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中国における格差をめぐって〜農村と都市の現状〜
国際学部国際社会学科1年 山本夏子
1.はじめに
今日、日本ではよく所得格差や地域間での格差が話題になり格差の是正が叫ばれているが、現在急速に発展している中国でも日本のように格差が問題のひとつとなっているようだ。ではどのようなところで、どんな点が問題となっているのだろうか。私は特に中国の農村と都市の格差にスポットを当てて、格差の原因となる問題点や解決策を考えたい。
2.一人っ子政策
中国では人口抑制のために一組の夫婦間に一人の子どもしか出産することが許されないという「一人っ子政策」が有名だが、最近ではこの政策を無視することが中国の格差を浮き彫りにする現象の一つになっている。一般的に一人っ子政策に従わず、第二子以降も出産すると主に高い罰金を課す懲罰が与えられる。その罰金は都市住民の平均収入の3〜10倍とされているが、近年中国の経済発展と収入格差が拡大する中、都市では私営企業家や政府共産党の幹部などの高収入の富裕層が増え、罰金は富裕層にとってまったく負担にならないため、何人もの子供をもうける夫婦が増加しているのだ。このことには多くの民衆が不公平だと不満の声を上げているようだ。[i]
以上のことから分かるように、都市に住む一部の富裕層の人と、残りの大多数の一般住民には何人の子どもをもうけることができるかという点において不平等が生じている。現在では、罰金の金額を上げるだけでなく違反者の名前を公表し、世論を使って圧力をかけようとしているが、お金で物事を解決させようとする人たちにはたして効果があるのだろうかと私は考える。[ii]
3. 「都市戸籍」と「農村戸籍」
現在の日本でいう戸籍とは血縁や出生地を記録したものだが、中国の戸籍が持つ役割は日本のものとは大きく違っている。中国では地域間移動を政府が管理する手段になっているのだ。わかりやすく言い換えると、戸籍がパスポートやビザの役割を果たすのだ。例えば、四川省に住む中国人が北京に引っ越そうと思えば、北京市の許可を得て北京の戸籍をとらなければならないのだ。しかし戸籍の取得は決して容易ではなく、農村から都市への人口流動や職業選択の自由に対する実質的な制限となっている。また、農村戸籍者の4票をもって都市戸籍者の1票に等価することが「選挙法」に明記されている。つまり中国における戸籍は一種の「身分」としても機能しているのだ。
以上のような中国の戸籍制度の内容をみると差別的な内容も含まれているようにも見ることができ、戸籍制度を改善する方がよいという人もいるだろう。しかし戸籍制度を取り除くことで、出稼ぎ目的の民衆が大量に農村から都市へ流れ込み、都市の環境悪化や犯罪の増加が心配されているため、戸籍制度は現状のままにしておいた方がよいという意見もあるようだ。[iii]
4.三農問題
中国が抱える内政上の最大の問題は「農業・農村・農民」の「三農問題」と言われている。これも中国の格差問題を考える上で欠かせない点のようだ。日本ではあまり聞きなれない言葉なので詳しく紹介していきたい。
まず、中国には広大な土地があり、多くの国民がいるいることは周知の事実だが、それが原因となっているのが農業問題だ。中国は山地や砂漠などが相当な面積を占めており、農業に適した土地はかなり限られている。その上農村人口は全人口13億人の約6割ととても多いため農業就業者一人当たりの耕地は98年の段階で0.24haで、日本の場合の1.27haと比較しても耕地の狭さや人口の圧力が分かると思う。また政府は膨大な人口に対する食糧供給を主眼に置いてきたため生産過剰問題が起こり、その都度内陸部では出稼ぎ、沿海部では離農や兼業の拡大が進んでいった。
次に農村問題だが、これはインフラ整備や教育、所得の水準が著しく低いことが問題点としてあげられる。これは中国革命で都市の工業化を急いだため資金を農村から収奪してきたという歴史的事実に加えて、本来なら地方交付税などを通じた平準化が働くところ、そうした制度がないため不均衡は放置され、末端行政=農村にしわ寄せがくるといったざいせいにおける農村と都市の二重構造が原因だ。
最後に、3.「都市戸籍」と「農村戸籍」で紹介したように中国では戸籍が一種の「身分」として機能していることが農民問題といわれている。[iv]
これらの3つの大きな問題が三農問題の軸となっている。中国の長い歴史のなかで作り上げられてきた問題なので簡単には解決できないにしろ、早く改善しなければ日本も多くの品や量の輸入を頼っている中国の農業が不安定になり、共倒れになってしまうと考える。
5.考察
中国の格差の現状を調べていく上で、知らなかったことがとても多く、驚くことばかりだったが、特に目を引いたのが「都市戸籍」と「農村戸籍」の存在だ。日本でも地域間の一票の格差が問題となっているが、中国の「選挙法」に見られるように法律上国民の権利に差を設けることは人権の面で本来あってはならないことだと考える。戸籍制度を取り除くことで新たな問題が生まれることを懸念する人もいるが、「選挙法」における差別的な内容を撤廃するなど、平等な制度が作られない限り国民の不平等意識はさらに強まり、中国の今まで以上の発展は果たしてあるのだろうか、また経済発展など良い面ばかりを強調することで影に潜んでいる問題が忘れ去られ、将来取り返しのつかない事態に陥ってしまうのではないかと思う。日本でも格差拡大が叫ばれているが、中国の格差問題とは原因が異なるし、容易には解決できない大きな課題だ。しかしそのままにしておくとさらに格差は拡大し、取り返しのつかない事態になってしまうだろう。少しずつでも格差の是正を目標に着実な改善を望むと同時に自分の周囲にある格差や不平等なことを改めて見つめていきたい。