外国人研修制度について

 

 

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荻野義崇

 

はじめに

 

来春からの社会人生活を控え、次第に働くということに対して具体的なイメージを持つようなってきたこの頃ですが、ある日新聞で興味深い記事を見つけました。その記事では「外国人研修制度」という制度が取り上げられており、その制度のもと過酷な労働環境下に置かれ苦しむ外国人の実態が紹介されていました。以前から外国人労働者の問題についてはニュースや新聞などで目にすることはあったのですが、この制度の存在は知らず、その悲惨な実態に驚きを隠せませんでした。来年から期待とともに社会に飛び込んでいく自分と、この制度に期待をかけはるばる海外から日本へと飛び込んでくる外国人との間にどこか重なる部分を感じた自分は、この制度についてより詳しく知ってみたくなり、今回の発表のテーマに選びました。

 今回の発表では、この制度の概要とそれをとりまく現状を説明した上で、この制度の何が問題になっているのか、この制度はどのような方向へと向かっていくべきなのか等について、自分なりの見解を述べることができればと思っています。

 

外国人研修制度とは?

 

制度の始まりから現在までの流れ

外国人研修制度とは、開発途上国への「国際貢献」や「国際協力」を目的として、外国人の日本の技術・技能・知識の習得を支援する制度です。法律上では、「出入国管理および難民認定法」において、「本邦の公私の機関により受け入れられて行う技術、技能又は知識を習得する活動」と定められています。研修制度自体は1950年代後半から始まりましたが、在留資格としては認められておらず、1981年の法改正においてはじめて留学生の在留資格の一つとして認められました。これが認められた背景には、1960年代後半に、海外進出した日本企業が現地法人から現地社員を招聘し、日本で技術や知識を習得した外国人社員が、帰国後技術を母国(開発途上国)で発揮させたことなどから、「開発途上国への技術移転」という国際貢献や国際協力の一環として注目されたことがあります。

1990年には、入管法の改定で独立した在留資格「研修」となりました。この時、研修の対象となる業務が、「修得しようとする技術・技能等が、同一の作業の反復(単純作業)のみによって習得できるものではないもの」と定められました。

1993年には、「より実践的な技術、技能または知識の開発途上国への移転をはかり、開発途上国の経済発展を担う人づくりに協力する」として、従来の研修制度を拡充することを目的として技能実習制度が設立されました。研修成果等の評価を受けて、研修終了後に研修先と同一企業において、雇用関係のもとに実施されます。2005年現在、実習可能な職種として、62職種(114作業)が定められています。実習期間は当初1年間とされていましたが、1997年に最大2年間に延長され、研修期間とあわせて最大3年間の在留が可能となりました。なお、研修生は「労働者」とみなされないのに対し、技能実習生は労基法上の「労働者」に該当し、その適用を受けます(在留資格は「特定活動」となります)。現在、「外国人研修生」という問題を扱うときは、この技能実習生のことも含められている場合が多いようです。(今回の発表においても研修生と技能実習生の両方を対象としています。)

 

簡易年表

1950年代後半:研修制度開始(明確な時期はわかりませんでした)

1981年:「出入国管理および難民認定法」改正

     留学生の在留資格の一つに「研修」が加えられる。

1990年:「入管法」改正

    「研修」が独立した在留資格に

1993年:「技能実習制度」開始

1997年:「技能実習生」の滞在期間が最大2年、

     研修制度とあわせて最大3年の滞在が可能に

 

研修・技能実習の詳細

 次に、実際に外国人はどのような手順を経て研修生・技能実習生となり、企業での研修を受けるのかについて見ていきたいと思います。

 

1・送り出し機関での手続き

 研修生・技能実習生の出身国において、人材の募集・事前研修・派遣を行う送り出し機関があり、ここで手続きを終えた外国人が日本へと受け入れられます。国公営のもとの民間が運営しているものの両方があります。

                  ↓

2・日本への受け入れ

 送り出し機関の手続きを終えた研修生・技能実習生が日本へと受け入れられますが、形式的には二つのパターンがあります。

 

 

1)企業単独受け入れ型

  日本の企業が単独で、海外の現地法人、合弁企業、または外国の取引先企業の常勤職員を研修生として受け入れるパターン。受け入れ可能な研修生・技能実習生数は、常勤職員20人につき1人と定められています。

 

2) 団体管理受け入れ型

 日本の公的な援助・指導を受けた商工会議所・商工会・事業協同組合などの中小企業団体、公益法人などが受け入れの責任を持ち、その指導・監督の下に研修生を受け入れるパターンであり、1990年の大臣告示によって新設されました。受け入れ可能な研修生・技能実習生数は、従業員50人以下の企業は3人となっています。

 

 ・第一次受け入れ機関

  団体管理型受け入れにおいて、研修生・技能実習生の受け入れ責任を持つ、商工会議所・商工会、事業協同組合・公益法人など。(後述するJITCOがこれにあたります)

      第二次受け入れ機関

  団体管理型受け入れにおいて、研修生・技能実習生が実際に研修・技能実習を行う企業。

 

研修・技能実習制度の流れ(典型的なパターン)

テキスト ボックス: 研修生
技能実習生
テキスト ボックス: 移行せず帰国テキスト ボックス: 応募・面接・試験テキスト ボックス: 研修期間(1年間)テキスト ボックス: 送り出し機関テキスト ボックス: 技能実習に移行テキスト ボックス: 帰国テキスト ボックス: 技能実習期間(2年間)テキスト ボックス: 入国

研修制度・技能実習制度の流れは簡潔にまとめると上記のようになります。

ちなみに研修は一般的に非実務研修と実務研修に分かれています。

 

 

 

 

・研修

  非実務研修:日本語研修、実務研修に必要な技術などの基本原理、技術などの研修、安全衛生教育、実務の現場以外で行う試作品の作成、模範販売などの研修

   実務研修:生産などの現場で実際に生産に従事あるいは実際に販売・サービス業務

   に関わりながら技術・技能・知識を習得する研修

 

団体管理受け入れ型に当てはまる団体の代表的なものとして、国際研修協力機構(JITCO)が挙げられます。

 

国際研修協力機構(JITCO

  外国人研修制度・技能実習制度の適正かつ円滑な推進に寄与することを目的として、法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通の五省共管により1991年に設立された公益法人。受け入れ企業・協同組合・各国送り出し機関・派遣企業、あるいは研修生・技能実習生に対する支援・サービスなどを事業内容としています。いくつかの例を紹介します。

 

・定例説明会

 研修生・技能実習生の受入れに関する全般的説明(制度の概要、研修生の要件、受入れ団体・企業の要件、技能実習への移行など)、及び個別相談を定期的に行っています。

・総合相談サービス

日本でカルチャーショックを受けたり、入管法令や研修・技能実習制度、日常生活に対して種々の悩みや問題をかかえている研修生・技能実習生に対して、心身の健康及び問題解決支援のために、母国語による直接対話を行う相談を行っています。

     日本語教育支援

     総合情報誌の発行 

                                   など

 

データでみる制度の現状

     外国人研修生入国者の推移

新規入国者は1991年には43,649人だったが、2004年には75,359人と約2倍になっています(1)1990年代に入りバブル崩壊後の不況などで入国数が減少する年もありましたが、入管法の改正、技能実習移行対象職種の拡大などによって、基本的には増加傾向といえます。

 

 

 

出所:法務省調べ

 

・国籍・出身地・産業別外国人研修生入国者数の推移

 上記の国際研修協力機構(JITCO)がまとめた「JITCO」白書によると、国籍・出身地別では中国人の伸びが圧倒的です。(2) 1997年には全体に占める中国人の割合は約43%でしたが、2004年には647%まで伸びています。

 産業別で見ると、衣服など繊維製品製造業が最も多く、(3)また男女比の統計は見つかりませんでしたが、女性研修生の多くは衣類やタオルなどの繊維製品製造業に集中し、また食料品製造業、農業、プラスチック製品製造業などに多いといわれています。

(3)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・研修生の平均研修手当の推移

研修生数が増加傾向であるのに対し、研修手当ては年々低くなっています。1997年におけるJITCO支援の外国人研修生の平均研修手当ては「団体管理型」で85,554円、「企業単独型」で105,200円でしたが、2004年には「団体管理型」で64,024円、

「企業単独型」で84,819円と2万円以上下がっています。(4)

出所:()国際研修協力機構編「JITCO白書」2002年、2003年、2004年、2005年版より

 

・技能実習生への支給予定賃金別人数構成比

 「支給予定賃金」別で技能実習生の賃金の推移を見ると、低賃金化が広がっていることがわかります。1997年度は13万円台が38%と最も多かったのに対し、2004年度は10万円台も207%を占め、11万円台の368%と合わせると12万円未満が6割近くになっています。一方で、16万円以上はわずか04%に過ぎません(5)。日本人の高卒の初任給平均が16万円弱であることを考えると、「日本人従業員と同等額以上の報酬」(法務省告示・19934月)という用件が満たされているとは言い難いようです。

(5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・技能実習実施企業の構成比

 研修制度から技能実習への移行を申請した企業の規模を見てみると、1997年度には従業員10人未満の企業が276%であったのに対し、2004年度には356%に増えており(6)、より小規模な零細企業が技能実習制度を活用するようになってきているといえます。

(6)

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの統計をまとめると、研修・技能実習制度は、研修生・技能実習生の数が増加しているばかりでなく、より零細な企業にシフトしているといえます。また、産業には偏りがあり、研修手当て・実習生の賃金も低下していることがわかります。

 

制度の問題点

 では、このような制度の現状のもと、具体的にどのような事が問題となっているのでしょうか。

 

「安価な労働力」としての研修生・実習生受け入れ

 これまで見てきたように、制度上研修生は「労働者」としては扱われず、あくまで研修を受ける研修生であるため、「賃金」ではなく低額の研修「手当て」を受け取ります。この点に目をつけた企業が、研修生を単なる安価な労働力として受け入れ、適切な研修を行わずに通常の労働者と同等、もしくはそれ以上に過酷な労働を課すという、制度を悪用するケースが頻発しています。たとえば上で紹介した「非実務研修」は、研修全体の三分の一を占めなくてはならないとされていますが、この時間が不足しているケースが目立っています。これは研修生を早く労働力として使いたいという企業の意向によるものであると考えられます。              

また、本来であれば「日本人従業員と同等額以上の報酬」という要件のもと雇用関係に置かれるはずの技能実習生に関しても、不当な低賃金で働かされているというのが現状です。時間外労働や賃金不払いなどの「不正行為」を行った企業・団体数は、2003年には92件でしたが、2007年には449件に急増しています。

また、このような低賃金と過酷な労働に不満を持つ研修生・技能実習生らを沈黙させるために、企業側が本人の自由を不当に制限していることも問題になっています。

 

送出し機関

 外国人の出身国にある送り出し機関については、制度利用の際に日本語で書かれた契約書を突き付け、内容を外国人に理解させないまま半ば強引に承諾させたり、制度について実態とは全く異なる説明を行ったりしています。また制度を適用する際に多額の保証金を定め、もし研修途中で帰国するような場合には保証金を失うという契約を結ばせているものが多く見られます。また、研修途中で逃亡した場合などに違約金を支払う契約をしていることもあります。この保証金・違約金の存在が、送出し機関や受け入れ機関に問題があっても、研修生や技能実習生が意義を唱えるのを抑制し、帰国までの最大3年間の我慢を強いることにつながっています。これにより、研修制度の問題点をますます潜在化させ、人権侵害を生み出しやすくしていることが考えられます。特に労基法の適用対象となる技能実習生においては労基法の「賠償予定の禁止」や、民法における公序良俗違反にあたるとして問題視されています。

 

制度に関する最近の動き

 このように制度に関する批判が高まる中、制度を見直さなければならないとする認識が広がり始めています。しかし、「安価な労働力」として受け入れるべきかどうかの「本音」をめぐる意見は分かれています。

 自民党の外国人労働者問題プロジェクトチームは「研修・技能実習制度を原則として廃止し、最初から短期労働者として受け入れるべきだ」とする提言を8月にまとめました。労働力不足が深刻な中小・零細企業に配慮し、3年限定で受け入れるべきだと主張する一方で、定住は認めないとするスタンスです。

 また日本商工会議所は、労働力不足に悩む製造業や農林水産業などの分野で、「外国人労働者の就業を認める新たな制度が必要」とプロジェクトチームの提言に賛同しています。

 一方で、制度の廃止に関しては関係省庁の抵抗は根強いようです。政府は今年3月、労働基準法や最低賃金法を技能実習生だけでなく研修生にも適用することを盛り込んだ「規制改革推進3カ年計画」を決定しており、制度を残しても、労働法規の対象とすれば問題は是正されると主張しています。

 

 

考察

 今まで見てきた現状を踏まえた上で、この制度が今後どのような方向に進んでいくべきかについて自分の意見を述べると、この外国人研修制度に関しては自分のスタンスは自民党のそれに近く、この制度は廃止されるべきであると考えます。理由としては、まずこの制度が本来の目的とはかけ離れすぎた形で使われているからです。「開発途上国への国際貢献」「技術移転」といった本来の目的で使われていないだけでなく、むしろこの制度が存在することが、企業が外国人を受け入れ不当に低い対価のもとで酷使する口実になっており、また外国人の観点からしても、出身国の送出し機関において「研修・技能実習」という説明のもと来日したのに、いざ来てみれば実際は劣悪な労働環境のもと延々と単純労働を強いられるだけといった「騙された」形になってしまいます。なので、このような事態をこれ以上深刻にしないためにも、現行の制度は廃止して最初から単純労働者・短期労働者として受け入れる事を目的とした制度や法律を作るべきであると考えます。また現在政府が主張しているような、労働法規の対象を研修生にまで拡大することによって問題を是正しようとする動きは、あまり意味をなさないように思えます。なぜなら、現行制度でそのような労働法規の対象となっている技能実習生でさえ十分な報酬をもらえておらず、様々な人権侵害ともいえる被害を被っているのに、これを研修生に拡大したところで企業が彼らを適切に扱うようになるとはとても思えないからです。やはり問題を少しでも是正するためには、抜本的な単純労働者・短期労働者受け入れのための政策を講じる必要があると思います。

 

 

まとめ

 今回この外国人研修制度について調べて感じたことは、この制度の「本音」と「建前」がハッキリと分かれていて、それが簡単に見て取れることです。少子高齢化が叫ばれている昨今、深刻な労働力不足により単純労働者の需要が著しく高まってきています。また、海外との競争の激化により今までの人件費で続けていくことのできる産業がどんどん少なくなってきており、アパレル・縫製業界がその典型です。こうした労働集約型の産業は、実際には日本では成り立つことが難しくなってきています。この外国人研修生問題の背後には、そういう産業を無理やりにでも日本で維持するために研修生・技能実習生を犠牲にしようという企業や政府の「本音」があるような気がしてなりません。

 米国務省の人身売買に関する2007年度版報告書では、この外国人研修制度を「人身売買の一例」として取り上げ、非人権的な状況に置かれている研修生の状況把握や問題改善を指摘しています。また、同年71には米国務省マーク・レーゴン人身売買監視・対策室長が来日して制度の廃止を求めました。

 このように国際的な批判が高まる中、「本音」を隠し続けて国際貢献や技術移転・人材育成といった「建前」を掲げて無理やりこの制度を続行させていくのは難しくなってきていると思います。この制度が存続するにせよ廃止されるにせよ、どちらの場合も根本的・抜本的な対策が取るべき段階に来ているのではと感じました。この制度の今後の動向についてこれからも注目していきたいと思います。

 

<参考>

国際研修協力機構(JITCOHP

JITCO白書

朝日新聞

「まやかしの研修制度」鳥井一平著

「外国人研修生 自給300円の労働者」外国人研修生問題ネットワーク編

 

ほか新聞記事・HPなど