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              ドイツと日本の休暇比較 

                 国際学部国際社会学科2年玉手里佳

  

 

〜はじめに・・〜

 

 欧米では、映画等に見られるように1ヶ月の長期休暇をとって、バカンスに出かけるケースが少なくない。もちろん日本の小学生が1ヶ月の夏休みを田舎の祖父母の家で過ごすのとは違う。家族みんなで休みをあわせて夏休み(あるいは冬休み)に旅行に出るのだ。その行き先は様々だが、陸続きのヨーロッパでは近隣諸国に行くなどして、むしろ国内にとどまることのほうが珍しいという。日本で長期休暇をとるなんて、病気で長期療養をせざるを得ない場合くらいだろう。今回、ヨーロッパ各国の中でドイツに焦点を当てて、日本との休暇の比較を行うことにした。

 

〜日本とドイツの余暇〜

 

ドイツではどのような休暇が過ごされているのだろうか。まず、ドイツ労働者のバカンスの平均日数は30日で、日本の平均日数11日のおよそ3倍といえる。さらにこの他にキリスト教の祝祭日は年間10日以上ある。ドイツではバカンスをウアラウプ(Urlaub)と言い、夏休み(一般的な夏休みつまり7、8月)の期間に限らず2〜4週間の長期的な休暇をとる。旅行の行き先は、ウアラウプが一般的になった頃はドイツ国内に限られていたものの、豊かになるにつれてイタリア、フランス、スイスなど、どんどんと外国へ足を伸ばすようになったという。また長期の休暇だけでなく‘週末の家(Wochenendehaus)’と呼ばれる別荘のようなものを田舎に購入して、土日には都会の喧騒から離れてのんびり過ごす人も多いという。日本は、というと・・ 旅行と言えば一般的に国内に23日くらいが普通で、近年ではGWや夏休みに海外に行く人の数が増えたものの、その期間は10日前後がいいところだろう。休暇の期間が違うことも挙げられるが、その他に休暇中の過ごし方もかなり違う。日本人は23日なり10日なり、その期間中に観光地に行くなりして、休暇なのに休む間もなく動き回る。経験から言っても、旅行から帰るとよく疲れがでたものである。しかし、彼らの休暇といえば一ヶ月のウアラウプ中、のんびりと仕事のことも、勉強のことも(ドイツには基本的に夏休みの宿題といったものがない。そのため、子供たちも夏休みを心置きなく遊ぶことができるのである)忘れて休暇を楽しむことができるのである。

 

〜ドイツの労働現場〜

 

しかし、30日も休んでしまっていたら、仕事はどうなってしまうのだろうか。“仕事が遅れてしまう”“上司からの評価が気になる。”・・・そう考えるのは、私たちが日本人だからだろう。ドイツでは年間30日の有給休暇があり、これらの有給休暇を消化しなくてはならないという。一流企業であるほど、休みをとるのが難しいというイメージが強いのが日本である。ドイツでは逆に、一流企業とはどれほど忙しくても有給休暇がとれる企業であると考えられている。インターネットにある驚くべき記事が載っていた。『「ドイツおいしい物語」という本には、著者の知り合いのドイツ人が一年半会社を病欠しており、会社に復帰すると、人事から….』ここまで聞くと「やはりクビか左遷だろうな….」と日本人ならばそう考えるだろう。その続きはこうである『….その病欠の期間に消化していなかった休暇70日を即刻とるように通知をもらったという実際の話が書かれていた。』この話を信じきれず休暇という名の、事実上のクビなのかと思った。また土・日にも完全に休暇がとれるようになっている。ドイツには休暇法というものがあり、法律で営業することが禁じられている。つまり休日出勤は違法なのである。キリスト教の聖書には安息日を聖として休むようにとある。しかし現在、ドイツ人はあまりキリスト教に熱心ではなくなったので、働くことよりも休暇を楽しむ国民性が見られる。さらに仕事の最中でも10時と15時には休憩をとり、17時には帰ってしまう。彼らにとって残業は契約上(ドイツには労働契約書というものがあり、契約どうり働くことが“働く”ということなので)あり得ないことなのである。ドイツでは残業を強制した上司は責任をとらされるし、労働時間を過ぎて働く人は時間内に仕事を終えられない人という判断がされてしまう。個々人のやるべき仕事を時間内に終わらせれば良いというのがドイツ企業の考え方なのである。ドイツ人の職場はそれぞれが個室で仕事をする形式になっている。何よりも大部屋では集中力に欠けると考えているからだ。決められた労働時間内に集中して仕事をどんどんと片付けていく。ドイツ人はその集中力のために休憩をとり、そして長期休暇をとるのである。一般に“休むために働く”日本人と言われるが,逆にドイツ人は“働くために休む”のである。

 

〜日本の労働現場〜

 

日本では経済の豊かさを象徴するだけの生活のゆとりといったものは見られない。また“過労死”という言葉(外国には過労死に該当する単語がないため、そのまま“karoushi”という言葉が使われている。)は日本の労働状況をよく表している。総務省の「労働力調査」(サービス残業を含む、実労働時間の実態をとらえたもの)によると2002年次における日本の週平均労働時間は42.3時間。年間では2200時間にのぼり、過労死する危険性の年間3000時間労働時間に達する層は12.1%を占めるという。労働基準法では18時間、週40時間と労働時間が定められています。しかし、例外規定があるため実際には残業規定の上限はなくなっています。ヨーロッパでは週35時間と労働時間が短く、さらに残業は年60日、12時間までと上限が法律で規制されている。日本の有給休暇日数は労働日数6ヶ月につき10日間、16ヶ月で11日間66ヶ月で20日間を最高にして働いた年数ごとに休暇がのびていく形になっている。また与えられた年に有給をとらなかった場合、翌年に繰り越してとることもできる。しかし、実際には有給休暇の取得率は年々減少傾向にある。日本は豊かさのために、労働時間を延ばしているように思える。しかし、政府の試算によれば労働者が有給を完全消化すれば150万人の新規雇用創出と12兆円の経済波及効果があると見込まれている。つまり、残業をなくし、労働時間を短くした方が失業者対策といった雇用の問題や日本の不景気の改善につながるのである。

 

〜まとめ〜

以上に述べたように、日本とドイツを比較すると労働システム、労働観、そして労働に関する法律といったものに違いが見られる。そうした中で、それぞれの休暇の過ごし方や休暇に対する考え方が定着していったのだろう。日本に長期休暇が定着しないのも、これまでの日本の(労働に関する)国民性があるからである。しかし、労働に関する法律が改正されることにより、今後長期休暇の取得率が増加することもあるかもしれない。なぜならドイツにおいても、ウアラウプが定着したのは1960年代以降と、そう古い歴史ではないからである。はじめは長い休みにどこに行けばいいのか、何をすればいいのかわからず、戸惑う人もいるだろう。(仕事好きな日本人だからこそ、長期休暇は悩みの種になるかもしれない。)ヨーロッパのように必ずしもどこかへ行かなくてはならないのではなく、新しく趣味の世界に没頭するのもいいだろう。趣味が見つからなければ、普段の仕事生活で時間的にすれ違いの多い家族との会話を楽しむのでもいい。そういった中から生活にも心にも余裕ができて、より一層仕事にやる気が起こるのではないだろうか。

 

 

〜参考文献〜

ドイツという国      http://www.asahi-net.or.jp

ドイツの労働環境  http://www.k2.dion.ne.jp

ここがしりたい 衆議院選特集   http://www.jcp.or.jp