togashik030702   余暇政策論レポート

「亜麻色の髪の乙女は世代間のギャップを埋めるか〜昨今のカバーブームに見る余暇としての音楽」 k010542 富樫かおり

          

はじめに

最近,世間では昭和30〜40年代のカバー曲が話題を集めている。その代表的なものが昭和43年にリリースされたヴィレッジ・シンガーズの「亜麻色の髪の乙女」を女性シンガーの島谷ひとみが2002年5月にカバーした作品である。このCDは50万枚近くを売上げ,本家の3倍近くのセールスであった。その後も「亜麻色の〜」に続くかのように数多くのカバー作品が世に送り出され,今までにない「カバーブーム」を作り上げている。このブームの背景にはどのような理由があるのだろうか。なぜ今歌謡曲に対する需要があるのか。その点について音楽を新たなコミュニケーションのツールとして捉えながら考えていきたい。

 

1.現代のヒット曲に見られる傾向

(1)   若者向けに作られたヒット曲

では,まず最初に,ここ数年間のいわゆる「ヒット曲」について考えたい。最近私たちが耳にする曲の大部分は,殆どがコンピューターによって作られた人工的な音の集まりであるといえるだろう。90年代に入り,コンピューターの技術が益々進歩するのと共に,音楽業界にもその波は訪れていった。今まで何度も録り直していた音を,ボタン一つで好きなだけ作り出すことができるようになったのである。そのため,曲に求められる要素はメロディーや歌詞の美しさより,サウンドやリズム感の良さへと変化していった。その結果生まれる曲は,完全に人工的な,冷たい音楽になってしまったのである。90年代前半はそれらの音楽が新しく関心を引くものとして大衆(この場合の大衆とは10代後半から20代の若者を指す)の支持を集めたが,数年もするとその人気には影が見え始め,音楽業界全般を見ても,その売上は1997年2兆1170億円だったものが2000年には1兆7082億円まで落ち込んでいる。

 

(2) 現代音楽業界事情〜タイアップ,おまけつき〜

    このような売上の減少を苦慮した結果,各音楽業者は新たな作戦を展開した。まず一つ目は,タイアップ(ドラマやCMの中である特定の曲を使い,大衆により多くその曲を印象付けること)によって曲の露出度を高め,もっとその曲を聞きたいと思わせ,最終的にCDを買いにCD店に足を運ばせることである。二つ目は,早く買った人にだけ,オリジナルグッズの特典がついていたり,パソコンで特別な画像を見ることができたりするなど,おまけ的要素をつけることである。そうすることによって熱心なファンは確実にそのCDを購入するようになる。つまり,刷り込み的要素と,マニア心をくすぐる要素をCDに与えることによって,消費者の関心を引く努力をしたのである。

 

    しかし,このような戦略はCDという外見に飾りをつけただけであり,本質的な改善が成されたとはいい難い。事実,これらの動きが見られるようになったからといって音楽業界に回復の兆しは見られなかった。そこで次に彼らが目をつけたのは,新たなマーケットの開拓である。

 

(3)   新たなマーケットの開拓

それまでは「ヒット曲=カラオケで人気のある曲=若者に支持される曲」という構図が当たり前のように存在していた。それを象徴しているのが,毎年日本レコード協会によって実施されている「音楽パッケージソフトユーザー白書」という,世代別による音楽需要の違いをまとめたアンケート調査である。この調査の目的は音楽を楽しむ各世代のトレンドを把握するものとして重要視されている。しかし,その調査対とされている世代は「中・高・大学生と20304055歳」の6種類のみであり,56歳以上は調査の対象にすらされていない。これは非常に驚くべき事実である。

 

なぜなら,2000年の時点で56歳以上の人口は3697万人であり,全人口の29パーセントを占めている。更に上限を70歳と制限しても18パーセントに達する。ということは,この時点で音楽関係者はかなり多くの人数を商売の検討対象から外してしまっているのである。このような動きの背景には,高齢者に対して,音楽などは聞かないで,盆栽やゲートボールをして余暇を過ごしているという偏見があるように感じる。では,次に実際の高齢者はどのように余暇を過ごしているのかについて見ていきたい。

 

2,高齢者の余暇

(1)年金生活は苦しいか

    一昔前まで,おじいちゃんやおばあちゃんの過ごし方というと,年金に頼りきりの地味な生活というイメージが何となく定着していたように感じるが,実際はそうではないようだ。UFJ総合研究所の調査レポート「潤沢な貯蓄が押し上げる高齢者の消費によると,2001年時点では,高齢者世帯1世帯あたりの現実の貯蓄残高は,必要貯蓄残高を311万円上回っている」。これは高齢者が予想以上に余裕を持って生活しているということであり,私たちが思っているほど年金生活は苦しくないのである

 

(2)高齢者の余暇の過ごし方

また上にあげた調査レポートによると,「高齢者の消費の中で伸び率が高いものには若者・中年型商品が多く,意外にも高齢者型商品の伸びはあまり高くない」,「余暇関連商品については,供給サイドが工夫して高齢者のニーズに合った余暇商品を提供することができれば,需要は大きく拡大する可能性を秘めている」などと,高齢者に対して非常に上昇的な見解を示している。つまり,高齢者世代は,今まで殆ど余暇マーケットの対象とされてこなかった分,これから大きく開拓の予感があるということである。では,どのような商品の提供が求められているのであろうか。

 

  (3)ニーズに合った商品の提供を

   高齢者のニーズと一口に言っても,そのニーズ全てを満たす商品を作るのは非常に困難である。そこで,その中の一つとして,高齢者のパソコン利用について考えたい。一昔前と比較して,パソコンは非常に操作が簡単になり,価格も大分手が届きやすくなった。そのため高齢者とパソコン及びインターネットの距離もどんどん近くなっている。ビデオリサーチネットコムによる「インターネット普及状況調査書」の20019月と20029月の調査結果を見ると,60代男性で自宅内インターネット利用率が105%から154%に伸びた。女性60代は5.1%とまだまだであるが,50代では217%まで増加している。

 

これらを見ると,明らかにインターネットを利用した商品の提供が市場開拓に有利であるということがわかる。その一例としては通信販売やチャットなどがあげられる。それに加えて,インターネットを通した音楽の提供も,余暇関連商品として注目すべきであると思う。以前はネット上で音楽をダウンロードするなど,単にお金のかかる作業と見なされていたが,現在料金の低価格化と共にブロードバンド常時接続も増え,費用の面での問題はほぼ解決されたといってよいだろう。対象となる人口も多く,環境も整っている。これから先,高齢者向けの音楽提供は,十分商売になるのである。

 

では,どのような音楽の提供が望まれているのだろうか。大部分の人はお年寄りには演歌というイメージを持っていると思うが,決してそれだけにはとどまらないのである。これらの世代はかつてビートルズで音楽に目覚め冒頭にあげたヴィレッジシンガーズなどのグループサウンズ,ピンクレディーやキャンディーズに見られるニューミュージックで青春を過ごしてきた世代であり,今でも数多くのレコードを持っているかもしれない。これらの「懐かし系」音楽が,今新鮮であり,必要とされているのである。

 

3.昭和と平成を結ぶ歌謡曲

 (1)古き良き歌謡曲

 「歌謡曲」というと,人々はどのような印象をもつのだろうか。ネットを通して様々なテーマでアンケートを行う「リンク王」というサイトによると,歌謡曲に対する人々の印象は,懐かしいが55パーセント,聴きやすいが25パーセントを占め,全体的に好感を持っていることがわかる。

 

これは,昭和の歌謡曲が今の曲にはない暖かさや適度な古さを持っていることが大きな要因であると思われる。その暖かさの理由として,昭和の歌は今のようにジャンル分けされておらず,カントリーを始めジャズ,ロック,フォークなど様々なエッセンスが混じり合っているという点が大きい。今の歌は,ある特定のプロデューサーによる曲がランキングの大半を占めていたり,似たような歌が多くあったりと,曲に個性がなく,歌謡曲と対照的な存在であると言える。

これら複数の要素が重なり合って,今歌謡曲は大な支持を集めているのではないだろうか。

 

(2)   世代を結ぶ歌謡曲

 また,これら歌謡曲は世代間のギャップを埋めるものとしても大きな意味を持っている。歌謡曲は,その曲と共に青春を送った中年〜高齢層には懐かしく,今20代程度の若者には,自分たちの周りにないものとして新鮮に映る。そしてその視点の違いが新たな対話を生み出していくのである。先にあげたリンク王というサイトに寄せられた40代の男性のコメントがとても印象的であった。

 

「カバー結構,リバイバル結構。子供時代,青春時代の思い出を語りながら,子供の世代とも会話が成り立つなんて素晴らしいじゃないですか!」

 

おわりに

 これまで見てきたように,今の歌謡曲カバーブームを成り立たせているのは現代の音楽シーンに見られる曲の単調化,新たなマーケットとしての高齢者の存在,歌謡曲の持つ独特の魅力,の大きな三点に絞られると思う。恐らく,このブームはもうしばらく続くのではないかと私は考える。なぜなら,これから高齢者が増加し,少子化が進む中で,その橋渡しとして歌謡曲は大きな役割を果たすのではないだろうか。また,それが社会の中である程度の地位を確立し,一つのジャンルとして認められるようになったとき,新しい歌謡曲の,そして高齢者の余暇が見えてくると考えるからである。

 

<参照サイト>

http://www.so-net.ne.jp/URL-TODAY/king/enq/20020803.html

世間一般に関心のあると思われる項目についてアンケートを取り,その結果をネット上で公表している。

http://www.maketing21.jp/marketing/saisin/saisin04.html

マーケティングの最新情報が掲載されている。今回はリバイバル・マーケティングの回を参照にした。

http://www.onfield.net/column/021201/kongetsu.html

現代のヒット曲に見られる特徴や戦略をうまくまとめているサイト。

http://www.crs.or.jp/5291.htm

現代の余暇活動についてまとめた文書。様々な角度から余暇活動について調べている。