Tanakat020703   「余暇政策論」レポート

日韓共催ワールドカップにおける日本のフーリガン対策と問題点  K000135A 田仲 智子

 

最近よく耳にする言葉の1つに「フーリガン」という言葉がある。この言葉は、日韓共催の世界的なサッカーイベントであるワールドカップの開催準備が始まった頃に日本中に広がっていった。では、フーリガンとはどのようなものをいうのか。日本がワールドカップ開催にむけてとってきたフーリガン対策にはどのようなものがあったのか。また、その対策に関して、人々はどのような感想を持っていたのか。日本のフーリガン対策の問題点とは何か。以上の点について述べる。

フーリガンとは、サッカースタジアムの内外で暴徒化する過激なファンのことで、元々は「ならず者、不良」を意味する英語だったといわれている。語源は19世紀のロンドンの不良グループのリーダーだった男の姓から転じたという説もある。フーリガンは1970年代半ばから特にイングランドで目立ち始め、80年代に過激化していった。85年にベルギーで開かれた欧州チャンピオンズ杯の決勝でおきた暴動では39人の死者を出し、これをきっかけにヨーロッパでのフーリガン対策が本格化していった。スポーツという括りで見ると野球やアメフト、バスケットボール等でも見られそうなものだが、不思議なことにフーリガンという存在は主にサッカーでしか見られない。その理由としては、サッカーが元々労働者階級のスポーツであり、サッカー観戦が労働者の日ごろの鬱憤晴らしに大いに貢献していた点が考えられる。日々のストレスを発散するために仲間たちとサッカーを観戦するが、応援していたチームが敗北するなど不満足な試合結果がでると、仕事や生活のストレスを発散する場をなくし、一部の人間が暴徒化する。一部の暴徒化がその他大勢の闘争心をあおり、過去のフーリガンによる大きな問題はおこっていると考えられる。その証拠に過去フーリガンが大きな事件を起こした時というのは、不況や政治不信など大きな社会不安が広まっていた時代でもあった。このような状態からフーリガン=サッカーの熱狂的なファンというイメージができあがったものと思われる。

今回ワールドカップが日本でも開催されることになり、日本人は初めてフーリガン対策問題というかつて遭遇したことのない問題にぶつかった。そんな中で日本がとったフーリガン対策を紹介する。1、サッカーのワールドカップ開幕に備え、警視庁や東京都、港区などは527日、東京・六本木で合同パトロールをおこなった。六本木は海外でも有名なため、各国サポーターら多くの外国人が訪れると予想されたためである。麻布署員や都職員、麻布消防署員ら約70人が3チームに分かれて六本木の繁華街へ。壊されたり、暴動の際に使われる危険性の高い道路工事現場の危険物、ビール瓶、ガラスケースなどを見つけると、高次関係者や飲食店経営者らに撤去を要請した。2、サッカー・ワールドカップの試合会場を抱える神奈川、静岡、新潟の各警察本部は、試合当日の深夜に運行する臨時新幹線を中心に、制服警官を同乗させることを決めた。新幹線を使用して移動するフーリガンへの警戒やサポーター同士のトラブルを防止するためである。3、札幌での試合の警備をするため、中部管区機動隊の隊員ら約650人が27日早朝、フェリー2隻で北海道・小樽空港に到着した。札幌ドームでは、フーリガンの暴動が最も心配されるアルゼンチン対イングランドの試合が予定されており、道警は他都府県からの応援約1400人を含む約7000人を警備に動員した。ワールドカップ警備では大阪、神奈川に次ぐ三番めの規模である。4、試合会場がある、または試合会場に近い各自治体は人々の暴徒化を防ぐためにアルコール販売を自粛。試合会場ではサポーター同士のトラブルを避けるために、サポーターをチームごとに分けて誘導するなどの対策をとった。以下は海外からの協力を得て行われたフーリガン対策である。5、ワールドカップの会場内外で暴動を引き起こすフーリガンの入国を阻止するため、イギリス、ドイツなど4カ国から「スポッター」(面割り捜査官)約30人が527日午前に成田空港に到着した。スポッターとは、フーリガンを見分ける捜査官のことである。28日朝から、東京・霞ヶ関の警察庁内に設置される「情報センター」を拠点として、成田、大阪、羽田、千歳、福岡などの各空港などに分かれて、24時間体制で、フーリガンの発見と入国阻止にあたる。6、日本を試合会場とするグループリーグ全24試合について、警察当局がフーリガンやサポーターによる暴力行為や衝突などの危険性の度合いを評価し、その危険度によって警備体制を強める。以下は警察当局の対戦カード別リスク評価の中でリスクが高いとされた組み合わせとその理由である。ドイツ対サウジアラビア、ドイツ対アイルランド、カメルーン対ドイツ、ドイツフーリガンの過去の暴動歴から所要の態勢をとることが必要。アルゼンチン対イングランド、敵対関係にあり、過去に多数の因縁がある。スウェーデン対アルゼンチン、スウェーデンフーリガンは20〜25歳と若く、イングランドフーリガンを崇拝していることから、札幌でのアルゼンチン対イングランド戦の結果によっては、報復戦の可能性もある。一方で敵対意識も強く、所要の態勢をとることが必要。アルゼンチン対ナイジェリア、アルゼンチンフーリガンの過去の暴動歴から所要の態勢をとることが必要。イングランド対スウェーデン、スウェーデンフーリガンはイングランドフーリガンを崇拝する一方で、敵対意識も強く所要の態勢をとることが必要。ナイジェリア対イングランド、イングランドフーリガンの過去の暴動歴から所要の態勢をとる必要がある。イングランドフーリガンには人種差別の傾向があり、ナイジェリアサポーターへの挑発、騒乱の懸念がある。

続いて、上記のフーリガン対策に対する人々の感想を紹介する。「えぞ麦酒」のフレッド・カフマン社長が「2002年ワールドゲップビール」を発売した。当初は北海道の一部店舗だけだったが、6月から東京や静岡、名古屋などに販路を拡大する。カフマン社長は1999年3月に「2002年ワールドゲップビール」(FIFA(国際サッカー連盟)非公認ビール)を商標登録。サッカーのワールドカップを主催するFIFAが「音が似ている上、下品とされる『ゲップ』は歴史と伝統あるW杯の品位を損なう」と登録取り消しを申し立てたが、特許庁は同年12月に退けた。日本在住26年の同社長は、W杯について「『フーリガン(暴力的なファン)、フーリガン』と騒ぎすぎ。楽しみに来ている外国人 が、白い目で見られたらかわいそうだ。ジョークでも言いながら楽しくやろうよ」と呼び掛けた。この他にも、サッカーに関するインターネットの掲示板や試合会場のある自治体のホームページの掲示板などには「純粋なサッカーファンや、外国人観光客までフーリガンじゃないかと疑われている。対策が行き過ぎているのではないか」という意見が多く出されていた。ここでの問題は地域住民による、フーリガンへの無知からくる外国人への一時的な差別的見方である。この問題が起きた原因として、私はマス・メディアのフーリガン情報の報道方法が大きくかかわっていると思う。日本にはかつてフーリガン問題がなかった。日本人にとってはフーリガン問題というのは全く未知のものだったのである。警察や自治体が地域住民を守るため、ワールドカップを無事に成功させるために慎重すぎるほど慎重なフーリガン対策を実施していたのは事実だし、住民がフーリガンの脅威を知ることも事件発生を抑える上で重要なことだ。しかし、マスコミの大げさで一面的なフーリガン情報の報道が住民の多くにサッカー好きの外国人=フーリガンというようなイメージを与えてしまったのである。このように、日本のフーリガン対策が引き起こした問題、日本のフーリガン対策の課題について、以下では考えていく。

そもそもフーリガン対策が行われる理由とは何だろうか。私はこの問いに対して以下の三つの答えを返す。まず、当然のことながら開催地、開催国の住民、国民をフーリガンの引き起こす恐れのある危険から守るため。二つ目にワールドカップを盛況のうちにもりあげるため。最後に、フーリガン問題による社会の混乱を防ぐためである。一つ目の理由と関連した問題として、ロシアでの日本人に対する暴動がある。この事件は、日本対ロシア戦の試合の前に起こった。モスクワ市内で四人の日本人留学生がフーリガンと見られるロシア人に襲撃された。四人は付近のカフェに助けを求め無事だった。開催地以外での自国民の保護も、行われるべきフーリガン対策だったのではないか。ロシアでは日本対ロシア戦終了後に大きな暴動があり、ロシア人にとっても危険な状態だったが、それ以上に在留邦人にとってはより危険な状態だった。しかし、試合前に日本人がフーリガンらしき集団に襲撃されたというのに、在ロシア大使館の在留邦人への本格的なフーリガン対策がとられたのはロシアフーリガンの暴動事件が起こってからだった。二つ目の理由に関連した問題として、ドイツ人サッカーファンの日本行き敬遠の問題があげられる。ドイツのナショナルチームが出る試合は必ず見に行くという熱烈なサッカーファンが多いことで知られるサッカー大国のドイツで、大半のサッカーファンは「日韓共催のサッカー・ワールドカップ観戦にいかない」、と答えていると英BBC放送が伝えた。その理由は、ワールドカップ観戦のためには、旅行代理店を通して申し込まねばならず、旅行会社がフーリガン対策から、顧客に詳細に渡る質問をするから、というものが主だった。これは、ワールドカップを盛況のうちに盛り上げるための1つの対策としてのフーリガン対策が、観戦客を減少させているという矛盾をうかびあがらせる。社会の混乱を防ぐ意味での対策の一例であったフーリガン対策がもたらした社会の混乱の例をあげる。69日午後11時ごろ、東京都江戸川区で、止まっていたワゴン車のエンジン付近から出火。偶然、一次リーグで日本がロシアに勝利した後で、現場に人が集まっていたため、タクシー運転手がサッカーサポーターによる放火と勘違いして通報、東京消防丁の消防隊などが出動する騒ぎとなった。別の例をあげると、「フーリガン対策のための募金」といつわって多くの人から金を巻き上げた詐欺師の事件がある。これらの事件はフーリガンによる社会の混乱を防ぐために実施されたフーリガン対策により、人々にフーリガンの恐ろしさを強調しすぎて伝えたことによる、人々のフーリガンへのイメージ、フーリガンの恐ろしさのみを伝えるに終わってしまい、自治体のおこなっているフーリガン対策に対して住民が無知だったことに起因して起こったと考えられる。

フーリガン対策は日本にとって未知なものであり、以上に挙げた問題点も見られる。しかし、今回のワールドカップにおいて深刻なフーリガン問題が起こらなかったことに対しては評価するべきだ。

 

 

<参照サイト>

警察当局が フーリガン分析 W杯8試合で荒れる可能性http://www.worldtimes.co.jp/soccer/topix/to020407.html

独ファン、日本行きを敬遠  http://www.worldtimes.co.jp/soccer/topix/to020411.html

独ファン、日本行きを敬遠  http://www.worldtimes.co.jp/soccer/topix/to020411.html

カフマン氏の写真  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020527-00000002-kyodo-wcp.view-000

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