週休2日制と子どもの余暇

柴田千明(宇都宮大学国際学部国際文化学科)

 

1.        はじめに

 

 近年、小・中学校・高校、また多くの企業が週休2日制になったことにより、「余暇をどう過ごすか」ということが考えられるようになってきた。また、忙しかった社会人に時間ができたためか、レジャー産業が活発になってきている。大人にも子どもにも時間があるという現代社会で考えなければならないのは「子どもにとっての余暇」である。

 「大人にとっての余暇」と「子どもにとっての余暇」は当然違っている。大きな違いは、余暇活動の選択肢と言えるであろう。生活に支障が出ない限り自分の余暇活動に好きなだけお金を使える大人と、お小遣いくらいしか収入のない子どもとでは余暇活動の選択肢に大きな差が出る。また、大人にとって習い事は自分の意思で通うものなので余暇活動と考えられるが、子どもにとっては、親に強制された学習の一環でしかない場合が多い。双方の余暇の違いには、双方の価値観も関係してくると言える。例えば、子どもがテレビゲームで遊んでいたら多くの大人はあまり感心しないように、子どもの余暇は大人にとっての文句の対象でしかない場合があるのである。

 現代の子どもは「遊び下手」であるということをよく耳にする。土曜日が休みになった今、少ない選択肢の中で子どもたちが充実した余暇活動をするにはどうしたらよいのか、ということを子どもの余暇の実態を踏まえながら考察していこうと思う。

 ちなみにここでは「子ども」を小中学生に限定して調査していく。

 

 

2.        子どもの土曜日の過ごし方

 

 週休2日制になったことで子どもたちは、日曜日だけでなく土曜日にも余暇活動をすることが可能になった。その実態をここでは、北海道石狩市、埼玉県大井町、全国学習塾協会が調査した「子どもたちの土曜日の過ごしたか」のデータをもとに論じていく。

 石狩市が調査したデータによると、小・中学生とも家で過ごした子どもが午前・午後とも最も多く、午前中にいたっては半数近くを占めている。具体的には、午前・午後ともテレビを見たりゲームをした子どもが約4分の1と最も多く、次いで「遊んだ」という回答が多い。石狩市が行ったアンケート調査の中に「地域行事」や「ボランティア」に参加した、という選択肢もあったが小・中学生とも極めて少なく1%未満であった。http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/kakubu/kyouiku/school5/school5.htm

 次に大井町が調査したデータによると、小学生は家族と過ごした子どもが最も多く、次いで「友達と外で遊んだ」が多かった。第4位には「学習塾や習い事」が入っており、全体の約30%を占めている。石狩市の調査で最も多かった「家で過ごす」は、大井町では第6位に入っており、石狩市同様テレビやゲームが最も多い。大井町でもやはり、地域の活動に参加した子どもは最も少ないが、石狩市ほどではない。しかしこれは、このアンケートが複数回答可能なものであったからなのかもしれない。中学生は、部活動に参加した子どもが半分以上を占めている。次に多いのは「友達と外で遊んだ」で、「家で過ごした」は第4位にはいっている。そしてやはり、家ではテレビやゲームをした子どもが最も多い。中学生もやはり地域活動に参加した子供は少なく、小学生以下である。http://www.town.oi.saitama.jp/new/gakou-5day/

 最後に全国学習塾協会の調査データによると、小学生は「塾や習い事」が半分以上、次いで「家で過ごす」が約4分の1を占めている。中学生は、「部活」、「家で過ごす」が共に35%前後を占めており、次いで「塾や習い事」が4分の1を占めている。この調査で「塾や習い事」の回答が他の二つの調査と比べて圧倒的に多いのは、この調査の対象が学習塾に通う小・中学生であるからだと考えられる。上の二つの調査同様、ボランティア活動などの体験学習に参加する子どもは小・中学生とも非常に少ない。http://www.jja.or.jp/preview/2003jittai/2003shukyu2.htm

 これらの結果から分かるように、小・中学生とも多くの子供たちが家でテレビを見たりゲームをするか、友達と遊ぶなどして土曜日を過ごしている。それに対して地域活動やボランティア活動などに参加するする子どもは極端に少ない。また、土曜日が休みになったことで塾や習い事に行き余暇の時間を削っている、あるいは削らされている子供もいる。

 

 

3.        子どもの趣味と娯楽

 

 次に、子どもたちの余暇活動はいったい何なのか、ということについて論じていく。総務省統計局が行った調査によると、小学生が過去一年間に「趣味・娯楽」として行った行動の中で最も多かったのは、男女とも「テレビゲーム」である。続いて男子の第2位から第5位は「トランプ等」、「遊園地等の見物」、「ゲームセンター等でのゲーム」、「テープ・CD等による音楽鑑賞」であった。女子の第2位から第5位は「テープ・CD等による音楽鑑賞」、「トランプ等」、「遊園地等の見物」、「ドライブ」であった。中学生の男子の行動で最も多かったのは、小学生同様「テレビゲーム」で以下第2位から第5位は」「テープ・CD等による音楽鑑賞」、「ゲームセンター等でのゲーム」、「トランプ等」、「スポーツ観覧」であった。女子の行動で最も多かったのは「テープ・CD等による音楽鑑賞」で次いで、「テレビゲーム」、「トランプ等」、「遊園地等の見物」、「カラオケ」の順であった。http://www.stat.go.jp/data/shakai/3-2.htm#05e72-1

 この調査の結果から分かることは、保護者や地域がどの程度子どもの余暇活動に関わっているか、ということである。「はじめに」で述べたように、子どもの余暇活動の選択肢は狭い。つまりどこか遠くに出かけたり、お金がかかる事をするには親の承諾や付き添いが必要だし、何か大きい事をやろうとすれば地域の協力が必要なのだ。この観点から見ると、小学生のほうは、「遊園地等の見物」や「ドライブ」(男子のほうは第6位に入っている)が入っていることから見て、保護者の関与は比較的多いと考えられる。一方、中学生のほうはというと、年齢的にも保護者と少し距離を置く時期ということもあるせいか保護者の関与は少ない。

 もう一つ分かることは、子どもの余暇活動が身近なものになりやすいということである。これは、今まで述べてきたように子どもの余暇活動の選択肢が狭いからという結果であると考えられる。身近なものの代表例としてはテレビやゲームである。

 

 

4.        終わりに

 

これまでの調査で多くの子どもの消極的な余暇活動の実態が見えてきた。家でテレビを見たりゲームをして過ごす子どもが多いのは保護者や地域、更には行政に責任があると考えられる。テレビを見たり、ゲームをして過ごすことが完全に悪いと否定しているわけではないが、やはり一日中家にこもってテレビのみを相手にしているのはどうかと思う。そもそも土曜日が休みになり週休2日制にしたのは、単に子どもたちに時間を与えるだけでなく、その時間を利用して様々な経験をし「生きる力」を育ませるためであった。しかし、現状のままでは、この目標には到底たどりつかないだろう。だからこそ、地域や行政が動くべきなのである。現に大井町の調査によると「これからの土曜日、1日中ずっと家にいたいですか」という質問に対し小学生は7割近く、中学生は半分以上が「あまりいたくない」「まったくいたくない」と答えている。http://www.town.oi.saitama.jp/new/gakou-5day/data/graph.xls3つ目のタグ「土曜日にやってみたいこと」参照)このように、子どもたちはテレビを見たりゲームをして家で過ごすのがいちばん好き、というわけではないのである。選択肢の狭さ、テレビの身近さからそのような結果になってしまうのである。

 子どもたちの余暇活動を充実させるためにも地域や行政は動くべきであると私は考える。例えば東京都武蔵野市では子どもたちのために「土曜学校」を行っている。学校では体験できないことを子どもたちに体験させてあげることにより感性豊かな子どもを育てていくことを目的としている。ここでは、スポーツやキャンプ、ものづくりを行っている。またあまりなじみのない楽器に触れたり、世界や環境問題などについて遊びながら考える機会など、多くのプログラムを行って子どもたちにたくさんの経験をさせようとしている。http://www.city.musashino.tokyo.jp/section/22010syougai/news/doyoukyoushi.htm

 子どもたちの余暇活動が消極的になってしまうのには、もうひとつ理由がある。それは、遊び場の少なさだ。多くの建物の建設が行われたり、あるいは今も行われている影響として子どもの遊び場がどんどん減ってきている。厚生労働省の児童環境調査によると、小学生は「子犬や猫などの小動物や、昆虫と触れ合うことのできる遊び場」や「野球やサッカーなどができる広場」、「隠れん場や冒険遊びのできる原っぱや空き地」があったらいいという結果がでている。一方中学生は、「歌ったり、音楽を聴いたり、楽器の演奏をしたり、ダンスなどが楽しめるスタジオ」や、「映画や劇が見られる小さな劇場」、小学生にも出されていた「野球やサッカーなどができる広場」があったらいいと思っている。http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/01/h0129-2c.html#7

 このように、子どもの余暇活動を阻害する要因はたくさんある。せっかくの時間を無駄にしないためにも、また今後の日本の立派な担い手を育てるためにも、地域や行政は子どもたちの余暇活動を少なからず考え、様々な体験をさせてあげることが大切だと思う。