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羽鳥達郎「基礎年金の完全消費税化の是非」

 

.年金の構造

 

日本の年金制度は三階建ての構造になっていて、一階部分である国民年金には20歳以上、65歳以下の国民は強制的に加入することになっている。二階部分は厚生年金や共済年金に企業や組織が義務的に加入していて、サラリーマンや公務員は自動的に給料から保険料を支払はれている。三階部分は、一階部分と二階部分が強制的に加入させられる公的年金と呼ばれるのに対し、個人や企業が任意的に加入できる国民年金基金や確定拠出年金などがあり私的年金とよばれている。 これらの年金保険料をおさめた額に応じて受給額が上がっていく仕組みになっている。

 

 そこで国民から納付された保険料は年金積立金管理運用法人というところで運用され、増やして国民に還元していくとりうのが今の年金制度の構造である。

 

.年金に対する信頼の衰退

 

 近年、年金のことがこれだけ騒がれているのはひとえに国民の年金に対する不信感が強まっているからだろう。

 

まず問題となるのはずさんな管理体制だ。1997年に基礎年金番号を導入したことにあたり、過去のデータの統合、整理をしたところ約5000万件が統合、整理されていないことが判明している。年金記録のオンライン化の前は紙媒体による記録がおこなわれており膨大な紙の中からデータを探すのは難しく、またオンライン化へ移行した際にその記録をつなげるシステムを開発できず、基礎年金番号導入時も手紙による調査に返信した全体の一割程度のデータしか統合されていなかったのだから当然といえば当然だ。そしてデータを統合する作業にはアルバイトを雇いやらせていたが、中国人の派遣社員を雇ったことで氏名の書き写しにミスが生じていたこともわかっている。そんな適当なことをしているのだから日本人のアルバイトをやとっていても正確に記入されていない可能性も十分にかんじられる。現在、その消えた年金について調査をすすめているようだが、結局その調査にかかる莫大な費用はも年金や税金から使われていると考えると本末転倒である。

 

しかも問題なのは管理体制だけではない。タレントや政治家の年金未納問題が発覚し、個人情報の漏洩が判明したり、割高な物品購入や職員用のマッサージチェアーの購入などの年金の無駄遣い、45分働いたら15分休憩など社会保険庁の体質自体が問題となっていた。これらが判明したことに対し、社会保険庁の改革がおこなわれることになった。しかし、この改革の中には民間企業への業務委託がのべられているが、これは天下り先の確保や個人情報漏洩のリスクの増加といったことにつながり、完全な解決となっているとは考えがたい。

 

じゃあ社保庁の改革さえうまくいけばよいかというと、話は別だ。

 

厚生労働省の年金の流用に問題があるからである。たとえば年金加入者が利用できる保養施設としてグリーンピアというものを全国に作ったが、計画性なく無駄に資金を投入しグリーンピア自体赤字経営になり、なおかつ職員の天下り先になっているというまったくの無駄な政策を実施している。このように年金の流用に問題があるかぎりは、国民の年金に対する不信感は到底ぬぐうことはできないだろう。

 

.基礎年金の消費税化による一元化

 2007年7月の参議院議員選挙で自民党が惨敗し、民主党が第一党の座をてにいれたのは現在の年金制度への不信感と、民主党の年金改革案に魅力があったことにおおきく起因していると思われる。

 

 2では現在の年金制度に対する不信感というより、政府に対する不信感を書いたが、やはり制度的な問題点も存在する。

 

まず第一にいえるのは拠出原則を成立させる前提条件が整っていないところだ。拠出原則は健康で働き、所得を得ているということが徹底されていないといけない。それには雇用の維持が必要となるが、現在の日本は失業者がふえている状況で国民の完全雇用をうみだす事は不可能となっている。かといって失業や育児、介護に対する社会的保障は無いに等しく、失業や育児、介護という無償労働がマイナスとなり老後の貧困を招いてしまっている。例えばイギリスでは育児期間は拠出額を減らし、なおかつ満額で受給することができる家庭責任保全措置とよばれるものがある。このような制度はとりいれるべきであるし、取り入れられないならば制度から変えていかなければいけない。

 

第二に厳しい拠出原則による低年金者の増大である。現在の給付内容は貧弱で、基礎年金の満額でつきに6万5000円という生活保護の水準にも見劣りしている。さらにマクロ経済スライドの導入により最終的には満額で月に5万5000円程度になると見通しがたっている。このような状況では低年金者を増加させることになってしまう。

 

そこで出てくるのが基礎年金の消費税化である。

 

民主党案では一階部分である基礎年金を全額消費税の引き上げによりまかない、二階部分以上を所得により給付していくというものである。これによるメリットはいくつもある。

 

第一になんといっても年金の未納問題を解決できるということだろう。現在国民の年金の未納率は35%程度であるが、消費税でまかなうのであればすべての人が消費に応じて負担するために未納問題が起きることはなく、全ての国民が年金を受給することができるようになる。

 

第二に年金の調査における支出を減らせるということである。人口1億3000万人から年金を徴収し、その一生涯を記録、管理していくとなると組織は大きくならざるをえない。現在の社会保険庁の年間予算は約3000億円、職員数は約1万7000人となるがここまでコストをかけながら納付率が60%台に低迷している。しかし、消費税化すればコストは大幅に削減することができるし、年金記録問題のようなことも今後おきづらくなる。

 

第三に所得の多寡によらず定額をはらう現在より、低所得者の負担の割合が軽くなるというてんでは所得再分配機能もはたしている。

 

これだけメリットがあるのは事実だが、デメリットも多数存在する。

 

まずは労働インセンティブの問題である。現役時代の納付が0であっても老後に一定額をもらえるというのであれば、現役時により稼ごうという意欲がなくなり、消費もへり、経済の成長をさまたげることになり、ひいては年金会計の収支バランスの問題にもなる。

 

また、年金制度は現役世代から高齢者世代への所得分配であるわけだが、現役時代の納付という実績がない人たちのために働くのは理不尽だという世代間対立もおこる。これはもちろん現在もあるにはあるが、年金受給の資格と納付実績が結びつかないとなってくると国民は納得できずう顕在化していくだろう。

 

消費税化が正解であるとは一概には言えないが、今のままの年金制度ではやっていけないことはあきらかであり、年金制度の改革は必須となっていくが、現在の年金制度を改良していくか、または基礎年金の消費税化、足りない部分の匿名税財源による補填などいろいろな角度からかんがえていきたいとおもう。

 

 

参考HP

     社会保険庁HPhttp://www.sia.go.jp/

参考文献

     『年金問題の正しい考え方−福祉国家は持続可能か』著者:盛山和夫氏

     『日本の論点2008』文藝春秋