Nakamuray020703  「余暇政策論」レポート

 

メディアは2002年サッカーワールドカップ大会の「負の側面」をどのように報道したか 

 中村祐司(担当教員)

 

 自分自身は、今回の大会はあくまで総体として成功裏に終わったと現時点では考えており、審判の判定をめぐる批判やチケット問題、一部サポーターの暴走などの問題を声高に論じる姿勢に共感することはできない。その意味では、日本における大手の新聞報道にみられる一定方向の論調と自分自身の考えが重なっている側面も否定できない。しかし、だからこそ、敢えて批判的に今大会が残した課題を見据えておく必要があると考える。ワールドカップを未来志向で捉えるためにはそのような試みが敢えて求められているのではないだろうか。ここでは、ワールドカップが浮き彫りにした「負の側面」に注目して、争点の整理に止まるものの、今後の議論の素材を提供してみたい。

読売新聞(2002628日付朝刊サイト)によれば、JAWOC(日本組織委員会)は、「試合が始まっても埋まらない大量の空席を見て、初めて海外販売分が売れ残っていたことを知った」のだという。ところが、FIFA側は、JAWOCとKOWOC(韓国組織委員会)からの観客席データの提供が遅れたために、全チケットの印刷と海外販売分のチケットの配分をFIFAから委託されたイギリスのチケット販売代理業者バイロム社の活動に支障が生じたとしている。一方、JAWOCは、バイロム社が販売可能な席と、スタジアムにおける座席からの視野の限定のため販売不可とされる「見切り席」の数を誤ったとしている。大会出場国のサッカー協会や地域協会に配分されたチケットを売りさばけなかった事実もある。「空売り」や「二重売り」が頻発した前回フランス大会の教訓が結果としては全く生きなかったことになる。

また、スタジアムの今後の活用について、例えば、宮城スタジアムでは、「年間の維持費は3億円。これに対し、収入見込みは、体育館など関連施設を含めても6500万円に過ぎない」という。宮城県では、借金である地方債残高は2002年度末見通しで13819億円に達するという。大半の開催自治体の場合、国が「地域総合整備事業債」を認め、「元利償還分の3055%を地方交付税として」バックする形をとったという(宮城県の場合は建設費270億円のうち240億円がこの起債で充当され、国が100億円を交付税で肩代わりした)(読売新聞2002629日付朝刊サイト)。

ワールドカップの放送権がFIFAの収入に占める割合は2002年の場合、80%になるという。前回大会の184億円から一気に4倍以上に膨らんだ。今回大会の放送権を落札したのがドイツのキルヒ・メディア社(欧州向け。キルヒは傘下テレビ局のドイツプロサッカーリーグの独占契約における加入者数の伸び悩みから20024月に経営破たん)とスイスのISL(欧州以外の地域向け。ISLは他のスポーツイベントへの投資の失敗により20015月に破産)であった。日本ではこの放映権をスカイパーフェクトTV(有料放送)が全64試合分を120億円(推定)で、NHKと民間各社のコンソーシアムが40試合分を64億円(推定)で獲得した(前回大会でNHKが支払った額の30倍以上)(読売新聞2002630日付朝刊サイト)といわれている。

産経新聞のサイト「せいろん談話室」の「ワールドカップに思う」というテーマに関して、159の投稿がなされている(200272日夜の時点)。非常に強い口調での批判が掲載されている。また、朝日新聞のサイト「ワールドカップ投稿コーナー」にも261件の意見が寄せられている(200373日朝の時点)。その内容を本レポートのテーマの内容に沿ったものに限って大別すると、誤審問題やそれと絡めたファンの応援スタイル、さらには国民性に対する批判、メディアの報道姿勢への疑問となっている。

まず、誤審問題について、圧倒的に多いのが韓国対ポルトガル、韓国対イタリア、韓国対スペインの試合において、審判が前者に有利なような判定をしたのではないかというものである。そして、FIFAの副会長が韓国サッカー協会の会長であることや共催に至る経緯や、上記試合における主審・副審の国籍を問題視し、試合の結果を作用するような不正な働きかけがなされたのではないかという推測まで披露されている。

ファンの応援について、特に日本対トルコ戦の結果を多くの韓国ファンが喜んだことを批判するもの、韓国ファンがスタジアムにおいて相手チームを誹謗する横断幕を掲げ、非常なプレッシャーを与える声援を送ったことに対する批判も掲載されている。共催の相手国に対する応援の中身には相当な温度差があったのではないかという指摘もある。

そして、こうした点を日本のメディア(主としてテレビ局や新聞)は敢えて回避するかのように取り上げず、日本は韓国を応援して当たり前という基本姿勢を前面に出しながら、これに対する批判は無視するような報道に徹したというものである。

さらに、誤審問題をめぐっては、特に上述のポルトガル、スペイン、イタリアがこれを契機に韓国に厳しい目を向けるようになり、そのことは、これらの国々が日本に対しても同様な視点を投げかけるマイナス面となったという論調もある。

「マスメディアにも言論の統制や誘導があり、その報道は信頼しきれないものだということを一般国民が初めて知る機会を与えてくれたこと」「後で使いにくい競技場の新設、自殺まで出た担当者の労苦等、又、韓国の競技場建設のために日本からの借款まであったという」「FIFAの金権体質の暴露、韓国戦がらみの誤審・買収疑惑、チケット販売をめぐる大失態等により、W杯とサッカー自体への内外の一般的なファンの期待を裏切ったこと」「W杯による日本への経済効果はほとんどなく、むしろ、競技場周辺の商 業施設には営業の妨げともなったり、期間中のTV観戦等で経済活動(生産・流通など)の停滞が出た、と思われること」(200271日の「せいろん談話室」への投稿者)などが負の側面に注目した批判の代表的な記述である。

こうした指摘に事実誤認があるのかどうかについて判断することは少なくとも現時点ではできないが、匿名の投稿によって以上のような批判が存在し、それがWeb上に載っている現実があるという点は押さえおきたい。

また、写真家であると同時にサッカーについての論評活動を行っている宇都宮徹壱氏は、大会中、韓国での長期にわたる観戦体験から大会の総括として、「この大会は『共催』とは名ばかりの、事実上の『分催』である」「 ただし日本側は、極めて前向きかつ肯定的に「韓国との共催」をとらえていた」「 しかし韓国側は、一部の例外を除いて『もうひとつの開催国・日本』には極めて冷淡であった」「『共催』となったことで開催地は20に増加し、そのためかつてない移動と出費をサポーターに強いることとなった」「 その一方で、『ホスピタリティあふれる韓国』『しゃくし定規の運営の日本』」いう構図も明確になった」「 日本の一部メディアがことさら『共催ムード』をあおったため、サッカーの文脈から明らかに逸脱した『韓国を応援しましょう』という報道がまかり通るようになった(その結果、多くのサッカーファンからの反発を招くことになった)」「 そもそも『共催』はFIFAから押し付けられたものであり、最初から日韓両国が望んでいたものではなかった」と書いている(2002627日付「日々是世界杯」のサイト)。

以上のような諸見解についての評価をすることは現時点ではできない。回り道のようであっても今回の大会に関わる国内外の情報をWebや紙媒体の資料をもとに、時間がかかっても丹念に積み重ねていくしかない。その意味ではワールドカップ日韓共催の成否は歴史が証明するのではないだろうか。

 

<ホームページ紹介>

http://ez.st37.arena.ne.jp/cgi-bin/seiron/resbbs.cgi

産経新聞サイト「せいろん談話室」の「ワールドカップに思う」というテーマをめぐる投稿集。今回のテーマのきっかけになったもの。

http://board.asahi.com/news_event/

朝日新聞サイト「ワールドカップ投稿コーナー」。どちらかというとこちらの方が投稿者の論理立てが分かりやすい。

http://www.sportsnavi.com/column/article/ZZZ1V2N5Z2D.html

宇都宮徹壱氏による「日々是世界杯」サイト。大会中の観戦記を毎日書き続けたパワーに脱帽。