裁判員制度の問題と必要性について考える
1H070196-5 柿澤和哉
1 はじめに
来年、平成21年5月21日から裁判員制度がスタートする。それもあってなのか、この制度をめぐっては、裁判員制度の開始が近づくにつれて、メディアなどで反対の意見が多くあがってきている。アメリカで行われている陪審制、ドイツなどで行われている参審制と似てはいるが、裁判員制度はそれらとは多少異なる制度だ。
なぜ裁判員制度は非難されるのか。裁判員制度とはいったいどんな制度なのか。裁判員制度の導入によって日本の裁判はどう変わっていくのか。以上の自分がふと感じた疑問を探り、裁判員制度の問題とそれが必要なのか考えていきたいと思う。
2 裁判員制度とは
まず、裁判員制度とはいったいどんな制度なのだろうか。裁判員制度は、2001年の司法制度改革審議会での、裁判をもっと国民にとって身近なものにしようという提言をうけ、2004年3月に裁判員法案が国会に提出され、5月に成立した。その裁判員制度とは、国民の中から選ばれた代表者が裁判員として裁判に参加して、有罪か無罪かの事実認定と、もし有罪であれば、その具体的な量刑を決めるものである。
裁判は3人の専門裁判官と6人の裁判員で行われ、裁判員は専門裁判官と対等の評決権をもっている。裁判員参加の対象となるのは、地方裁判所(第一審)で裁かれる刑事事件で、そのなかでも、殺人、傷害致死、強盗致死、危険運転致死といった重大な事件の裁判である。
では、それらの重大事件の裁判に参加することになる裁判員はいったいどうやって選ばれるのだろうか。
裁判員候補者は選挙人名簿から抽選で選ばれる。それは1年間に330人〜660人に一人の確率で選ばれ、その数はおよそ16万人〜31万人になる見込みだ。そしてその時候補者には、就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかどうかを調べる調査票が配布される。この時点で、明らかに裁判員になることができない者や、1年を通じて辞退事由が認められる者に関しては免除される。
そしてそれ以外者を対象に、1事件あたり50〜100人程度の候補者が選ばれる。そのくじで選ばれた裁判員候補者には質問票を同封した選任手続期日の呼出状が送られ、裁判員の参加を認められた者が選任手続の当日、裁判所へ行くことになる。そこで、裁判長は候補者に対し、不公平な裁判をするおそれの有無、辞退希望の有無・理由などについて質問をする。候補者のプライバシーを保護するため、この手続きは非公開となっている。
そして最終的にはその50〜100人の裁判員候補者の中から6人の裁判員が選ばれるというしくみになっている。国民が裁判員になる確率は4260人に一人の年間およそ25000人である。正当な事由なく裁判員を拒否することはできず、もし拒めば10万円以下の罰金が科せられる。
裁判員制度の特徴として、裁判の迅速化が挙げられる。これまでの刑事裁判での公判は、間をおいて行われるのが普通であった。例えば、各回の公判期日の間は2〜3週間であった。よって、公判回数が多くなればなるほど、第一審だけでも数年かかることになる。
その公判では、捜査段階で作られた大量の供述記録が提出され、裁判官はそれを綿密に検討する。しかし、裁判員制度の導入によってこれらのやり方は変わる。公判は連日で開かれ、たいていは長くても1週間から10日くらいのうちに終わることになっている。よって、従来に比べ、裁判の迅速化がおこなわれるのである。
<参考文献>
最高裁判所HP http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/index.html
週刊ダイヤモンド2008/5/24号 p67~72
3 裁判員制度の問題点
さて、上記で裁判員制度というものを簡単に述べたが、裁判員制度において問題点とされていることはいったい何であろうか。特に大きく挙げるとするならば、3つの問題があると思う。
まず、第一に、裁判員として裁判に参加するということは国民にとって負担であるという問題である。裁判員候補者には、ある日突然、裁判所から「あなたは裁判員候補者に選ばれましたよ。」と通知がくる。その本人がやりたくなかったとしても、あらかじめ決められている辞退事由の用件に満たない場合は免れることはできないのである。
そして第二に、法律に対して素人である裁判員が被告人の人生を左右するような判決に加わってよいのだろうか。裁判の内容が理解できるのか。そしてしっかりと事実認定がおこなえるのだろうか。といった問題である。
最後に、裁判員制度の導入による裁判の迅速化によって、被告人のしっかりとした裁判が害されないか、間違った判決が下されないか。といった問題である。連日の短い公判で、裁判員が膨大な量の記録を読むことはできないから、立証は公判での証言が中心になるようだ。そのために、裁判の質が低下し、誤判が生じ、無実の被告人が被害をうけるかもしれないという問題もある。
<参考文献>
岩波書店「世界」 p90~92
4 裁判員制度の問題点に対する対処とメリット
さて、裁判員制度に対する問題点を挙げてみたが、それらの問題に対する対処がしっかりとなされていると思う。むしろ、問題ではなく、メリットといえるものもあり、問題点と同時にメリットも含んでいるのである
まず、第一の国民に対する負担。実際、裁判員もしくは裁判員候補者に選ばれた場合、時間的にも労力的にも負担になってしまう。これはどうしても否定できない。この対応として、当日裁判員になることはなかった者には日当8000円以内、裁判員になった者には日当1万円以内が支払われることになっている。しかし、これらの手当てはあったとしても、仕事があるものにとっては面倒なことであることには変わりない。
最高裁判所がおこなった「裁判員制度に関する意識調査(インテージリサーチ・平成20年1月7日から2月4日にかけ、20歳以上の計1万500人を対象に全国で実施。)」によると、「参加したくない」と回答した人が37.6%、「あまり参加したくないが義務なら参加せざるをえない」と回答した人が44.8%とあまり気が進まない人が多い一方、「参加したい」、「参加してもよい」と答えた人が15.4%だった。これを見ても、裁判員に対する印象はあまりいいものではないようだ。しかし、とは言っても、この回答した人たちが裁判員をどういうものかわかっていて回答しているとは限らないので、あくまでフィーリングといったものも中にはあるだろう。そして何より、今まで裁判員制度なんてなかったため、この新しい制度快く受け入れるのは難しいと思う。今は、ただ負担だ。面倒だと思うかもしれないが、裁判員制度がスタートするにつれて、身近なものになるようになり、社会的にも理解が深まればこういった意見も少しは変わっていくのではないか。法律、裁判に対する理解が生まれ、その負担以上に得るものがあるのではないか。これらのことが、問題点を含むと同時にメリットであるのだと思う。
第二の問題も、第一の問題点と同時に含まれるメリットがあるのではないか。自分が実際に判決に加わることにより、裁判がどうやって行われるかを知り、判決をする側の感情を知る。難しい法律用語であっても、裁判員制度導入に向けて、素人でもわかるようにあえてその難解な用語は使わないなど、対応策もある。裁判員になることを通して、司法というもの身近なものに感じるのではないか。そして、判決に加わることに対しても、ある措置が取られている。裁判の評決は、裁判官3人、裁判員6人全員の一致で出すことが原則であるが、もしそうならなかった場合、それが被告人にとって不利になる評決を下すためには裁判官の1票が必ず必要なのである。こういう措置をとっていることで、全員が法律の知識がなく、感情に流されてしまい正しい判断ができない裁判員だったとしても、間違いが起こりにくいようにしているのである。
第三の裁判の迅速化による裁判の質の低下の問題点であるが、これにあたっては、あらかじめ争点と証拠を整理する目的で、公判前整理手続きが導入されている。そしてこれは、証拠開示制度を伴っている。これによって、弁護側は、検察側証人や被告人が捜査段階で語った内容を公判前に知ることができるようになった。それだけでなく、検察官が法廷に出さない証拠品や鑑定書も見ることができるようになったのだ。これは、裁判の質が低下するというよりも、むしろ、事実認定がよりしやすくなるのではないだろうか。
<参考文献>
岩波書店「世界」 p90~96
最高裁判所HP資料集
http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/08_04_01_isiki_tyousa.html
週刊ダイヤモンド2008/5/24号 p68~69
5 結論 裁判員制度は必要か
今の日本に裁判員制度が求められているかははっきりわからない。ただ、裁判員制度を導入することによって、裁判、法律が国民にとってより身近なものになり、それらに対してより理解を深めることができることは間違いないと思う。その点で、必要か必要じゃないか。というよりは、あったほうがいいものだと思う。素人が裁くなんて危険だと思うかもしれないが、裁判員が参加するのは第一審の裁判である。それが最終決定となるわけでもない。国民が参加するということで「あの犯罪者にこんな軽い刑罰なんて納得いかない!」と思っていたことが、少なからず裁判に影響し、今後の裁判の判決に対して従来よりも納得できるようになってはいかないだろうか。国民を裁判に参加させる制度はアメリカやヨーロッパにもある。日本は民主主義の国である。司法においても、国民が一体になって民意を反映させていくべきではないだろうか。