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大須賀俊一「taspoの導入と実態」
1、はじめに
taspoは、社会法人日本たばこ協会(TIOJ)、全国たばこ販売協同組合連合会(全協)、日本自動販売機工業会(JVMA)が2001年より取り組んでいる、未成年者の喫煙防止に向けた取り組みのさらなる強化の一環として開発し、2008年3月から宮崎県、鹿児島県から始まり順次日本全国に導入されている、成人式別ICカードの名称、および同カードを使用したシステムの総称である。そこでこのtaspoがどれだけ未成年による喫煙を防止できるのか、これを導入する事によって喫煙者にどのような反応が見られるかなどを疑問に思ったため、この内容をテーマにする事にしました。
2、taspoについて
2008年1月、財務省は未成年者の喫煙防止策の一環として、たばこの自動販売機に成人識別装置設置を義務化する案を発表した。2月のパブリックコメントを経て、7月に「たばこ事業法第24条及び第26条」が改正され適用される。適用後は条件に違反して成人識別装置がない自動販売機でたばこの販売をする場合において、条件を遵守するよう指導を行うとし、指導にもかかわらず従わない者に対しては、「たばこ事業法第31条第2号」の規定に基づき、製造たばこ小売販売業の許可が取り消される。
2008年5月末の現状では日本全国に設置されている438,753台のたばこ自動販売機のうち、415,958台(94,8%に相当)がtaspo対応成人識別たばこ自動販売機となっている。またtaspo発行枚数は約470万枚に達している。(総喫煙者数2700万人)2008年7月の全国稼働に向け、装置の取付や非対応自動販売機の撤去が進められている。
Suicaなどにもみられる非接触型ICカード方式を採用しており、採用の理由としては、1、偽造や変造が困難であり、ICの成人証明情報の読み取りによる厳格な成人識別が可能。2、付加機能(電子マネー機能など)が可能。3、非接触方式による簡便性、識別時間の短縮、機械稼働を伴わないため故障の可能性が低い、などである。
taspoを発行するためには、申込書に必要事項を記入し、運転免許証、各種健康保険証、住民基本台帳カード、各種年金手帳、各種福祉手帳、外国人登録証明書のいずれか1点のコピー、または住民票(写し)と顔写真を添えてtaspo運営センターに郵送する。日本たばこ協会による審査(成人であること、二重発行でないことなど)後、約2週間で本人の住所に配達記録郵便で郵送される。発行手数料・年間費は無料。
3、未成年者とたばこ
未成年者喫煙禁止法
この法律は、1990年に制定され、1947年に改正された後、長らく改正がなかった。しかし、未成年者の喫煙は、飲酒と並んで青少年の非行の温床になるという懸念などを背景に、その取締りを強化するために、2000年、2001年に、相次いで改正された、全六条からなる法律である。販売者などに対する罰金額は、長らく低額であったが、2000年に制定された「未成年者喫煙禁止法および未成年者飲酒禁止法の一部を改正する法律」によって、その最高額が50万円に引き上げられ、その罰則が販売行為者のみから、経営者、経営法人、役員、従業員などへ拡大し、さらに、販売者は未成年者の喫煙の防止に資するために年齢確認その他必要な措置を講じるものとされた。
平成8,12,16年度の全国調査によると、平成8年度では中学一年生の時点ですでに男子の30%、女子の16%に喫煙経験があり、高校三年生になると、男子では56%、女子では39%が喫煙経験を持っている。12年度ではそれらより少し下回る数字が出ており、16年度では中学一年の男女がそれぞれ13%、10%、高校三年生の男女ではそれぞれ42%、27%と、たばこ業界の取り組みによるものだと思われるが劇的に喫煙率の減少が見られた。また、青少年によるたばこの入手先の第一位は自動販売機で、喫煙する男女中高生の約七割が自動販売機を利用している。「たばこ行動計画」の指摘を受け、たばこ業界による深夜稼働の自主規制(23時〜5時までは稼働停止)が、1996年4月から順次実施されてきた。しかし総務庁の調査によると、深夜(23時〜5時)の時間帯に自動販売機でたばこを買う青少年は約2割にすぎない。
推定値であるが、日本たばこ協会や、日本たばこ産業が発表している、「たばこの年間販売本数」や「成人男女の喫煙者総数」、「1日の喫煙本数」などの数値をもとにして未成年者が購買している本数を算出してみると、2006年度では551億本を未成年者が購入しているとみられる。これは同年のたばこ総販売本数の約20%に相当。もしも全体の20%ものたばこを未成年者が吸っているとすれば、世界に例をみない高い喫煙率ということになる。
未成年によるたばこの入手先の一位が、自動販売機であることが、このtaspo導入の大きなきっかけになったわけであるが、果たしてその効果はいかがなものだろうか。日本禁煙学界のサイトによると、taspo導入より前に、試験稼働を種子島で行ったが、種子島における「少年の喫煙補導人数」を調べたところ、成人識別機能付き自販機(taspo)を試験導入する前の2003年の補導人数が39人だったのに対し、導入年の2004年は31人、翌年には10人と減少した。このまま、少年の補導人数が減り続ければ「新しい自動販売機の取り組みに効果あり」と言うことができたかもしれない。ところが2006年、補導人数は84人と急増してしまった。このことから、「taspoを全国で導入しても、未成年者喫煙の防止につながるかどうかは疑問」ということになってしまう。もちろん種子島で補導された少年たちが自販機でたばこを購入したかどうかまでは、明らかになってないので、「新自販機とカードの組み合わせは効果なし」と安直に言い切ることはできないかもしれない。しかし、未成年者がたばこを入手した方法について種子島署によると、家族のカードを持ち出したり、知人から借りて自販機で購入したという少年がいたことがわかってる。taspoを導入しても、全国で同じような現象が起こる可能性は十分あると考えられる。また、不良少年などがtaspoが抱えるこの死角を逆手にとって、未成年者にカードを売りつける可能性もはらんでいる。なぜ「自販機そのものを減らす」あるいは「自販機の設置場所に厳しい規制を加える」などという対策を取らないのか。と疑問に思う。taspoはあくまでも個人情報をICチップに書き込んだものであるから、成人である持ち主ではなく、未成年者がそのカードを使って購入しても、成りすましは発覚しない。一方、たばこの販売を対面販売のみに限定して、身分証明書の提示まで義務化すれば、未成年者による購入を間違いなく減らせるだろう。なぜそういう方向に進まないのだろうか。しかしすべての自動販売機を撤去するコストなどを考えると難しいところなのかもしれない。
3、喫煙者の反応
ネットリサーチのDIMSDRIVEは5月14日、たばことtaspo(タスポ)に関するアンケートの結果を発表した。それによるとtaspoの導入後、taspoカードを申し込むと答えた喫煙者は全体の6割に達していることが明らかになった。一方で3割近くが「申し込まない」(=自動販売機でたばこを買わない)と答えており、taspoのシステム導入でたばこの販売状況に少なからぬ変化が生じることを予見させるデータが出ている
当調査は2008年4月2日から2008年4月10日(taspoが導入された地域は宮崎、鹿児島のみ)にネット経由で行なわれたもので、有効回答数は6727人。男女比は43.4対61.1。年齢階層比は30代35.9%、40代27.3%、20代17.2%など。
喫煙者全員に、“taspoカードの申し込み状況と意向”を尋ねたところ、「すでに申し込んだ」という人は17.7%と2割弱だった。「必ず申し込む」は18.4%、「たぶん申し込むと思う」は27.5%と、『申し込み意向がある人』は45.9%であった。一方、「たぶん申し込まない」15.1%、「申し込まない」14.6%と、『申し込み意向の無い人」は29.7%と3割であった。年齢階層別では歳を経るにつれて「すでに申し込んだ」人が増える一方、「必ず申し込む」「多分申し込む」の「これから申し込む」人が少なくなる傾向がある。さらにtaspo導入時期別で比べると、導入時期が遅い地域ほど「申し込んだ」人が多い。実際にtaspoカードが導入されて(時期を間近にして)カードがないと自販機で買えない事を実感し、「購入を決意する」「自販機での購入を止める」の両極端の意思決定をする人が増えるようであると考えられる。
すでに申し込んだ人、申し込み意向がある人にその“理由”を尋ねたところ、「いざ買いたいと思うときに買えないと困るから」が72.6%と圧倒的で、次いで「自販機で購入する事が多いから」53.3%、「とりあえず申し込んでおいた方が良いと思うから」21.5%と続いた。
「電子マネーで購入できるから」は8.0%と少数だった。
また、申し込み意向の無い人の、その“理由”については、「申し込みが面倒だから」45.0%、「taspo開始後は自販機以外で買う/買っているから」36.8%、「カードを持ち歩くのが嫌/面倒だから」36.8%、「カードに顔写真が載るのが嫌だから」35.1%、「住所などの個人情報を登録しなければならないから」33.7%と続いた。「カードを持ち歩くのが面倒」という人よりも「申し込みが面倒」という人の方が多くなっている。また、「taspo導入を機にタバコをやめようと思ってるから」が18.4%もあることから、taspoが喫煙者にすくなからぬ行動の変化をもたらしていることがわかる。未成年者へのたばこ供給リスクを無くすための制度が、成年喫煙者にも影響を及ぼす結果となっている。
また、“taspo導入後のタバコの買い方”を尋ねたところ、「今までと買い方は変わらなさそう」は43.7%と4割だったが、一方で「スーパー・コンビニなど、自販機以外で買う事が増えそう」30.8%、「スーパー・コンビニなどでまとめ買いをするようになりそう」21.4%と、『自販機離れ』を予想する人も4割と多い。「自販機での購入が増えそう」は3.1%と僅かであった。購入量全体は変わらず自販機での購入が減る。差分はスーパーやコンビニに回ることになる(5割強がその意志を持っている)。金額そのものは大きくないが来客数の増加という点では小売店、特にコンビニにとっては「taspo特需」が生じる可能性もある。この調査時にはすでに宮崎・鹿児島両県でtaspoが導入されており、導入地域のデータも抽出されている。母数が21人と少ないため参考値以上のものではないが、それによると「52.3%が導入後自動販売機ではまったく購入しなかった」と回答している。「減った」も合わせると実に「6割近くがtaspo導入で自販機離れを起こしている」。
taspoは未成年者のたばこ購入機会を無くすために導入されたものである。とはいえ導入前から指摘されていたように、たばこそのものの購入機会を面倒にすることで間接的にたばこ離れを後押しする意味合いもあったように思われる。taspo導入には費用や手間がかかるし、導入後は利用・購入される頻度も減るので採算が取れず撤去される自動販売機も増えてくる。少なくともこの調査結果を見る限り、表向きの思惑はもちろん、タバコ離れというもう一つの思惑もうまくいっているように見える。
また、自動販売機で購入していた人の何割かはコンビニエンスストアやスーパーなどに購入元を切り替える傾向がある。コンビニでたばこだけを買う人もいるだろうが、「せっかくだから」と他の商品を買う人も増えるだろう。こちらは今後、コンビニの月次報告などの数字に表れるであろう。
4、まとめ
taspo導入により、いったんは未成年喫煙者の数は減りそうである。しかしカードの貸し借りや、売買などが起こる可能性が十分にある。貸し借りに関しては、結局はtaspo所持者のモラルにかかっている。本来的には自販機がない環境が一番理想的であるけど、そうもいかないのが現実なのかなと思う。また今後自販機に世タバコの購入が減ることにより、自販機の売り上げが大きな割合を占めるタバコ屋などは、経営が困難となり、店じまいをしなくてはいけない状況がくるかもしれない。
参考 http://www.gamenews.ne.jp/archives/2008/05/3taspo.html
http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd110000.html