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「『大曲の花火』大会とその実施に伴う問題点」

                                     

                                   三浦陽子(宇都宮大学国際学部国際文化学科3年)

 

1.『大曲の花火』とは

 

秋田県東南部に位置する大曲市は、ある中央情報誌による「全国六百七十一都市住み良さランキング」で平成1112年の2年連続で日本一に輝いたこともあるほど生活環境に恵まれた都市である。「音と光と水のまち」を標榜している大曲市では、毎年8月の第4土曜日に市の商工会議所が主催する全国花火競技大会『大曲の花火』が行われる。その歴史は古く、明治43826日諏訪神社の祭典の余興として開催された「奥羽六県煙火共進会」が始まりである。大正4年には「全国花火競技会」と名称を改め、規模の拡大とレベルアップが図られた。戦争のため一時中断はあったものの、今年で78回目を迎える伝統的な行事となった。「大曲の花火」は数ある花火大会の中でも最も権威ある大会として位置付けられている。花火は花火をつくった本人が打ち上げなければならないこと、また、内閣総理大臣賞・通商産業大臣賞・科学技術庁長官賞・中小企業庁長官賞などが授与されることから、「大曲の花火」は全国の花火師が目標とする日本一格式高い大会として知られている。

 

大会は、第1部「昼花火の部」、第2部「夜花火の部(割物花火の部・創造花火の部)」で構成されており、その出場枠は30業者である。各部のはじめには「標準審査玉」が打ち上げられ、競技ではそれを基準として、高度および開き・音および色彩・リズムおよび総合美・意匠および斬新性・安全性、以上5つの観点から総合的、芸術的に審査される。大会で観ることができる花火には、菊、冠菊、千輪、椰子、型物などさまざまな種類があるが、なんといっても大曲の花火の名物は大会提供のワイドスターマインである。幅1キロもある河川敷をステージに見立て、テーマ曲に合わせて展開する一大ページェントは圧巻である。何度も観たことのある地元の住民でさえ、その迫力と美しさには毎年感動を覚える。

 

 

2.大会実施における問題とその対応

 

これまで見てきたように、花火芸術の最高峰とまで謳われる「大曲の花火」は毎年大盛況の賑わいを見せる。しかしその反面、人口約4万人の都市が抱えるには過酷ともいえるほどの観覧者が訪れるため、市にとって深刻な問題であることも事実だ。その背景には秋田新幹線の開業と秋田自動車道の開通で他県からもアクセスしやすい環境が整ったことがあるが、大会当日の観覧者数はなんと60万人を超える。当然、その一時的だが急激な人口増加によって発生する問題も多い。ここからは観覧者の多さから生じるさまざまな問題とその対応についてみていきたいと思う。

 

まず、第一に挙げられるのが交通渋滞である。先述のように人口の約15倍の人々が一気に訪れるため、都市機能は完全に麻痺し、毎年大曲周辺の道路は早朝から渋滞する。したがって、駐車場を求めて市内を車で移動するのは大変難しい状況となる。市では会場周辺の道路は混乱を避けるために、早朝から車両通行止めなどの交通規制を行い、その規制の範囲を時間が経つにつれて市内全域へと広げていく対策をとっている。市内外の交通整理には市役所職員全体が駆り出され、その対応にあたっている。平成14年大会終了後の調査結果によると、当日に備えて乗用車等の駐車場を約15000台分設けてはいるが、実際市内へ進入してくる車の量は約57300台とはるかに上回る数字だ。そのようにすさまじい量の車が押し寄せるにもかかわらず、この花火競技大会では歩行者の安全確保を第一に運営されているため、大会終了後は市内道路上の歩行者の安全が確保されるまで、車は各駐車場などから道路に出ることはできず、24時過ぎでないと身動きできない。渋滞の中での運転手の疲労を考えると、事故がいつ起きてもおかしくない状況だ。主催者の大曲商工会議所では、渋滞回避の一手段として大曲周辺の駅からJRの電車の利用を勧めている。秋田新幹線、田沢湖線、奥羽本線ともに大会前後十数本の臨時電車が運行されている。しかし、徒歩での移動でも混雑は避けてとおることはできず、危険防止のため会場では常時、警察・消防署員などがついている。混雑の度合いをあらわす数字としては、およそ100メートル歩くのに15分以上もかかるという。

 

次に大きな問題となっているのがゴミ処理である。早い時間から大会開始を待つ人が多く、会場内外で出る飲食等のゴミの量は、100トンを超える。主催者側は会場にゴミになるもの、たとえば使い古しの毛布や座布団などを持ち込まないように呼びかけるとともに、大会終了後にはゴミは持ち帰らずゴミ集積所に捨てるようにとしている。ゴミ集積所などを設けたらその処理が大変だと思われるが、ゴミを持ち帰ろうとしても人・人・人の大混雑の中では、ゴミがとても邪魔になり道路のわきに放置したりする人が多いため、観覧周辺には大量のゴミが散乱し、逆に手間と費用がかかってしまう。そのため、各所にゴミ集積所を設置してゴミの散乱を防いでいるのだ。さらに、そのゴミ集積所では「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」の分別収集を徹底しており、ゴミの減量化、資源化も考慮されている。そのほかにも仮設トイレを700以上設置したり、混雑のため一時つながりにくくなる携帯電話のための臨時アンテナを立ててはいるが、それでもつながらない場合に備えて臨時カード式公衆電話を設置したりと、これまで何回も行われてきた大会運営の経験から、できるだけの対策がなされている。しかし、それでもなお十分に対応が追いついていないというのが現状である。

 

 

3.市民にとっての「花火」

 

大曲市にとって「大曲の花火」は観光の最大の目玉であり、地域活性化には欠かせない行事となっている。実際、街全体で「大曲の花火」を積極的に盛り上げていこうという試みがなされている。その中心となっているのがNPO法人「大曲花火倶楽部」で、日本の伝統芸術である花火への理解を深めること、花火に関連した事業を通じ地域活性化を図ることを目的として設立された。大曲市と協働で花火関連商品の紹介・販売や資料の展示などを行う「大曲花火屋」を運営したり、「花火鑑賞士」という資格を独自につくって、花火を知的に、かつ楽しく鑑賞するための技術向上を図り、市民レベルでの花火普及を促したりとユニークな活動を行っている。それ以外にも、市内の商店街の名称を「花火通り商店街」と改めたり、「大曲の花火」にちなんだネーミングのお菓子やお土産を開発したりとさまざまな活動が行われており、「大曲は花火のまち」という合言葉が市民の間ですでに浸透しているように思われる。市内を歩いている人に「大曲といえば?」と聞けば、おそらく「花火!」という答えがかえってくるだろう。「名物となるものが花火しかないからだ」と指摘されそうだが、大曲市民にとって「大曲の花火」は他の都市や日本国内、さらには世界に誇れるものなのである。その規模や伝統はもちろんすばらしいが、花火師たちの情熱と技が生み出す華麗で壮大な「花」は万国共通の魅力をもっている。その美しさの影で大会を成功させるため、つまりは事故なく安全に大会を終えるために努力している市の行政職員と市民がいることを忘れてはならない。すさまじい観覧者数のため毎回混雑が予想され、いくら対応しても完全に解消されない問題は残るが、「大曲の花火」は行政と市民の「協働」という形でこれからも続いていくことを願いたい。

 

 

引用・参考webサイト

大曲の花火

http://www.ldt.co.jp/hanabi/

大曲商工会議所

http://www.obako.or.jp/kaigisho/index.htm

NPO法人 大曲花火倶楽部

http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Oak/4943/

市政 大曲市 高橋司

http://www.mayors.or.jp/shisei/shisei00.05/wagashi/omagari.htm