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地域通貨~新しい貨幣は余暇につながるか
井上 有香(国際学部国際社会学科3年)
1、はじめに
今日、経済や文化など様々な面において急速なグローバル化が進行してきた。その中で、マネーという側面でもグローバル化は発展し、私たちは豊かさや便利さという恩恵を受けている。しかし、その一方で利益主義によって国、地域、さらには個人レベルにおいても経済格差が拡大したり、多国籍企業の活動によって深刻な自然破壊が生じたりと多くの問題も顕著になってきている。このような状況は変えることはできないのだろうか、と考えた時に「地域通貨」という新しい経済システムの存在を知り、それはいったいどういうものなのか、私たちの生活においてどのような変化をもたらすのだろうか、そして余暇という視点での活用は可能かということを考えてみたいと思い、今回調べるに至った。利益のみを求めためまぐるしい市場経済にかわり、個性的で自由な時間に支配される「地域通貨」はどのような可能性を持つのだろうか。
2、地域通貨とは?
では、地域通貨とはいったいどのようなものなのか。地域通貨(local currency)は、「ある一定の地域やコミュニティんぽ人々が財やサービスを自発的に交換するために、自分たちの手で作る、利子のつかないお金またはそのシステムのこと」である。一口に地域通貨といっても様々な形態があり、全てが同じというわけではない。歴史的に見ると、その源流はロバート・オーウェンの「労働交換券」といわれる。現在最も普及しているのは、LETS(Local Exchange Trading System)地域経済取引制度という地域通貨であり、2000以上の実例がある。これは、1983年カナダのバンク-ヴァ-島で最初に作られた。地域通貨には様々な形態があると上で述べたが、LETSは基本的な仕組みで地域通貨のあらゆるエッセンスを凝縮していると言える(地域通過フォーラムHP参照)。よって、ここからはLETSを参考に地域通貨見ていきたい。
LETSは、①利子のつかない互酬的な交換システムと、②失業者への働く機会を作り出し、③その地域経済を活性化させることを目的として作られた。特徴としては、Ⅰ、物やサービスの交換の道具でプラスの利子が付かない、Ⅱ、名称など固有性と多様性をもち自分たちの目的に応じてその性格を決めることが可能、Ⅲ、できるだけその地域内で流通するような循環を構築する、Ⅳ、現金通貨への兌換は認めないが、同じ価値をもつ、Ⅴ、残高は常に変わるが全員の合計は常にゼロになっていて、信用創造が発生しない、などをあげることができる。
次に、地域通貨の現状を見てみると、数自体が急速に増えており、その規模も個人レベルから市町村単位やメディアなどに拡大してきている。またそれに伴い、運営者も今までのNPO・市民団体中心だったのが、自治体・商工会議所・商工会・JA・メディアなどあらゆる範囲に多様化してきている。目的もこれまでのボランティアサービスや個人間の交換にとどまらず、地域資源の保全・修復、省エネなどエネルギー分野、お祭り・イベント、フェアトレードなどここでも多様化、さらに明確化が見て取れる。表現方法の例をあげると通帳方式・紙券方式・チップ方式・借用書方式・PC記録管理方式・ICカード管理方式がある。またサービスを時間で評価する時間通貨もでてきている。
3、可能性と意義、課題
1)可能性と意義
まず最初にあげておきたいのは、地域通貨は長く持てば持つほど価値がなくなる、すなわち溜め込めば損をする仕組みであることから絶えず循環することになり、また、その地域特有の多様性に足を下ろしていることから、暴力的な外部経済から地域経済を守る防衛性と地域経済の活性化が期待できる、ということである。細かく見ると、
Ⅰ、限定的な流通圏
・ 赤字(コミットメント)は「負債」ではなく、「地域」に対する責任
・ 複数に参加可=多重帰属性→「閉じた共同体」から「開かれたコミュニティ」へ
・ 市場での「自由と自己責任」から「選択する自由とそれらへの責任」へ
Ⅱ、利子が付かない(orマイナス)
・ 貨幣の蓄積と資本の自己増殖の阻止
・ 「使用」の刺激で流通(売買)の促進→地域内の財・サービス循環の活性化
・ 将来に所得や有用性が生じる長期のプロジェクトの促進→将来世代への考慮→地球環境、文化、教育などへ自ずと対処
Ⅲ、参加による自発的発行方式
・ 自ら購入の必要に応じた貨幣発行→売買活性化
Ⅳ、自立分散型ネットワーク
・経済的以外の様々な価値を加えることが可能な、当事者同志による自由な価格付けがで
きる。
Ⅴ、「地域」へのコミットメントと参加者間の信頼により自発的に成立する「信頼貨幣」
→市場には出し得なかった創造性や独創性を活発的に提供、発揮でき自己の尊厳を確認
Ⅵ、貨幣の所有や選択の意味そのものが多様化
=文化的性格→個人が自分をどのくらいの広さで色々なLETSに開いていくかを自由に決定=いい意味で匿名性からの解放
2)課題
地域通貨は急速に増えているが成功例ばかりではなく、やはり失敗例も少なくない。どの地域通貨にも共通して言える課題は、「商店の受け取り方」の問題である。実際にものやサービスのやり取りが生きていくための生活に関わる商店では、「地域通貨の受け取り=値引き」という点で理解が難しいようである。そこには、実践者と受け取り手のあいだに「認識のズレ」がある。たがいに無理強いしても絶対にうまくいくわけはなく、「商店が無理なく受け取る」ことができるシステムの考慮が重要である。Ex.二条通りモデル(大和市「LOVES」)
4、まとめ
地域通貨がどういうものなのかを調べていくうちに、それは本当の、真の「信頼」を土台としたものであるということがわかった。その「信頼」の中で、双方向的で自由なやり取りを行うことは、地域の活性化につながるだけでなく、それまで非市場的であった部分においてのコミュニケーションやその部分の活動によって自分の喜びや尊厳、自信を取り戻す、すなわち人々自身の活性化をも呼び起こさせてくれるものであることがわかった。市場経済という枠の中で忙しく走り回るのではなく、経済の中にコミュニケーションや自分の余暇という個性的で自由な時間を融合させることができ、人々がより充実した人生を送っていくことができる、また将来生きる子どもたちのためにも充実した明るい環境を残すことができ力を地域通貨は持っているのではないだろうか。
参考資料
西部忠WEBページ http://www.econ.hokudai.ac.jp/~nishibe/
地域通過フォーラム http://www.ccforum.jp/
さわやか福祉財団 http://www.sawayakazaidan.or.jp/chiikitsuka/