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「到津の森公園」として復活した
中川原翔子(宇都宮大学国際学部国際文化学科3年)
1.「到津遊園」の歴史について
「到津の森公園」の前身の、民間の鉄道会社が経営していた「到津遊園」は、動物園とアミューズメント施設が混在した施設で、昭和7年の開園以来、北九州市民のシンボル的な娯楽施設として高い人気を得ていたが、レジャーの多様化や少子化などから入園者の減少傾向に歯止めがかからず経営難に陥り、60有余年に及んだ事業の継続を断念した。
2.北九州市に動物園を残すための市民活動
この「到津遊園」の閉園の発表に対して、短期間に26万人に及ぶ存続署名が集められるなど、市民の大きな存続運動が沸き起こり、市はこの熱意を受ける形で継続を決定して、新しく市営「到津の森公園」として再出発させることとなった。
「到津の森公園」が市の公園として再出発するについては、大きな市民運動を背景にした事業とはいいながら、「税金の投入は慎重に」「赤字経営は避けるように」といった声も多く寄せられ、結果、利用料金制(独立採算制)を採用することとなったこともあって、市民アンケートや市民意識調査をおこないながら、有識者による検討委員会を設置するなどして、ハード・ソフト両面から全面的な検討を行っていった。施設面では、アミューズメント施設の大幅な縮小や展示動物のコンセプト整理を進めると同時に、どうやったら、赤字経営を避けることができるかが大きな課題となった。そこで、ラニングコストの低減とともに「市民が支える公園」をキーワードとして、市民からのいろいろな支援の仕組みを作り出していった。この市民が支える仕組みとしては、園の内外での市民ボランティア活動と寄付などの金銭的な支援活動を2本の柱として組み立てられており、その内容はユニークで、多くの市民が、自分の出来る支援活動を無理なく自由に選べるよう工夫されている。
3.「到津の森公園」の経営手法について
市民ボランティアは、「森の仲間たち」という名称で、企画や広報といったものから、動物ガイドや植物ガイド、環境教育等、幅広い分野で現在、約200名の市民が8つのグループに分かれて活動している。市民ボランティア「森の仲間たち」結成までの特徴としては組織化の時期が早く閉園期間中から施設整備と並行して取り組まれ園の歴史やボランティア活動内容の研修など十分な準備が行われてきたことである。
4年目を迎えたこのボランティア活動のモットーは、「出来る人が、出来ることを、出来るだけ」。無理せず楽しみながら活動を行っているが特に注目されている活動としては、飼育動物の餌切りや餌の採集、獣舎清掃をはじめとする飼育作業、またゾウやキリンの食べ残した木を活用したマスコットづくり、落ち葉やゾウの糞を使った堆肥作りなど、オリジナル活動も積極的に行われ園の運営に大きく貢献している。
資金面での支援活動〜到津の森公園基金・動物サポーター・友の会〜
@ 到津の森公園基金
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平成12年4月1日 条例設置
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市民からの寄付された寄付金等を生かして、動物園の特色ある運営寄与する
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目標額2億円
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使途 動物の購入や文化的な活動の支援費
現在までの4年間で約4000万円の寄付が寄せられており、目標の2億円を目指して長期的な取り組みを行っている。
A 動物サポーター
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平成14年1月13日〜
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飼育動物のエサ代等を負担する市民や団体を募り、動物に愛着を持ってもらう
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使途 飼育動物のエサ代、薬品代、その他事務費
「動物サポーター」制度は、動物のエサ代を支援するもので、約90種440点の飼育動物の年間のエサ代2000万円を目標としている。自分の好きな動物を指定するとその動物者の前に「サポーター名」が掲示される仕組みなど、この制度は市民に分かりやすく、動物の愛着もわくと大変好評で、これまでは目標を超える寄付が寄せられている。
B 友の会
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平成14年1月13日〜
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公園の運営主体である(財)北九州市都市整備公社の運営費を支援
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目標額2千万円/年間
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使途 広く園を運営する支援するもの
使途を限定せずに園の運営費全体を幅広く支援しようとするもので、運営費の不足が想定される2000万円を年間目標に掲げて加入促進に取り組み、市議会議員をはじめ多くの市民の方々に入会していただいて、毎年のほぼ目標を達成している。
これまでの4年間で、延べ1万5千件、金額にして約1億3千万円を越す寄付が寄せられ、動物のエサ代はもとより、園の運営の大きな支えとなっている。
4.現在の経営状況について
入園者数の状況
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平成14年度入園者数 413,326人(開園無料期間264,949人/外数)
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平成15年度入園者数 341,316人
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平成16年度入園者数 347,224人
効率的な運営
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新幹線トンネル湧き水を動物者の清掃等に利用し維持費を軽減
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飼育員による動物舎間の行き来を少なくし、効率的な動物飼育官吏作業を行うため動物舎を極力中央に集中
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周辺の森や河原からの動物のエサ(樹木・笹・草)を採取
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既存の樹木を可能な限り保存、または移植し再利用
環境負荷に配慮
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動物の糞の堆肥化
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新幹線トンネル湧き水を利用し、上水の使用量を軽減
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博覧祭物品の再利用・・・コンビネーション遊具
「到津の森公園」利用料金と市民支援
収入 支出
市税に頼らない収入と募金の仕組み 市民と職員に支えられた運営の仕組み
↓ ↓
自分の好きな動物のエサ代を寄付
H13〜15
64百万円 市民支援 黒字 累積84百万円
H13〜15
33百万円利用料金 エサ代
その他
運営費 開園前からトレーニング
園の経費を した市民約200人8つの
全般的に支援 グループでフル活動
長期的に支援
H15収入計
H15支出計
337百万円 337百万円
+
基金
市民支援(H11〜H15)
累積138百万円
5.「到津の森公園」がなぜ成功したか
@ ランニングコストの低減を意識した施設設備
A 開園前の早い時期から育ててきたボランティアの幅広い活動
B 動物ガイドや植物ガイドなどのソフト面の充実
C 青年会議所や幼稚園連盟・保育所連盟など多くの団体の支援活動
D 多くの市民の皆さんの資金的な支援などが大きく貢献している
E 園長をはじめとした職員のコストさくげんの取り組みや動物飼育員たちの献身的な手作りイベントの開催
「到津の森公園」事業は、撤退した民間の事業を公共が引き継ぐという、今の時代の流れを逆行するような取り組みであるが、「市民が支える公園」というキーワードを撤退したことで、新しい世界が切り開かれていったものである。撤退した情報の公開によってどれだけ幅広い市民の経営への参画が得られるかがその鍵を握っているのではないだろうか。また、個人のサポーターとしては、市職員や市会議員が多いとのことで、実際は市職員に守られながら継続できている感も否めない。