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                地方競馬は中央競馬のように国民的娯楽となりえるのか?

                                  豊田 浩司(国際学部国際社会学科三年)

 

 皆さんは競馬といえば何を思い浮かべるだろうか。おそらく大半の方は鮮やかなターフ(芝)で何頭もの競走馬が走り、大観衆がそれを買った馬券を握り締めながら見守っているという風景を思い浮かぶだろう。そのイメージは中央競馬のものである。中央競馬は、競馬はもはやギャンブルではなく「国民的娯楽」・「エンターテイメント」であると示している。メディアが多く採り上げたり、テレビでよく目にしたりするのは殆どが中央競馬である。一方で、皆さんは中央競馬の他に、地方競馬という競馬もあることを知っているだろうか。

 日本の競馬は中央競馬と地方競馬という二つのものがある。中央競馬は日本中央競馬会(JRA)が主催しているもので、これは政府全額出資(農林水産省監督下)の特殊法人である。対して地方競馬はその名の通り国が経営に参加している中央競馬とは異なり、県・市町村が運営する競馬であり、それぞれ独自の経営方針で運営されている。地方競馬は、もともとその売り上げを地域の様々な施設環境整備のためや、地域の畜産業の振興のために使うという目的で始まったものである。そして重要な点は、地方競馬は「娯楽」というよりも、ギャンブル色が非常に強いということである。どちらの競馬も歴史が深く、基本的には中央競馬に所属している競走馬はサラブレッドで、地方競馬にはサラブレッドの他に純粋なサラブレッドの血統ではないアラブ系、サラ系、そりを引くレースに使われるばんえい馬などさまざまな競走馬が所属している。中央競馬の競馬場は北から札幌、福島、新潟、東京、中山(千葉県)、中京、京都、阪神、小倉にある。地方競馬場は宇都宮はじめ、現在全国に25箇所もある。事実、2004年現在の観客動員数や賞金金額、競走馬のレベル、世間の注目度などは中央競馬のほうが圧倒的に高い。だが地方競馬も地元の人々に愛され、親しまれていた。また地元ファンから大きな支持を得ていた。

 しかし、地方競馬の人気も昭和40年代でピークを向かえ、その後は下降の一歩である。動員観客数、売り上げ、それらの数字は毎年最低を記録し、開催している自治体の中には競馬場の閉鎖に踏み切った自治体もある。同時にその時代はそれまで人気が下火であった中央競馬の人気が上昇してきた時代でもあった。では、どうして地方競馬の人気がこの時代から低迷し始めてしまったのだろうか。

 実は、かつて地方競馬の方が、観客動員数が多く、賞金が高く、また競走馬のレベルも圧倒的に地方馬の方が上であった。中央競馬の競走馬が、地方競馬と対戦して負けるというのはむしろ当然のことであった。しかし、昭和50年代、日本はバブル期をむかえ、それまで地方競馬に多くの優秀馬を送り込んでいた馬主が次々と中央競馬に持ち馬を加入させる事態が起こった。その事態の源となったのが有名なオグリキャップである。オグリキャップとは地方競馬の笠松競馬場(岐阜県)出身で、その強さのために地方競馬から中央競馬に移籍し、大活躍して一躍競馬ブームを起こした馬である。加えて、諸事情でオグリキャップが日本ダービーなどの三冠クラシックレースに参加する資格が無かった。そのことがかえってファンの共感を呼び、ファンを中央競馬のみに注目させることとなった。これ以来、「優秀な馬は初めから中央競馬に入れさせて、そうでない馬は地方競馬に入れておけ」という考えが競馬関係者に行き渡り、中央競馬がそれ以来順調に売り上げを伸ばしていった一方、地方競馬は衰退の一途を辿って言った。中央競馬と地方競馬はその開催目的、組織・制度も別で、多くの中央競馬場は馬場が広く、直線(レース最後のスパートで、一番盛り上がるところ)も長く、観客向け施設も完備されている。中央のメインレースが殆ど芝(競馬では華やかなイメージ)で行なわれるのに対して、地方の芝レースは盛岡競馬場(岩手県)のみで殆どがダート(地味なイメージ)である。このように、中央競馬は施設の充実、優秀馬の集中、高い資金力、優れた宣伝力によってファンを引き寄せてきた。さらに数年前、地方競馬と中央競馬の交流が大幅に開放された。これによって地方の実力馬や人気騎手が次々と中央競馬に参入し始めた。不況の影響で自治体からの補助金も減り、スター不在の地方競馬の収益は悪化するばかりで、ついには閉鎖を決定した地方競馬場も現れたのである。

 この事態を何とか打破しようと、地方競馬関係者は様々な対策を講じている。まず挙げられるのが地方競馬と中央競馬の交流レースの開催である。交流レースとは、中央・地方の所属に関係なく競走馬・騎手が自由に参戦できるレースである。これは例として大井競馬場(東京都)で行なわれる帝王賞(GⅠ)がある。また、地方競馬場同士の交流競走(例えば全国の地方競馬場の代表馬が一頭ずつ集め、グレードレースを開催)も積極的に行われている。また、馬に限らず、中央・地方のスター騎手を集めた交流競走も行なわれている。次に、東京都や北海道などの地方競馬場で行われている東京シティ競馬(通称トゥインクル競馬)である。これは昭和61年からサラリーマン・OLをターゲットに始まったものであるが、好評のため現在も拡大して行われているものである。

 次に挙げられるのが、中央競馬の馬券を地方競馬場でも買えるシステムを開始したことである。これによって地方競馬場に出向いてくれる人数を増やすことができ、地方競馬のアピールにも繋がる。そして、次に、中央競馬と同じようにメディアによる広報活動がある。毎年某人気タレントが出演する中央競馬のCMと同時に、最近その地方ののどかな雰囲気と、所属の人気馬を売りにした高知競馬のCMが全国放映された。

 最後に、一番地方競馬にとってアピールとなったのが、皮肉にも地方競馬の人気を衰退させる原因となったオグリキャップと同じ現象ではあるが、実力馬の最近の中央競馬での活躍である。例を挙げれば、北海道の地方競馬出身のコスモバルクが中央競馬牡馬三歳クラシックレースの一つ、皐月賞に二着した事である。この馬は血統が良いという訳ではない。血統が馬の能力の大半を占めると言われる競馬界で、三流血統の地方競馬出身馬が皐月賞に二着したとあって、このことは中央競馬ファンの関心を地方競馬にも向けさせる絶好の機会になった。

 しかし、このような具体的な対策を講じている地方競馬ではあるが、中央競馬にはまだまだ劣る点が多い。中央競馬は、競馬が単なるギャンブルではなく、まさに競馬の魅力が全面的にアピールされた「国民的娯楽」として位置付けられるように、競馬場施設の改良・情報関係施設の充実・場内緑化・ファンへのキャンペーン実施・イベントの開催など、様々な取り組みをしている。このようにしてみると、地方競馬はまだまだギャンブルという暗い消極的なイメージを拭い切れないという現実がある。やはり競馬としての人気をこれから持続させるには、主に若年層の心を掴まなければならない。そのためには、地方競馬は中央競馬に倣って「単なるギャンブル」だけでなく「娯楽」「エンターテイメント」も兼ね備えたイメージを育てなければならない。地方競馬の存続が危うい今、この意識の改革が早急に必要なのではないだろうか。

 

 

 

 

  参照サイト

 JRA ホームページ

 http://www.jra.go.jp/

 地方競馬情報サイト

 http://www.keiba.go.jp/

 笠松競馬場ホームページ

 http://www.kasamatsu-keiba.com/index01.htm