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三浦奈津美「ねぶた祭からみる青森県の観光産業」
余暇活動として多くの人々が地方の観光地を訪れる中、各地では観光客獲得のために熾烈な争いが生じており、青森ねぶた祭もその例外ではない。青森県ではこの祭りを県内最大のイベントとし、観光客の獲得や伝統的なねぶた祭りの伝承と更なる発展を目指して、様々な取り組みをしている。今回は青森県における観光産業の重要性を踏まえつつ、青森ねぶた祭においてどのような取り組みがなされているかを調べ、自分なりの考察をしていきたい。
青森県県内総生産の中で観光産業は、食料品製造業とおよそ同程度のウエイト(1.9%)を占めており、また観光産業に就業している数は金融・保険業と同じ水準(2.5%)であると言われている[1]。これらの数値からは、さほど観光産業が高い数値を占めていないと感じるだろうが、青森県にとって観光産業は農業に次ぐ代表的な産業としてこれから重要視されるだろうと私は推測する。
その根拠として、今の青森県の経済が農業中心であるということが挙げられる。農業は天候や天災に左右されるために、その生産量や価値は毎年変動する。ある程度一定の標準はあるものの、青森県は台風によるりんごの被害や冷害による米不足に幾度となく悩まされてきた。つまり、青森県の経済はその年の天候や気候に左右されやすいということである。近年では冷害に強いお米の品種の開発や、台風によって被害を受けたりんごの再利用なども行われているが、実際はそういった開発や再利用では賄えないほどの経済的ダメージを被っている。これは自然を相手にする水産業や林業にも言えることである。青森県は三方を海に囲まれ、森林や広大な平野をもつ自然に恵まれた県である。しかしその反面産業が対自然の分野に集中し、またそれに加えて日本の中でも地理上、輸送費用のリスクが大きいことなどから工業があまり発展してこなかったという現実もある。
こうした現状において観光産業というものが青森県の産業の中でいかに重要か、またさらに重要になっていくということがわかるだろう。観光産業は農業のように極端に気候に左右される産業ではなく、また観光客の増加によって県内の消費活動が活発になるため、観光産業以外の産業にも恩恵がもたらされるという波及効果もある。このことについては、青森県文化観光情報サイト/アプティネット[2]で詳しく分析されている。そのような青森県の不安定ともいえる経済を支えることになっていく観光産業の中でも、私は県内最大規模を誇るねぶた祭の重要性を強く主張したい。
青森県の観光産業における大きなイベントとしては、県の南西部にある弘前公園で開催される「弘前さくらまつり」や、扇形のねぷたを運行する「弘前ねぷたまつり」、また津軽地方の五所川原市で行われる、ビル7階建てもの高さに相当する立ち人形型のねぶたを運行する「五所川原立佞武多」などがあるが、それらの動員数とは100万人以上もの違いをみせるのが「青森ねぶた祭」である。(ちなみに、平成16年度における動員数は 弘前さくらまつりで213万人、弘前ねぷたまつりで161万人、五所川原立佞武多で162.5万人、青森ねぶた祭で335万人である[3]。)動員数だけで考えてもねぶた祭りによる経済効果というものは容易に想像できるが、このねぶた祭に関しては二つの条例や様々な政策が行われており、それによって人々の関心がさらにねぶた祭へと注がれている。
その代表的なものとして、平成13年4月1日に施行された「青森ねぶた保存伝承条例」というものがある。これは、「青森市民共有のかけがえのない財産である『青森ねぶた』を、市民一人ひとりがその当事者であるという自覚と決意のもとに、深い愛情と誇りを持ち、健全で良好な姿で次の世代へ市民一丸となって保存伝承していくことを願い制定[4]」されたものである。この条例は、青森市民にねぶた祭の重要性と伝統的価値を再認識させることが目的であると感じるが、それに加えて私は、その意識付けが観光産業に及ぼす影響もあると考える。
いまや、各地の伝統的な産業ではその後継者や伝承が重要課題となっていることが多いだろう。都市部の雇用増加や、伝統的産業とは異なり大量生産可能で安価な商品の流通は、個人の生活を豊かにする一方で伝統的産業や職業の伝承に大きな打撃を与えている。ねぶた祭もまた伝統的産業であるため、「はやし」と呼ばれる祭の音楽を主導する人々の後継者や、ねぶたを製作するねぶた師の高齢化は次世代のねぶた祭が衰退してしまうのではないかという懸念を抱かせる。そのような中で制定されたこの「青森ねぶた保存伝承条例」は、その意識付けに伴い若い世代が伝統的産業への関心をもち、彼らがそういった産業へ関わる職業へ就くことも促すのではないか、と私は考える。そうすれば観光産業がさらに発展するきっかけともなるのではないだろうか。
また平成13年7月1日に施行された「青森県迷惑行為等防止条例」の中では、祭礼等における混乱誘発行為等の禁止の項目があり、「ねぶた祭り会場等でカラス族が酒ビンや空き缶を投げ入れたり、花火を打ち上げたり、あるいは人を押しのけたり、わめいたり、桟敷席に乱入するなどしてその場を混乱させたり、周囲に被害を及ぼす行為[5]」などを禁止するとしている。この条例の目的としては健全な祭りを行うための安全対策が伺えるが、それに加えて私は安心して祭りを楽しめる環境づくりによる観光客の増加や、「カラス族」といわれる、いわば祭りの中の暴走族ともとれる彼らの出現からねぶたを敬遠してきた、健全な祭りを願う人々の祭りへの参加復帰や、そういった対策を行う青森県の姿勢に後押しされて観光産業に携わる人々の増加という点も期待されると考える。
このように青森県では実際にねぶた祭に関する取り組みが行われており、それによって祭りの重要性と役割を県民が認識し、ねぶた祭が観光産業として青森県の経済を支えることにもなるだろうと私は解釈した。しかしあくまでこれは私の予想であり、また経済発展に観光産業が大きく貢献するためにはまだまだ改善していかなければならない点が多く存在する。例えば、リピーターを増やすための政策である。私が思うに、観光産業が発達している地域、例えば沖縄や北海道などはリピーターが多く、それは「一回は行っておきたい」というより「何回でも行きたい」と感じさせる魅力がそこにはあるからであると思う。しかしねぶた祭りに関しては「一回は行っておきたい」と思う観光客が多く、実際にリピーターも少ない。県内の人の中には「毎年でも行きたい」と思う人が多数派なのであるが、多くの観光客は、記念として一度訪れただけで満足する場合が多いのではないだろうか。
この点を改善する案として、ねぶた祭りに様々なイベントを付加し毎年来ても楽しめる祭りにすることを私は提案する。ただ、ねぶた祭り好きの人にとってはこの提案は多少誤解を招くかもしれない。なぜなら、毎年運行されるねぶたは決して前年のねぶたとは同じものではない、つまりねぶた祭りは毎年来ても本来楽しめるものだからである。しかし、観光客にとっての「毎年行きたい」と思わせる要素はねぶた祭りには少ないことが現実なのである。よって、例えば青森の各特産物をその年々で取り上げ、お土産やねぶた祭り会場の屋台で販売する(今年はりんご、来年はほたて、その次はにんにく)など、その年の祭りに色をつけて前年との違いを出し、観光客が飽きない工夫をするということを私は提案する。そうすれば「一回は行きたい」から「今年は○○フェアだから行きたい」と思うリピーターの増加、また青森特産物の知名度の上昇に併せて、さらにそういった特産物に関わる観光産業以外の産業への効果も期待できるのではないだろうか。
リピーターを増やす以外にも、宿泊施設の充実など様々な課題が残されているねぶた祭りだが、実際に施行された条例などからも伺えるように、徐々にその改善の道は作られている。これからの青森県は、青森県の宝であるねぶた祭りから観光産業を活発にすることによって経済がさらに発展していくであろう。ねぶたを愛する気持ちが私たちの青森県を豊かにすることにもつながるということを自覚し誇りを持ち、また観光客の立場になって政策を打ち出すことが今の青森県に必要であると私は考える。