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小出貴美「習慣から余暇へ 〜日本人の“風呂”意識〜 」

 

 人にとって“余暇”とは何か。この“余暇”を有効的に使うことが現代人の課題のようだ。私が考えるに、人の求める余暇とは“ゆとり”のことであろう。経済的ゆとり、すなわちモノに対する欲求がほぼ満たされている現代において、時間的ゆとりを得ることが焦点となっている。すこし前の統計になってしまうが、年間休日総数を比較すると日本は世界でトップの少なさである(平成7年「労働経済の分析」)。現代の日本人のゆとり追求には、時間的ゆとりの確保が大前提なのだ。その次の課題として、“余暇”と区切られた時間をいかに有効に使うか、精神的な満足感を得るかを模索するのだ。現代の日本はこの段階にきていると言えるであろう。私は“風呂”をテーマに、日本人の“ゆとり”探求の軌跡をたどり、現代日本の余暇政策について考察してみようと思う。

 

@ 日本人的余暇“風呂“の始まり 

 6世紀ごろに国家宗教となった仏教の「沐浴」の考えが始まり。奈良の東大寺や法華寺に見られるような、寺院の施浴という施設によって、庶民の間に入浴の楽しみが広められた。室町時代には施浴の習慣は個人にも広まり、人を招いて遊ぶことを「風呂」と言うようになるほど、人々にとって入浴は生活手段であり娯楽の一種にもなった。江戸時代には銭湯が全国につくられ、湯女風呂(風俗の一種)が栄えた。この時点ですでに“風呂”の余暇化が見られる。

 

A       銭湯は減っている!?

 公衆浴場は「温湯、潮湯又は温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設」と定義されていて、各都道府県の条例により、「普通公衆浴場」と「特殊公衆浴場」または「その他の公衆浴場」に分けられている。「普通公衆浴場」が一般的に銭湯と呼ばれているもので、地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設として位置付けられている(公衆浴場法)。また、法律で定められている物価統制令に基づき入浴料金が定められていて、現在では入浴料は300〜400円の地域が多い。内風呂の普及により、銭湯は急速に廃れており、毎日一軒閉鎖していると表現されるほどの割合で減少している。残された銭湯も、入浴娯楽施設に改装するケースも多く、昔ながらの純粋な銭湯は少なくなりつつある。東京都内の銭湯は、昭和43年の2687軒をピークに減り続け、平成124月では約1300軒となっている。平成18年には1000軒を割った。銭湯が日常生活に必要な施設であるにもかかわらず著しく減少していることから、地域住民の利用の確保を図るため、「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律」など、国や自治体が必要な措置をとることを定めている法律もある[]

B        入浴における余暇政策

1955年に新たに登場した入浴施設が「健康ランド」である。ジャグジー、サウナ、マッサージ、休憩室、ゲームコーナー、食堂、大衆演劇場など様々な娯楽設備を備えた施設で、入浴料は平均1000〜2000円程度と高めである。これに対抗して、低価格で回転率の良い施設として1990年代以降から出現し始めたのが「スーパー銭湯」である。従来の銭湯と比較して、値段は少し高めでサウナやジャグジーなどの設備が充実した施設である。最近では岩盤浴施設も増加してきている。下記に温泉施設の変遷を表にまとめたが、何れもターゲット層を絞った余暇の提案である。

【温泉施設業態の推移】

温泉施設の変遷

施設内容・特徴・ターゲット層

1950年代

ヘルスセンターの登場

・大浴場、宴会、演劇、ショーを提供

・風呂よりも食事やショーに重点を置く

・中高年向け

1960年代

サウナ風呂の登場

・サラリーマンに人気

1970年代

ラドンセンターの登場

・放射線利用の健康入浴施設

1980年代

クアハウスの登場

・ドイツ生まれの温泉保養施設

・山間部やリゾート地に立地

・入浴プログラムにより美容やシェイプアップ効果( 女性に人気)

健康ランドブーム

・各種温浴施設、プール、宴会場、アミューズメント施設を備え、幅広い客層に人気

1990年以降

スーパー銭湯の登場

・既存銭湯の生き残りをかけた健康ランド化

・健康ランドの機能集約型施設として低価格を売り物に徐々に増加

 

C       日本人が入浴に求めるもの

 日本人にとって、入浴は“癒し”の時間。内風呂があるにも関わらず公衆浴場を利用する背景には、“精神的なゆとり”への欲求が関わっているのではないか。家庭の内風呂では得られないサービス、解放感、他人とのコミュニケーションなどを通して、精神的な満足感を味わう。日本独特のこの“銭湯”という文化こそ、昔から受け継がれてきた日本の余暇政策なのであろう。時代が進むにつれ、経済的ゆとりから時間的ゆとり、精神的ゆとりへと欲求の形が変わり、それに伴って銭湯の形も変化してきた。銭湯自体は減少傾向にあるが、日本人にとっての“銭湯”という概念は変わらずにこれからもこの余暇政策の中で生き続けるだろう。

 

人が人らしく生きるうえで必要な“精神的ゆとり”を、現代の私たちは余暇政策として見いだそうとしている。余暇政策とは、お金やモノでなく、人が感じる感情を対象としているのだと思う。物質的には十分にゆたかになったこれからは、余暇政策の重要度がさらに高まっていくであろう。しかし結局のところ、いかに有意義な余暇を過ごすかは個人の余暇に対する積極性によるのではないか。人は生活必需行動と社会生活行動を行ううえで満たされない部分を、様々な余暇政策を利用しながら満足感で満たそうとしているのだ。



[] 公衆浴場の配置場所の設置及び衛生措置等の基準に関する条例(昭和3981日東京都条例第184号)

銭湯関係法令(公衆浴場法、公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律、公衆浴場入浴料金の統制額に指定等に関する省令)

【参考文献】

・「生活者運動の社会学」大橋松行著