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「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンから見る、第3セクターと市民のあり方」
宇居槙子(宇都宮大学国際学部国際文化学科3年)
1.
はじめに
ユニバーサル.スタジオ.ジャパンについてのニュースといえば、悪いものばかりが目立っている。また、東京ディズニーランドと比べられて劣っている点ばかり強調されている気がする。どうしてこうなってしまうのだろうということに私は疑問を感じ、調べてみたいと思うようになった。
2.
ユニバーサル.スタジオ.ジャパン(USJ)について
USJとは、大阪市の集客産業の中核に位置付けられる存在として作られた施設である。立地場所は、大阪市内此花区の工業地帯であり、住友金属工業、日立造船、住友商事などの大企業の保有地を中心として区画整理が行われ、事業主体に賃貸されている。事業主体であるユーエスジェイ株式会社が、米国のUSI社の基本コンセプトに基づき、米国外で初めて建設したユニバーサルスタジオである。同社には、地元自治体である大阪市のほか、地権者、USI社などが共同出資している。(http:www.gpc.pref.gifu.jp/infomag/raku29/29-4.htm)
USJの評判が芳しくないことの最も大きな原因は、数々の不祥事だろう。品質保持期限切れ食品使用問題、直営レストランでの汚水管破断事故、別の直営レストランでの施工ミス、飲料用の上水でない工業用水が供給されていた事実、大阪府が実施した園内の全水道水の再検査で、水質基準を上回る雑菌が検出されたこと、アトラクションで許可量を超す火薬が使用されていた問題等々例を挙げれば本当にきりがない。(http://dvd.or.tv/report/usj29.html)また、USJに関連したサイトの中には観光客が運営しているサイトも多くあり、そこでは「施設が狭いためアメリカらしい尊大さが感じられない。1日で園内をほぼ回れるのでリピーターになるかはわからない。」などというような不満の声がよく見られた。(http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/4963/column/20010702.html http://ffa.csidenet.com/300x/usj/usj_end.htm)他にも、「パーク内から高速道路が見えてしまう。」という不満の声からもわかるように、空間作りが徹底してないということも原因であろう。 (http://www.nc-21.co.jp/hoeru/051423.html)
しかし、このような思わしくない評判にも関わらず、関係者達はそれを認めていない姿勢が気になった。大阪府副知事は、「USJにより宿泊客の確保、雇用の増大、経済的効果、映像・放送業の活発化などが期待される。」と発言している。(http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/4963/column/20010702.html)また阪田晃社長は、実際は入園客数が4割も減ったにも関わらず、会見で「不祥事でも入園客は減っていない。」などと強弁している。(http://dvd.or.tv/report/usj29.html)事業主体であるUSJが、建設事業の実施が周辺地域の環境に及ぼす影響の予測、評価結果等をまとめたものについても甘さがうかがえる。それを見ると、施設の存在による影響と建設工事中の影響の両方とも、かなり多い項目数全てにおいて環境への悪影響は心配ないという一点張りだった。(http://www1.jca.apc.org/aml/9804/8352.html)他にもUSJ取締マーケティング副本部長が、ゲストに満足度についてアンケートしたところ、期待通りか期待以上という人が95%にのぼるとしている。(http://www.nui.or.jp/zigyou/sem13-2.htm)この調査は不祥事が起こる前に行なわれたものなので、現在の評判とは異なるとは思うが、数多くの一般人が製作しているホームページの中では、不祥事発覚前に載せられた意見を見ても、否定的な意見が多かった。
数々の不祥事、その隠蔽、リピーターを確保できるだけの魅力を作り出せないなどといった事態は他の施設でもあることかもしれない。しかし調べているうちに、第3セクターであるから徹底したサービスが行なえず、余計に事態が悪化してしまうのではないかと思うようになった。USJについて考えるためには、第3セクターについてももっと考える必要があると思ったので、次からは第3セクターについて述べていきたいと思う。
3. 第3セクターとは
第3セクターとは, 公的セクターと民間セクターのそれぞれの良さを合わせ持つ「第3のセクター」という形で登場したものである。つまり、企業は状況の変化への対応が早いが、例え世の中のためになっても儲からない事業はやらないという特徴と、行政は税金を使うため儲からなくても世の中のためになることができるが小回りが効かないという特徴を補い合えるということである。(http://plus.naver.co.jp/browse/db_detail.php?dir_id=602&docid=2942)
しかし実際の経営状況は、1999年の自治省調査によると72%が赤字である。
(http://www.tonichi-kokusai-u.ac.jp/tonichi/eco-info/ohkawa/3seku.htm)
これらの原因として数多くのことが挙げられているが、簡単に言うと、行政が関わることにより民間のような経営に対する厳しい意識が失われ、甘さが出てしまうということだと思う。けれど、第3セクターでも成功している施設ももちろん存在している。その例としては、大阪国際競技場、長浜市の黒壁、高崎市場、岩手県葛巻町の「くずまき交流館プラトー」、「ミルクハウスくずまき」、「レトロハウス袖山高原」など様々なものが見つかった。これらの成功例全てに共通していることは、第3セクターといってもサービス業であるという意識を失わず、利益を出すことに意識を集中したということである。例えば、大阪国際競技場の経営者は民間から選ばれた人であり、元電通専務、電通関西支社長を務めていたいわば経営のプロである。(http://www.superstation.co.jp/)また、葛巻町の第3セクターの経営者は、「わずかのビジネスチャンスでも積極的に取り組み、活用している。そして、毎年何か1つは新規事業種目を取り入れるように創意工夫をしながら積極的に事業の展開を計っている。」と言っている。
(http://www.sanson.or.jp/sokuhou/no_735/2.html)
4. おわりに
このように見てくると、やはり資本主義社会では利益を出すことを最優先しないと生き残ってはいけないのだろうかと思わされる。けれど、利益ばかり追い求めていては必ずどこかに弊害が生じると思う。その例として、「公共を支える民」p181に示されているような、介護サービスの利用者に不利益が生じる可能性などが挙げられる。このような問題を解決するためには、抽象的で解決策とは呼べないようなものかもしれないが、やはり私達の「意識」がとても大切であろう。民間のようなコスト意識と、その地域、人々に深い愛情を持ち公共のためにという意識を両立させるということである。なかなか難しいことだと思うが、ぜひ実現したいことである。
また第3セクター自体ではなく、市民が変わることにより成功を導くという点からのアプローチとして、話が飛躍してしまうかもしれないがイギリス人を例に挙げたいと思う。他の授業で調べる機会があり知ったのだが、イギリス市民の団体活動は見習うべきものがある。イギリスにはナショラルトラストというチャリティ組織が存在し、540000エーカという土地、歴史的建造物を200、美しい庭園を130などと膨大な資産を所有している。驚くべきことにその活動資金は、市民などが自主的に出したものによる。ナショラルトラストの所有地は大半が一般に公開されているので誰でも自由に入ることができる。政府ではなく自分たちが所有しているという意識が持てるので、これほどまでに活動が成功しているという。ここから得られるヒントとしては、行政、企業、第3セクターなどと対立する市民ではなく、自分たちのものであるという意識を持ち、共に発展を目指すという姿勢である。
USJについて考えることを通じて第3セクター、政府と市民との関わりというような大きな問題まで考える機会ができ、良い経験になったように思う。はっきりとした答えを出すことは出来なかったが、これからもニュースなどで見た問題について自分なりに考えていきたい。