「定年退職後の余暇‐海外ロングスティという選択‐」
吉澤絵里子 (宇都宮大学国際学部国際社会学科4年)
人生において、自由な時間が多く取れるのは、一般的に、学生時代と定年退職後であると言われている。日本では高齢化社会が進んだことで、従来の年齢に対する考え方が変化した。人生80年と言われている昨今では、50〜60代はまだまだアクティブな世代であると言えよう。このように、年齢に対する認識が変化したことで、人々の活動範囲は広まり、余暇に対する価値観も多様化してきたように思われる。そこで今回は、近年増加傾向にある海外ロングスティを選択するシニアの理由について考察していきたい。
海外ロングスティとは、移住でも永住でもない、日本への帰国を前提とする、比較的長
期のわたる滞在のことである。長期の旅行とは違い、コンドミニアムやアパートなどに宿泊し、スーパーなどで買い物もし自炊もする。短期間の移住体験とも考えられるだろう。
また、春夏は日本、秋冬は海外で生活するなど滞在期間が自由に設定できたり、住居が日本にあることで、好きなタイミングで日本に帰国できるところも魅力である。
ここ何年かで、日本人の定年退職後の余暇意識は変化したように思える。以前は、老後は人様に迷惑をかけずにできるだけ静かに過ごす、という非活動的なスタイルが優勢であった。ところが最近では、活動的なスタイルが主流となってきている。具体的な活動の内容は、趣味、旅行、遊び、仕事、ボランティアなど多様であるが、その中で海外ロングスティが静かなブームとなっている。
最近では「海外でちょっと暮らそうかな」と気軽に考える人も増加した。しかし、10年前では、海外暮らしは裕福な人がすること、といった概念があったため、海外で生活するといった発想はもちろんのこと、実行する人はごく少数であった。しかし今や、海外ロングスティを希望する人は大勢いる。渡航費が安価になったことも理由の1つである。年に2、3ヵ月海外でのんびりするのもいいんじゃないの?と、出かける人もいるようだ。また、海外ロングスティを実行しなくても、余暇の選択肢の1つとして考えてみることで、マンネリ化していた日本での生活を見直すきっかけにもなるようである。このようなことから、海外ロングスティは、家と別荘での2住居生活や、家のリフォームなどと同様に、個人の価値観によって選択されるライフスタイルの1つとなったことがわかる。
また、海外ロングスティが一般的になってきたもう1つ背景には、終身雇用制の崩壊、早期退職を促す企業の増加などがあげられる。これによって、これまでは仕事一筋で頑張ってきた日本人が、自分の人生を何十年という長いスパンでどう生きるべきか、について考えはじめたということがわかる。
なぜ中高年が海外ロングスティに関心を持ちだしたかというと、その背景には国内事情の悪化で将来の見とおしが全くたたないという大きな要因があった。現在日本は、少子高齢化に傾き始めている。2025年には65歳以上の高齢者1人の年金を20歳から64歳の現役世代2人で支えなければならない現状にある。出生率は下がり、子どもの数は減る一方である。このように、日本の年金制度は財源確保という点から危機的な状況にあることが明確である。さらに2007年からは、人口の約1割を占める「団塊の世代(昭和22年から24年生まれの人達‥ここでは昭和26年までを含めて数える)」が60歳定年退職を迎える。このような理由から、将来、年金受収額が引き下げられる可能性は高い。
そこで人々は、生活費や住宅費などが安く、少ない年金でも生活できる海外へと目を向けたのである。暮らす国によっては、日本での生活よりもリッチな生活が送れる国もある。余暇という理由でハウスキーパーや運転手を雇うこともある。加えて、一般的に、海外ではスポーツやレジャー費も安価である。これは余暇を楽しむ点で魅力的だろう。そして、年金は海外で生活をしていても受け取れるので何の心配もいらない。海外は非日常という感覚もあるので、ある種のリフレッシュ効果も得られる。治安問題や、言葉の壁、価値観の違いなど、それなりのリスクはあるものの、得られるものも大きいと言えよう。
また、海外生活に対するあこがれからの選択いうのもあるだろう。退職後は海外で第2の人生を始めたい、自分探しをしたい、生活スタイルを変えたい、など理由は様々である。
定年退職後や早期退職などでの現役引退を機に、ボランティア活動に熱中したり、海外でホームスティして語学や専門学校の留学生活を楽しむ人が増えている。その背景には、会貢献したい、自分の存在を確かめたいといった意識がある。
定年退職とはある意味での区切りである。自分探しは迷いの連続だが、自己実現を果たすまでは迷いと不安は付き物である。自己実現とは、人間の欲求の最上位である。自分でイメージしたこと、つまり夢は具現したいというのが人間の意識構造である。やはり、やりたいことはやり始めることが大事なようである。
定年退職者の海外ロングスティについて調べたが、海外ロングスティの波はもはやシニア世代だけには留まらない。今や年齢に関係無く、老若男女に支持されている。シニアと若者がブームを同じくしているということから、海外生活が日本人にとって非常に魅力的なものだということが読み取れる。あぁっ、そんなこんなで日本も海外のように住みやすくなって欲しいものだとただただ願うばかりである。
〈参考文献〉
「はじめての海外暮らしをさっさとやろう」 中西佐緒莉 自由国民社 2005/06/15
〈参照サイト〉 (いずれも2005/06現在)
http://www.geocities.jp/toto2000bbc/sub/sub04.htm
「論文のページ」のページ。
「海外移住、海外居住、そしてマルチハビテーション」(出所『海外リタイヤ生活術』)
「海外マルチハビテーションの時代」(出所『老後をアジア・リゾートで暮らす』)
http://www.ntb.ne.jp/splend/settle/01longstay/longstay_1.html
「退職後はここに住みたい!永住の地を探す」
http://www.geocities/jp/ssinspireg/rouge1
「海外移住=老後を海外で快適生活=」