060628ishiyamae 余暇政策論レポート                         

     

高齢化社会に対応する旅行業界           国際社会学科4年 石山 恵莉子

 

 現在、進む高齢化社会に対応するように、各旅行会社では様々な趣向を凝らした「シニア向け」の商品を企画し販売を行っている。このレポートでは現在の「高齢化社会に対応する旅行業界」について、その背景、商品、今後の展望について書こうと思う。

 

(1)シニア向け商品を打ち出す旅行会社、その背景

平成17101日現在、日本の人口は12776万人で前年比2万人減という戦後初めてのマイナスに転じた。しかし、65歳以上の高齢者人口は2560万人となり過去最高を記録した。また、総人口に占める高齢者の割合は20.04%で初めて20%を超えた。

このように高齢化が進む中で、各旅行会社はシニア層をターゲットに様々なアプローチを仕掛けている。その背景には、増加するシニアが旅行・観光などのレジャー産業の消費を牽引する役として台頭してきたことがある。これまで、レジャー産業は主に若い女性が中心に牽引してきたが、近年はシニアがその主な牽引役に代わりつつある。

その理由としては、第一にシニアは時間的、経済的余裕が多いことが挙げられる。他の年代の場合、学業や就業の関係でゴールデンウィーク、夏休み、冬休みなどの大型連休時に旅行者が偏りがちだが、シニアの場合は時間的に余裕があるためピーク時に旅行者が集中することは無い。また、経済的にも余裕があるため、安いツアーよりも少々割高でも自分でプランを選べるこだわりツアーや、「フライトはビジネスクラス、ホテルはスウィートで」という高級志向なツアーなどに人気が集まっている。また第二に、シニア旅行者は他の年代の旅行者に比べてリピーター率が高いことが挙げられる。また、団塊世代が退職を控えており、この世代をいかに上手く取り込めるかが各旅行会社の収益を伸ばす大きな鍵となっている。

 

(2)各旅行会社のシニア向け商品の傾向

○東日本旅客鉄道株式会社

『大人の休日倶楽部ミドル・ジパング』

 ミドルは満50歳以上、ジパングは男性満65歳、女性は満60歳以上を対象としたJR東日本のオリジナル会員制クラブである。どちらも入会するとJR東日本線・北海道線切符の割引や、びゅう国内旅行商品の割引などの様々な会員サービスが受けられる。また同クラブのパックツアーには、各地の世界遺産・古跡を巡るツアー、郷土料理が食べられるツアーなどゆったりとした時間を過ごせる旅が揃っている。

 

○JTB株式会社

『ロイヤルロード銀座・旅彩彩』

 旅行業界最大手であるJTBはシニア向けのツアーを取り揃えた支店、『ロイヤルロード銀座』をオープンした。この店舗の内装はクラシカルな英国調で整えられ、落ち着いた雰囲気でシニアにも人気である。この店舗で扱われているブランド『旅彩彩』は50歳以上を対象としたツアーで、「わかりやすい、親切、安心」が売りである。例えば、耳が遠くなったシニア旅行者のためにイヤホンでのガイドをするなどの配慮がされ、また旅行中の健康管理にも気を配り、かかりつけの医者からの書類を基に作成される英文トラベルカルテの紹介なども行っている。出発から到着まで全ての行程には添乗員が同行し、きめ細やかな心配りで安心のガイドを行う(大きな声でゆっくり話す、旅行者に合わせてゆっくり歩く、など)。

 

 これ以外にも、H.I.Sや他の中小旅行会社などでも様々なシニア向け商品を販売している。多くの商品の共通点は、「健康面への特別な配慮がされること」と「こだわりの時間を楽しむこと」である。「健康面に多少不安があるが旅をしたい」と考えるシニア旅行者のために、自宅から空港までの送迎付きやヘルパーが全行程に同行するというツアーも販売されている。また、シニア旅行者向けの商品には「こだわり」と銘打ったものが多く、シニア旅行者の「こだわり志向」に焦点を当てた商品展開が行われている。

 

(3)シニア旅行の今後

 今後、シニア旅行者向けの商品はますます多様化していくだろう。

これからシニア世代に入る団塊世代を含む50代では、「旅行は自分のため」であると「はっきりとした目的を持つSIT(Special Interest Tour)旅行」を望む声が多く上がっている。多くの物事に触れられる盛沢山なツアーよりも、特定の季節や地域などをじっくりと楽しむツアーの方がより増えていくに違いない。SIT旅行はどの商品を見ても少々割高感があるが、経済的余裕のあるシニア世代は「自分のため」の旅行費用にはあまりこだわらない。しかし、通常の旅行ではリーズナブルな旅行を求めることも多く、シニア旅行者は費用がかかるSIT旅行とリーズナブルな通常旅行とを使い分けていくだろう。

また前出であるが、シニア旅行者にはリピーターが多い。その分旅慣れしており、平凡なツアー内容ではもはや満足しなくなってきている。今後は、各社とも他社とは一線を画すサービスやツアー商品を展開し、いかにしてシニア世代を確保し旅行者の想いに対応していくか、ということが必要であると思う。

 

 

<参考資料>

日本旅行業協会HP http://www.jata-net.or.jp

東日本旅客鉄道株式会社 http://www.jreast.co.jp

株式会社JTB http://www.jtb.co.jp

Sankei ECONET「生命ビッグバン」 http://www.sankei.co.jp/special/big/126.html