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「大人のための音楽教室について」

武田友里恵(国際学部国際文化学科3年)

 

1.はじめに

 

ピアノといえば、子どもの習い事というイメージが強いものである。小さいころにピアノを習っていたという人も多いだろう。しかし最近、大人が音楽教室に通うことがブームになっている。しかも、そこで習うことのできる楽器は何十種類にも広がっている。

 

全国で「大人の音楽レッスン」を展開するヤマハでは、ピアノやエレクトーン、チェロなど26コースで約9万3千人が同レッスンで音楽を学んでおり、受講者はこの10年間でほぼ倍増している。子供を合わせた受講生の年齢構成では20代が35%と最も多いが、10年前にはほとんどいなかった40代以上も17%を占めており、年々増加傾向にあるという。

 

ではなぜこのようなブームが起こっているのだろうか。その背景を探るとともに、大人の余暇としての音楽について考えてみたい。

 

 

2.「大人のための」音楽教室とは?

 

島村楽器では、一般的な音楽教室にあたる「ミュージックスクール」とは差別化を図り、大人を対象とした教室として「ミュージックサロン」を開講している。具体的にどのような違いがあるのかというと、前者は対象者は小学生か以上、レッスンは楽器によって決められた曜日で週1回、少人数でのグループレッスンである。それに対して後者は、対象者は高校生以上、レッスンはフリータイムで予約制、専任ミュージックインストラクターによる個人レッスンとなっており、それぞれの事情に合わせてレッスンプログラムを立てることが可能である。無理せず好きな時にでき、尚且つ楽しみながら上達していくことができる、大人に対応したシステムになっている。

 

ヤマハでは昨年秋から、熟年層をターゲットにし、グループレッスンで譜面の読み方やコーラス、楽器演奏の初歩を学ぶ「大人のための音楽入門講座」を全国でスタートさせた。その他にも「50歳からの音楽レッスン」というコースを用意し、中高年からでも取り組みやすいよう工夫している。さらに同社は神戸三田新阪急ホテルと組み、全国初のホテル内音楽教室を設けた。ホテルならではの高級感で、経済的にも時間的にも余裕のあるシニア層の取り込みを狙っている。

 

 

3.ブームの背景

 

今、大人が音楽を習いたがるのはどうしてなのだろうか。音楽教室に通う受講者は、主婦、年配者、大学生、社会人と年齢層や職種が幅広い。始めた目的や理由も、基礎からきっちり勉強したいという人もいれば、グレードや資格を取りたい、子供に手がかからなくなった、友人の結婚式までに曲を仕上げたい、定年退職を機に新しい趣味を持ちたい、昔子どものために買ったピアノが家にある、などさまざまだ。大人になってから始めた人が多いことから、興味はあるけれどもどこで習ったらいいのかと悩んでいた人も多かったのではないかと考えられる。それが、大人のための音楽教室ができたことによって、音楽を始めるきっかけができたばかりではなく、さらにはサックスなどの大人が好むような楽器も練習することができるようになったのである。

 

最近、サラリーマンの受講者が増えているという。彼らが楽器を習い始めた動機もさまざまであるが、大きな背景に「不況」が考えられるという。サラリーマンの増加の原因を「残業が減り時間の余裕ができた。さらに不況で企業が揺らいでいるおかげで、中高年は仕事一筋から価値観の転換を迫られた。その結果、精神的なゆとりを求める人が増え、音楽への関心に結びついたのでは」とヤマノミュージックサロン東京の金子明店長は分析している。(http://www.sanspo.com/shakai/trend/20031121stage.html) 

 

また、日本の個人資産の半分以上を保有する中高年層の受講者を増やしたいという企業側の狙いに、老後の楽しみを求め始めた中高年層のニーズが一致したことも、音楽教室ブームの原因の一つと考えられる。

 

                                                

4.音楽ビジネスへの発展

 

大人の音楽熱に連動して、ヘッドホンで聴けるバイオリンやチェロなど「消音楽器」の売れ行きも上がっている。スタジオで練習する時間のない人でも夜間に練習ができるのが魅力だ。現在、バイオリンの場合、年間市場規模の半分近くを消音のバイオリンが占めているという。 

 

また、レンタル楽器の需要も広がっている。ヤマハの子会社「ヤマハミュージックリース」が始めたもので、定価が30〜40万円するギターやバイオリンなどの新品楽器が月額4千円程度で借りられる。その楽器が気に入れば、既に支払ったレンタル料を購入代金の一部に充当して購入できるサービスもある。                               

 

さらに、中高年に人気のピアノは「リハビリピアノ」として、脳こうそくの後遺症で手などにまひがある人のリハビリ代わりにもなるそうだ。また、ピアノを使って指先を訓練することによって脳を刺激し、頭の老化を防ぐ効果もある。現在、大人向けピアノコースの受講生の年齢構成は50歳以上が約6割を占めるという。ピアノ学習は単なる趣味としてだけではなく、これからの高齢社会に向けて活用していくことも可能だろう。

 

 

5、おわりに

 

音楽には人を元気にしたり、癒したりする力があり、私たちの余暇には欠かせないものである。実際、音楽教室に通う大人たちは音楽で息抜きをすることで、毎日の生活をより充実させているようだ。

 

大人が音楽教室に通うことには、楽器が演奏できるようになるほかにもプラスになることが多い。日頃の練習の成果を発表する場として発表会を開けば、目標に向かって何かをする楽しみができ、普段ではできない貴重な経験にもなる。発表会は普通、教室側が企画して行うが、自分たちでバンドを組んで人前に披露する受講者もおり、神奈川県横浜市のNPO法人アークシップの「おとバン〜大人バンド倶楽部〜」では、社会人バンドのためのライブイベントを目指した活動を行っている。グループレッスンは、年齢、職種を越えた仲間を作ることができる。これは特に会社の中で働く人にとって、世界を広げるいい機会になるのではないだろうか。

 

現在、少子高齢化で子どもの数が減る中、子どもが通うイメージの強かった音楽教室は今、大人の趣味の場として定着しつつあるように思われる。高齢社会の中、余暇の楽しみを求める人はさらに増え、今後ますます大人を対象とした音楽教室の需要は増えていくだろう。企業が時代のニーズに応え、より多くの人が手軽に楽しめるように工夫していくことで、日常生活に音楽が身近になり、私たちの暮らしはもっと潤いのある豊かなものになるのではないかと感じた。