050615sarudate
盛岡手づくり村にみる地域文化と人々をつなぐ余暇
猿舘絵理 (宇都宮大学国際学部国際社会学科3年)
私がこのテーマに決めたのは、もともと地域文化に興味があったからである。地域文化とはその土地に見合ったものだからこそ長く受け継がれており、その中には先人の知恵や生活の工夫が凝縮されているのではないだろうか。日本全国それぞれに異なる風土のなか、それぞれの土地で育まれてきた文化はかけがえのないもので、過去からそれを受け取り今を生きる人々によって将来へ手渡しされていくべきものである。しかし私たちの日々の生活を考えたとき、地域文化に触れる機会はどれだけあるのだろうか。例えば郷土料理にしても、その土地で採れたものを使って伝統料理を作るというのは一般家庭、特に核家族ではあまり見られなくなってしまったのではないだろうか。もはや地域文化は自然と受け継がれていく状態ではないのかもしれない。私たちにはこの地域文化を続けていく姿勢や努力が求められているのではないだろうか。私は今まで生活の中に根付いてきた地域文化から遠ざかっている人々にもう一度地域文化や地域の良さに触れてもらいたいと考えている。その「地域文化に触れる時間」がこの授業のテーマでもある余暇である。余暇の使い方は人それぞれで、のんびりする人もいればボランティア活動をしたりスポーツをしたりショッピングをする人もいる。このたくさんある余暇の選択肢の中で、地域文化に触れるという選択肢を選ぶことは少ないのではないだろうか。この地域文化という稀な選択肢に使われる余暇の時間を最大限に活用しようとするときに、地域文化の振興を目的とした「みる」「ふれる」さらに「つくる」ことが出来る伝統と産業の複合施設「盛岡手づくり村」は重要な役割を果たすと考えられる。
ここで、上記で紹介した盛岡手づくり村についての説明をしたい。盛岡手づくり村は岩手県の盛岡市にあり物づくり通じた盛岡地域の伝統や産業の振興、さらには域内の自立的・個性的な「まちづくり」を目的に今から20年前に建てられ、近くには小岩井農場やつなぎ温泉があり周辺地域が連携して観光を盛り上げていこうとする姿勢が見られる。また手作り村は生産施設の現場と観光が一体となった日本で初めての施設とも言われている。施設内には伝統工芸の職人が工房を設け実際にそこで工芸品の制作にあたっている。たとえば南部鉄器や竹細工、南部せんべいなど11業種計15の工房があり観光客は卓越した職人の技を近くで見ることができ、また伝統工芸品を作ることが出来る体験教室や資料展示スペースもある。最近では盛岡冷麺の工房も新しく出来たようで、新しい事を取り込んでいく柔軟な姿勢も見られる。注意していただきたい点は、手づくり村は村と称しているが村民が住んでいるわけでもなく、そこは本当の村ではなく前述したように伝統・産業振興をテーマとした施設だということである。
手づくり村の伝統工芸や郷土食に焦点を当てたとき、実際に「みる」「ふれる」そして「つくる」ことが出来る点がこの施設の特色である。例えば、蕎麦屋に行ったとき私たちは職人がそばを打つ様子を見ることが出来るかもしれないし、それを食べることができる。ここまでは「みる」「ふれる」の範囲である。職人の技に驚きそして蕎麦を堪能することを受けるだけの行動とすると、さらにここで自ら「つくる」ことを取り入れることによって蕎麦に対する理解がより深まるのではないだろうか。手づくり村でも同じことが行われていて、竹細工では職人が竹を編む様子をみることも、それを触ることも買うことも出来る。そしてさらに体験教室に行けば有料で材料をもらい職人に教えてもらいながら竹を編んでペン立てを作ることができる。私も小学校の時に行ってこの竹細工で同じペン立てを作ったことがある。自分なりに一生懸命編んでみてもやはりいびつで見た目が悪かったが、職人に丁寧に教えてもらいながら細く割かれて編みやすく加工された竹を少しずつ少しずつ編んでどうにか完成させたことを覚えている。ちなみにこの竹も県内特産の南部鈴竹が使われている。出来上がったペン立てはやはり不恰好で自分の納得のいく完成度ではなかったが、それでも愛着がわいてリビングに置いて家族で使っていた。丈夫で壊れることもなく使っていくごとに味が出てくるので、今でも実家には電話の横にそのペン立てが構えている。手づくり村の体験教室ではこの他にもハンカチの染色や南部鉄器のペーパーウェイト作り、せんべいの手焼きなどができる。この体験教室の内容を見てみても、一般の人が手軽に手づくりを体験できて伝統に触れやすい環境が作られていることがわかる。そして実際に職人が作り方を教えてくれるので、第一線で伝統を守り手づくりの良さを知っている職人のその意気を近くで感じることができるだろう。また体験教室でなくとも工房でも職人との対話が可能である。私のなかでは職人というと消費者とはどこか一線を画しているイメージがあったので、こんなにも身近にお話ができることは貴重ではないかと思った。
また工芸品を手づくりする以外にも季節や行事に関連するイベントを開催して、訪れた人々に参加することで楽しむ地域文化を提供している。
手づくり村の利用者の反応をみてみると、「同じ地域に住みながらも地域の文化を良く知らなかったことに気づいた」や「作ったものを大切に使いたい」とい声があった。この手づくり村にはどこからどんな人が訪れるかという資料は得られなかったが、私の知っている範囲では休日になると家族連れや大型バスで来る観光客の姿も見受けられ、地域文化と人々を余暇という時間の中でつなぐ役割を手づくり村は果たしていることがわかる。ここでこれからの展望を考えてみたい。時代は地域を見直す方向に動いており、さらには手づくりの良さというのもよくメディアで取り上げられている。利用者の声や自身の実体験からもわかるように、手づくりされた物はオリジナルであり、人が作っていることによる暖かさも伝わってくる。さらに自分が作った物であれば愛着がわいてなお大切にできるだろう。さらに最近よく聞くようになったもったいない精神の醸成にも手づくりが一役買うことになるのではないだろうか。地域文化もそれが長く続いてきた背景には物を作り、作った物を大切にする心も影響しているのかもしれない。これらのことから手づくり村は地域志向そして手づくり志向の高まりの中で余暇を過ごす場として注目でき、さらに前にも述べたように地域文化と人々を結ぶ手づくり村の持つ役割の重要性は増していくのではないかと考えられる。
参考HP
盛岡手づくり村 http://www.ginga.or.jp/~morihand/