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「余暇の過ごし方―ボランティア活動」

赤津美香(宇都宮大学国際学部国際社会学科3年)

 

はじめに

 

 人々がそれぞれ自由に過ごすことのできる時間を余暇と呼ぶ。余暇の過ごし方には人の数だけさまざまなものがあるだろう。今回私が取り上げるテーマはボランティアだ。

 

 ゆとり教育の中にボランティア活動を組み込むことはボランティア精神に反したものでないのかと議論される昨今、ボランティアをさせたがる大人とその意義も知らずにただやらされている若者というギャップの拡大が懸念されている。私は部活としてボランティア活動をしていた経験があり、ボランティアをすることへの抵抗はないどころかむしろ積極的な方である。ボランティア活動をすることで得るものは、日常生活では有り難いものであると思う。今回はボランティアへの意識を、実際にボランティアをしている側の意見を軸に考察していきたい。また熟年層のボランティアに焦点をあて「ボランティアと余暇」について探っていこうと思う。

 

 

1、日本におけるボランティアの歴史

 

 奉仕の精神はいつの時代の人々も持っていたものであろうが、日本においてボランティアという言葉が生まれたのはいつのことなのだろうか。歴史をたどると、1877年、後に日本赤十字社となる博愛社が設立されたことから始まり、1897年、日本で初めてセツルメント運動が起こったことが契機とされている。セツルメントとは、都市の貧困層の地区に学生などが入り生活向上をはかる運動ことをいう(今ではその内容は変わり、子供や障害者、高齢者とのふれあいなども含まれている)。その運動は大正デモクラシーにおいて広まり、中でも1923年の関東大震災の際、学生セツルメント運動が発展、活発化した。しかし戦争の色が濃くなるとともにセツルメント運動は抑圧を受け、戦時体制の中に埋没してしまう。再びセツルメント運動が盛んになるのは大戦後の復興期で、戦争孤児の保護や援助活動などを目的とした組織が全国的な広まりを見せている。資料にはその頃、セツルメントからボランティアと記述が変わっている。その後1970年代になると地域社会の衰退や障害者運動の広がりによって、現在私たちがボランティアと聞いて思い描くようなボランティア観(地域の活性化や障害者との交流などが含まれた)が生まれたということである。ちなみに阪神・淡路大震災時にボランティアが多く活躍したため、1995年を「ボランティア元年」としている。

 

 

2、ボランティア活動への意識―周辺の人々の声も交えて

 

 1)若年層

さて現在、人々のボランティアに対する考えはどのようなものなのだろうか。実際に私の友人にボランティアに対する意見や理解を聞いてみたところ、空いた時間を使ってボランティアを日課としている友人からは、「学ぶことが多い」「さまざまな立場で物事を考えられるようになる」「楽しいから続けていく」といったやはり肯定的な意見が出た。始めたきっかけとして「ボランティアに興味があったから」や「知り合いがボランティア活動に参加していたから」という意見があがった。私自身はボランティアに対して、対象(者・もの)のみならず自分自身を満足させ、豊かにしてくれるものだと思っている。一方、「なんでボランティアなんかやるの?」と真っ向からボランティアを否定する意見も出た。よくよく聞いてみると、彼は小学生の時にむりやりさせられたボランティア活動(意義に反した強制的な活動)に疑問を覚え、ボランティアに対してあまりいいイメージを持っていないということだった。しかし彼のような否定意見を持っていないにしても若者のボランティア参加率は低い。たとえば栃木県のおこなった社会貢献活動に関する実態調査(平成13年)を見てみると、市民活動団体に所属している児童、生徒、学生の割合は全体の約2割しかない。生命保険会社が1997年に東京と岡山の高校生を対象に行った調査においては、「ボランティア活動をしたことがある」が29%、参加理由は「学校のプログラムにあるから」が過半数の54%であった。また2002年に内閣府が行った青年意識調査(18〜24歳を対象)では、「現在活動している」が3.3%である。ボランティア活動の参加経験はあるが現在活動をしていないという人々はボランティア活動に受身な態度であったことがうかがえる。これははじめに指摘したギャップの産物と考えられるであろう。ボランティアの性格に反したこの結果には苦笑させられる。また低参加率について言えることは、その原因のひとつに子供たちがボランティアを経験する時分の周囲の大人たちのボランティア経験があげられはしないか。私の小中高の先生でボランティア活動を実際にしていると紹介していた人は誰もいないのである。

 

ボランティアに興味がある人々の意見を紹介すると、先ほどの内閣府の調査において「困っている人の手助けがしたい」「いろいろな人と出会いたい」がいずれも過半数を超えている。他にも「新しい技術や能力を身につけたい」「地域社会をよりよくしたい」などという意見もあった。

 

2)熟年層

実態調査によって、栃木県では活動に従事する年齢層は男女ともに60歳代が最も多いことが分かった。全国的にはどうかというと、平成8年に全国社会福祉協議会が行った「全国ボランティア活動実態調査」でもやはり60歳代の割合が一番高い(60〜64歳が17.8%、65〜69歳が17.3%)。65〜69歳と70歳以上の比率をあわせてみても31.8%の割合である。ということは、ボランティアをしている年代はいわゆる高齢者が多いということなのだ。事実、私がボランティアをしている東図書館ではボランティア登録者は年齢の高い方が多いと職員から知らされた。ちなみに大学生のボランティア登録者は私しかいない。大学生もそうだが、学生ボランティア(小中高)の活動記録帳でも一人の名前しか見つけられなかった。またあらゆる調査結果から、ボランティア従事者は年齢に関係なく女性が多いこと、中でも40代の主婦の参加が目立つこともここで挙げておく。高齢者と主婦の間でボランティア活動が盛んだという事実は何を物語っているのだろうか。

 

ここで熟年層のボランティア活動に焦点を当てて考えてみよう。高齢化社会と叫ばれる今日、これからの日本において、熟年層のボランティア活動は特に必要とされているのだという。10年後には4人に1人が高齢者という時代を迎えるにあたって、時代を支えるには高齢者同士のサポートが必要になってくるからである。また平均寿命の延びとともに注目されてきた「セカンドライフ=リタイア後の人生をどう生きるか」において、生きがいづくりが最も重要視されている。セカンドライフとはそのまま高齢者にとっての余暇を意味するもののではないだろうか。その余暇に生きがいを見つけることが議論されるような世の中であるということは、生きがいのない余暇がいかに人間を脱力させるものであるかを反映していると思う。そしてボランティアにその生きがいを見出そうという動きがあるのだが(例えば厚生労働省の生きがい対策事業で、退職者も含む勤労者のボランティア活動への参加の推進を目的とした「勤労者マルチライフ支援事業」というものがある)、ボランティア活動は多種多様な分野で参加できること、言い換えれば自分にあった活動を探すことが比較的容易なであることがその動きを活発にしていると言えるかもしれない。

 

生きがいを見つけにくいのは、職場をリタイアした勤労者のみならず、子供が手を離れた専業主婦にも言えることではないか。地域社会との関わりが薄れることで生きる楽しみを見つけにくくなるであろうこの時期に、ボランティアという一つの架け橋によってその不安が解消できるのである。このことが高齢者と主婦にボランティア参加者が多いことの背景をなしているのだろうと考える。

 

熟年ボランティアは確実に増加傾向にあるといってよいだろう。しかしこれには周りの人がボランティア活動に参加することへの理解を示してくれることも大事である。理解がないために活動が続かないといった人は思ったよりもたくさんいるのだ。

 

 

3、ボランティア活動をする人々―生きがいとボランティア活動

 

生きがいは年齢によってその中身が変化するものではなかろうか。若い時は趣味などの傾向が強く、熟年者は他人や社会とのつながりに関るものの方が多いように思う。今の私の生きがいを考えてみてもそう言えるし、東図書館のボランティアをしている50代、60代の4人の方に生きがいを聞いてみたところ、みなサークル活動やパートであったり、人と接するといったものであった。

 

今回はボランティア活動への意識を切り口として論じてきた。若者の間の意識はまだまだボランティアへの理解が足りないと考えられる反面、近年国際ボランティア活動に注目が集まっているなど新たな意識の広まりも見逃せない。また熟年層のボランティア活動の活発化も動向が気になるものである。ボランティアというのは自分の経験を生かせる場でもあるし、社会とつながっているための手段ともなり得るのである。

 

結論として、ボランティアは若年層にとって生活のプラスαでありながらプラスの効果をもたらしてくれる存在であり、熟年層にとっては生きがいにも結びつくものであると言える。余暇活動として有意義なものであるのは間違いないし、また生きがいとして位置づけても一生のライフワークにすることができる、そんな存在である。

 

 

(参考資料)

・セツルメントsettlementの歴史  http://ha8.seikyou.ne.jp/home/shum/settle/historytext.html

・国民生活白書 ボランティアが深める好縁 経済企画庁  www5.cao.go.jp/j-j/wp-pl/wp-pl00/hakusho-00-1-14.html

・内閣府 世界青年意識調査  www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/worldyouth7/pdf/2-5kekka.pdf

・日米比較 高校生ボランティア意識調査  www.prudential.co.jp/corporate/press/000272.html

・内閣府 高齢者対策  www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2002/zuhyou/1-2-14.html

・「栃木県社会貢献活動団体に関する実態調査報告書」平成13年 栃木県

・「熟年だからボランティア!!」ボランティア情報研究会 2002年(学習研究社)