Satot040630

「宇都宮屋台横丁―余暇としての食とまちづくり―」

 

(宇都宮大学国際学部国際文化学科3年) 佐藤つかさ

 

1.はじめに

 

食は余暇になるのであろうか。食事をすることは人間にとって必要不可欠のことであり、余暇ではない。しかし、社会に目を向けてみるとグルメ番組は毎日どこかの局によって放送されていると言っても過言ではないし、食べ歩きガイドブックも本屋で必ずみかける。グルメ番組や食べ歩きのことを考えてみると、食は必要不可欠なもの、空腹を満たすものだけではなく、娯楽・趣味にもなり得るものになったと言えるだろう。そんな中、宇都宮市日野町に「宇都宮屋台横丁」という新しい食のスポットが2004426日にオープンした。私も実際に行ってみたのだが、大谷石の敷かれた通路や狭い店内に肩を寄せ合うようにして座っているお客さんを見て興味を持った。私はこの宇都宮屋台横丁を通して余暇としてとらえた食とそれを生かしたまちづくりについて考えていきたい。

 

 

2.宇都宮屋台横丁

 

宇都宮屋台横丁がオープンした背景を明らかにしていく。誰が発案・企画し、運営しているのだろうか。まず、この屋台横町を構想したのは宇都宮まちづくり推進機構の宮駅周辺まちづくり部会である。宇都宮まちづくり推進機構とは平成11年に設立され、中心市街活性化のため宇都宮市、宇都宮商工会議所、民間企業と市民が参加している事業体(第3セクター)である。宮駅周辺まちづくり部会とはその推進機構内のまちづくりを検討する6部会のひとつでJR宇都宮駅を中心として、特に駅西口広場周辺のまちづくりを検討していく部会である。この部会が「食の集積・屋台村設置構想」をまとめ、その部会員のコーディネートにより民間企業がこの事業に名乗りをあげ、民設民営の屋台村ができた。つまり、屋台横町は官と民が参加している団体がその構想を発案し、運営、管理、企画、設計は民間企業がしているものである。

 

 屋台といえば博多にあるもののように移動できる台車や自動車を道端に置き、夜だけ商売している屋根つきの小さな店や、祭りの期間だけ広場などに出店する店を指す。それに対して宇都宮屋台横丁は固定された、プレハブ作りで2×1.5メートルくらいの広さの店舗スペースとその後ろに調理場をもつ店が20件ほど集まってできている。調理場にはガスや水道が通っており冷蔵庫も設置されている。このような新しい形式の屋台村は宇都宮に全国で初めてできたものなのであろうか。調べてみると、青森県八戸市には「みろく横丁」という屋台村が2002年にオープンしている。また、北海道帯広市では「北の屋台」が2001年に開業している。この屋台村はどちらも最近できたものであり、3坪ほどの広さ固定した店舗(屋台)が20から25件集まってできている。そして「北の屋台」は19992月に独創的なまちづくりのために市民が集まり構想、実現したもので、このような屋台構想の先駆けであるという。宇都宮屋台横丁が全国の先駆ではない。宇都宮屋台横丁はこれらの屋台の影響やアイデアを受けて構想されたものであろう。

 


3
.屋台村とまちづくり

 

この章では屋台村とまちづくりについて考察してみる。私は屋台村と聞いて、フードテーマパークの一種だろうかと思った。しかし、フードテーマパークと屋台村には明らかに違いがある。フードテーマパークと屋台村を比較すると屋台村の特徴がよくわかる。前者が「エンターテイメントとしての食」を掲げているのに対して、後者は「まちづくりとしての食」を目指している。

 

フードテーマパークを象徴するのはゲーム会社のナムコである。ナムコは「津軽ラーメン街道」「池袋餃子スタジアム」「横濱カレーミュージアム」など10個のフードテーマパークをプロデュースしている。ナムコの池澤テーマパーク事業本部長が横濱カレー博物館について「装置型のアトラクションによる構成ではなく、「食べる」という行為そのものをアミューズメント化できないか、というアイデア」と語っている。フードテーマパークはアミューズメントの内容がゲームやアトラクションから、食に移動していったものなのであろう。つまり、フード「テーマパーク」と称するとおり企業が提供する娯楽施設なのである。さらに、娯楽施設ということでその施設内の空間をどう演出するかが問題であり、まちづくり全体を問題にすることはできないのではないだろうか。

 

その反対に屋台村は企業ではなく市民がその主体や、発案に深く関わっている。宇都宮屋台横丁は官民共同の事業体である第3セクター発案のものである。さらに宇都宮の参考になったであろう2つの屋台村をみていく。2001年に開業した「北の屋台」は、帯広青年会議所を核にして「十勝環境ラボラトリー」が設立され、そのプロジェクトの一つとして中心市街地のあり方を研究し、空洞化する市内を問題にする「都市構想プロジェクト」によって発案されたものである。市民がまちづくりに参加しようとして屋台村は構想された。また、2002年に開業した青森県八戸市の屋台村「みろく横丁」は「八戸エコ・リサイクル協議会」という地域住民、企業、行政が協力しあい環境を考えた「地域循環型」のリサイクルシステムの構築を目指し、加えて中心商店街活性化といった地域づくりも視野にいれて活動している市民団体が構想したものである。そして、その構想はJR東日本、八戸市、市商工会議所で構成される新幹線八戸駅開業実行委員会により取り上げられ実現に至ったという。このように屋台村はまちづくりを考えた市民がその発案に関わっているのである。フードテーマパークでは食をエンターテイメントとして捉えるものだが、屋台村は食によってまちづくりや地域の活性化をしようという試みなのである。

 

 

4.おわりに

 

宇都宮屋台横丁に注目して余暇としての食とまちづくりを考えてみた。食べ物に困らなくなった現在の日本では、フードテーマパークを見て分かるように食はエンターテイメントとして消費される側面をもつようになった。しかし、娯楽・趣味としての食は屋台村の例から分かるように市民が自ら発案するまちづくりの一端を担うこともできるのである。こういった市民による食を生かしたまちづくりの良い点は地域の食材や環境を考えることができるということである。フードテーマパークでは全国の有名店やおいしい店を集めていわば展示するところである。これではその土地の地域性・独自性を生かせない。反対に「北の屋台」では「6月のおすすめは「朝採りアスパラ」です。」と宣伝しているように旬の地域の特産品を生かした食を提供している。また「みろく横丁」では環境にこだわり、割り箸の再生や生ごみの肥料リサイクルをしている。市民の積極的な参加によってこれらのことがなされているのだろう。

 

最後に宇都宮屋台横丁のことを考えると、宇都宮屋台横丁は発案には市民が関わっているが運営は民間企業がしている。他の二つの屋台村をみると市民の継続的な参加によって屋台村は盛り上がっているようだ。宇都宮屋台横丁もまちづくりとしての食を目指すのなら市民は発案しただけであとは企業に丸投げしてしまうのではなく、市民の継続的な参加が必要なのではないだろうか。

 

 

〈参考文献〉

中沢孝夫 『〈地域人〉とまちづくり』 講談社 2003

〈参照サイト〉04629日現在)

http://www.ucatv.ne.jp/~u_kikoh/ 「宇都宮まちづくり推進機構」

http://www.cig.jasmec.go.jp/geppo/kigyouhoumon28.html  企業訪問レポート「信用保険制度 中小企業総合事業団 信用保険部門」

http://www.kitanoyatai.com/ 「北の屋台」

http://www.tansei.net/talk/zadan/main.htm  環境演出型エンターテイメント施設の最新動向 tansei.net

http://www.namco.co.jp/ftp/ 「ナムコ・ワンダーページ」

http://www.36yokocho.com/ 「みろく横丁」

http://www.utsunomiya-yataiyokocho.com/index.html 「宇都宮屋台横丁」