国・自治体に一言モノ申す!!
1H060360−3 鈴木良太
1.はじめに
1993年6月に国会の衆院両院において地方分権推進決議が可決され、規制緩和と地方分権を二本の柱にして行政改革の更なる推進が図られた。
2000年施行の地方分権一括法では、機関委任事務が廃止され、国家と地方公共団体が名目上では対等な関係とした。また、中央政府主導で基礎自治体を合併させたり、小泉純一郎政権は、「三位一体改革」による地方分権を進めようとしていたことなどの影響もあり、現在においても地方分権改革の流れが続いている。
そんな中、『地方分権改革において透明性・信頼性・答責性・応答性の高い行政システムとして「パブリックコメント制度」が期待されている』というある文献を目にした。恥ずかしい話、自分もこの制度ついてあまり知らなかった。この制度について知った時、この制度はどのような制度で、どういったことができるのか。また、本当にこの制度が分権自治体のツールとして今後各自治体で有効に使うことができるのかを知りたいと思い、「パブリックコメント」について調べてみようと思った。
よって、これから「パブリックコメント」について、主に地方自治体における「パブリックコメント」の可能性に焦点を当てて、説明していきたいと思う。
2.パブリックコメントについて
◎概要
国や自治体によって、様々な政策・法令が出されている。あんな政策に、こんな法令・・・。 国や自治体に一言モノ申したい!という人も多いと思うが、それが実行できる制度があることをご存じだっただろうか。それが「パブリックコメント」である。
パブリックコメント(意見公募手続)とは、公的な機関が規則あるいは命令などの類のものを制定しようとするときに、広く公に、意見・情報・改善案(コメント)などを求める手続をいう。公的な機関が規則などを定める前に、その影響が及ぶ対象者などの意見を事前に聴取し、その結果を反映させることによって、よりよい行政を目指すものである。
◎パブリックコメント創設の経緯
●1995年7月
1993年の行政手続法制定時において、将来の課題として位置づけられていた行政立法手続きについて、政府は、旧総務庁に行政手続調査研究会を設け、計画策定手続きとともに、英米独仏の比較法研究のほか、日本の国・地方公共団体双方の制度についての実証的検討も行われた。
●1997年9月18日
「21世紀に向け新しい規制緩和推進体制の整備」において、行政手続の整備が行政改革委員会によって提言された。提言の内容は「少なくとも国民の権利・義務に影響を及ぼす訓令・通達の定立に当たっては、原案の公表、原案に対する一般の公衆・専門家・利害関係者等からの意見聴収を行うこと、寄せられた意見およびこれへの対応を公表し、必要に応じ、公聴会・討論会等を開催することを義務付ける通則法を制定する」ことなどであった。
●1997年12月3日
行政改革会議、最終報告においてパブリックコメント制度創設について提言された。
●1998年3月
政府が規制緩和推進3カ年計画を閣議決定し、「規制の設定、改廃に当たり、広く一般国民・事業者の意見・情報を考慮し、また、行政の説明責任を重視していくようにするため、パブリックコメント手続きの在り方の検討に速やかに着手し、当面、行政上の措置としての手続きについて、次期改定時までに結論を得る」とされ、試行的にパブリックコメント制度を導入した。
●1998年6月
中央省庁等改革基本法において、パブリックコメント制度について規定される。
●1999年3月
「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」が閣議決定され、同年4月にこの閣議決定に基づくパブリックコメント手続きが行政措置として実施された。
●2005年6月
パブリックコメント制度を法制化する行政手続法の一部を改正する法律が公布された。
◎意見提出できるもの
●政令
憲法および法律の規定を実施するために、内閣が制定する命令。
●府省令
それぞれの府省の大臣が、主任の行政事務について制定する命令。
●告示
国の行政機関がその決定した事項などを、広く一般に知らせるためのもの。
●審査基準
申請に対して許可などをすべきかどうかなどを判断するための具体的な基準。
●処分基準
許可や免許の取消などの不利益処分をすべきかどうかなどを判断するための具体的な基準。
●行政指導方針
複数の人に対して行おうとする行政指導に共通する事項。
3.地方公共団体におけるパブリックコメント手続きの制度化
国が「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」に基づくパブリックコメント手続を開始したことは、地方公共団体にも大きな影響を与え、1999年6月から鳥取県が「意志決定前の政策案の公表事業」を開始し、2000年4月から「滋賀県民政策コメント制度に関する要綱」が施行され、その後、多くの地方公共団体が要綱に基づくパブリックコメント手続を行うようになった。ただし、地方公共団体におけるパブリックコメント手続は、これまで述べてきた「規制の設定又は改廃に係る意見提出手続」とは異なり、基本的な政策決定等に関する情報を早期に公開し、住民参加を図ることを意図しており、国の制度とはかなり異質なものと言える。
第162回国会(2004年)における国会審議で示された資料によると、都道府県、政令指定都市、中核市、特例市(計135)のうち、40都道府県、8政令指定都市、19中核市、12特例市(計79)がパブリックコメント手続についての一般的制度を有している。
4.地方自治体における運営上の留意点
さまざまな成功した事例もあるが、パブリックコメントを有効に活用できるとは限らないと感じた。せっかくの制度も、有効に使われなければ宝の持ち腐れになってしまう。よって、パブリックコメントを有効に活用するための留意点をいくつか挙げてみたいと思う。
@パブリックコメントの条例化
国が国会の議決を経て外部効果を有する法律で意見募集手続等を定めた以上、地方公共団体においても、外部効果を有しない要綱で対応するのは不十分である。条例化すれば、パブリックコメント手続きが意思形成過程の行政情報を能動的に公開することを義務付けるとともに、提出意見をいかに考慮したかを説明する義務を地方自治体に課すなど、行政の説明責任を全うすることが可能になるなどの利点などがある。
A意見募集の周知
意見を提出する機会を与えられていても、そもそも意見公募が行われていることを一般の人が知らなければ意味がない。地方公共団体のホームページに意見公募中の案件の一覧を載せることは多くの地方公共団体で行われるようになっているが、ホームページに頻繁にアクセスするひとは稀であると考えられる。よって、広報誌による掲載など、インターネット以外での意見公募の周知方法を各自治体で考えていく必要がある。
B意見公募の予告
意見公募の予告が行われれば、より多くの者が、より充実した意見を提出することが可能になる。可能な限り意見公募の予告を実施すべきであるし、条例で予告制度を義務付けることも有効な手段だろう。
C提出意見の考慮
せっかく提出してもらった意見なのだから、適正に考慮していかなければならない。そのため、第三者機関を設置し、提出意見をチェックしたり、予想される意見提出の数が少なかった場合には、サイドの意見公募をするなど、様々な工夫が必要となっていくだろう。
5.パブリックコメントは分権自治体の有効なツールになり得るか?(まとめ)
パブリックコメントについて調べてみて、パブリックコメントは有効に使えば地方自治体を活性化するのに最適な手段だと感じた。しかし、運営側の努力はまだまだ必要である。さまざまな成功した事例などもあるので、その自治体ごとのニーズに合ったやり方でパブリックコメントを使っていけば、地方分権改革の流れの中で、パブリックコメントは分権自治体においてかかせないツールのひとつとなるだろう。
また、主にここまで運営側自治体の視点から述べてきたが、自治体の住民自体が自治体の運営に関わっていこうという姿勢も必要なのではないのではないだろうか。パブリックコメント制度は、自分の考えや気持ちをダイレクトに伝えることができる制度なのだから、自分から自治体の運営に参加しやすい形であるし、意見を出すことによってもっと深く自治体に関わるきっかけにもなると思う。
パブリックコメント制度に限らず、住民の運営にかかわろうとする積極的な姿勢と、運営側の努力があってこそ、その地域で生じた課題をその地域で解決しようとする、本来地方自治体のあるべき姿になるのだと思う。そのことが、地方分権改革の進む中で重要なことではないだろうか。この発表を通して、地方自治体のあり方についても深く考えさせられた。
参考文献
「行政手続きとパブリック・コメント」 宇賀 克也 著
「パブリック・コメントと参加権」 常岡 孝好 著
「分権改革と条例」 北村 喜宜 著