Akimotom020703 「余暇政策論」レポート
「ワールドカップがもたらす経済効果と社会効果」 k000101 秋元 麻里
はじめに
日韓共催で行われることとなったワールドカップ。ワールドカップはオリンピックのように、政府主体で行われるのではなく、全国各地の様々な地域が主体となって行われる。また、最近ではサッカー熱が全世界に広がり、観客動員数も増えている。こうしたことから、ワールドカップによる地域への経済波及効果は大きいものと思われる。(しかし、建設などによる負債は、地方都市には重い負担となるが)サッカーチームと地域との連携による地域社会の発展は世界各国でみられる。地域振興を図る際に、国際スポーツイベントを活用出来ることは絶好の機会である。今回のワールドカップのおいて、どのように自治体が取り組み、その結果どのような現状となるのかをみていきたい。
1.ワールドカップが自治体にもたらす影響
自治体が地域作りの理念や目標像を住民に知らせる良い機会になったり、自然や文化、産業などの地域独特の魅力を世界に向けて発信できるきっかけの場にもなる。また、地域に世界各国の人々が集まってくることから、人々は世界の人々と交流できる場を持つことができ、地域経済や産業の活性化に寄与し、生活環境の整備の発展を創ることができる。また、世界中が注目するということ、開催期間や場所が限定的ということから、将来を考えたインフラ整備や環境保全などの実験や普及の場ともなる。このことは、新しい時代にふさわしい社会システムを構築することにつながっていけるのだ。こうしたことから考えて、ワールドカップのような国際スポーツの祭典は地域づくりに貢献していると言える。こうしたことから次の例を挙げる。
・フランスにサンドニという都市がある。ここは前回のワールドカップフランス大会において会場となった場である。フランスの会場となった10会場のうち、唯一スタジアムを建設した都市なのだが、これを機にまちづくりを展開した。会場誘致に成功してから、地下鉄の延長、高速道路のトンネル化、交通基盤や居住環境を整備し、企業の誘致を進めた。結果としては,65企業を誘致、約1000人の雇用創出を図ったのだ。外国からの移民が多く、まとまりのなかった都市が緑豊かなまちづくりをアピールすることで国内外に対して清潔で美しい町へとイメージを変化させたのだった。サンドニはワールドカップを利用して地域振興に成功した都市であるといえる。
今回のワールドカップにおいて、一躍有名となった大分県の中津江村。ここでは、観光客数は前年比150%。これは4月時の数値であり、以降大幅な伸びを見せたことは間違いない。村の名前が売れたPR効果はかなりのものであり、広告関係者によれば、宣伝効果だけで一億円にくだらないという。到着遅れで頭を悩ませたが、逆に大々的に報道されたことで経済効果は2〜3倍ともいわれる。また、日本だけのメディアだけでなく外国の通信社も多く訪れ、タクシーはフル活動となった。中津江村は多くのキャンプ地が多額の誘致費を出費しているなかで、唯一少ない金額でキャンプ地の権利を獲得した地域だ。誘致費に費やした金額は30万円。年間予算は17億円の村だけに、お金の出費は極力抑制。自分たちで出来ることはすべて自分たちの手で行った。宿泊先のベッドなどの大部分はレンタルで済まし、練習場の芝はスポーツセンターの所長が一から勉強して自ら育てて管理した。土産物も主婦たちによる手作りで作られたものだ。心のもてなしで他のキャンプ地と同じレベルになれるはずと村民が一体化して臨んでいた。この中津江村はワールドカップにおいて経済効果とともに社会効果を得た国であると思う。現在、中津江村には他地域からの信用と、村民たちには自身が備わった。これはお金では買えない大切なものだ。観光客やグッズの販売、みやげ物、食堂、カメルーン弁当など様々なものから今、村内はカメルーン特需に満ちている。しかし、この特需はドラマの撮影現場に人が集まる現象と似ていて、長続きするものではなく一時的なものではないかいう声も高い。
ところで、カメルーンは富士吉田市にもキャンプをしたのだが、まったくとは言い過ぎかもしれないが注目度は低い。メディアの威力を感じさせられる。中津江村はメディアに助けられたといっても過言ではないかもしれない。
2.金額からみる経済効果
前述した中津江村の例は除いて、他の地域に目を向けてみる。
(1)ナイジェリアチームのキャンプ地となった平塚市。
経済効果の内訳は、親善試合の収入や宿泊代、交通費などの約9575万円を最高に、関係者の宿泊代・お土産代など約6218万円。警備、ボランティア、物産展などの費用3983万円のほか、マスコミ関係支出、公開練習やサッカー教室、サイン会などの消費を合わせると、直接消費として約2億6000万にのぼるという。これに波及経済効果率を乗じた経済波及効果は約4億1600万になる。
しかし、この経済効果においては各地様々で、イングランドのキャンプ地であった津名町では、2億円をかけて建設したスタジアムでは、公開練習は一時的なものでイングランドチームは観光客をシャットダウン。これでは観光客もなかなか集まらず、ホテルには予約もなく、空室が多かったという現実もある。
(2)パラグアイがキャンプした松本市ではキャンプ期間中、経済効果試算の根拠となったサッカーファンや観光客の入り込み増はほとんど見られなかった。松本ホテ ル旅館協同組合などによると、キャンプ期間中に宿泊客数が目に見えて増 加した宿泊施設はなし。飲食店や土産物店も来客の増加は見られなかったという。商店街でも、サッカー関連商品の売れ行きが好調だったスポーツ用 品店などを除いて効果なし。キャンプのために地元が支出した総経費は二億円余りで、他のキャンプ地と比べても高額な部類に入る。金属探知機の導入などで五百万円以上の追加出費があったことも明らかになった。実行委の一人は「将来的に見て、目に見えないばく大な効果があった。それは実際に触れ、肌で感じるものだ」などと話すが、費用に見合った効果が果たしてあったかのかどうか、市民への説明が十分できるのかどうか。市などが強調してきた経済効果に限っては、厳しい答えを出さざるを得ないだろう。
(3)フランス代表がキャンプ地とした指宿市でも練習は非公開だったため期間中、泊まりがけのファンは少なかったが、約200人の報道関係者が訪れ、新聞やテレビをにぎわした。市やホテルは「直接の経済効果はなかったが指宿のPRになった」。といっている。また、大分につくられた大分スタジアムは、一部では10年後には粗大ゴミ、無用の長者などといった声もあるが、考えてほしい。スタジアムがある一帯は大型商業施設、大規模住宅地、伸びうる交通アクセス、豊かな自然環境に恵まれていて、将来は県の副都心にもなり得るのだ。ここでは東アジアに近いことも利点にワールドカップを機にこれから更に世界に発信していこうとしているのだ。
各地域に経済効果をもたらすのは、観光客の力だけでなくメディアの報道の力が大きいと思われる。実際練習非公開のために、多くの観光客を導くことができなかったという地域が多い。また、誘致活動から代表チームを迎えるまで、そして、迎えてからの出費や、見返りとなる経済効果について、詳細をしっかり明かさない自治体がほとんどである。数字として出されるものはメディアの推測であることが多い。
3.ワールドカップによる社会効果
キャンプ地における代表チーム招致の目的は経済効果だけではない。日本でワールドカップを開催することによって高齢者から子供まで、大勢の外国人と触れ合う機会を持つという貴重な体験を得ることが出来た。この体験を一過性のものとはすべきではない。ここで、このワールドカップでつくられた大分スタジアムを見てみよう。いま、一部で10年後には、このスタジアムは粗大ゴミ、無用の長者といった声も聞かれている。しかし、このスタジアムがあるスポパーク一帯は大型商業施設を備えた、発展する大規模住宅、伸びる交通アクセス、豊かな自然環境などと恵まれた環境であり、将来は県の副都心にもなり得るともいわれる。東アジアと近いことから、世界に大分を発信するチャンスとして取り組んでいる。
ワールドカップがもたらすものが経済効果だけかというとそうではない。たとえば子供たちにとってはサッカーの素晴らしさを知るまたとない機械になった。実際に会場に足を運んで試合を目にした子もいたであろう。そしてまたキャンプ地となった地域の子供たちもそうだ。そしてブラウン管を通して目にした子供たち。その子どもたちがロナウドのドリブル突破やベッカムのフリーキックを見て感動し、サッカー選手の道を目指すかもしれない。こうしたことも、ワールドカップ開催の意義のひとつといえるだろう。
おわりに
ワールドカップにおける経済効果を見るのは現時点では難しい。また、自治体が正確な掲示をしないということもその一つの理由だ。しかし、ワールドカップを通して、経済効果と同時に人々に与えた社会波及効果は大きなものであった。スポーツを通してこれほどまでに人を動かせるものか。自治体においては、歓迎のために市民が団結し、国においては、多くの国を迎えると同時に日本の勝利を願って多くの市民が同じ時間に同じことを願った。このようなもう当分ないことだろう。しかし、これからこの出来事を忘れてはいけない。このワールドカップで得たことは日本代表選手が大きな経験を得たということだけではないのだ。同じくわたしたちもこれから先の地域振興の光をえた。経済効果が少ない地域ももちろん出てくるであろう。しかし、それでも市民が一つになって立ち向かえる力をもつことが出来るのではないか。ワールドカップはそうした見えない力も与えたということが出来よう。
http://fifaworldcup.yahoo.com/jp/020430/10/2se.html中津江村の記事
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/nagano/ 松本市の記事
http://jmm.cogen.co.jp/jmmarchive/m167002.html 経済効果についてのページ