画を量産するシステム)によって築かれた黄金時代からその後の浮き沈みを経て、現在では世界一の産業規模に発展している。アメリカではプロデューサーが監督以上に権限を持ち、トータルに作品の製作を管理しているという。現在は日本でもプロデューサーの育成が求められている。[3]

ここでのポイントは邦画の成長は洋画の影響によるものだということだ。また逆に日本映画は洋画の成長に影響を与えているということも分かった。映画は誕生後直ちに日本にもたらされ、多くの洋画の影響を受けながら発達してきた。そして日本映画は次第に独自の映像表現の方法やテーマ性を備え付けるようになり、外国映画の成長に影響を与える作品も生まれるようになった。[4]

ここ数年では国際映画祭等で日本映画が注目を集めるようになり、アニメーションか実写かを問わず海外に受け入れられるようになってきた。2003113日文化庁は「映画復興に関する懇談会」の中間報告を発表した。次章で詳しく見ていく。

 

5、             発展に当たって〜映画戦略・経済的問題・文化庁懇談会〜

これまで見てきた日本映画の発展に際しての具体的構想を追っていきたいと思う。

まず、映画戦略として「シネマコンプレックス」が質的・量的に充実し、ファミリーが週末に滞在して楽しめる空間として郊外型複合施設が定着してきたという供給サイドの充実が指摘される。また、アニメ映画の公開に先駆けて、「登場するキャラクターを使った商品やサービスを国内の流通や食品、工業大手などと共同で企画・開発する」ことを行う。映画のヒットで人気となったキャラクターを商品化するのではなく、先にキャラクター商品を開発・投入して認知度を高め、さらに映画との相乗効果を狙う。という経済的戦略も見られる。また、先述で述べた文化庁の「映画に関する懇談会」について詳しく見ていくとこの報告では国に映画への総合的な支援を求め、映画保存について抜本策を提起している。具体的に見ていく。まず映画フィルムの保存について、国内で作成された映画作品すべてを「文化遺産」として位置づけ東京国立近代美術館フィルムセンターへの納入を義務付けるというもの。作成支援については「既存の政策助成事業の統合・メニュー化」などを掲げた「当面の策」と公的融資の導入や民間からの投資の促進などを掲げた「中長期的な」方策とを分けている。人材養成については、プロデューサー等を養成する「専門職大学院」の創設に向けて文化庁が「協力」すると述べているが日本映画製作者連盟なども要望している。[5]このようにこの懇談会では「日本映画の可能性」が本当に発揮されるための総合的で抜本的な施策が求められている。

 

6、             まとめ

最後にこれまで述べてきたことをまとめていきたいと思う。日本に映画という文化が導入されて以来、日本映画は人気を博していたが、時代の変化により観客動員数・公開本数等が減少していき日本映画業界は低迷に追いやられた。そんな中で最初に 動いたのは映画を愛する若者たちであった。それから徐々に日本映画の復興を求めての活動が始まり効果的な戦略や政治的な支援まで行われるようになってきた。その甲斐あって現在は観客動員数・公開本数も上昇してきた。その他にも私は日本映画そのものの質的向上が見られていると思う。最近では宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が国外の映画祭で上映されるなど近年確実に日本映画は注目を浴びてきていると考えられる。アニメの分野でいうと日本のアニメは映画を問わず海外でも視聴されるようになってきている。例えば「ドラゴンボール」が挙げられる。「ドラゴンボール」は   映画だけでなくテレビで放映されるアニメでも、実写版の映画にもなっている。このままいけば、ディズニーに追いつく勢いではないかと思われるほどである。これまでは、外国映画を追いかける立場にあった日本映画業界も今では独自の映画技術を見出し、世界で活躍している。これはとても嬉しいことだ。今後もさらに日本映画業界が発展していくことを期待する。



[1] http://www.ne.jp/asahi/shusei/home/ Nishi Shusei’s Cinema World 

邦画が死につつ圧諸原因

[2] http://www.eiren.org/toukei/ 社団法人日本映画際作者連盟 最新映画発表資料2005

 

[3]川村 崇博 「日本映画の歴史と海外に与えた影響」2004年 http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/ITO/studies/archives.html#04_05

[4]大塚 仁夫 「日本映画産業の現状と課題」2001
http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/ITO/studies/archives.html#04_05

伊藤ゼミ卒業研究論文一覧

[5] http://www.ishii-ikuko.net/staff/bunka/030219.htm  2003218

「しんぶん赤旗」文化庁懇談会「中間まとめ」