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「現代の日本の子どもと余暇」

粂川綾(宇都宮大学国際学部国際文化学科3年)

 

1.日本人と余暇

 

 一般に余暇先進国と言われているイギリスやその他の欧米諸国では、仕事は余暇活動のためにあると考えている人が多い。一方、日本では長時間労働で休暇も少なく、週休2日制が導入されて以降緩やかな余暇時間の増加が見られているものの、欧米ほど労働者の間で有給休暇が定着していないのが現状である。しかし、社会生活基本調査(総務省統計局、2001)によると生活をする上で欠かせない仕事や家事などに費やされる時間は1996年に実施された前回の調査より減少し、一方で個人が自由に使える余暇の時間は増加していることが明らかとなった。以前は、余暇よりも仕事が重視されていたが、最近では仕事をこなしながらも時間を上手く使い余暇を楽しむ人が増えてきたようである。

 

 近年、日本人の労働時間は徐々に減少し、余暇に費やすことのできる時間が増えてきているようだが、子どもの生活時間を見てみると学業を重視する傾向にあることがわかる。社会全体の時間的なゆとりは子どもの生活に反映すると言われているが、現代の子どもは学習に多くの時間を費やし余暇を十分に確保することができていない。ゆとり教育が導入され、子どもたちがゆとりを持って学習できる環境を整えるためには、子どもにとっての余暇を考える必要がある。以下、主に小学生を対象に現代の子どもの生活と余暇としてスポーツの観点から、地域や社会の取り組みを通して考える。

 

 

2.子どもの余暇と現代の子どもの生活

 

 余暇の中には趣味や旅行などの様々なジャンルが含まれているが、子どもの余暇の場合、子どもの義務である睡眠や食事、学校や塾を除く自由な時間、すなわち遊びを指す。本来遊びは子どもにとって生きることを学ぶ術でありとても重要なことであるが、1970年代以降「遊びを知らない子どもたち」や「遊べなくなった子どもたち」という言葉をよく耳にするようになった。このような背景には時代が大きく影響しているが、最近の学校で起きている衝撃的な事件のために親が過敏に反応し子どもの遊びの場が「外から内」へと変化していることも、現代の子どもが自由に遊べなくなったことに関係がある。以前は、子どもにとって遊びとは彼らの文化であったが、近年子どもと遊びとの関係が段々希薄になってきているようである。

 

 週休2日制の導入以降、学校のない日の小学生の生活時間を見てみると、学校に行かない日であるにもかかわらず学業の時間が増え、成長に欠かせない睡眠時間や余暇の時間は減少している傾向にある。ゆとり教育が導入され、子どもがゆとりを持って生きる力を学ぶことのできる環境が整えられていく中で多くの人々によって学力の低下が懸念され、子どもが塾などの学校外で学習する時間は年々増えてきている。せっかく週休2日制になり子どもが自由に使える時間が増えたはずだが、子どもは週休2日制以前よりも多くの時間を学業に費やし、大学生や短大生よりも小学生のほうが勉強しているという。

 

 学校外での学業時間の増加の一方で、子どものスポーツにも変化が見られる。以前は、各小学校や地域ごとにスポーツ少年団や部活動が盛んで野球やサッカー、バレーボールなどを通して体を動かす子どもが多かったが、小学生でさえも学外学習により多くの時間を費やすようになったために運動離れをする子どもが増えてきている。そのうえ、近年の少子化の影響で部員不足により活動を維持することが困難になっている部活も少なくはない。

 

 

3.子どもと余暇としてのスポーツ

 

 文部科学省では、現代の子どもの運動不足や生活習慣病予防のために体力向上事業を推進している。現在、日本各地で各都道府県の教育委員会が主催となってスポーツ選手を講師に招きスポーツ体験教室が開かれたり、スポーツ少年団や新しいタイプの総合的地域スポーツクラブを紹介したりするなどして、子どもたちに少しでもスポーツに親しみ体を動かすことを習慣づけてもらおうとキャンペーンを行っている。

 

 栃木県宇都宮市にある総合型地域スポーツクラブ「友遊いずみスポーツクラブ」では、子どもからお年寄りまで幅広い年齢層、そして初心者から上級者までの人々を対象に、個人一人ひとりに合ったスポーツが楽しめるよう様々な種類のスポーツサークルがある。野球やサッカーを始めミニバスケットボールなどを地域にある学校の校庭や体育館を利用して専門家が指導してくれるので、自分に合ったレベルで進めることができるし学校の外での人間関係も広がっていく。また、幅広い年齢層の人を対象としているため、親子でスポーツを楽しんだりイベントに参加したりする人も多い。

 

 また、2002年に日韓で共催されたサッカーワールドカップやイチローや松井が活躍するメジャーリーグの影響を受けてスポーツ少年団などに所属する子ども増えたが、最近では子どもがスポーツをするためだけのクラブではなく、子どもの試合の応援をする保護者が楽しめるようにルールを解説したり保護者向けのサークルを作ったりするなど様々な工夫を凝らすクラブも出てきている。運動不足が懸念される現代の子どもたちだが、新球団のプロ野球参入やサッカー日本代表などに注目が集まる中、スタジアムやテレビで観戦する機会は増えてきている。

 

 

4.まとめ

 

 現在の日本人の生活において、労働時間が減少し余暇の時間が増加してきつつあるが、読書や生涯学習やボランティアなどの個人の能力向上のために余暇を使う人が多いようだ。しかし、最近の子どもの生活を見てみると、学習塾に通うなどして学校以外の場で多くの時間を学業に費やし、ほとんど体を動かさず運動不足の傾向が見られる。総合型スポーツクラブやスポーツ少年団などを通して、親が子どもと一緒になってスポーツをしたり観戦したりすることは、家族の絆を深めるとともに子どもの健康にとっても必要不可欠である。地域や社会にとって子どもは宝であり、子どもが健やかに育つような環境を整える義務がある。そのためには、知識ばかりを詰め込む学業を重視するのではなく、体を動かしたり子ども自らが好きなことに費やしたりできる余暇の時間を十分確保しなければならない。

 

 

[参考文献]

『余暇生活論』 一番ヶ瀬康子、薗田哉、牧野暢男 有斐閣 1994

『講座 人間と環境 第7巻 子どもの成長と環境―遊びから学ぶ』 松澤員子 昭和堂 2000

 

平成13年社会生活基本調査 総務省統計局 http://www.stat.go.jp/data/shakai/2001/jikan/yoyakuj.htm#1

子どもの体力向上ホームページ 文部科学省 http://www.japan-sports.or.jp/kodomo/intro/cause.html

友遊いずみスポーツクラブ http://park19.wakwak.com/~izumigaoka/