「那須野が原ハーモニーホールの運営方針と地域住民の余暇」
桜井美保子(宇都宮大学国際学部国際社会学科3年)
1、財政赤字健全化と地方の文化会館、及び文化会館への住民のニーズ
財政赤字問題が日本の最も重要な問題となっている今日、その健全化を図るためのひとつの手段として、地方の文化会館の運営方針に着目した。また、地方の文化振興の拠点となりつつも、地域住民の余暇のニーズに応えるのが、国民の税金で建てられ、運営にも税金が投入されている文化会館の望ましいあり方だと思われる。その双方が満たされるにはどのような運営方針が採られると良いのか?栃木県の北部にある、那須野が原ハーモニーホールを取り上げて考察する。
2、那須野が原ハーモニーホール
那須野が原ハーモニーホールは、総事業費約90億円をかけて平成6年12月に開館した、
大ホールの利用状況は、平成7年度から平成15年度まで、一年あたりの利用可能日数平均が約314日、利用日数平均が約180日、利用率平均57%、入場者数平均47,100人である² 。
平成16年度に芸術文化鑑賞事業としてハーモニーホールが行った自主事業は、大ホールにおいて16回、小ホールにおいて7回である。その内訳は、クラシックが12回、ポピュラーが3回(タンゴオーケストラ、夏川りみ、川井郁子ヴァイオリンコンサート)、ニューミュージックが2回、ミュージカル3回、演劇ダンス5回、ジャズ・寄席が各1回である³。
平成16年度運営状況によると、自主事業収入は約3,400万円、総支出約5,600万円である。約2,200万円支出が多い。そして、平成16年度損益計算書によると、施設管理受託収入が約1億300万円、自主事業負担金収入が5,200万円、人件費補助金収入が7,300万円である。この3つの合計2億2,800万円は税金が投入されているといえよう⁴。(註1、財団法人那須野が原文化振興団体、『那須野が原ハーモニーホール』パンフレット、 註2、同財団法人、『那須野が原ハーモニーホール10th ANNIVERSARY』、04年12月、pp47-50、 註3、同財団法人、『平成16年度事業報告書』、05年4月,pp5-6、 註4、同財団法人、『平成16年度事業報告書、05年4月、pp5-6,p16より引用)
3、古典的文化概念とカルチユラル・スタディーズ
[文化]とは何であろうか?J・B・トンプスンは、古典的文化概念のことを、「文化とは、人間の能力を発展させるプロセスである。そのプロセスとは、主にヨーロッパ近代の進歩的性格に直結した芸術や文学などを吸収することにより達成される」と言う。この[文化]の意味は、「ヨーロッパの洗練された趣味なども含めた、今でもわれわれが日常的に使う「文化」という言葉の意味に近い。」ものである。しかし、カルチュラル・スタディーズでは、文化を「洗練された教養」だけではなく、「大衆的なもの」も文化であると認める。その意味において、那須野が原ハーモニーの運営方針は、古典的文化概念上のものであるといえよう。(以上カギカッコは、太田好伸、『民族誌的近代への介入 文化を語る権利は誰にあるのか』、人文書院、01年2月、pp,51-52)
4、文化に対する住民のニーズに応える
地域住民が、那須野が原ハーモニーホールに望む公演内容とは何か?ホールのクラシック音楽の自主事業では、一流の演奏者を呼んでも客席が埋め尽くされるということはなく、むしろガラガラなのが実情であろう。ジャズで全国的にも人気の高い綾戸智恵のチケットがすぐ売り切れたように、住民のニーズに沿った公演内容を増やせば、住民のニーズを満たすことになろう。古典的文化概念にこだわるだけでなく(クラシック音楽が悪いといっているのではない。)、住民のニーズに合う文化公演をもっと増やしてはどうだろうか?
5、収益を上げる
チケットがよく売れる公演を増やせば、それだけ収益がよくなる。つまり古典的文化概念にとらわれない公演、住民のニーズに合った公演を増やせば、収益率を上げられるだろう。また、新しい発想のアイデアに基づく企画(例えば、人気のある若手歌舞伎役者など現在「旬」の人を呼んで、歌舞伎のさわりを見せるなど。)を取り入れても、収益率は上がるのではないか?住民からアイデアを募集したり、企画に参加したい人を募るというのもひとつの手段だと思われる。
6、終わりに
地方にいながら、大都市並みのクラシック音楽が聞けるというのはすばらしいことである。しかしながら、文化に優劣はないのであって、クラシックのみにこだわる必要はないと思われる。クラシック音楽以外もどんどん取り入れ、地域住民のニーズや期待に応えることが必要であろう。ホールの運営方針を、住民のニーズに柔軟に応えると言う風に変えるだけで、収益率を上げ(税金投入額を減らせる)、また地域住民の余暇を充実させることができれば、これ以上のことはないと思われる。誰のための文化施設か?誰の税金が投入されているのか?を考えたとき、自ずと方針は決まるであろう。