排出量取引について

〜日本の排出量取引の展望〜

 

3年 川谷絵美 外山公一 

                                         2年 柿澤和哉 川上かおり 佐々木圭 

1.はじめに

地球温暖化、この言葉は今となっては誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。地球温暖化とは一言で言えば地球の平均気温が長期的に上昇する現象であり、ここ100年の間で地球の平均気温は0.74℃上昇している。この0.74℃というのは一見誤差の範囲内のように思えるかもしれないが、過去5000年間の上昇幅(100年あたりの平均0.14)と比べると、5倍以上と急激であるため、現在この地球温暖化に向けて様々な対策が施されている段階である。そのひとつに2005216日に発効され、172か国が締約している京都議定書がある。

京都議定書では地球温暖化の原因となっている二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を2008年〜2012年の期間中に、先進国全体で1990年に比べて5%減らすことを目標として定めた。しかし、日本などは既にエネルギー使用効率がかなり良いため、排出削減目標を国内のみで達成させるのは困難と言われている。そこで、この目標をより容易に達成させるために、「排出量取引」といった制度がある。現在、日本においてこの制度は「国内排出量取引制度」といった形で試験運用を間近に控えているのであるが、ヨーロッパをはじめとして、すでに排出量取引制度を正式に実施しているところもいくつか見られる。

では、日本の「国内排出量取引制度」は果たしてどうあるべきなのか。そもそも、本来温室効果ガスはだしてはならない、つまり温室効果ガスの削減は義務ともいえるべきものであるが、それが「排出権」といった形で権利になることは良いのであろうか。そこに疑問をもったため、排出量取引について調査し、そして日本で排出量取引はどのように在るべきか、また排出量取引はそもそも必要であるかということを論じていきたいと思う。更にこれを機会に、一見身近ではない排出権という存在が、自分達にどう関わってくるのかということを考えてくれれば幸いである。

 

 

2.排出量取引とは

1章でも排出量取引について多少触れたが、ここでは排出量取引とは一体どういうものであるかを、より具体的に説明していきたいと思う。

20052月、地球温暖化防止のため二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの削減目標を掲げる「京都議定書」が発行された。京都議定書では先進各国に温室効果ガスの削減義務を課したが、同時に各国がその目標値を容易に達成できるようにするための柔軟性措置も用意されている。それが市場原理などを活用し、国際的に排出権を取引する「京都メカニズム」だ。「京都メカニズム」には3つの柔軟性措置が規定されているが、その中の1つが『排出量取引(Emissions Treading)』である。

「京都メカニズム」によると『排出量取引』とは、京都議定書によって削減義務を課された先進国間で排出権を取引するスキーム、とされている。つまり、排出量削減の義務を背負う参加国は実際の排出量が削減目標を達成できなくとも、排出枠を超えた分に相当する排出権を購入すれば削減目標を達成したとみなされるのである。本来、この制度は国同士の取引について規定されているものであるが、ヨーロッパをはじめとして、京都議定書に定められた削減目標を、より容易に国内で達成させるために、企業同士の排出量取引を行っている場所もある。このように、今日では世界各国でこの排出量取引が行われているのである。

 

 

3.排出量取引の現状

第2章では様々な国で排出量取引が行われていることについて述べた。この章では、実際に排出量取引が世界でどう行われているのかということについて述べていきたい。

京都議定書は2008年から2012年までを第一約束期間として定め、この期間で1990年との比較で排出削減目標を先進国に定めた(日本の削減目標は1990年と比較してマイナス6)。そして200811(日本では200841)から京都メカニズムに規定されている「排出量取引」も正式に開始された。では一体、排出量取引の現状はどうなっているのだろうか。

 

(1)日本の現状

20081022日、日本は内閣府より、CO2排出量取引に関する国内統合市場の試行的実施の正式開始が発表された。現在、この制度は参加企業を募集している最中である。内閣府によると、試行的実施にあたっては多くの業種・企業の自主的参加を得て、マネーゲームを除外した実需に基づく健全な市場となるよう取り組んでいくという。今回の試行的実施により得た経験を活かし、排出量取引を本格導入する場合に必要となる条件や制度設計上の課題などを洗い出すとともに、もの作りと技術が中心の日本の産業に見合った制度のあり方を考え、国際的なルール作りの場でのリーダーシップの発揮に繋げることを目標にしている。この制度は200913月および同年秋頃にフォローアップをおこなう。

 また、政府による国内排出量取引制度以外に、排出量取引について独自に動き出している企業が既に存在する。それらの企業のうちの1つが、91日から「CO2排出権取引付き飛脚宅配便」をはじめた佐川急便である。この制度は、佐川急便が政府に無償提供する分の排出権を購入し(今回はインド・タミル地方風力発電プロジェクト)、その購入した費用を消費者に負担させるといったものである。また有限会社セイフティプランも排出権付き商品を販売していて、佐川急便と似たような制度をとっている。これらの制度に対して消費者はどのように考えているのだろうか。今回、佐川急便に取材をし、この制度に対する消費者の評判を聞いてみた。佐川急便によると、わずか1ヶ月間でCO2排出権11tに相当するCO2排出権付き飛脚宅配便の運用があったため、この制度はおおむね好調で、「非常に評価をいただいでいる」と述べていた。また、驚くことにこの制度をはじめたきっかけは消費者の声によるものだという。消費者にとって、身近な物流である宅配便をモデルにした環境貢献型サービスの研究をすすめていたところ、京都議定書で設定されている日本の排出量に対して、貢献したいがどうしたらいいのかわからない、という声が存在することが分かり、それらのニーズに応えるため、この制度をはじめたそうだ。

 

(2)世界の現状

次に世界における排出量取引の現状をみてみよう。国内市場で初めて国内排出量取引市場を生んだのはイギリスであり、20044月に開始された。これに続き各附属書T締約国で国内の排出権市場の設置が始まった。そして、20051月にEU域内で共通の取引市場として機能する欧州連合域内排出量取引制度(EUETS)が創設された。EUETSでは20052007年を第一フェース、200812年を第二フェースと期間を設定し、その期間内でそれぞれ削減目標を定めている。第一フェースでは排出目標プラス0.3%の削減を成功させた。排出枠割りあての対象となっている各施設(発電所など)は各年終了後に、排出量と同量の排出枠を政府に提出しなければならない。課された義務を果たすために、排出量取引を使用することができる。相互認証協定を結んだ場合には、他の先進国の国内排出権取引制度とのリンクも可能である。ノルウェーがいい例である。

 政府が京都議定書から離脱した米国も州単位で京都議定書に批准するなど、排出権取引を導入する動きが見られている。北東部10州での排出量取引が2009年から実施する準備が進められている地域温室効果ガスイニシアティブなどがある。民間においても、シカゴ気候取引所と契約により削減目標が割り当てられる自主参加型の排出量取引制度があり、電力会社、製造業、自治体等の300を超える主体が参加している。州ごとではなく、米国全体での排出量取引制度の導入を求めて、27団体、6社からなるUSCAP, United States Climate Action Partnershipという企業団体が2007に設立された。

また、EU、アメリカ以外にも世界各国で排出量取引制度を導入しようとする動きがあり、オーストリア、ニュージーランド、カナダが排出量取引制度の導入を検討している。

このように世界中で排出量取引を導入しようとする、または導入した国が増えているため、ここ数年での世界の排出量取引総量は20057.1トン、2006年、17トン、200730トンと毎年増え続けている。この中でもEUETSでの取引が約3分の2を占めているため、EUはやはり世界で最も大きな排出量取引の市場であるといえる。

 

4.排出量取引のしくみ

 この章では実際の排出量取引のしくみを、世界最大の排出量取引市場であるEUと、我が国である日本に焦点をあてて、紹介していきたい。

 

 (1)EUETSの仕組み

 EU排出権取引制度(EUETS)は、京都議定書上のEU加盟国の温室効果ガス削減目標を、できるだけ小さい費用で経済的に効率よく達成することを目標として導入されたものであり、実施が始まった2005年から2007年までの3ヵ年が第1期、2008年から2012年までの5ヵ年が第2期とされる。この第2期は京都議定書の約束期間に当たり、ここでの排出抑制が本来の目的であって、第1期はそのための試行期間である。

EUETSでの取引の仕組みにはキャップ・アンド・トレード型の義務型排出権取引方式が採用されている。キャップ・アンド・トレードというのは、排出削減目標をもとに割り当てられた排出枠(排出権)と実際の排出量との差分を排出権として取引するという仕組みである。

ちなみに、ここでいう「排出」とは、当面のあいだはCO₂のみを指し、経験を蓄積して第2期が終了してから、その他温室効果ガスにも着手する予定である。

この制度の対象施設は、発電所、石油精製、製鉄、セメント等のエネルギー多消費施設で、EUにおけるCO₂排出量の49%を占める。

加盟各国は、総配分量を目標値から逆算して徐々に減らしていきながら、それをもとに各施設へ排出権として割り当てていく。その割り当ての方法、配分量は各国によるが、その方式はほとんどでグランド・ファザリング方式がとられている。この方式は、削減を行わない場合の排出量あるいは過去の排出量を基準に排出権を無償で配分する方式のことである。逆に、排出権をオークションによって買い取らせる仕組みもあるが、こちらはEUETS内ではあまり普及していない。

この仕組みは排出枠内に収めることが義務であるため、超過した場合は課徴金(第1期:40ユーロ、第2期:100ユーロ)に加え、超過分だけ次年度の排出できる量が減らされてしまうというペナルティーを科されることになる。逆に排出量を上限よりも抑えることのできた施設は、その余剰分を市場で売ることができる。超過した施設はこの市場から購入して補うことができる。また、発展途上国に先進国が技術・資金支援によって温室効果ガスを削減する事業「クリーン開発メカニズム」や、他の先進国に支援を行って温室効果ガスを削減する「共同実施」から買ってくることもできる。

 このように見てみると、排出権は各企業にとっての活動資金といっても過言でないほど重要なものとなってくる。配分の仕方によって、企業の生産活動を左右することが出来るからだ。それゆえ、このEUETSを開始するに当たっての初期配分が何よりも重要で、大きな課題であった。

実際の初期配分は、各施設の実績排出量から割り出される予想排出量にかなり近い量の排出権を無償で配布した。これは試行段階である第1期であったから出来たともいえるが、このことがEUETSの第一歩を後押しした。また、設備の改変に伴って生産量が増えた場合や、新規参入があった場合に備えて総排出量の一部を取っておき、そこから無償で配布されるようになっているので企業の成長の機会を邪魔する心配はない。

 しかもこの排出権は未来永劫有効な権利ではない。期間ごとに配分しなおされるだけでなく、操業が低下した企業の排出権を減らすこともある。このように可変的な活動許可証というような性格だからこそ、初期配分の困難を緩和するだけの余裕を持った配分が出来たのだ。このことはEUETSを遂行するうえでかなり大きな役目を果たしたといえる。

これまでのべてきたように、各施設には比較的成長による排出を許容するような配分の仕方をしているが、国全体、あるいはEU全体としては排出量を抑えるという制度になっているのである。

 

(2)日本の国内排出量取引制度のしくみ

次に、日本において現在、試行が決定された国内排出量取引制度についての紹介をしていこう。国内排出量取引制度の試行実施は2つの仕組みにより構成される。「試行排出量取引スキーム」と「同スキーム内で活用可能なクレジットの創出、取引」である。

本スキームを簡潔に言えば、企業等が削減目標を設定し、その目標の超過達成分(排出枠)や京都議定書目標達成計画に基づき、中小企業や森林バイオマス等にかかる削減活動による追加的な削減分として創出される国内クレジットや京都クレジットといったクレジットの取引を活用しつつ、目標達成を行う仕組みである。

ではまず「試行排出量取引スキーム」から詳解したい。これは参加企業が自主的に排出削減目標を設定した上で、自らの削減努力に加えて、その達成のための排出枠・クレジットの取引を国が認めるというものである。本スキームは、排出総量目標や原単位目標の選択など様々なオプションを試行するものであり、故に企業ごとに様々なオプションが提案されればそれだけスキームが拡張していくことになる。これによって国としては日本独自の制度が構築されていくことを望んでいる。

このスキームにおいて排出削減目標の設定者は事業所・個別企業・複数企業(企業グループ)であり、原則として「業界団体を構成する企業全体」での参加は認めないこととされている。なお、参加に関しては企業の自主参加という形式になり、参加に関して国が強制力を有している訳ではない。

対象温室効果ガスはCO2のみであり、SO(硫黄酸化物)の類は含まれていない。

本制度はいわゆる排出権取引の一種では有るが、他の制度とは異なり、削減目標がグランド・ファザリング(EUETSの方式)による割当ではなく、目標設定者が自主的に目標を設定することとしている。何故グランド・ファザリング方式をとらなかったのであろうか。環境省によると、EUETS2005年に行われた第一期では、割り当ての不公平性などの問題が起こり、日本でもマネーゲームと批判されたりしたため、この方式をとったのだという。

参加企業の目標は、試行スキーム計画と整合的なものとする事と、目標の水準を“安易な売り手の参加を助長しないために”、当該参加者の直近の実績以上、若しくは目安として参加者の所属する自主行動計画の目標又は実績のうちいずれか高い水準以上とする事としている。なお、特段の事情がある場合には、個別事情を踏まえ別途判断する予定だ。

政府見解としては、試行スキーム計画非参加企業の目標は、環境省自主参加型国内排出量取引制度の目標設定方法(基本的にはこちらも事業者の自主設定)も参考としつつ、必要な目標設定方法の整備を図る事としている。また、参加企業は排出総量目標又は原単位目標(一定の活動を行う際に排出したCO2の量)のいずれかを選択可能とする他、目標達成のために他の参加者の目標の超過達成分(排出枠)、国内クレジット、京都クレジットを活用可能とすることも計画案に盛り込まれ、企業の自由裁量の度合いが強調されている。

参加企業は自主行動計画において定めている2010年度の目標を目安として、20082012年度のうち全部又は一部の年度を目標の設定年度として任意に選択し、その目標年度ごとに、排出削減目標を設定し、目標達成の確認を行うことにしている。

設定手続としては政府の運営事務局に対して所管省庁を通じて、目標等を申請し、目標の妥当性については、政府が審査・確認を行う。また、自主行動計画の評価・検証制度と同様に関係審議会等において評価・検証を行うこととしている。

肝心の排出枠取引に関してだが、まず取引主体として排出枠の取引は目標設定参加者のほか、取引参加者も行うことができることとしている。まず、排出枠の取引を行う目標設定参加者、取引参加者は、売り手・買い手ともに、政府の運営するシステム上への口座の開設が必要となる。(この際、排出枠の取引を行わない目標設定参加者の口座の開設は任意とされている)この口座上で取引主体自身が排出枠の取引を参加者の責任において自由に行うことができる。

また、このほかの注意事項としては安易な売り過ぎを防止するため、排出枠の事前交付を受けた場合には、その9割は償却以前の取引の対象とすることができないようにする事や、「マネーゲーム」による問題が発生しないよう、排出枠の繰り越し(バンキング)、借り入れ(ボローイング)を認める事、排出枠の価格指標等の提供の可能性を検討する事、投機的な取引のために価格が暴騰するなどの場合には、政府は、適正化のための具体的な措置を検討し、実施すること等が挙げられている。

尚、上記取引システムは本計画において申告される削減目標に関する排出枠の取引ルールであり、「国内クレジット」や「京都クレジット」に関する取引ルールに関しては別途規定がある。

 

 

5.考察

 第4章までで、世界各国での排出量取引の現状、またその仕組みについて、及び日本における国内排出量取引制度の仕組みを述べてきた。このような現状の中、日本における排出量取引はどのようにあるべきか、また日本の制度から見る排出量取引の意義について考察をしていきたいと思う。

世界的環境保護の潮流に対して貿易立国である我が国のみが環境保護に反発することは政治的・経済的にメリット足り得ないであろう。故に何らかの形で温室効果ガスの削減をする必要がある。しかしながら政治的に各企業に一定割合の削減を命令したところで、費用のみが発生し利潤の低いそのような命令に対する企業のモチベーションは低いだろう。

そのために、排出量取引をはじめとする経済的手法を取り込んでいく必要があると考えられる。つまり、先に述べたように技術立国であるわが国の温室効果ガス抑制技術は世界の中でも先進的なものであるため、他の温室効果ガス削減が困難な企業を市場とした新規市場が開拓でき、かつ、自社の削減目標より多くの量が削減できれば、それらを持ち腐らせるのではなく商品として運用出来る点もメリットの一種である。また仮に他国から排出権を購入した場合、それらの負担を消費者負担とすること(佐川急便の例など)で企業体や国家のみならず一般市民にも環境問題に対する負担をフィードバックさせることが出来、関心の向上および局所負担の低減が図られる。

一方で問題点とするならキャップをどのように設定するか、という点があろう。これらに関して、EUETSで主流とされているグランド・ファザリング方式よりも、日本政府が試験導入しようとした取引制度の例を用いるのが良いのではないかと考える。すなわち上限設定を企業に行わせる方式である。これならば先進技術を既に導入しきった企業などにとっても無理難題となる可能性は低く、経済界からの反発も低いと考えられる。そうなると自社に有利な上限(商品運用可能な排出量を多く出すためなど)を設定するのではないかという意見が出るだろうが、無論、そこに対しては第三者の学識経験者たちによる機関を設置し、余りにも甘すぎる(現状の排出量とほぼ同一などの)場合は再提示を要求するといった案が考えられる。となると、今度は排出量取引として運用される排出量がなくなるのではないか、という批判も出そうであるが、それは的外れである。つまり、我々の最終目標は排出量全体の削減であり、排出量取引の運用はそのための手段に過ぎないのである。

 

 

6.まとめ

地球温暖化に対して、一般市民は一体どれほど問題意識をもっているのであろうか。もちろん、クーラーの温度設定を通常より高めに設定するといったエコ活動を心がけている人も少なくない。だが、自分がそんなことをしても目に見えて変わらないからと思って何も行動しない、つまり地球温暖化に対して関心が薄い人が多いのも事実ではないのだろうか。地球温暖化は自分達と関わりのあるミクロな問題ではなく、国・地球規模のマクロな問題であると、一般大衆が自身と関係のない問題のように認識しているという現実がある。ここに地球規模のマクロな問題をいかに市民レベルのミクロなレベルへと落とし込んでいくのか、という点が問題になって来る。そのミクロレベルとマクロレベルの結節点となるのが、すなわち企業体であるといえるのではないだろうか。つまり、企業体による一般市民を巻き込んだ自発的な環境保護活動こそが地球温暖化に対する強力な解決策になるのではないか、と考えられるのである。その結節点となるための手段の一つが佐川急便の例(2)をはじめとする日本の排出量取引の現状ではないだろうか。

ゆえに排出量取引は、第5章で述べた排出量全体の削減に一役を買っているだけでなく、市民が環境問題を意識し、自発的な環境保護活動を促すための手段となり得ると主張したい。そして、これらの効果が排出量取引にある限り、この制度はミクロレベル・マクロレベルにおいて有益なものであると言えるだろう。しかし、ここで注意しなければならないのが、あくまで排出量取引は上記のための手段であり、単なるマネーゲームに成り下がってはならないということだ。早稲田大学国際教養学部の教授である池田清彦氏も、「排出量取引は、制度の内容によってはトレーダーが儲かってしまうようなマネーゲームに陥る可能性が出てくる」と述べている。単なるマネーゲームに成り下がらないためにも、第4章、5章で明記したような制度の規定が必要であるといえる。もちろん、排出量取引を用いなくとも、市民・企業が環境保護活動を積極的に行い、各国に定められている排出枠の中に排出量を収められれば、それが一番である。だが、そのようなことは現在の状況をみる限り、不可能に近いといえるため、排出量取引は必要であるといえるだろう。

現在、日本ではまだ排出量取引制度は参加企業を募集している段階で、試験制度の試行に踏み切っていないが、私達としてはこの制度が上手くいくように見守っていきたい。そして、ただ見守るだけでなく、これを機に自分達と排出権はどう関わってくるのかということを考え、それをきっかけに、地球温暖化のために自分達は何ができるのかといったことを意識していかなければならないのではないだろうか。

 

 

○参考文献

・エコビジネスネットワーク『排出量取引とCDMがわかる本』(2008)

日本実業出版社

・北村慶 『排出権取引とはなにか』(2008)

  PHP研究所

・他多数の参考文献

○参考URL

・環境省HP: http://www.env.go.jp/

・佐川急便株式会社HP http://www.sagawa-exp.co.jp/

・他多数のHP

○取材協力

 ・佐川急便株式会社 広報部 山口 眞富貴氏(1114)

 ・環境省 地球環境局地球温暖化対策課(1117)

 ・早稲田大学国際教養学部 池田 清彦教授(1118)