「フェアトレードというブランドの選択」
深田裕一 (農学部生物生産科学科3年)
現在日本はアメリカ、ドイツに続いて世界第三位のコーヒー豆消費量を誇る、世界トップクラスのコーヒー愛好国である。その輸入先はブラジル、コロンビア、インドネシアなど世界40カ国以上と非常に多岐に渡り、ちょっと手間をかけて探せば、実に品質の良い、ありとあらゆる種類の豆をいとも簡単に手に入れてしまう事ができる。
そんな日本国内に流通する多種多様な豆の中でフェアトレードと呼ばれるブランドのコーヒー豆が存在するのをご存知だろうか?このレポートではフェアトレードというブランドについての詳細を現在のコーヒー豆の流通体系の問題点と絡めて考察し、我々がこれから先もコーヒーという嗜好品を継続的に楽しんでいくためにはどのような事を考慮しなければならないのかについてなどを言及していきたい。
1.コーヒー生産農家の現状
通常我々がコーヒーを購入する際、豆の風味や特徴、販売会社のブランドについては当然考慮するだろうが、それを生産している人たちの事について考慮する人は少ないでしょう。では現状はどのようなものなのでしょうか?
現在、大半のコーヒー生産農家はとても悲惨な状況におかれているといって良いでしょう。苦労してせっかくコーヒー豆を作っても、コーヒー豆の買い上げ価格はその生産費すら下回っているという状況だからです。だから何百万というコーヒー農家が飢餓と貧困に苦しみ続けているのです。
この悲惨な状況の原因として第一に挙げられるのは、コーヒー豆生産農家の実に約八割が小規模農家で、販売のためのノウハウ、資金力、情報を持っていない事です。そして第二に、コーヒー豆は市場価格の変動が非常に激しく、さらに中間業者、流通業者の数が非常に多いということです。この二つの大きな原因から一体何が導き出されるかというと、現状では企業が不安定な市場価格の中から確実に利益を得ようと、何も知らず、立場の弱いコーヒー農家を騙して安く買い叩いているということです。
果たしてこのままでも良いのでしょうか?もしかしたら近い将来、世界からコーヒーを生産する農家が消えてしまうかもしれません。そうしたらもう我々はコーヒーを楽しむことは出来なくなってしまうのです。
2.フェアトレードとは?
しかしながら現在、このようなコーヒー農家を苦しめる理不尽な流通システムを変えようという試みが行われているのです。それがフェアトレードという流通体系です。
フェアトレードの明確な基準は各団体によってまちまちではありますが、根幹の部分ではだいたい同じで、中間業者や流通業者だけに多く渡っている利益を生産者にも平等(フェア)に分けようという貿易(トレード)システムで、具体的には、中間業者を排して農家から直接、通常より高値で商品を継続的に買い付けるとういうものです。
このシステムの最大の利点として、農家と直接取引することから余計な中間マージンを省けるため、通常の買い付け価格より高い値段(条件にもよるが10%以上)で買い付けるということが挙げられます。当然、これにより農家の貧困からの脱出を手助けする事ができます。また、フェアトレードは子供を働かせている農場の商品は扱わないという理念により子供の人権を尊重される事、持続可能で長期的な発展が可能な方法を農家と協力して行うので環境保護にも役立つ事など、様々な利点が他にもあります。
しかし良いことばかりではありません、悪い側面もまた存在します。例を挙げると、フェアトレード製品を手がける団体が小規模であるため資金力に乏しく、通常よりも輸送コストなどが高くかかってしまうことにより結局通常の商品より値段が高くなってしまう事、フェアトレード団体が現地の農家に対して理解を示すあまりに過保護となり、農家の自助努力が低下して製品の品質が低下しまいがちな事、フェアトレードとうたわれて販売されているのに実際には農家に利益が渡っているかは不透明な場合が多々ある事、などが挙げられます。
つまりこれらの悪い側面はフェアトレードというシステムはまだまだ模索段階であるということを如実に示しているのです。ではそんな状況の中で、コーヒー農家の人々が貧困の苦しみから解放され、なおかつ我々消費者がこれからも安心してコーヒー楽しむためには果たしてどうしたら良いのでしょうか?
3.フェアトレードというブランドの選択
前項までから、我々コーヒー消費者がこれからも永続的に質の良いコーヒーを楽しんでいくためには、ただおいしいコーヒーが安く飲めればそれで良いというような考え方を捨て、多少手間やコストがかかろうとも、より長期的、大局的な視野からコーヒーを選んでいく必要があるということが自ずと明らかになってきます。ですから我々はその1つの選択肢として、これからは大なり小なりフェアトレードというブランドのコーヒーを意識的に選択していく必要があると思います。
その具体的な方法として、個人レベルでは自分で飲むコーヒーにフェアトレードブランドを取り入れる事や、店舗や勤務先でのフェアトレードコーヒーの導入を働きかけ等、もっと大きな規模だと企業などに積極的にフェアトレードを導入する事を推し進めている団体に協力する事等があります。いきなりNPO団体に協力しろと言われても無理かもしれませんが、普段家や職場で飲んでいるコーヒーにフェアトレードを取り入れることなら可能なはずです。
また世界の国々に目を向けてみると、日本よりフェアトレードへの意識の高い国も数多く存在しています。公正貿易に関する教育が行き届いているオランダでは、町に一軒は必ずフェアトレードを扱う店があるというほどですし、アメリカでは複数のNPO団体がスターバックスコーヒーに対してフェアトレードコーヒーを取り扱うよう全国規模で圧力をかける運動を行い、それを同社に承諾させてしまったというようにNPO団体等の活動が盛んです。
そしてフェアトレードの市場がさらに拡大していけば、現在の危機的なコーヒー農家の状況を救うことにつながるだけでなく、輸送コスト問題や流通ルートの不明朗など、現在フェアトレードが抱える問題を解消することにもつながり、ひいてはフェアトレードという流通形態をよりすばらしいものへと進化させることにつながるのです。
4.まとめ
現在のコーヒーの流通形態は流通業者の利益のみが追求されているというのが現状のようです。しかし実際にコーヒーを飲む我々にとっては直接関係のあることではなく、私自身今まで流通形態やコーヒー農家の事など考えたりしませんでしたし、多くの人もそうでしょう。しかし今回レポートを書き上げて、何も考えずに今のままでコーヒーを飲み続けることはコーヒー農家の人達を苦しめ、さらには地球環境や資源を食い潰してしまうことになるのだな、ということに気付きました。コーヒー生産農家の人がこれ以上貧困に苦しまないよう、そしてこれからも先もコーヒーという飲み物を楽しめるようにフェアトレードがもっと普及することを切に願う次第です。