suzukij020703   「余暇政策論」レポート

 

「ワールドカップにおける国の警備体制と問題」 k000131 鈴木順子

 

1、はじめに

2002年5月31日、ソウルから始まった日韓共催のワールドカップが私たち日本人に、韓国人に、世界中の人々に様々な思い出を残して幕を閉じた。初戦で敗北を喫したフランス、優勝候補の前評判があったにもかかわらず敗退を喫したアルゼンチン、ポルトガル、イタリア、ベスト4という快挙を成し遂げた韓国、グループリーグを一位で通過し、ベスト16と大健闘であった日本、そして悪い前評判を蹴散らして優勝を決めたブラジル、どこの国々も熱気あふれるプレーで私たちを魅了してくれた。自分の国で、ワールドカップの興奮を間近に感じられたこと、キャンプ地で選手たちと交流できたこと、これらは日本人にとって本当に忘れがたいものとなったのではないか。しかし、このような華々しい舞台の袖では、様々な問題が起きていた。チケット空席問題、キャンプ地誘致問題、フーリガン問題、審判の誤審発言問題、W杯後のスタジアム利用問題、放映権問題・・・試合の興奮の影に注意して目を向けて見ると、W杯がただのスポーツの祭典にとどまらないことが見えてくる。そこでここでは、フーリガン対策も含め、W杯運営における警備体制に焦点を当てたい。

 

2、フーリガン問題

(1)フーリガン対策

 「フーリガン」とは何か。1998年6月21日 東京朝刊には『「ならず者」を意味する英語(hooligan)。特に、サッカーの競技場や周辺で徒党を組んで暴動を起こしたり、扇動したりする過激なグループをさす。19世紀末にイングランドで発生したといわれている。1980年代には英国だけでなく、オランダなど欧州各地にも広がって社会問題化した。最悪だったのは85年の欧州クラブ杯決勝(ベルギー)で、リバプール(イングランド)のフーリガンがユベントス(イタリア)のファンと衝突し、39人もの死者を出した。イングランドはその後、5年間、同大会への出場停止処分を受けている(http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/digital/10/)』とある。96年フランスでのW杯での英政府によるフーリガン対策も厳重に行われた。1998年4月1日 東京夕刊には今夏にフランスで開かれるサッカー・ワールドカップ大会(W杯)で、英国の過激派サッカーファン「フーリガン」が騒動を起こすことを懸念する英政府が、仏政府に公式記念品のナイフの販売禁止を求めた。さらに、テレビ広告で「入場券を持たないファンは大会に行かない」よう警告する異例のキャンペーンを始めた。W杯には英国からイングランド、スコットランドの2チームが出場する。フーリガンはところ構わず暴力騒動を起こすことで悪名が高く、28日夜もイングランド南東部での試合後、両チームのファンが衝突し1人が死亡した。英国は2006年のW杯開催地に立候補しており、フーリガン対策に神経を使っている。フランスではW杯のロゴ入りナイフが記念品として売り出されているが、これに対し英政府は、興奮したファンが凶器として使用することを懸念、外交チャンネルを通じてフランス政府にナイフの販売禁止を求めたという。(http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/digital/10/10_6.html)』とある。このように前大会でもフーリガン対策に対する重要性が認識されており、それが今大会の対策につながることとなったのである。1998年7月13日東京夕刊には『サッカーのワールドカップ(W杯)が開催国フランスの優勝で終わり、2002年の日韓共催大会へのカウントダウンが始まった。日本国内の会場になる10自治体は、今大会の視察に職員を派遣したが、毎日新聞で視察の印象や4年後に向けた課題をアンケートした結果、フーリガン対策やボランティアの活用が重要課題になっていることが分かった。 10自治体からはW杯日本組織委員会(JAWOC)の視察団に加わり、独自の職員派遣で計190人が現地を訪れた。警備問題を重視し、警察官が同行するケースが多かった。新潟県や大分県は、県職員に加え、市民交流団や観光協会の関係者も同行した。視察の結果、大半の自治体が、チケットのチェックや会場警備、道案内などに当たった約1万2000人のボランティアの活躍ぶりを高く評価し、4年後もボランティアを積極活用する姿勢を示した。「言葉の壁」を克服するため、外国人ボランティアの導入や語学研修の必要性を指摘する自治体もあった。各自治体の最大の懸念は、フーリガンと呼ばれる暴力的なサポーターへの対応。「アルコール規制などの呼び掛けが必要になるかも」という見方もあった。(http://www.mainichi.co.jp/eye/feature/article/digital/10/10_2.html)』とある。このように日本ではかなり早い時期からフーリガンの危険性が認知されており、対策も慎重に進められてきた。『サッカーの2002年ワールドカップ(W杯)のフーリガン(暴徒化したファン)対策に頭を悩ませている警察庁は、欧州の警察当局に対しフーリガンを判別する「スポッター」と呼ばれる「面割り捜査官」を来日させるよう要請、大会期間中の取り締まりの目玉にする計画を進めている。欧州では、度々暴動を起こしている悪質なフーリガンは警察のブラックリストに載っている。自国のフーリガンの顔を覚えているスポッターが国際大会などでサッカー場周辺に配置され、見つけると現地の警察に連絡して入場を阻止する。スポッターは「発見する」「探知する」の意味の英語「SPOT」が語源とみられ、来年のW杯には、主に欧州の出場各国から1人−数人を呼び寄せる。警察庁は「暴動に至らない段階で芽を摘むことが重要だ。面割り以外にも警備全般の支援をお願いしたい」と期待している。フーリガンは国際試合が数多く開催される欧州では深刻な問題になっている。W杯フランス大会でもイングランドのフーリガンが暴れて市民ら60人以上が負傷したほか、ドイツのフーリガンが警察官を襲撃し1人が重体になった。警察庁のフーリガン対策によると、スポッターがサッカー場周辺で監視の目を光らせるとともに、スポッターからの情報の窓口となる「リエゾン」と呼ばれる統括官にも来日してもらい、警察庁に設置される対策本部に配置する。フーリガンはサッカー場以外でも暴れることがあり、繁華街などにもスポッターを配置。見つけた際は一緒に行動している日本の警察官に知らせ、暴動を未然に防ぐ計画という。また警察庁は出場が決まった各国の警察当局に対し、フーリガンを出国させないよう要請しており、同庁幹部は「まず、入国しないようにした上で、入国してしまった場合は、スタジアムの中に入れないように、二段構えで阻止したい」としている。一方、W杯の運営に当たる日本組織委員会(JAWOC)は、スタジアム内での警備を担当する警備会社にフーリガン対策のマニュアルを配布、本番に向け研修などをする方針だ。(http://www.zakzak.co.jp/spo/s-2001_08/s2001082012.htm)』とある。

 

(2)結果

 フーリガン対策は成功に終わったと評価して良いだろう。外国人による大きな暴動や殺傷事件はおこらず、一番危険とされていた6月7日札幌でのイングランドとアルゼンチン戦も大きな事件も起きることなく無事に終了した。これは警視庁はじめ各自治体の早くからの準備の成果であろう。ただマスコミによるフーリガンの危険性をこれでもかとあおった報道の過熱振りに対する評価は賛否両論分かれるところであろう。河北新報社には『サッカーのワールドカップ(W杯)に出場するアルゼンチン代表のキャンプ地、Jヴィレッジ(福島県楢葉町・広野町)付近で20日午後、キャンプ地を見学に来ていたアルゼンチン人の男性サポーター2人がフーリガン(暴力的なファン)に間違えられ、パトカーなど4台が出動する騒ぎがあった。同日午後1時ごろ、福島県広野町内を歩いている2人の外国人を見掛けた住民が「(大きな荷物を持った)外国人が歩いている」と同県警富岡署に通報。署員8人が駆け付け、Jヴィレッジの近くに設置されたプレスサロン前で事情を聴いた。事情を聴かれたのは、アルゼンチンから観戦のために来日した男性2人で、ともに26歳。18日に来日し、キャンプ地を見るため、JR常磐線広野駅からJヴィレッジに徒歩で向かっていた。パスポートの提示を求められ、コピーまでとられた2人は「成田空港で入念にチェックされたのに、ここでもか」とうんざりした様子。間もなく誤解と分かったが、「われわれがフーリガンに見えるのか」と残念そうだった。2人はその後、何とか納得した様子で、署員の案内でJヴィレッジ周辺を見学した後、東京に戻った。富岡署は「通常の警備の一環として対応した」と説明。「サポーターを装って犯罪を企てる人がいるかもしれない。住民の通報がなくても、パスポートなどは確認する」と話している。今回の騒ぎについて、プレスサロンに駐在している語学ボランティアは「外国人というだけでパスポートを確認したり、警察にいきなり事情を聴かれたりしたら、日本や福島の印象が悪くなるのではないか」と話していた。Jヴィレッジや地元自治体でつくるキャンプ支援実行委員会は「キャンプが始まったばかりで、地元の人たちもまだ慣れておらず、過剰に反応したのではないか。困っている外国人などを見掛けたら、実行委員会まで連絡してほしい」と呼び掛けている。(http://www.kahoku.co.jp/NEWS/2002/05/20020521J_13.htm)』とある。

 

3、国内問題

(1)   パブリックビューイング

 報道を見ていると印象として、外国人よりも日本人による暴動記事が多かった、という感がある。その要因として運営組織がフーリガン対策にとらわれすぎるあまりに国内警備をおろそかにしてしまったことが挙げられる。または日本人があれほどまでに暴徒化することを予測できなかったのであろう。大阪の道頓堀では何百人単位の人間が川に飛び込むというお祭り騒ぎがあり、渋谷、新宿、六本木などの都市では騒ぎにより交通が妨げられる事態が起こるなど、国内警備の悪さと同時に日本人のマナーの悪さが露呈することとなった。ここでは具体的にパブリックビューイングを取り上げ、それにおける警備不備をについて述べていきたい。パブリックビューイングとは何か。毎日新聞には『サッカー・ワールドカップで、チケットを持たないファンにも観戦してもらおうと、W杯日本組織委員会(JAWOC)が企画した。大会の開催期間中に試合会場外の施設で、大型映像装置を使ってライブ中継している。当初は国内の開催地となる10の自治体で認められ、その後各国代表チームのキャンプ地となったほかの自治体でも開催が認められた。(http://www.mainichi.co.jp/edu/maichu/keyword/2002/06/j-11.html)』とある。著者は、埼玉県浦和市駒場競技場で行われた日本対ロシア戦のパブリックビューイングに参加し、そこで起こった問題を実際に見てきた。報道では日本人のマナーの悪さのみを取り上げ、報道がなされていたが、実際は運営・警備にも大きな不備があった。その実態をできるだけ詳しく述べる。

 

(2)報道と体験談

 毎日新聞2002年6月11日埼玉版はこのように報道した。『日本が先制! 興奮した観客数十人がスタンドから飛び降り、ピッチに乱入、「ニッポン」コールを繰り返した――。入場整理券の束が奪われ、爆竹や花火に火がつけられた。駒場スタジアム(さいたま市駒場2)で9日に行われたサッカー・ワールドカップ(W杯)の日本対ロシア戦のパブリックビューイングはトラブル続発となった。主催者のさいたま市職員は「不測の事態」を陳謝したが、それよりも、観戦に乗じた観客のモラルや冷静さを欠いた行動に、失望した。スタッフは「もはやファンとかサポーターではない。あれはフーリガンだ」と、悲しげにつぶやいた。9日、駒場スタジアムには早朝から若いサポーターを中心に大勢が詰め掛け、午前11時には約4000人の列ができた。開場直後の午後2時前、入場整理券を求める列の後ろの方に並んでいた観客数十人が突如割り込み、整理券の束を奪い去った。混乱で主催者側は奪われた枚数も把握できなかった。トラブルの始まりだった。後半6分、日本が先制すると、観客がピッチになだれ込んだ。市は「混乱が続くと、イベントを中止せざるを得なくなります」とアナウンスを繰り返したが収まらず、中継映像は約3分間、中断された。多くの真のファンからは猛烈なブーイングが起きた。試合終了直後にも100人以上が再びピッチになだれ込み、走り回った。さらにペットボトル、タオル、サッカーボール、火の付いた爆竹や花火までが次々とピッチに投げ込まれた。 「近所への迷惑を考えて行動して下さい。今後の中止も検討します」と、アナウンスが再三繰り返される。ようやく観客が去った約1時間後、そこには空き缶、酒瓶、たばこ、雑誌をちぎった紙ふぶき、代表選手の名前を書いた段ボールなどが散乱していた。同市スポーツ企画課によるとこの日の開催費用は会場費や警備委託費など約1000万円。スタッフは「こんなイベントならやめた方がいい。ばかな連中に税金を使う必要なんてない」と怒りをあらわにした。同市は10日、14日の日本対チュニジア戦のパブリックビューイングを中止することを決めた。理由は「市民の安全を確保できない」からだ。(http://www.mainichi.co.jp/entertainments/sports/worldcup/worldcup/venue/0206/11-09.html)』午前11時頃、私は友人4人と駒場競技場に到着した。サブグランドにはすでに5000人の人々が誘導員により列を作っており、私たちもそれにならって腰を下ろした。アナウンスは午後2時より整理券の配布を始めると伝えていた。そして午後2時。アナウンスは「ただいまより整理券を配布します。正面スタンド希望の方は右側の受付に、バックスタンド希望の方は左側の受付に並んでください。」と伝えた。私たちは受付の場所が知らされておらず、周りには誘導員が一人もいなかった。右?左?少しでもいい席がほしい5000人もの群集は冷静さを失い、フェンスで囲まれたサブグランドから小さな出口へ押し寄せた。ものすごい混乱でアナウンスはもはや聞こえず、流れに飲まれて身動きがとれず身の危険を感じるほどだった。実際に出口では人間が将棋倒しになり、けが人も数人でた。朝の4時から並んでいた人と、ついさっききた人の区別がつくはずもなく、早くから並んでいた人々は怒りで係りからチケットを奪おうと受付に殺到した。整理券を持つ者に対する競技場への誘導も分かりにくいもので、誘導員の数も絶対的に不足していたように感じられた。結局全員入り終わってみると、席は十分にあったことが分かり、一層運営に対する不満を募らせる結果となった。このような「不測」の事態の結果、チュニジア戦のパブリックビューイングは中止となり、他の会場でも中止が相次ぐこととなった。普段サッカーを見ないような若者がにわかサッカーファンになり、W杯に便乗してお祭り騒ぎを起こす・・・確かに日本人、特に若者のマナーの悪さは目に余るものがある。しかしフーリガン対策と同時に国内警備にも目を向けるべきであった、という反省点も見えた今回のW杯だったのではあるまいか。