名古屋市の取り組みからごみ問題のこれからを考える

       発表日 2008.5.8

1H060189-4  川谷 絵美

〇 はじめに

平成11年、名古屋市は異例の「ごみ非常事態宣言」を発表した。年間のごみ量*が100万トンを超え、このような宣言をしなければならないほどにごみ問題が深刻化していた。

その都市がごみ量削減に向けて本気で取り組んで2年。同市は年間ごみ量を4分の3の76万トンにまで抑えることに成功した。たった2年という期間でこれほどまでの成果を残した功績は、自治体環境グランプリ2003で「環境大臣賞」と「グランプリ」を同時受賞するなど、周囲からも大きな評価を受けている。

全国各地でも最終処分場の寿命が問題となっている。そのような中で、この名古屋市の取り組みはこれからのごみ問題解決のモデル図となるに違いない。そう考え、今回名古屋市のごみ対策に焦点を当て調べることにした。

 

* ごみ量:資源ごみとしてリサイクルされるものを除いた量。資源ごみも含むものは「総排出量」として区別される。

 

〇 名古屋市のごみ問題の経緯

まずはどうして名古屋市が非常事態宣言をするほどに追い込まれたのか、その経緯を見てみる。

名古屋市は1975年度以降、一年単位のごみ量が着実に増え続け、1998年(平成10年)度には前述したように100万トンの大台も突破した。(下表参照)しかし、20年前から次期埋め立て処分場として計画していた「名古屋港西一区埋め立て事業」は、環境問題への意識の高まりによる多方面からの反対運動で断念せざるを得なくなり、その結果、埋立地があと2年しか持たないという状況に陥ってしまった。

そこで市は20世紀中(残り2年間)で20%、20万トンのごみ量を減量するという挑戦目標「トリプル20」を掲げた。これはそれまでと同じ方式で処理していたら到底達成できない数字である。けれども名古屋市は後が残されていないため、「市民が一緒になって考えてくれないと解決できない」という趣旨をこめて「ごみ非常事態宣言」を発表したのであった。


 

〇「ごみ非常事態宣言」後の取り組み

 宣言から3ヶ月後の平成11年5月、それまで全16区のうち9区でしか行われていなかったビン・カンの分別収集を全市に拡大して行うようになった。それまでビン・カンですら分別されていない地域があるほど、名古屋市のごみ対策は無策であった。このとき同時にPETボトルと紙パックの収集も開始された。

 そして、10月には指定袋制を導入。分け方は以下のとおり。

・家庭用指定袋…可燃ごみ=無色・赤色印刷、不燃ごみ=無色・緑色印刷

・事業系指定袋…可燃ごみ=ピンク色・赤色印刷、不燃ごみ=ピンク色・緑色印刷

・資源系指定袋…無色・青色印刷


これは市民の分別収集に対する意識向上のきっかけになったと考えられる。


産業系・事業系のごみについては平成12年度から全量有料化に踏み切ると宣言。これは直ちに大きな規制効果が働いた。


一方で、同じ頃「容器包装リサイクル法」が全国的に行われることが決まっていた。これは、容器包装に関わって事業を行っている事業者(特定事業者)に、リサイクル(再商品化)の義務を課すというもので、「拡大生産者責任」の考えを日本ではじめて取り入れた法律である。平成9年に一部施行されていたが、それよりも対象品目、リサイクル義務を負う企業の範囲を広げての完全施行となった。

これを受けて、名古屋市は「ごみ非常事態宣言」の一環として平成12年8月から全面的に実施するといちはやく宣言。以下のように分別とするとした。

 

従来

H12.8.7

可燃物

新聞・雑誌・ダンボール

集団資源回収・リサイクルステーション・古紙リサイクルセンター

紙パック

拠点回収(300ヶ所)

紙製の容器・包装

各戸収集(毎週2回)

*ステーション収集(2週間に1回)

可燃ごみ

各戸収集(毎週2回)

不燃物

ペットボトル

拠点回収(1300ヶ所)

ステーション収集(2週間に1回)

空きびん

ステーション収集

(毎週1回)

空き缶

スプレー缶・カセット式ボンベ

ステーション収集

(毎週1回)

ステーション収集(毎週1回)

プラスチック製容器・包装

ステーション収集(2週間に1回)

不燃ごみ

ステーション収集(毎週1回)

ボタン電池

拠点回収(200ヶ所)

粗大ごみ

各戸収集(申込制、月1回)


*平成12年度(初回)版            (出展:名古屋市HPより作成

 

しかし、名古屋市はそれまで分別を徹底していなかったため、このような高いレベルの分別をいきなり取り入れるためには、市民へのきめ細かい説明と説得による意識啓発が必要不可欠であった。

そこで市は、開始の2ヶ月前から市民への大キャンペーン活動を繰り広げる。その概要は以下のとおりである。

 

地域説明会

 

2300ヶ所

21万人(世帯数の4分の1)参加

全戸配布資料等

・「広報なごや」での告知記事(3468月号)

・「広報なごや特集号」(7月)

・保存版「ごみの達人心得帳」(8月)

・掲示用「資源回収カレンダー」(8月)

随時配布資料等

・パンフ 54万部(6月)

 ⇒地域説明会のほか、スーパー、コンビ二、大学などを通して配布

・外国語版(5ヶ国語) 2万部

媒体広告

・新聞広告(7紙)

・テレビ(市政番組等5回、CM5局)

・ラジオ(市政番組3回、CM4局)

・映画館での名古屋市ニュース(2回)

・地下鉄・市バスへのポスター掲出

・大型映像装置での広報(2ヶ所)

説明用ビデオ

地域説明会、区役所、スーパーなどにて放映

追加パンフ

・高齢者向 5万部

・小学生向 低学年・高学年 各7万部

・中学生向 7万部

(出典:名古屋市HPより作成)

 このように幅広い分野で、名古屋市職員3万人総動員体制で周知活動を行ない、新ルールへの対応を指導した。

また、「容器包装リサイクル法」ではリサイクルさせる義務は事業者側にあるが、その収集作業は自治体の仕事とされている。名古屋市の場合、資源ごみの回収は、市の収集による回収量よりも、民間ルートによる回収量の方が多い。そのため、資源ごみを回収する中間業者への補助制度を策定して民間の資源回収業者の活性化を図った。

このように最初から本格的に取り組んだのは百万都市の中で見ると名古屋市が最初である。(次に取り組んだのは横浜市であるが数年後)

けれども、新ルール開始初日の市による調査によると、さっそく分別の間違い、排出日の間違い、指定袋以外での排出などが約3割あった。資源の回収率も3ヵ月経過した11月で、プラスチック製容器包装が40%、紙製容器包装が50%にとどまった。

さらに、その間に2万件の問い合わせや苦情が殺到した。その内容は、パンフレットが分かりづらいといったものや、プラスチック製と紙製を交互に1週間おきの回収では、どちらの収集日か間違えやすいなどの不満であった。パンレットに対しては小中学生向けリーフレットを追加作成、プラスチック製と紙製の容器・包装は新年度から毎週収集へ切り替えるなどして対応していった。

 

こうした、後に「名古屋の暑い夏」と語り継がれる必死の対応の成果が実を結び、平成15年には資源の回収率も、プラスチック製容器包装が58%、紙製容器包装が60%と、まだ十分とはいえないが上昇した。

 

○成果と考察

 特に「容器包装リサイクル法」に基づいて分別収集してからのごみ量の変化は明らかであった。結局、期限であった2年後の2000年(平成12年)度のごみ量は目標の80万トンを下回る79万トンで見事達成。


ちなみに下図からわかるように名古屋市の人口が減ったわけではなく、むしろ増えていることにも注目したい。


名古屋市の人口推移


(出典:名古屋市HPより作成)


 

名古屋市はどうしてごみ量を4分の3にまで抑えることに成功したのか。それは、市民の意識を変えることに成功したことが何よりも大きい。

非常事態宣言を出す1年前の平成10年に、「チャレンジ100」と銘打ち1人1日100グラムのごみ減量を呼びかけたが、不発に終わった。

しかし、この時は包み隠さず事態を明らかにし、市長が何度もテレビ出演してお願いするなど市民に大胆に協力を求めた。残念ながら環境意識への高まりといった自発的なものではなく、突如訪れた緊急事態によるものではあったが、この率直に現状を伝える姿勢が逆に市民も自分のこととして受け止めることにつながり、意識を高めさせる要因となった。新ルールをスタートさせた直後、市には苦情が殺到したが、これも裏を返せば意識の高まりがあってこそである。これはわずか1年で、しかも新ルールをスタートさせる前に1割ものごみ量を削減させたことによく表れている。

そして何より、前述したような徹底した広報活動の影響は大きいであろう。「何をしたらよいものか」と思っている市民にしっかりと道を示し、リサイクルを推進させることに成功した。



○ 浮かび上がった問題点と対策

 ごみ量の削減に成功して一件落着といきたいところであるが、そこには落とし穴があった。それはコスト面での問題である。次のページのグラフを見ると一目瞭然だが、取り組み開始前の平成10年度と平成16年度を比べると、ごみ量が大幅に減っているのに対し、コストは大して変わっていないことがわかる。これは、ごみ処理にかかる経費よりも資源収集にかかる経費のほうが高いためである。なかでも資源の収集・選別のみを比べるとおよそ3倍にも費用が膨れ上がっている。

 リサイクルは排出されてしまったものには有用であるが、このようにコストがかかるという意味で万能ではない。すでに出てしまったものを「川下」であれこれ考えるのではなく、今後はそもそも発生させないリデュース(発生抑制)といった「川上」からの発想が重要になってくる。

 

○ まとめ

 今回、名古屋市のごみ対策にスポットライトを当てて調べてきて、特に容器包装リサイクル法に基づくシステム導入直前の広報活動の内容に驚かされた。全世帯の4分の1にあたる人数に説明を行うというのは相当の数である。市のこの徹底した活動は大いに評価できる。

逆に、いくら良い政策や細かい分別を声を大にして訴えたところで、市民がそれに応じてくれなければ意味はない。

 

今後、他の自治体もごみ削減に向けた意識を根付かせていくために、キーワードとなるのは、「危機意識の共有」ではないだろうか。ごみ政策のみならず、環境問題全般に対してまだまだ他人事に考えている人が多いように感じる。今回の名古屋市の例からわかるように、市民一人一人の協力なくして環境問題の解決は有り得ない。

そういう意味で、この先のごみ問題解決に向けて各自治体は、啓発活動・PR活動にもっともっと力を入れていくべきである。どうして、このような分別が必要なのか、現状や方針を伝えることで危機意識を共有していく。

それなくしては、大量生産大量消費型の社会から循環型の社会へのシフトチェンジは完成しないのである。

 

― 参考文献 ―

     名古屋市HP

     環境庁HP

     松原武久著『一周おくれのトップランナー:名古屋市民のごみ革命』(KTC中央出版、2001

     容器包装リサイクル協会HP

     JNES 原子力安全基盤機構HP「みんなで考えるJNES公開講座」

                                   その他多数HP