080619muraki

 

村木俊介 地域活性化に向けた足立区の大学誘致政策」

 

 

 

 

,足立区の現状

 

 足立区は東京23区で3番目の面積の広さ、5番目の人口の多さをもつ。よく貧困層の多い区として取り上げられるが、統計から見ても住民の外国人登録者が新宿区に次いで多く、就学援助対象児童・生徒数、被生活保護世帯数が他の区と比較すると非常に多いことが分かる[1]。外国人登録者については一概には言えないが、以上のことから貧困層が多い区だということは想像できる。これは昔からある傾向ではなく、安価で広い土地があり公営住宅が多いことなどで人が集まってきたことが要因としてある。今日、足立区では生活保護費に年間約340億円必要とするなど福祉需要が急増する構造のなか、税収が減少しているにも関わらず財政支出は増え続け、財政運営も改善していかなければならない。

 

 そんな中、区の主要課題として以下の四つの主要課題がある。

     経済、産業、雇用が停滞している

     生活における安全、安心上の課題がある

     教育の低水準、学習環境が不十分

     財政状況難

 

これらを是正するための将来展望が

     創業や改業による地域活性化を目指す

     人間の安全保障を進め、安全、安心な社会の確立を目指す

     文化と教育を高め、心の豊かさ誇りのある未来を目指す

     区の行財政の構造改革を進める[2]

と示されている。

 

 

2、調査の視点

 

前述の目的を達成するために様々な政策がとられている中、計画が次々と進んでいて区が特に力を入れているのが今回調べることになった「大学誘致」による地域の活性化、まちづくりである。今回は、「何故たて続けに大学を誘致して区は喜んでいるのか。」という疑問から始まり、区の望んだ通りに地域にとってメリットがあるのかと常に思いながらの調査だったので、主な問題点を「大学誘致という選択は正しいか。」ということで考えていく。

 

3、大学誘致への期待

 

 まず、大学を地域に誘致できたときに考えられる効果は、

     生涯学習の拠点として地域教育力の向上

     産官学連携による技術力の高い製品の開発、企業の育成、地域ブランド創出

     キャンパスを中心とした魅力的なまちづくり

     大学関係者の往来による周辺地域の活力の向上

などが挙げられ、これを目的として自治体が求める計画やイメージに合致する大学、学部を誘致するのが主な流れである。

 

 大学誘致政策の一例として、埼玉県幸手市の日本医療福祉大学についてみると、目的は高齢化社会を迎え医療、福祉分野における人材不足が特に地域社会で見られ、教育機関を設けることによる地域医療福祉の人材を地元から輩出できるという強みがひとつにある。次に地域外に流出していた進学希望者、潜在的な進学希望者に地元での就学機会が与えられ、教育水準の向上が望める点、若年層の定着による地域の活性化、飲食その他サービス業の学園産業や付属病院設置による医療産業が促され就業機会が拡大されるという社会的効果に加え、整備費等の建設投資による設置効果、学校関係者による消費効果、転入者増による税収効果といった経済的効果も見込まれている。ちなみに、大学誘致を考える上で必ず期待される消費効果だが、学生の定員を400人、自宅:下宿等を7:3、地元購買率を30%としてある式に当てはめて計算すると地域に直接投下される経費は年間約23600万円となる。これに教職員ら関係者を含めると約4億円の経済波及効果が考えられる[3]

 

 このように、地域のニーズに合った機関を設置することにより上手くいけば大きく、広い分野での利益がもたらされる。一方、誘致で予想される問題点は、大学への寄付金による財政への影響、地域と上手く連携できるのか、大学自体の経営は大丈夫なのかなどメリットばかりではない。よって全国的に有名な大学や特色ある教育を実施できる人気大学を誘致できればいいのだが、その他多くの大学を誘致するのは少なからずリスクを伴う。

 

 そもそも大学誘致は主に人口流出が問題になる地方自治体で行われてきたが学生が集まらず、近年大学キャンパスは都市部への回帰の傾向があり、その流れから地方だけの話しではなくなり都市部の自治体も少子高齢化による様々な影響を抑制し、さらに地域を活性化するための切り札として誘致を進めている。大学の持つ様々な機能を求める地域は多く、足立区もそのひとつである。

 

 

 

 4、足立の誘致政策

 

 これまで足立区には大学がひとつもなかったが、2006年に東京未来大学が開校し東京藝術大学の千住キャンパスができ、2010年には帝京科学大学が設置予定である。これらは全て足立区の南部、北千住駅近辺に集中しており以前から栄えていたこの地を中心に区外へアピールしていく意図がある。ちなみに設置される土地は3か所とも小中学校の跡地で、芸大については区が総工費20億円を負担し大学は区に年間使用料1350万円を支払うことになり、未来大とは建物等無償譲渡契約が交わされ大学側が中学校跡を改築した。予算面で言えば誘致の計画を進める段階で費用はかかっており今後の大学との連携事業でも資金投資は増えていくだろう。長い目で見れば区の収入が増えるかもしれない、しかしそれ以上に誘致の結果、地域に投下される資金効果や大学の持つ教育面での貢献や活気あるイメージを区は求めている。

 

 東京未来大学は心理、保育、幼児教育を学ぶ大学で、保育士や幼稚園教諭免許などが取得できる言わば子育て専門の大学。その専門性を今後地域にどう還元できるかが今、区議会等で議論されており、現在決まっている計画に「子育てカウンセラー」の派遣がある。これは現在区での子育てに関する相談は区内の「こども家庭支援センター」や保育園で行っているが、もっとどこでも気軽に子育ての専門家のアドバイスが欲しいという区民の要望に答えて、足立区公認の「子育てカウンセラー」の資格を発行し各地に派遣するといったもので、この資格を取得したい人を東京未来大学が一般募集し、カウンセリングや心理学などの育成講座を設け、40時間程度の授業を受け認定試験を受け合格すれば「子育てアドバイザー」となるといったもの。近年重要視される幼児教育から小中学校に通う子供についてまで、親にとっては心強い味方にあるだろう。

 

 また、すでに大学教授や区長、学生による教育シンポジウムが開催されたり、学生が地域の保育所でボランティアをするなど連携が始まっていて区の期待する大学機能による教育水準の向上やより良い子育てができる環境の整備に向かいつつある。

 

 東京藝術大学についてはまちづくりの一環としても機能していて、都心へのアクセスもよく、ある程度の集客力をもつ駅の近くにあり「芸術の街」として他にアピールしていく意欲が強く感じられる。まず駅前再開発の一環でできた「東京芸術センター」という地上22階のスタジオや劇場、映画館、映画人育成のための「黒澤明塾」の開校などの芸術施設からフィットネス、ハローワークといったものも含まれている。また、芸大キャンパスは足立リエゾンセンターという芸術施設内に入るかたちで、そこで区や地域産業と大学との連携が行われている。もうひとつ、駅前にできた「シアター1010」という劇場やアトリエなどの複合芸術施設もあり建物を見ると芸術の街に近付いている感じを受ける。

 

 このように、芸大の誘致によりキャンパスを中心としたまちづくりが行われてきた。学生は地域企業との共同事業として商品のデザインを委託されたりといった産業面での活躍や、地元商店街のシャッターや壁にペイントをしたり区の名所をモチーフにしたモニュメントづくりや彫刻をするなど街のイメージづくりにも貢献し、区との連携は積極的に行っている。具体的な経済効果はまだ分かっていないが、街の雰囲気や住民の感想を聞いても芸術の街には近づいているようだ。ただ整備は行っているものの、駅前はすでに商店街や建物で埋まっていてこれ以上芸術の街としての外観は期待できそうもなく施設はあるが中途半端なだけに終わってしまわないかが心配だ。

 

 

 5、まとめ

 

 調べる前までは地元に住んでいても大学についてほとんど話を聞かないくらいで、聞いたことのない学校だったので地域への貢献はあまりないだろうと思っていたが、区は積極的に産官学共同しての地域活性化を目指していたので意外だった。資料は少なく、実際に話を聞いてもまだ始まったばかりの計画なので深い内容は得られなかったため、印象が優先してしまうことが調べる上で残念だった。しかし、地方の議会にありがちなただ話題欲しさの誘致に終わらないと思わせる計画の数や大学側の協力の姿勢を見ると、今後のまちづくりの方法に注目したいと思う。以前と比べて大学は地域へ還元できる機能を積極的に押し出している。大学の持つ役割に地域貢献は欠かせないものになってきた。

 

 足立区の将来の展望における4つの項目で、誘致は直接的な解決策ではないかもしれないがこれらをひとつのつながった問題として教育面、経済面や区のイメージを改善していくきっかけにはなるだろう思う。現在は学生数も小規模で賑わっているとは言えないが、今後の予定にある定員の増加や新たな誘致計画が進んだときに区がどうなっているだろうか楽しみである。

 

 今度設置される帝京科学大学は区内初の理系、医療系の大学であり、区や地域との新たな連携が期待される。また、川沿いの地域への設置でこれもまちづくりの整備に利用するらしく、スーパー堤防計画や災害時の避難場所にするといった計画がある。問題点として挙げた「大学誘致は正しいか。」という問いは、調べた結果、区の弱点を補填しようとする目的には合った政策だと考えられ、実際起きている目立った問題が見受けられないので正しいと思う。しかし、都心には近いが遠くからわざわざ来たいと思う有名大学でもないので、区への転入による税収の向上は難しいだろう。その辺りの事は、大学自体の力や区の選考が重要になってくるのでしっかりした計画や予測をした上で政策の決定をしてほしい。



[1]

[2]足立区HP http://www.city.adachi.tokyo.jp

[3] 幸手市HP ()日本医療福祉大学設置について http://www.city.satte.lg.jp