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「余暇活動としての伝統文化による地域復興」

鈴木千晴(宇都宮大学国際学部国際文化学科2)

 

 

1.失われつつある地域の伝統文化

 

 伝統文化とは本来、地域に根ざし、その地域の人々の間に溶け込んでいるものである。個人的におこなう陶芸や絵画等であったり、団体としておこなう祭りのしゃぎりや能や歌舞伎などであったり、その形は様々だが、それらはごく自然に人々によって伝えられ、進化してきた。

 

しかし今日では、急速な近代化に伴う工業や化学技術の発展もあり、長い歴史の流れの中で受け継がれてきた地域固有の伝統文化は、少しずつ衰退の一途をたどっていった。人々にその姿が忘れられつつあるだけでなく、文化を伝え、受け継ぐための人々が減少していっている。原因は山村・漁村などの過疎化や、少子化である。これらの問題は社会的にも深刻なのは言うまでもないが、伝統文化の存続に関して言えば、さらにその上を行く。まさにがけっぷちである。

 

 

2.余暇としておこなう地域社会復興

 

 ではなぜここでいう「伝統文化」は、地域にとって重要なのであろうか。その理由は様々にあるだろうが、伝統文化による地域振興、あるいは地域復興はその最も重要なものの一つではないだろうか。

 

 ひとつ例を挙げると、私の実家である静岡県伊豆の小さな田舎町では、伝統的に子供たちによるしゃぎりがおこなわれてきた。夏祭りと秋祭りのときの年2回。秋祭りには神社の舞台で発表される三番叟という一種の能を演じる。これはその地区でその年に12歳になる子供の役割である。子供たちは事前に一ヶ月ほどの間、その指導を受ける。指導するのはその地区の大人たち。彼らは「保存会」といい、子供たちによる祭りしゃぎりを守り、受け継がせていくことを目標に結成された。

 

 彼ら大人たちにとってこの仕事は、およそ一ヶ月もの間、夜の7時から8時半までの一時間半を拘束され、つたない子供たちに一からすべてを教えなければならない重労働である。また、彼らには報酬というものがほとんど何もない。子供たちを褒めたりお菓子を挙げたりしている一方で、大人たちは疲れた体に鞭打って指導を続けている。

 

 いったい彼らはなぜそうまでするのであろうか。彼らにとって自分たちが子供のころからやってきたものを、大切にしたい気持ちももちろんあるだろう。だが、それだけではなく、彼らはこの子供たちへの指導を「余暇活動」として楽しんでいるのではないだろうか。実際、家にいてすることといえばビールを飲みながらテレビで野球観戦ぐらいのものだ。それだったらこの空いている時間を効果的に使って、地域へ貢献するのも悪くはない。そういった考えも大人たちの頭の中にはあるのではないだろうか。

 

 子供たちについて言えば、しゃぎりのリズムを合わせることを練習しているこの活動を通して、彼らの連帯意識はおのずと高まってくる。さらに、子供たち自身はそうと意識していないかもしれないが、伝統文化を継承していくことによって地域へ根ざす心も同時に養われているのである。

 

 このようにして伝統文化の継承は、余暇活動を通して効果的におこなわれているが、このことは更なる有益を地域にもたらす形にもなりうる。

 

ここ最近、私の生まれ育った町では、田舎の風土を生かしてドラマ撮影などが行われている。その中で、やはりメインとして使われているのが伝統文化の一つであるしゃぎりだ。全国区で放送されるドラマの撮影に使われることの効果は少なからずあるだろう。地域の特性をアピールし、イメージアップの効果をももたらす。「ただの田舎町」が「あの田舎町」になることは、私たち住民にとってはまったくうれしい限りのことである。

 

 

3.様々な伝統文化推進運動

 

 このような活動がほかにも見られないものかと、「伝統文化」と「地域復興」をテーマに調べてみた。すると、思いがけずたくさんの運動があることがわかった。

 

 財団法人の活動として奨励している例も多い。ポーラ伝統文化振興財団(http://www.polaculture.jp/top.html)では、日本の伝統文化に対して、様々な奨励事業、助成事業などをおこなっているが、その中に「伝統文化ポーラ賞」というものがあり、無形の伝統文化を支えてきた人々や団体を各分野で顕彰している。無形の伝統文化の保存・伝承などに関して優れた業績を残したものに対しては高額の賞金を贈与し、地域復興に関しても大きく奨励している。

 

能楽の継承者、茶道の家元、伝統的な工芸品作りの団体など、日本固有の伝統文化を幅広く紹介している。

 

また、外務省ではユネスコに「無形文化財保存・振興日本信託基金」を設立し、精神文化の象徴である無形文化を保存・振興していくことを目的とし、世界各地で活動をおこなっている。これまでアジア太平洋地域を中心に26件の保存・継承に関するプロジェクトを実施し、現在31件のプロジェクトが進行中である。(平成171月現在 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/culture/kyoryoku/mukei/index.html)

 

例えば、東南アジアの小国家での無形文化財の今後の保存・進行のための協議、世界各国の少数民族の言語の特定・通用範囲の地図作成、人間国法制度に関するワークショップ、カンボジアのクメール伝統舞踊の保存と再活性化についての協議など、実に様々の分野での活動が認められている。

 

 これらは、大きな団体で計画的におこなわれている事業なので、余暇活動とは呼べないかもしれない。しかし、このような活動に積極的に参加することも余暇としておこなうことは可能であるかもしれない。

 

 多数の財団法人の中に、都市農村漁村交流活性化機構(まちむら交流きこうhttp://www.kouryu.or.jp/dento/h15sakuhin.html#)というものがあった。ここでもまた、伝統文化を奨励する賞がある。地域の個性や誇りを持っているか、伝統文化を活用した地域の活性化、地域住民の交流の活発化が行われているかが審査基準となっている。先に述べた私の町の例のように、余暇活動として地域復興に貢献しているものもある。

 

 そのほかに、各自治体による地域復興運動も多数あった。やはり多かったのは、祭りなどの伝統的な地域行事を通しての復興運動であり、各自治体はホームページなどを通して積極的に住民に呼びかけをおこなっている。これらの多くは地域住民自らが立ち上げたもので、余暇活動として効果的なものばかりである。

 

 こうした数多い活動の中で共通しているのは、伝統文化を守り、継承していくという考えだ。地域全体や人々にとって有益で、かつ記憶に残るように努力がなされているのである。

 

 

4.調査の見解として

 

 私自身が子供のときから小さな町の伝統文化に触れてきたということもあって、今回のテーマはとても身近に感じることのできるものだった。調べていくと知らないことだらけで、自分の見ていた世界は本当に狭いものだったのだなと痛感したけれど、その分新しい発見が多くできて有益なものだったと感じている。

 

 地域・伝統・復興というのはこの先の社会にとっても大切なものであるのは間違いないと思う。たとえ少子化という大きな波が来ても、持ちこたえてまた再建されていくことを望んでいる。