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大宅宏幸 「日本におけるサイクルスポーツイベントの課題」

 

はじめに

 「サイクルスポーツイベント」と聞いてなかなかピンとこない方が多いと思われる。サイクルスポーツイベントとは、たとえばロードバイクだとか、MTB(マウンテンバイク)といったスポーツ自転車を使用した競技や、サイクリングなどの大会やイベントのことである。

 

わたしはサークル活動や、また自分の趣味としてロードバイクに乗っていて、今までに何度かこういったサイクルスポーツイベントに参加してきた。興味深いことに、これらのイベントは、実際に公道を利用するため、必然的にその地域社会や行政と密接に関わってくる。また、開催に当たっては、参加者にとってのアクセス性だとか、期日などの要素も絡んでくる。今回のレポートでは、特に私が実際に参加してきて感じている点から、日本における公道を使用したサイクルスポーツイベントの、現状と課題について述べてみたい。

 

公道使用型サイクルスポーツイベントの現状

 公道使用型サイクルスポーツイベントには、大きく分けて2種類ある。ひとつは公道封鎖型であり、もうひとつは非封鎖型である。

 

前者は、多様なコースレイアウトが取れて、しかも長い距離を爽快に競技できたり、またサイクリングできるので最も理想的なタイプではあるが、公道を封鎖するということは、封鎖している間は完全に道路の交通が規制されてしまうということなので、地元の行政側の許可と、地域社会の理解と協力が必要となる。ゆえに、現在の日本では、実業団やプロによる本格的なロードレース(例えば、ツール・ド・おきなわ、ツール・ド・北海道、ツアーオブジャパンなど)しか、本格的な公道封鎖型イベントは開催されていない。現在一般市民が参加できる封鎖型イベントといえば、距離の短い周回コースを何週か走る、程度のものである。近年では、こうした封鎖型イベントでさえ行政上の規制が年々強まっていて、減少傾向にあり、一般市民が参加できる本格的な公道封鎖型のイベントはほとんどないといってよく、残念な現状と言えるだろう。(よって、最近では一般市民の参加できる本格的なロードレースはツインリンク茂木や鈴鹿サーキットなどのレース場、または群馬サイクルスポーツセンターや日本サイクルスポーツセンターなどの専用コースを使用する形が多くなっている。)

 

後者の非封鎖型であるが、こちらは、封鎖されていない公道を走るイベントで、センチュリーランやグランフォンド(160キロ、100キロ程度を完走目的で走るサイクリングイベント)などが、各地で盛んに行われている。イベント時は、行政側の許可をとり、車側への啓発などを行いながら走ることになる。もちろん、このタイプのイベントを開催するのには、地元の理解と協力、行政側との連携などが必要であり、開催できているだけでも評価すべきではあるのだが、やはり車が通っている中で行われるイベントということで、爽快度は下がるし、何よりも危険であって、封鎖型がなかなか難しい日本の現状に甘んじている結果といえると私は考えている。

 

本場欧州では

 欧州は自転車文化である。よって、サイクルスポーツイベントは一年中必ず毎日どこかで開催されているぐらいである。特に、ツール・ド・フランス、ジロ・ディ・イターリア、そして各地で開催されるワンデイレースなどは圧巻である。ツール・ド・フランスはフランスを20日間かけて、前20ステージで一周するロードレースであるが、全世界の約20億人が観戦する大イベントである。平気で公道は1ステージ2百キロメートル以上全面封鎖されてレースが行われ、沿道には観客が詰め掛ける。自治体側は招致に向けて積極的に動く。プロの参加するイベントでは、日本とは比べ物にならないほどの規模になり、また、行政側、自治体側との連携は完璧である。

 

 プロの参加するレースイベントがこれほどまでなのだから、やはり一般市民の参加できるサイクルスポーツイベントも本格的である。各地で公道封鎖型のイベントが普通に開催できている。その開催方法もうまいもので、地方のあまり車の通らない道を活用し、うまく交通の支障が出ないルートを考えるなどの工夫がなされ、その際自治体側と実行委員側とがよく協力し、地元市民とも協議がしっかりとなされている。また、それを地元の活性化につなげるようにする工夫もなされ、参考になる点も多い。特にイタリア北部の街トレヴィゾで行われる「グランフォンド・ピナレロ」は圧巻で、160キロを完走するイベントなのだが、地元住民との協力、行政側との協力、イベントによる地元の活性化、どれをとっても完璧な封鎖型イベントで、世界中から参加者が集まり、なんと5000名ものサイクリストが走る。本場欧州から学ぶ点は多い。

 

日本の成功的なイベント

 本場欧州に目を向けてみたが、日本国内でも、十分ではないとはいえ、成功しているイベントの例もある。そのひとつが「バイクナビ・グランプリ」である。ここでは年間6回程度のシリーズ戦が行われ、自治体との協力の下公道封鎖型イベントをある程度実現している。私も実際に参加したイベント「表富士ヒルクライム」では、富士スカイラインを完全に封鎖し、ロードレースが行われた。このイベントは、衆議院議員、地元富士宮市の協力の下行われ、最終的には、市役所から富士スカイラインまですべての公道を完全封鎖したイベントを目指しているという。バイクナビ・グランプリでは、このように国会議員の協力を経て、公道封鎖型イベントを行い、そしてそれを地域の活性化にまでつなげようとしている先進的なもので、日本で成功している好例といえるだろう。

 

 この他にも、JCA(日本サイクリング協会)の主催するツール・ド・美ヶ原(長野県美ヶ原高原28キロ程度の公道封鎖)、日本ではもっとも規模の大きい一般市民の参加できるレースであるマウンテンサイクリング・イン・乗鞍(長野県乗鞍高原スカイライン封鎖。3000人毎年参加する)など、成功している例がある。

 

 しかしながら、これらは高原や富士山などのスカイラインを利用したもので、一般公道封鎖という点からすれば不十分であるし、何よりもアクセス性に乏しく、電車を利用した参加者にとっては不利である。

 

課題   まとめ

 今までいろいろと述べてきたが、やはり日本は悲しいことに完全な車社会であるため、結局は公道を利用した、特に封鎖型の理想的なサイクルスポーツイベントを実現するのは難しいという根本的な問題がある。

 

このような中で、今後封鎖型のイベントを実現していくに当たっての課題としては、やはり第1に行政側への働きかけや連携を強め、また、自治体との連携、地元社会の理解と協力を経て、参加者の規模を増やし、より大きく、本格的なイベントへと地道に発展させていくことであろう。また、大会を開催することによって、その地元の活性化や、知名度・注目度の向上につながるようにし、より大きなイベントへと発展させていき、行政を動かすようにしていくような、「地元への還元」的な工夫も求められていくのではないかと思う。

 

ここで、私は地方自治体に活路を見出せるのではないかと思う。宇都宮のような地方中核都市は、郊外に出て、隣接する地方自治体に入ると、意外と走りやすい車の交通量の少ない良好な道路が多くあることに気づく。こうした道路ならばある程度の封鎖ができるのではないかと思うし、また、地方の美しい自然を楽しむことのできる多様なコースレイアウトを設定できるのではないか、と常々思う。実際、那須烏山市は宇都宮市から近く、ほとんど車の通らないようなすばらしい道に恵まれている。こうした場所ならば、行政側からの許可も比較的得やすく、たとえば封鎖型のロードレースが開催できる余地がいくらでもあるように感じる。さらには、それによってその自治体・地域がある程度注目され、活性化も期待できるのではないだろうか。地方中核都市→隣接する良好なフィールドをもつ自治体、という流れによる封鎖型イベントがもっと考えられていってもよいと思う。

 

サイクルスポーツは日本ではまだまだ認知度は低い。しかし、実際に各地にあるフィールドを利用した、社会と直に関わるという重大で興味深い側面をもっていて、自治体、道路行政について考えさせられる。今後も多くのイベントに参加し、日本のサイクルスポーツイベントの発展と、サイクルスポーツのますますの定着のために行動し、考えていきたい。

 

 

参照 JCA 日本サイクリング協会ホームページhttp://www.j-cycling.org/

   バイクナビグランプリhttp://bikenavi.net/cgi-bin/news/notes/index.html 

   自転車活用推進研究会ホームページhttp://www.cyclists.jp/index.html

   Le Tour De France ホームページ http://www.letourdefrance.com/

   Funride20059月号 特集記事グランフォンド・ピナレロ