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千田美沙子 「花火大会から見える余暇」

 

 日本の夏といったら花火!というほど花火は日本の風物詩として確立している。7月の七夕の日あたりから各地で花火大会が催され始め、夏が終わる8月下旬ころまで私たちを楽しませてくれる。私も花火大会が大好きで、毎年花火大会の会場まで行って見物している。そして、花火大会の楽しさは単に花火を見るだけにとどまらない。夏にしか着ることができない浴衣を着る絶好の機会でもあるので女の子にとってはすごく楽しみなイベントである。

 

 花火と言えば日本というイメージを持っている人が多いと思うが、発明の地は実は中国であるといわれており、日本で花火が製造されるようになったのは16世紀の鉄砲伝来以降である。打ち上げ花火の製造には半年以上かかり、ほとんどの工程が手作業で数を多く作ることができない。また、危険な業種でもあるので、花火は古くから非常に人気があっが、長い間、花火大会の数はあまり増えなかった。今から30年ほど前の1980年ごろでも、名のある主な花火大会は1020くらいであったとされる。しかしその後、安価な中国産花火が大量に輸入されるようになり、1985年に鍵屋十四代天野修が電気点火システムを開発すると、少人数で比較的安全に打ち揚げができるようになったことから、花火大会の数は激増した。[i]

現在では日本各地で花火大会が催されるようになり、年間行われる花火大会は200250に及ぶと言われている。大きな大会になると4万発以上打ち上げる大会や、約130万人の人人出になる大会もある。[ii]このように、時代を重ねるごとに花火は私たち日本人の生活になくてはならないものとして定着してきた。

 

 花火大会の裏側はどうなっているのか。私たちは普段、余暇として楽しむために花火を見たりやったりしている。なかなか花火の裏事情まで考える機会はないと思う。しかし、私たちに楽しみを与えてくれている花火にも抱える問題はあるのである。

 

 まずは安全の問題である。日本で花火が製造されるようになってからこれまでに7件の花火にまつわる大きな事故が起こっている。おもちゃ花火問屋が爆発し死者が18名出るというような事故や、打ち揚げていた花火の火が他の花火に引火し花火師2名が焼死するという事故、煙火製造工場内の配合所、火薬類一時置場を含む複数箇所で爆発が発生し10人が死亡するというような事故である。花火には関係ないが、花火大会の観客同士が歩道橋でもまれて死傷者が出た事故もあった。[iii]日々の疲れを癒す、きれいなものを見る、イベントを楽しみたいなど人それぞれ余暇の捉え方は違うと思うが、この花火大会もひとつの余暇である。その中でこのような痛ましい事故が起こってしまうということも事実である。

 

どうしたらみんなが安全に、安心して楽しむことができるのだろうか。むしろ、安全であることが疑問視されるなかで「余暇」を楽しむということができるのだろうかと思う。たとえば、遊園地に行くとして「いつこの乗り物が故障して事故が起きるかわからない」などと考えながら遊んだのでは余暇というよりもむしろ、疲れてしまうだけである。

私たちが日々、楽しく遊んだり、車に乗ったり、映画を観にいったりできるのはそこに危険があると思っていないからである。余暇を過ごすにあたってもっとも大切なことは安全であるということなのではないだろうか。

 

しかし、安全なだけではだめなのが地球には人間以外の生物が住んでいるということである。

現在花火大会が盛大に行われている中で、環境問題のクリアという課題がある。

 花火による環境汚染について「花火に含まれている火薬の中に、色火剤と呼ばれる金属化合物や二酸化硫黄が入っている。それらは花火が爆発するときに空気中に飛散することになる。それらがいずれ下降し地面や水面に沈着すると土壌や水系の重金属汚染が懸念される。」という指摘がなされている。[iv]これら花火による大気汚染は日本全体で見ればごくわずかであるにで、そこまで深刻になる必要はない。しかし私は花火が環境に悪影響を及ぼしかねないということを今まで知らなかった。よく考えてみると、花火大会にはつき物の出店や、各自持参してきた飲み物や食べ物のごみが会場に大量に残っている光景を見たことがある。そのように花火自体の環境に対する悪影響もさることながら私たち自身が行う行動も考えなくてはならない。せっかく楽しませてもらっているのだから、ルールを守って人や地球に迷惑をかけないようにしなければいけない。自分たちが楽しめればいいというのが余暇ではないと思う。

 

 こういった問題を解決するにはどうしたらよいのか。安全で安心して取り扱うことのできる、人にも地球にも優しい日本の花火を作り上げていくには。

 そのひとつの例が花火大学の設置である。足利工業大学の大学院に設置された煙火学専修は日本の花火業界に大きな影響を与えているようだ。しっかりとした師匠から、花火作りの技術のみならず火薬についての知識、法律さらには花火事業の経営などを学ぶことができる。ここには花火業界でも名の知れた講師陣が指導に当たり、これからの花火業界を担う人たちを養成していくのだそうだ。[v]ここで学ぶ人たちが今よりももっと幅広い知識を得る機会が与えられることによって、先ほど述べた安全の問題、環境の問題などが今後改善されていくことが期待できると思う。花火をみんなで楽しむためにいろいろな試みがなされており、私たちはその努力に負けないようにできることから協力していけたらいいと思う。

 

私たち花火を楽しむ側は、言ってみればプラスの面を見ている。そして花火を提供する側は、安全面の問題や環境問題、後継者問題などマイナス面を見ているといえるような気がする。もちろん、花火を提供する側がマイナス面だけを見ているとはかぎらないし、むしろ花火を作っている人たちのほうが私たちのようにただ見物しているような人たちよりも打ち上がったときの感動も大きいのかもしれない。

 花火を通して思ったことは、余暇を楽しむ側はもちろん提供している側にだって余暇として考えることのできる楽しみや感動があるということである。そして、余暇にはプラスとマイナスがあり普段はあまり意識しないマイナスの部分をたまには考えてみることも必要だということである。いかにプラス、マイナスの両方とうまく付き合っていくかを考えることができるようになると、もっと有意義な余暇を過ごすことができるようになると思った。



[i] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%AB(花火 - Wikipedia

[ii] http://www.walkerplus.com/hanabi/2006 花火カレンダー - Walkerplus

[iii] http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E7%81%AB(花火 - Wikipedia

 

[iv] http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/4963/column/20030901.html(花火の環境工学 速星千里)

[v] http://www.ashitech.ac.jp/(足利工業大学ホームページ)