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井上惇「地域問題における住民と行政の利害関係 〜江戸川スーパー堤防〜」

 

 私が住んでいる江戸川区北小岩ではスーパー堤防の建設において、住民と行政がもめている状態である。今は以前と比べてその熱が冷めてきていると個人的には感じているが、と言っても地域としては一番ホットな話題なので調べてみることにした。

 

私がこの問題に興味を持った動機としては二つの理由があげられる。まず一つ目は上記の通り、住んでいる地域で一番ホットな話題であるからである。私の家の近所の家々には「スーパー堤防建設反対」や「税金の無駄使い」という旗が並んでいる。二つ目は私の姉がこの問題に関連している国土交通省に勤務しているからである。もちろん、姉の勤務する山梨県の甲府の事務所はこの問題に関係してはいないが、他の人と比べて身近に感じていたからである。

 

 まず、スーパー堤防について説明しなければならない。江戸川区のホームページによると、スーパー堤防は現在の堤防の高さの30倍程度の幅を緩やかに盛土し、どんな洪水がきてもこわれることのない堤防である。また、堤防の上をそのまま街として利用するのである。その特徴として、越水や浸透、地震に強い壊れない堤防であること、うるおいのあるまちづくりができること、土地の権利はそのままであることなどがあげられる。このなかのまちづくりとは、区画整理事業等の手法を用いて、都市計画道路の整備による交通環境の改善、細街路や密集市街地の解消、京成江戸川駅周辺の活性化のほか、液状化対策などの地域の課題解消を図るため、魅力ある防災性の高いまちづくりを進めるというものである。事業期間は未定、規模は55ヘクタール、1800棟、主体は国土交通省のスーパー堤防整備事業と江戸川区のまちづくり事業となっている。

 

次に、住民の立場からこの問題を考えてみようと思う。住民はこの問題に対してもちろん反対という立場にある。ここでいう住民とは昔から北小岩に住んでいる老人、地主、お寺の住職が多い。彼らはなぜ反対しているのだろうか?それにはいくつかの理由が考えられる。堤防の拡幅工事をすると1800棟、約6000人もの住民が移転しなければならないのである。移転の時期が長く続けば、老人にとっては精神的につらく、さらに、計画予定範囲外においても工事中の騒音・振動・ホコリの問題に悩まされる。また移転する場合、工事や区画整理に伴った宅地の減歩(げんぶ)が起こりうる。減歩とは、区画整理では新たに整備する公共用地(道路・公園など)として、各宅地から土地を少しずつ提供してもらうことになることをいう。例えば、これまでの江戸川区の事業では100平方メートル以下の土地に対しては減歩を行っておらず、100〜170平方メートルについては減歩を緩和し、170平方メートル以上は通常の減歩を行ったとされ、減歩なしや緩和された場合には、最後にお金で清算し、公平性を保つことになっている。また、補償があるとされているが、江戸川区にそんなお金があるのか?という不安がある。私が調べた中では正確な予算はわからなかったが、概算見通しとして1700億円という資料があった。ちなみに昭和63年度から平成18年度までの全国的なスーパー堤防への事業費は6311億円、進歩率は5,3%(数字は治水課都市河川室より)とある。また、計画予定地内にお寺が多く、普通の家に比べて移転が大変であることもある。私の家のすぐ近くにもお寺があり、ここには私の祖母や親戚のお墓もある。彼らはこのような理由から、「スーパー堤防・街づくりを考える会」という反対運動を推進するものが発足させている。そこでは、スーパー堤防・街づくりを考える会ニュースという会報の発行、各々の家に反対の旗を立てる、勉強会や意見交換会を行うといった活動をしている。

 

それでは、行政の立場から考えてみよう。「江戸川区は67万人が住み、地盤沈下の影響も加わり、満潮時には区面積の約7割が水面下となるゼロメートル地帯であり、区内全域が高潮による浸水被害の危険にあり、ひとたび堤防が決壊すれば、区のほぼ全域が水没、また江戸川の川沿いについては、地震の時に液状化しやすい地域と予測されている。そのため予測をはるかに上回る洪水や高潮の水害、地震が起こった場合、その被害を最小限に食い止めることが出来るように、丈夫で壊れないスーパー堤防整備を計画的に進める必要がある」と江戸川区は考えている。また、まちづくりに関して、京成線が通っているが朝のラッシュ時には、踏み切りが住民の批判を受けている。それを立体交差化する計画や、狭い道路を広げる計画などもあわせられている。江戸川区は平成22年度まで合意形成期間として定めて、何度でも話し合うとしている。では、スーパー堤防のメリットは何なのだろうか?まず、地震や洪水に強い地盤になることが考えられる。地盤の弱いところは地盤改良を施すため地震に強く、水があふれても斜面をゆるやかに流れるため壊れないとされている。また、堤防上をそのまま利用するため、眺望が開けることが考えられる。家の近くに堤防があれば、その高さから圧迫感を感じざるを得ないが、堤防の上を街として利用するスーパー堤防では開放感がある。

 

では、私が反対の立場にあるので、この計画の矛盾点や疑問点を考えていきたい。1.計画があるにも関わらず、計画予定地内に分譲住宅や老人ホームが建設されていること、2.国土交通省の「高規格堤防整備を実施する地区」には北小岩地区は含まれていないこと、3.すでに完成している平井7丁目のスーパー堤防ですら、0,7ヘクタール、73戸の範囲で最初の声かけから建物を除去し仮移転していただくまでに5年、地盤改良や盛土工事などを行い、スーパー堤防上に建物を再建し戻って頂くまで4年の合計9年を要しているのに、その80倍近い北小岩では単純計算で720年という、ありえない程の時間がかかってしまうこと、4.今までスーパー堤防の建設が行われていた場所というのは、人があまり住んでない地域(工場や公園があるところなど)で行われていたのに対し、北小岩は6000人もの住民がいる地域であるということ、5.江戸川には流量を制限する関宿水門というものがあるが、この水門は現在、老朽化のため機能を停止しているおり、この水門を修理したほうが予算は安いのではないのではないかということ、6.国土交通省がほとんど絡んでいないことがあげられる。1について、実際、私の家の前に長年あった駐車場も今は分譲住宅になってしまっている。建設には区の許可などが必要になるはずである。これには都市計画などが定まっていないことから、建築を規制する等の私権の制限をすることはできず、建物を建てられるご相談を受けた場合や、不動産業者や仲介業者には、現時点での北小岩地区のスーパー堤防とまちづくりの計画状況を伝えていると江戸川区はしている。だが、結局やる際には壊すのであるから無駄ではないだろうか。2について、江戸川区には「街づくり基本プラン」というものがあり、これによると北小岩地区は「緑豊かで閑静な住環境を将来にわたり保全する必要がある」となっている。国土交通省の計画ではこれを反映させている。さらに、江戸川においては右岸を重点的に強化するという。6について、国土交通省の計画地には含まれておらず、江戸川区とはコンタクトをとっていないとのことである。では、なぜ国土交通省が事業主体となっているのだろうか。これは江戸川区がまちづくりをしたいがためなのではないかと考えられる。区画整理方式では住民から土地を買収する必要がなく、減歩や土地の交換分合で建物の移転ができ、さらに国の税金でまかなうことができるのである。

 

 では、住民側には問題がないのだろうか。今回までで調べた範囲ではあまり見当たらないが、あげるとすれば、1.実際に見たことがない人が多いということ、2.直接関係する世代である若者はあまり興味がないことである。1について、実際に見て意見が変わるというものではないが、2年近く経つというのにやっと見に行くという計画ができたくらいである。2について、計画予定範囲には2つの自治会・町会がある。前者には地主が多く住むので反対する人も多いが、後者には若者や普通の老人が多く、そういう住民は補償が少ないにしろあるのなら引越しをしたほうがいいと思ったり、家よりすぐ使えるお金を優先したいといった、反対する人は前者に比べて少ないのである。反対の旗の数を比べてみても、後者の町会に入るとあまり見られない。

 

 私は今回のレポートにあたって、平井7丁目のスーパー堤防を見てきた。かれこれ3月から調べているが、実際に見たことがなかったからである。まず川沿いだが、やはり川まで開けており開放感があった。ここで私が驚いたことは、ここが堤防の上とは思えなかったことである。私は反対の立場にあったが、この完成度の高さには驚いた。しかし境目には財務省の官舎があるため、そこには手をつけられなかったのか、途中で切れており、5〜6メートルの高さの絶壁になっていた。これではもし越水した場合、逆に危険なところになるのではないだろうか。これで完成されているといえるのだろうか。

 

 この問題に別の解決方法はないのだろうか。私としては他の予算がかからない方法を使うべきなのではないかと思う。確かにまちづくりされたら便利になるとは思うが、例えば京成線の立体交差化に関しては私の親の代からすでに言われていることであるし、もはやまちづくりは必要ないとも思う。私は緑も住宅も適度にある今のまちに満足しているので、防災のためなら、前述の水門や、盛土だけではなく、コンクリート壁などとの複合的な堤防を建設したほうがいい。また、地域問題においてはお互いの相互理解が不可欠である。私が思うに、住民側がかたくなに否定しすぎである。たしかによく調査されているが、意見交換会というより、文句を言う会のように会報をみる限りは思ってしまう。今回、行政側のニュースを読んでみたが、住民側の批判に答えようとしていた。

 

 今回、前回と同じテーマということでさらに詰めなくてはいけないのだが、とても中途半端なものになってしまった。また、文章にするということの難しさを知った。次回は、おそらくテーマを変えてしまうが、時間をしっかりとってやりたい。

 

参考文献

   江戸川河川事務所 江戸川スーパー堤防

     http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/works/saigai/sonae/super/index.html

江戸川区 スーパー堤防とまちづくりのページ

https://www.city.edogawa.tokyo.jp/sec_ensen/index.html

   スーパー堤防・街づくりを考える会ニュース

     「スーパー堤防・街づくりを考える会」運営委員会作成