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小林ひとみ「就学生が考える生活空間と地域社会」

 

はじめに

私はここ数年,ボランティアや民間の日本語学校で,日本語を教える立場から外国人の日本語学習者に接してきた。大学に通う留学生や,地域のボランティア日本語教室に通うあらゆる立場(資格)の外国人など,彼らの在留資格はさまざまであるが,その中でも,日本語学校に通う学生(主に就学生)について,彼らの地域社会への関心と彼らが抱えている問題について考えてみようと思う。

 

1.栃木県在住外国人登録者のデータ

栃木県国際交流課の調べでは,平成1912月末現在の外国人登録者数は,前年に比べ1,252人増(増加率3.8%)の34,200人で,県人口に占める割合は1.70%である[]。また,平成16年度の統計では,在留資格別外国人登録者の中の留学・就学・研修を目的とした割合は全体の9%である[]。この資格の中で,大学生や専門学校生などを留学生,高校生や日本語学校生などを就学生,技術研修生などを研修生という。また,就学ではなく,聴講生として短期的に日本語学校へ通っている学習者の資格は,短期滞在,家族滞在,日本人の配偶者などさまざまである。

 

2.日常生活における地域社会への関心

このレポートでは,主に就学生に注目している。在県外国人総計を100%とした場合,上記の9%と非常に少ない割合の中の,さらに就学生という一部分に焦点を当てているので,私個人が知り得たデータでは,若干客観性に欠けるかもしれない。しかし対象者が「日本語を学習している」という条件のもとで私が関わってきた外国人は,日本語学校の学生,市(宇都宮,鹿沼,日光など)が支援しているボランティア日本語教室に来る人々(会社員,教師,高校生,日本人の配偶者など),日本語支援を受ける小学生,大学に通う留学生や研究生などさまざまで,また,焦点である就学生に関しては,他日本語学校の日本語教師の協力も得て意見を聞いてみた。

また,栃木県が平成16年に行った「在県外国人実態調査」(満20歳以上の外国人登録者1200人を無作為抽出。回収率は315件の26.3%である。)のデータがあるので,その一部を参考までに紹介する[]

<日常生活における,家族以外の人とのつきあいの程度>について

a.友達のようにつきあう日本人がいる(54.6%

b.挨拶する程度(22.9%

c.家族以外の人とのつきあいがない(7.3%

d.同じ国籍の人とだけのつきあい(4.8%etc.という順番だった。

この中で,注目したい箇所はbdで,a友達のようにつきあう日本人がいると答えた人が半数を占めている反面、挨拶する程度からほとんど付き合いがないと答えた人が全体の1/335%)を占めている。

<地域活動に参加したい人の要望>について[3つまで複数回答可]

a.身近な日本人と親しくつきあいたい(56.0%),

b.日本の文化や習慣を教えてもらいたい(53.0%

c.自分たちの国の文化を紹介したい(24.6%)

d.身近に住む同じ国籍の人と親しくつきあいたい(22.8%

e.祭などの地域の行事に参加したい(22.4%)etc.という順番だった。

ここでは全体の5割以上の人が,a.b.のように何らかの形で家族以外の人とかかわりたいと答えているが,d.の身近に住む同じ国籍の人と親しくつきあいたいという結果が約2割あることは注目すべき点かと思う。

 

3.学生の生活空間について考える

私は就学生と出会うことによって,これまで地域の日本語教室などで知り合った外国人とは少し異なる環境を持っていることに気がついた。もちろん,県内に住む外国人の在留資格や住む目的はさまざまであるが,1週間に12回の日本語教室に通う外国人と,日本語を学ぶために来日している就学生とでは,日本語を学習する立場が明らかに違う。就学生は,自国からある程度まとまったお金を準備して,日本での日本語学習に取り組む。その先にあるものは人によってさまざまだが,多くの学生が進学や資格取得,日本や母国の日本企業などでの就職を望んでいる。

県では,日本人と外国人が,互いに文化や考え方を理解・尊重し,安心して暮らすことのできる多文化が共生する地域づくりを推進することを基本施策にあげており,さまざまな取り組みがなされている[]。国際交流に関する各種イベントや,お祭り,日本語教室などがなじみのあるところだと思うが,このような地域に何らかの形で参加している外国人と日本人のつながりを見ていると,「楽しい。興味がある。満足感がある。」など,生活していることそのものに充実感があるように思える。

一方で,就学生はどちらかというと,小さなコミュニティの中でのみ生活している場合が多いような感じを受ける。特に,同じ国の学生が多数いる場合は特にその傾向が強い。もし,学校の中に同じ国の人がいない場合でも,その学校の中に友人を作る。もちろん,それは私たちにとっても同じことでごく自然のことであるが,では,そのさらに外に,日本人やあるいは同じ県民としての外国人との付き合いがあるかといえば,そうでもないようである。

国際交流の案内や地域の日本語教室などについて彼らに情報を提供しても,なかなか興味を示してくれる人はいない。これは,他の日本語学校においても同じような意見が聞かれた。

だからといって,ここで生活することに対する不満や問題の緊迫さは感じられない。むしろ,「宇都宮は好きだ。」「もっと長く居たい。」「東京やほかの所よりここがいい。」という声をよく聞く。話をしていてこちらが微笑ましくなるくらいである。逆に言うと,彼らが,自分たちのコミュニティを持っていることで,ほとんどすべて事足りていて,それ以外のかかわりに対して無頓着なのかもしれない。彼らにとっての一番の問題は,やはり生活そのものであり,家賃,生活費,学費などは死活問題である。もちろん,中には資金面でほとんど問題のない者もいるが,学生によってはアルバイトが中心となり,その資金調達と出費の追いかけっこが続いている状態である。

日本語が上手に話せなくても,うまく日本社会(アルバイト先)に溶け込んでいる学生もなかにはいる。彼らはやはり日本語の上達は早く,日本社会と自分の国の文化や習慣の違い,アイデンティティの違いを自分できちんと意識し理解しながら日本社会を受け入れている。しかし,大半はそうではない。生活の基盤が十分に安定していない中においては,自分の身を置けるコミュニティが一番重要であり,だからこそ,そこに安住(向上心なく,その状態に満足すること。[])してしまうのかもしれない。地域社会への興味の薄さはそこにあるのではないかと感じる。

ひとつ例を挙げると,多くの学生は携帯電話を持っているが,ある国の学生がある時一斉に某携帯電話会社に統一した。その会社内での通話が無料だったからだ。私は,「なるほど,賢い!」と,納得してしまった。

私は,いろいろな立場でここに暮らす人たちと接してきたが,地域のイベントに積極的に参加している外国人と接したとき,生活する上での物理的あるいは心理的な『余裕』のようなものを感じる。だからといって,就学生がそうではない,という訳ではない。

しかし,私はここでひとつだけどうしても考えたいことがある。いや,考えなければならないのかもしれない。県内においてこの数ヶ月の間に,2件外国人の大きなトラブルがあったことを知った。プライバシーの侵害を避けるためにも内容については言及しないが,外国人と日本人との間ではなく,外国人同士の問題である。その二つに共通する問題の延長線上には,お金があった。「犯罪」に場所は選ばないのかもしれない。当事者に日本人が関係していないから,私たちには関係のない彼らの問題だ,と言ってしまえばそれだけである。しかし,今の日本社会や経済の動向などを考えたとき,問題が起こる原因は決して私たちに無関係であるとはいえないと思う。

国際交流,多文化共生と謳う中で,少し異なる角度から彼ら(の背景)を見て,安心して『余裕』を持てるようなサポートができたらいいと思う。

以前,学生から何度か「どこに行ったらバスケットができますか。」「どこで誰と野球ができますか。」と聞かれたことがある。これは,一緒にスポーツをする人が自分たちのコミュニティであるかは関係がなく,誰とでもいいからスポーツをする環境が作れるか,その可能性があるか,という意味で尋ねてきた。とても素朴な質問であったが,彼らにとってはこのような場面が地域社会に関わるチャンスなのかもしれない。

 

おわりに

私はこのレポートを作成するに当たり,県の資料などから栃木県が国際化推進にとても力を入れていることを改めて知った。以前より国際交流・啓発事業・各種講座や研修などあらゆる方法を通して在住外国人と日本人とが,共生する地域づくりを実行していることはもちろん知っていたし,その取り組みがさらに持続・推進されていることは,県の活性化につながってとても良いことだと思う。しかし,結果的にはなかなか見えてこない就学生(全員とは言わないが)のような背景で生活している外国人がいることも事実である。2.で一部を紹介した実態調査では,さまざまな角度からかなり詳しくデータが集められ,分析されていた。ただ,データであるがゆえにどうしても,「全体の5割以上の人が・・・と回答しています。」「・・・と答えた人が最も多く,次いで・・・と答えた人が続きます。」というように,高数値のデータに焦点を当てて締めくくられている。私は今回,違った角度からこのデータをみた訳であるが,とても貴重な資料だと思った。

多文化共生への取り組みが進む中で,更なるアイディアを模索し,内面的に埋もれている人たちが地域にもっと関心を持ち,気軽に社会参加できるような,あるいは,参加したくなるような環境になることを期待したい。

 



[]栃木県国際課 外国人登録者数調査概要/栃木県 平成20220

http://www.pref.tochigi.jp/life/kokusai/toukei/gaiyou.html

[]栃木県国際課 とちぎ国際化推進プラン

http://www.pref.tochigi.jp/pref/keikaku/bumon/resources/kokusaika_all.pdf

[]在県外国人実態調査/栃木県 調査の概要(Wordファイル,24KB

http://www.pref.tochigi.jp/life/kokusai/toukei/resources/chosagaiyo.doc

[]栃木県国際課 とちぎ国際化推進プラン

http://www.pref.tochigi.jp/pref/keikaku/bumon/resources/kokusaika_all.pdf

[]『広辞苑 第六版』岩波書店2008