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張葉「老人大学―― 高齢者の人生を豊かにするには」
日本では、高齢者人口は平成32(2020)年まで急速に増加し、その後はおおむね安定的に推移する一方、総人口が減少することから、高齢化率は上昇を続け、27(2015)年には26.0%、62(2050)年には35.7%に達すると見込まれている1。中国では、2040年には高齢者人数が3億9700万に達するとアメリカの学者が予測した2。高齢者が増える一方、高齢者の生活を重視しなければならない。仕事を定年退職した高齢者にとっては、毎日が日曜日、その時間に何か自分のできることを見つけられるか、あるいは見つけることによって人生に生き甲斐を見出すことができるかどうか、ということが重大な問題になっている。物質的満足だけでなく、精神的な享受も欠かせない。近年、高齢者教室や老人大学を利用する人が増える傾向にある。
高齢者の余暇時間の過ごし方を見てみると、休養・くつろぎ、受診・療養といった消極的・受動的な時間が減り、趣味・娯楽、スポーツといった積極的な余暇行動の時間が増えている。それに、余暇関連消費を行なうためには、「お金」だけでなく、「時間」もかかる。特に、高齢者の場合は「元気さ」あるいは「体力(健康度)」も重要になってくる。時間に注目すると、「個人の自由になる時間」は高齢者層ほど多く、80年代と比べた増加幅も大きい。また、同じ65歳といっても、昔と比べて今は健康・体力面で大きく改善していると思われる3。
人びとの一生を、幼稚園・小学校・中学校・高校・大学といった「教育期」、その後、企業に就職して勤労者として定年に至るまでの働き続ける「労働期」、定年を迎えた後の「隠退期」というように「直線的な人生」として考えることができる。しかし、今後は、経済の発展とそれに伴う自由時間の増大・所得の増加によって、生きかた・ライフスタイルは大きく変化すると予想される4。このような状況においては、従来からの「教育期−労働期−隠退期」パターンの「直線的な人生」における時間配分から、順次くり返されるような「循環的な時間配分」になると思われる。
現代の社会では、わたし達はあらゆる年齢層にわたり、学校はもとより、家庭、職場や地域社会における種々の教育機能を通じ、また、各種の情報や文化的事象の影響の下に、知識・技術を習得し、情操を培い、心身の健康を保持・増進するなど、自己形成と生活の向上に必要な事柄を学ぶのである。このような生涯教育の考え方は、多数の国々において広く合意を得られつつある。経済成長してくるにともなって、文化的・精神的な自己実現を求める声が高まっている。
高齢者は、寿命の延長に伴う自由時間の増大などにより、多くの文化的な要求を持ち、また、様々な生活課題に直面しており、これらに応ずる学習活動のための場の整備など各種の施策が求められている。この場合において、特に高齢者の個人差の大きいことや、今後における高齢者の生活意識や価値観の変化などを十分考慮に入れる必要がある。
精神的に豊かな生活を営む上において、各人の自助努力が基本であることは言うまでもないが、国や地方公共団体も高齢者の教育あるいはそのための諸施設、指導者の確保などをさらに充実する必要がある。その際,高齢者の学習要求を画一的な枠組みの中でとらえず、各人の能力や健康・体力,社会経験の違いなども十分考慮し、選択可能な多様な学習機会を用意することが大切である。
最近、日本では、各地において公民館を中心に高齢者教室や高齢者大学などの事業が活発で、それぞれ大きな成果を上げているが、今後は、公民館のみならず、身近な学校施設やその他の公共的施設においても、このような学習機会を設けることが望まれる。
一方中国では、老人大学が流行っている。広州の寿星大学が中国では始めて老人ホームという施設の中に造られた老人大学である。最初の「学生」が200人(75〜99歳)に達した5。老人大学は老人教育と老人精神文化生活を有効に結びつけた。「知識を伸び、品性を陶冶し、健康を増強し」、それに、「退職した人が引き続き才能が発揮できる」よう、授業は文学、英語、保健、料理、撮影等あらゆる分野を含めてさまざまな形で開かれている。若い時、大学へ行くチャンスがなかったおばあちゃん、おじいちゃんにとっては、夢が叶えられ、大変うれしいことであろう。単位を十分に取れた場合に、学習者に大学卒業証明書が渡される。
そのなかに、パソコン関係の授業がとても人気がある。それには、主に二つの理由があると思う。まずは高齢者自身のニーズである。定年までに一所懸命仕事をしてきたが、何もしないまま余命を送るのも幸せだとは言えないだろう。授業で、インターネットの基礎知識を勉強し、情報を調べる能力を身につける。外を出なくても、インターネットから最新の情報が得られるので、高齢者にとってはとても便利である。それに、ネットチャットなどのツールを通じて若者との会話もできるし、時代に取り残されるという感じはしなくなる。子供や孫がそばにいなくても、電話のかわりに、「顔の見える」ネットワークカメラで連絡が取れる。中国では、MSN6よりQQ7のほうがよく使われている。二つ目は、マスコミなどの影響である。テレビや新聞などのマスコミが最新のネット技術についてよく報道し、周りの若者もインターネットに夢中している。それらの影響により、高齢者が無意識のうちにパソコンを学ぶ意欲を刺激された。パソコン技術の普及によって、高齢者の勉強方法も多元化になってきている。
このように、高齢者は老人大学で積極的に余暇を過ごし、多くの仲間と出会うこともできる。趣味を持ち、その活動を継続することにより技術の向上や他者への援助などにつながり生き甲斐づくりになるのではないでしょうか。
多くの高齢者施設は、行政の手厚い保護のもとに育てられ、「補助金」で整備されてきたというのが実状である。「民営化」されてから、老人大学の経営問題も深刻に存在している。小学校や中学校への寄付金が多いのに対しては、老人大学への寄付金や投資資金は少ない。子供のために、親がどれくらいお金を使っても大丈夫であるが、高齢者にはあまり利益還元が見出せなくて、「投資」の意味はあまりなさそうである。老人大学は公益事業として発展しているが、これから、政府の資金投入だけでなく、社会全体の重視と関心も必要である。経済的利益は少ないけれども、社会的利益は大きい。老人大学は普通の大学ではなく、高齢者の精神楽園でもある。何年も老人大学にいて卒業したくない人が少なくない。
流動する現代社会の中にあって、高齢者が充実した生活を送るために、自ら進んで学習活動や社会的活動を続け、主体的に生きる姿勢が大切である。それと同時に、政府は高齢者福祉について政策方針を改善しなければならない。中国の老人大学は主に民営であるけれども、政府の計画性と社会的ニーズと有効に結びつくのがポイントである。しかし、単に社会貢献的意義だけではなく、大学経営の新たな戦略として実行しなくてはならない。 そのためには、大学関係者に「経営者」としての感覚が強く求められるだろう。高齢者人数が増えていて、これから、高齢者教室や老人大学などの施設を利用するニーズも増加すると思う。これまで大学は主に若年者の教育機関としての役割を担ってきたが、これからの高齢社会においては、新たな世代間教育の提供者としての役割も担う時代となると思う。
1平成18年版 高齢社会白書(概要)高齢化の状況http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2006/gaiyou/18indexg.html
2美学者为中国老龄化问题敲警钟 指面临三大挑战http://tech.qq.com/a/20041112/001224.htm
5 养老院办起老人大学http://www.oldkids.com.cn/main/cailan/cailanview.asp?MessageID=20010617023510&InfoType=News
6 Microsoft社が運営するポータルサイトである。
7 QQとは中国広東省シンセン市にあるテンセント(BVI)株式会社が配布しているインスタント・メッセンジヤー(IM)で、中国におけるIMサービス最大手である。