ダウンロード違法化について考える
1H060453-5 外山 公一
1.動機
皆さんは携帯のサイトから無料で着うたをダウンロードしたことやWinny等のファイル共有ソフトを使って、音楽や動画をダウンロードしたことがあるだろうか?インターネットが発達してきている今日、やはり方法さえしっていれば、お金がかからないのだからという理由で、音楽ファイルなどをダウンロードした人もいるのではないだろうか。しかし、意外に思えるかもしれないが、今までこうした行為は違法ではなく、(道徳的に許されるかどうかは別として)法的には許されるものであった。しかし、将来こういった行為が違法となる可能性が高いというのだ。本来、有料なものを無料で手に入れることができるのだから、このようなことは違法化されても当たり前だと考えてしまうかもしれないが、違法化されるにあたって色々と問題点も浮上してきている。そこで、いったいどういうことが問題であり、またそれを踏まえたうえでダウンロード違法化はどのように在るべきかを自分なりに考えるだけでなく、皆さん自身もダウンロード違法化について考えてほしいと思い、今回このテーマを選んだ。
2.ダウンロード違法化とは
冒頭から「ダウンロード違法化」と既にこの言葉を使っているが、厳密にはこの「ダウンロード違法化」とは法律や政策の名前ではない。実際は
・違法録音録画物または違法サイトからの私的録音録画
・コンピュータソフトの違法な複製物のダウンロード、違法サイトからの複製
が著作権法第30条で規定された「私的使用」の適用範囲からは外されることを便宜上「ダウンロード違法化」と呼んでいる。この発表でも「ダウンロード違法化」を同じように定義させてもらう。
著作権法第30条
著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
@今までの経緯
現在の日本では、インターネットの進歩に伴い、WinnyやWinMXなどのファイル共有ソフトを筆頭に、多くの著作物がただでダウンロードできてしまう時代になった。それをみかねて2006年6月28日、日本レコード協会の生野委員が第3回私的録音録画小委員会の会合にて提出した資料に、「著作権法第30条第1項の改正により、零細かつ権利者の利益を不当に害さない私的複製の範囲を明確に限定することを重要な課題として検討すべきと考える」ことを主張し、初めてダウンロード違法化が公の場で議論されることとなり、その後も、主に日本レコード協会を初めとしてダウンロード違法化を要望した。
そして2007年5月31日に知的財産推進本部(※1)にて、我が国における知的財産戦略の方向性を定める「知的財産推進計画2007」が決定されることとなった。この「知的財産推進計画2007」の20ページ(※2)(38ページ)に初めて、「インターネット上の違法送信からの複製」(つまりダウンロード)を例外的に著作権(複製権)侵害とはされない「私的複製」の「許容範囲から除外する」ことについて,検討するという方針が決定された。
この方針で、文部科学省の文化庁文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会(※3)がダウンロード違法化について議論を進め、2007年9月26日の中間整理では、「ファイル交換ソフトや違法サイトからのダウンロードは、権利者側としては容認できない利用形態である。そのため、違法サイトからのダウンロードを違法化することで利用が抑制される等の効果があると思われる」といった意見が挙がり、違法化することが適当であるとする意見が大勢であったとまとめている。 更に2007年12月18日の私的録音録画小委員会の会合では、「違法サイトから、または違法ファイルをダウンロードした場合は違法とする」という方向性が定まり、ダウンロード違法化が不可避とされた。現在、ダウンロード違法化については(「知的財産計画2007」には2007年度中と記述があるが)2008年の夏までには結論をだすと文化庁は述べている。
※1知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進するため、内閣に設置されている機関
※2知的財産化推進計画2007 20ページ
違法複製されたコンテンツの個人による複製の問題を解決する合法的な新しいビジネスの動きを支援するため、インターネット上の違法送信からの複製や 海賊版CD・DVDからの複製を私的複製の許容範囲から除外することについて、個人の著作物の利用を過度に萎縮させることのないよう留意しながら検討を進 め、2007年度中に結論を得る。
※3著作権分科会の小委員会著作権分科会は、「著作権制度に関する重要事項を調査審議する」という目的で、文化庁の文化審議会に設けられている(文化庁のページ)。その著作権分科会には、さらにテーマごとにいくつかの小委員会が設けられている(組織図) “私的録音録画小委員会”では、私的録音録画制度の在り方に関することについて話し合われている。
そして小委員会では何度か会合を持って、各議題について結論を出す。その結果は文化庁や国会に提出され、法改正などのアクションにつながる。なお、小委員会は一般傍聴も受け付けており、その日程は文化庁のトップページにて告知されている。
3.ダウンロード違法化が及ぼす影響
第2章ではダウンロード違法化とはどういうものかについて説明したが、この章ではダウンロード違法化がもし適用された場合に、一体どのような変化が起きるのかを述べていくとする。(この章に書かれていることはあくまで暫定であり、まだ決定事項ではない)
@ダウンロード違法化による変化
まずはアップロード(データをインターネットにあげること)についてだが、著作権法では,著作権者が自分の著作物に持つ権利が定められていて、その一つに「送信可能化」の権利がある。「送信可能化」とは「著作物を自動的に公衆 に送信し得る状態に置くこと」で、だれでも自由にダウンロードできるインターネットのWebサーバーにファイルをアップロードする行為は、この送信可能化に該当する。このため、著作権者の許可なくファイルを勝手にアップロードすることは,送信可能化の権利を侵害していることとなり、違法となる。
一方ダウンロード(データをインターネットから落とし、保存すること)についてであるが、Webサーバーからのダウンロードは、テレビ番組の録画と同じ「著作物の複製(コピー)」に該当する。著作物の複製は私的使用の範囲、つまり「個人的に、家庭内やそれに準じる限られた範囲内で使用する」ことを前提に基本的に認められている。このときに、複製元が違法ファイルかどうかは関係ないため、「私的使用」の範囲なら、違法ファイルをダウンロードしても違法ではない。
しかしダウンロード違法化が適用されるとなると、違法ファイルのダウンロードを「私的使用」と認められる範囲から外されることを意味するため、実質違法となる。
Aダウンロード違法化の適用範囲
@)違法となりうる範囲
ダウンロード違法化といっても、違法ファイルをダウンロードした場合は全て違法となるわけではない。違法となるのは、「情を知って」違法サイトからダウンロードする場合、すなわち「その著作物やサイトが違法であることを知って」ダウンロードした場合に限られる。また、YouTubeの動画などのように視聴が 一時的であるストリーミング配信(※1)も違法とはなりえない。
ここで違法となり得るファイル、ページなどをどうやって判別すればいいのかという疑問がでてくるが、もしダウンロード違法化が適用される場合、適法サイトには適法サイトマークを配布するなどして、区別をつける方法をとるそうだ。
※1映像データを受信しながらリアルタイムで再生する方式をストリーミング配信といい、すべてのデータをダウンロードしなくても再生できるため、ダウンロードが完了するまで待つことなく映像を視聴することができる。
A)違法となった場合
現在の方針としては、違法ファイルをダウンロードした場合、刑事罰は設けられていないが、民事訴訟(損害賠償請求)の対象となる。違法だが刑事罰がないというのは、未成年者の飲酒やNHKの受信料支払いと同じで、違法行為を行っても逮捕されることはない。しかし、民事訴訟(損害賠償請求)の対象にはなるので、明らかに情を知ってダウンロードしていたことを、訴える側が証明できる場合は民事訴訟が行われる可能性はある。
⇒このようにダウンロード違法化が適用されると、今まで合法であった(ファイル共有ソフトや違法サイトからの)著作物のダウンロードは違法となり、逮捕されることはないが、明らかに違法であることを知っていた場合のみ、訴えられることがある。
4.ダウンロード違法化の問題点
この章ではダウンロード違法化が適用されるにあたって、どのような問題点がでてくるのかを検討したいと思う。
@ダウンロード違法化による恩恵、問題点
まずはパブリックコメントを参考に考えられる範囲でダウンロード違法化による恩恵、問題点を列挙してみた。
@)恩恵
○違法な複製物ダウンロードの抑止
ダウンロード違法化の最大の理由がこの違法に複製された物のダウンロードを抑止できることである。違法な複製物のダウンロードが著作権法違反であるとして,損害賠償請求や差止請求を認めることで,権利者は損害を回復し,あるいは損害発生を回避することができる。また、刑事罰を科すことにより、違法な複製物のダウンロードが抑制される結果、そもそもの違法な複製も行われなくなり、やはり権利者への損害発生が回避される可能性がある。
○正規品の売り上げ増加
先に述べた理由により、本来違法な複製物を入手し、利用していた人が正規品を購入し、売り上げが増加することで、権利者の利益となる。
A)問題点
○利用者への萎縮効果
合法か違法かわからない状況でネットを使うことは多くの人を違法状態に貶めることになり、違法意識が高い人ほど、萎縮的な行動をとるしかなくなる
○詐欺の横行
ダウンロード違法化が実現すれば、ダウンロード違法化を使った@クリック詐欺や架空請求が横行する可能性がある。
○適法サイトマークの問題点
適法サイトマークを権利者が発行するということは、逆に言えばそのマークが付いていないサイトを閉め出す結果になる。また、誰が、どんな基準で、何に対してつけるつもりなのか。また、つける場合の必要条件などが一切明らかになっていないだけでなく、海外サイトはどのように対処するのか。そして、もしこの適法サイトマークを国などが決定するということになれば、国家による国民の表現の自由への規制につながる可能性もある。
○権利者による民事訴訟濫訴
違法に配信されたものと知りながら保存したことを証明しなければならないのは権利者側だが、例え曖昧な根拠であったとしても訴訟を起こすことはできるため、和解と一罰百戒目当てで濫訴が行われる可能性がある。
○すべての著作物に拡大する可能性
著作権分科会で既にACCS辻本憲三理事長が「全ての著作物を対象にすべき」と要望している。もしそうなった場合、ニュース記事を天才したブログを手元で印刷する行為や、ネットで拾った画像を掲載しているサイトの画像を右クリックで保存することも違法になり得る。
○ダウンロードの定義が不明確
違法に配信されたものを視聴するだけでは今回のダウンロード違法化の適用対象外となるが、ストリーミング配信とダウンロードは技術的にみれば、根本的な違いがあるわけではなく、(実際にパソコンのキャッシュフォルダには保存されることとなる)ただ視聴しただけで違法とされてしまう可能性がある。
○故意性を判断する難しさ
実際に違法ファイルと判断するのは難しい
○海賊版対策には十分な法整備がある
先ほど記述したように権利者団体には既に「送信可能化権」という責任追及のための十分な権利がある。諸悪の根源への対策と予防手段をとれるのに、消費者の行動を縛ることに正当性があるとは思えない。
(○パブリックコメントの無視)
文化庁によれば、パブリックコメントでは約7,500件(集計の手違いで実際には8720通)の意見が寄せられ、A4のPDFファイルで606ページ分もの意見が集まった。このうち8割は「違法録音録画物や違法サイトからの私的録音録画」について、私的使用のための複製を認める著作権法第30条の適用範囲から除外することを懸念する意見だった。このようにパブリックコメントを募集し、ダウンロード違法化反対の声が多かったにもかかわらず、違法化の方針をとっている。
A海外でのダウンロード違法化事情
ドイツやフランスなどではすでに、違法サイトからのダウンロードを違法とする法改正が行われており、ここ2〜3年でレコード会社がファイル交換ソフトユーザーを中心に数万件にも及ぶ大量の刑事訴追や民事訴訟が行われている。しかし、このほとんどの事例はファイル交換ソフトでアップロードしていたユーザーに対してというのが事実である。なぜ、ほとんどの事例がアップロードした人に対してなのかというと、やはりアップロードと比べると、情を知ってダウンロードしていたことを証明するのが難しく、ダウンロードを取り締まるよりもアップロードを取り締まるほうが確実であるそうだ。
一方アメリカもダウンロードが違法化されていて、こちらは欧州と違い、かなりの数の違法ダウンロード者が訴えられているという。しかし、その実態は必ずしも正しく違法ダウンロードが取り締まられているとは言えない。具体的に見てみると、日本音楽著作権協会(以下JASRAC)にあたる協会全米レコード協会(以下RIAA)はダウンロード違法化に伴い、ファイル共有ソフトで違法にダウンロードしたと思われる大学生に、大学経由で「著作権侵害ファイルをダウンロードしましたね。○○円払わないと告訴しますよ。」という連絡を次から次へと入れているという。なぜ違法ダウンロードの訴訟の対象が大学生なのかというと、
・時間も金もないので訴訟をあきらめて和解金で解決
・就職前。穏便に事を運びたい時期。
という背景があるからである。
実際に長期の裁判にかかる時間と弁護士費用を考えるとRIAAの和解金は安くすむし時間もかからず、被告が有罪であろうと無罪であろうと関係無く和解金を支払った方がリスクが圧倒的に少ないのである。
ただ、訴えられた大学生達は実際に違法ダウンロードをしていたのであるから、これだけではRIAAの行為は何ら咎められるものではないかもしれない。しかし、RIAAは実際に違法行為が行われたかどうか確認すらしていないにもかかわらず上記の連絡をいれたケースも明らかになり、アメリカでは問題になっている。
B考察
このような恩恵、問題点、海外の事情を考慮すると、ダウンロード違法化を安易にすべきではないという結論に至った。確かに現在も、ファイル共有ソフトや違法着うたサイトなどからの違法ファイルのダウンロードが行われている状態なのは否定しようもない事実である。しかし、ダウンロード違法化に踏み切るにはいささか問題点が多すぎると思う。
第一に「情を知って」いたらという判別方法であるが、この「知らなかったらOK」というあいまいな基準で利用者保護をするくらいなら、最初から違法アップロードした人や違法着うた業者をねらい打ちして摘発すればいい話ではないか。ダウンロードを違法化せずとも、アップロードを取り締まれば事足りる、つまり原則として送信可能化権で対処すべきであり、また十分に対処しうる問題である。例えば、昨年の終わりから今年にかけて、違法着うたを大量にアップしているサイトに対して日本 レコード協会が警告活動を行っているようで、昨年に比べて違法着うたサイトの数は少なくなってきている。また、今年5月には違法着うた配信で初の逮捕者も出ているが、これも送信可能化権があったからこそ対処できた事例だ。
次にアメリカの例にもあるように「違法行為の有無に限らず、和解金を払った方が安いし社会的信用も傷つかないしすぐ済むよ。」という立場をとることで、お金をふんだくれるシステムができてしまっているということだ。 アメリカとは環境が違うといっても、日本でもJASRACに限らずこのような料金徴収団体、及び振り込め詐欺の口実になることが大いに懸念される。
更に適法サイトマークの有用性であるが、これにも疑問が残る。前述したように、どのような基準で適法サイトと判断するかの基準がないだけでなく、数え切れないほどあるサイトを全て検査するのは、不可能である。そのため、合法であろうと違法であろうと適法マークが得られないサイトが少なからず存在するようになり、そのサイトにユーザーが訪問し、ダウンロードをする場合、ダウンロードが違法化どうかの判断はユーザーの自己責任となる。 しかし、もしそのダウンロードが違法であったとしても、ユーザーに悪意が有ったと断定することはできないため、(適法サイトマークがないサイトからのダウンロードが違法と必ずしも違法にならないのであれば)適法サイトマークの存在は実質意味がないといえる。
また「違法サイトからのダウンロードが違法」と法改正されることにより、ユーザーは、動画や楽曲をダウンロードすることに後ろめたさを覚えるようになり、それが悪質な業者につけ込まれて「おまえは違法着うたをダウンロードしただろう、いくら支払え」という架空請求が広がる可能性もないとはいえない。もちろん、著作権法と架空請求詐欺への対応は、まったく別の問題ではあるが、今回の改正がそうした大きな社会不安をもたらすきっかけになることは疑いがなく、大局的な視点で見れば無関係と言い切るのもおかしいのではないかと思う。
最後にパブリックコメントを募集し、反対意見が多かったにもかかわらず、その意見をほとんど無視しつつ、議論を進めてダウンロード違法化不可避と結論づけてしまうのは国民にとっては納得のいくものではないだろう。やはりパブリックコメントを募集したからには、それを反映してこそ国民の納得が得られるのではないか。
5.まとめ
第4章B考察では自分がダウンロード違法化反対の立場として考察してきたが、現にダウンロード違法化に賛成している人もいる。例えば漫画原作者・土岐正造氏は自身のHPで「ユーザーから見れば違法か適法か分からないサイトが多く、違法とされれば悪意のない多くのユーザーが“潜在的犯罪者”とされる」という意見に対し、「合法であるとの明記がないサイトからはダウンロードしない。そういうモラルが浸透すればすむ話じゃないでしょうかね。むしろ、ダウンロード違法化はそういうモラルが浸透する契機になるでしょう。」といった反論をしている。このようにダウンロード違法化には(パブリックコメントなどから判断すれば)反対の立場の人が多いが、賛成の立場の人も存在し、一概にどちらが良いか悪いかとは言えない状態である。
そもそもダウンロード違法化は、ネットに詳しくない人にとっては問題点が見えにくい。確かに「違法コピーのダウンロードを違法化するのは当然」といわれると分かりやすく、そこで思考停止してしまう。問題点が分からないという人も多い。ダウンロード違法化の立場からも、文化庁はキャッチフレーズのようなものを作って、国民に分かりやすくダウンロード違法化の知識を発信をしていく必要があるだろう。個人的な感想としては何でもかんでも著作権で縛り付けると、インターネットそのものが面白みがなくなってしまうと思う。そのため著作権を保護しないことで権利者へのメリットとなる事例などが存在することを考慮にいれて、この先慎重にダウンロード違法化を適用するか否かの議論を慎重に行ってほしいと思う。
参考文献
・知的財産推進事務局
http://www.ipr.go.jp/
・知的財産推進計画2007
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/070531keikaku.pdf
・文化庁
http://www.bunka.go.jp/
・文化審議会著作権分科会
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/index.html
・MiAU
http://miau.jp/
・土岐正造氏ホームページ
http://bunzaemon.jugem.jp/
その他多数のHP