matsuoka030702 「余暇政策論」レポート
「F1の展望 〜たばこ問題という視点から」 k010146 松岡真希
1 はじめに
F1(Formula
One)とは、FIA(Federation Internationale de L'automobile:国際自動車連盟)によって制定された自動車レースの規格の一つであり、F1グランプリがその世界選手権で、年間凡そ17戦のグランプリを通してドライバーズチャンピオン、コンストラクターズチャンピオンが争われている。その華やかなレースには、もちろん莫大な資金が必要不可欠である。その資金調達とはすなわちスポンサーが大きく関わるわけだが、近年そこにはたばこ問題という問題がある。それはどのような問題なのだろうか。
2 WHO及び各国のたばこ対策
WHO(世界保健機構)を中心とした国際機関やNGOなどを中心に、たばこ対策の活動が盛んになってきている。WHOでは1970年以来、たばこの有害性の周知を重要な任務としてきた。そして、予てから策定作業が行われてきた「たばこ規制枠組み条約(FCTC:Framework
Convention on Tobacco Control)」が2003年5月21日、WHOの年次総会において採択された。このFCTCの内容というのは、たばこの高価格・重課税化、免税たばこの廃止、密輸等の不法取引、商品包装に健康被害を警告表示すること、広告・販売促進・スポンサーシップの禁止、未成年者への販売禁止、自動販売機の廃止、公共の場での受動喫煙からの保護、たばこ農家・製造業への転業支援、農業政策の転換などで、各国は今後対策をしていくことになる。またEU(欧州連合)内では、2006年までにたばこ広告が全面的に禁止されることが決定している。このほか多くの国が移行期間等を設けながら、たばこ広告やたばこ会社によるスポーツイベントのスポンサーシップを禁止していくとしている。
以下に広告・資金提供に関しての、現在の各国の法規制について表に示す。
表 広告・資金提供に関しての各国の法規制(2002年グランプリ開催国)
(V = 自主的規定、非国家的法律、規則 X = 法律、規則を含む規定)
|
広告の禁止 |
広告の制限 |
資金提供の禁止 |
資金提供の制限 |
オーストラリア |
X:広告の全形式について |
X:販売時、ディスプレイ |
X:スポーツイベント |
|
マレーシア |
X:ローカルメディアにおける直接的な広告 |
X:販売時 |
X 3(2)参照 |
|
ブラジル |
X:教育施設近くの広告板 |
X:映画、ラジオ、テレビ |
|
X |
スペイン |
X |
|
X:2006年までに全面禁止 |
X |
オーストリア |
X:ラジオ・テレビ、2002年までに全面禁止 |
X:映画、ポスター、印刷広告 |
X:2006年までに全面禁止 |
|
カナダ |
X:直接的なもの |
X:移行期間5年 |
X |
|
ドイツ |
X:直接・間接 |
X:2006年までに全面禁止 |
X |
|
フランス |
X:直接・間接 |
X:小売店、たばこ屋でのポスター |
X |
|
イギリス |
X:販売時を除く |
X:販売時 |
X:2006年までに全面禁止 |
X |
ハンガリー |
X:ラジオ、テレビ、ビデオ、青少年への広告 |
X:映画、プリントメディアなど |
|
X |
イタリア |
X:全ての広告 |
|
X |
|
アメリカ |
X:映画、広告板、ラジオ、テレビ、ビデオ |
X、V:警告、プリントメディア |
X |
|
日本 |
V:映画、インターネット、ラジオ・テレビ |
X:プリント |
V |
|
ベルギー |
X:広告板、放送、プリントメディア |
X:販売時、その他全ての広告 |
X:2003年までに全面禁止 |
|
WTO、Tobacco Free Initiative、Tobacco Control Country Profiles(各国の統計等がPDFファイルで見られる。)より作成。
3 たばこ対策のF1への影響
以上のようにたばこ広告及びたばこ会社によるスポンサーシップ活動は禁止されつつある。これらのことは、ヨーロッパを主戦場とし、また広告収入のおよそ70%をたばこ業界が占めるという、言わばたばこ業界をパトロンとしてきたF1には大きな問題となっている。これがたばこ問題である。既に広告の禁止が導入されている国でのグランプリでは、マシンやレーシングスーツ、ユニフォーム等のロゴを隠すなどの処置がなされているが、今後のことを考えると、死活問題となのである。たばこ問題の発端は、WHOももちろん大きく関わるが、EUにおけるたばこ広告の禁止であり、FIA(世界の自動車レースを管理・統括し、F1に関しては商業権は持たないものの、司法権・立法権をもつ。)とEUの対立構造がある。モータースポーツへのスポンサーシップとしては対象にドライパー、レーシングカー、チーム、シリーズなどが考えられるが、以下ではチームとグランプリ開催国に焦点を当てる。
(1)チームに対するスポンサーシップ
たばこ業界に依存してきたということに関していえば、F1チームの名称を見てみても明らかである。2003年の10チームの内、3チームの名称にたばこメーカーの名前が含まれ、更にその3チームを含めて5チームがたばこメーカーから資金提供を受けている。例えばその一つ、BARホンダ(Lucky
Strike British American Racing Honda)はその資金2億4300万ドル(技術サポートを技術供与として1億1800万ドルに金額換算)のうち、British
American Tobaccoから5500万ドル、ラッキーストライクから4800万ドルの資金提供を受けている。(「F1グランプリ特集」2003年5月 ソニーマガジン)つまりたばこメーカーからの資金が42%をしめているわけである。
これに関してFIAは、2005年7月から禁止しようというEUの求めに対しては、2006年からのたばこ広告禁止規則の導入を撤回し、チームやサーキットの自主裁量に任せ、たばこ会社との契約期間を2006年までとしているチームが、予定どおり契約を遂行し、契約満了後に他の分野でのスポンサーを見つけることができるような状況を作り、またEUからの圧力を回避しようとしたりしている。また、チームのスポンサーに変動が起きている。これまでたばこ業界に依存してきたが、例えば通信会社やコンピュータ関連など、ハイテク産業等への転換がある。BMWウィリアムズF1チームは主要スポンサーだったたばこメーカー、ロスマンズとの契約を打ち切り、コンピューターメーカーのHP(コンパック)に変更したほか、新たに禁煙補助剤のメーカー、Niquitinと契約するなどしている。また、各国の対応として、移行期間や猶予が挙げられる。
(2)グランプリ開催国
また、グランプリの開催地について、規制の緩やかな欧州以外での開催の増加が図られ、それに代わっていくつかのグランプリの削除が考えられる。実際に、タバコ広告禁止を2003年に早める法案が通過したベルギーは、2003年のカレンダーから消えている一方、バーレーン、上海、トルコのイスタンブ−ルがサーキットを建設し誘致に動いている。2003年6月に2004年のF1世界選手権カレンダーが、まだ正式決定ではないものの発表されているが、その中ではバーレーンと上海の新開催国が挙げられ、ベルギーグランプリが復活している一方で、オーストリアグランプリが姿を消している。このほか、サンマリノ、イギリスグランプリなども削除の候補という。2003年のベルギーグランプリの消滅はFIAの警告ともとれるが、一回のF1グランプリの経済効果の大きさを考えると、開催地の権利を失うことは地域への影響が大きく、有効な警告であったかもしれない。実際ベルギーにおいて、結果的には棄却されたが議論になり、復活にも向け水面下での活動があったようである。一方その他の開催国でも、グランプリ開催への対応がされている。マレーシアでは、タバコ広告が全面禁止されているが、F1とサッカー、セパタクローへの後援については今のところ、禁止の例外としている。サンパウロでの経済効果が9000万ドル、雇用創出効果は間接雇用も含めて3万人あまりにもなるというブラジルでも、やはり文化・スポーツイベントでのたばこ広告が一切禁止されているが、サーキットの広告看板は禁止するものの、レースの車やパイロットの服、ヘルメットなどの広告は規制外という解釈に落ち着いている。また、イギリスでは、たばこ会社がスポンサーとなってきたイベントについては、代わりのスポンサーを見つけるまで6ヶ月の猶予が与えられている。
4 スポンサー獲得に向けて
F1がたばこ問題を乗り越えていく方策として、世界的に広まるたばこ対策を見ると、EU外でのグランプリ開催ではもたないだろう。ということは他のスポンサーの獲得である。各企業はやはり、認知度の向上やイメージの構築、新しいターゲット層の獲得を意図してスポンサーとなっているのだから、それには当然のことながらそのスポーツの人気の度合い、そのスポーツのテレビ放送の視聴率などと密接に関わる。テレビ放映権や肖像権はF1においてはFOA(F1管理会社Formula
One Administration)が一切を徹底して管理し、その放映権料は近年ビッグビジネスとなっているが、視聴率低迷の問題も抱える。高度化しコース上で抜かすなどのことが少なくなったこと、2002年の1チームの独走状態などによって魅力をあまり感じなくなった人が増えたため、またイースターなど別のイベントとの重なりなども原因に挙げられる。(しかし一方で2003年のフィンランドやスペインのように、その国出身の選手の活躍により、F1人気が急上昇し、視聴率も飛躍的に伸びる事などは大いにあるだろう。)その対策として、FIAとしてはレースのルールの大きな変更、他のイベントとの重なりの回避などをはかっているようである。参加チーム数の減少、資金難を抱えるチームとトップチームとの格差も、レースの魅力に関わると考えられるため、やはり資金調達に関しても何らかの手立てが必要であろうと思われ、それにはFIAだけでなく、FOAも重要な役割を果たすべきなのではないかと考えられる。
5 F1の展望
たばこ問題は確かにたばこ業界に依存してきたF1やモータースポーツ独特の問題かもしれない。しかしそこには根本的にスポーツと商業の関わりがある。高度化し、莫大な資金と共に動くプロスポーツには、もはやスポンサーは欠かせない。チームへのスポンサーを考えると、資金はより知名度の高いチーム、より強いチームへ、またスポーツ全体を見ると、より知名度の高いスポーツへと流れていくだろう。となると、もちろん資金の大小で勝敗や価値がきまるわけでは決してないが、強いチームはより強く、弱いチームはより弱くという構図が見えかねない。しかしそれはそのスポーツにとって良いこととはいえないだろう。たばこ問題のみならず、スポンサーを獲得していくには、F1がそのスポーツとしての魅力を維持、拡大していくことが必要だからである。とはいえ強いチームが進化することを妨げるのでは何の解決にもならない。マシンの進歩はむしろ魅力の一つである。またルール変更によってレースのスリリングさを保つことも限度があるだろう。よってスポーツマンシップというスポーツたる魅力の維持と、資金面での調整がやはり必要であろう。F1の今後としては、追い抜きが難しくなった中で見られる追い抜きのシーンや、美しく速いマシンとその進化、そして進化するマシンを操るドライバー、レース戦略など、人々をひきつける魅力は十分にある。今までの地域に加え、現在グランプリ開催が模索されている中国やバーレーン、トルコ、またその他新たな地域の、人々と企業を巻き込んで、存続していくのではないだろうか。
<参考サイト>
○たばこ対策に関して
WHOにおけるたばこ対策のホームページ。関連する資料や各カテゴリー、各国ごとのデータ等を見ることができる。
○Formula1に関して
The Official
Formula 1 Website
Formula1オフィシャルサイト。レース結果や、ドライバー、チーム、サーキットなどの情報が掲載されている。
「F1速報」という雑誌のホームページ。ほぼ毎日関連するニュースが掲載される。