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矢口千尋「地球温暖化―アメリカの温室効果ガスへの取り組み」

 

1.       京都議定書とアメリカ

 

京都議定書とは気候変動枠組み条約に基づき、1997年に京都市で開かれた地球温暖化防止京都会議で議決されたもので、その内容は地球温暖化の原因となる温室効果ガスについて先進国における削減率を1990年を基準として各国別に定め、共同で約束期間内に目標を達成するというものである。

 

 しかしアメリカは京都議定書の批准を拒否した。大量の温室効果ガスを排出しているインドや中国が参加しないのは不公平だとか、自動車・電力業界などからの反対、ブッシュ大統領自身が石油資本寄りのの立場であることなどから離脱したと考えられている。つまりアメリカは環境保護よりも自国の経済に与える影響のほうが心配だったのである。

 

 2005年段階でブッシュ大統領は、拘束力のある排出削減目標ではなく、技術の進歩によって再生可能エネルギーをより発展させていくと主張していた。アメリカは今、地球温暖化問題をどのように捉えているのだろうか。

 

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参考文献

[1]Wikipedia 京都議定書

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8

[2]20050223日付デイリーニュース

 

2.       自動車業界

 

 自動車が排出する温室効果ガスは全米の総排出量の約3割で発電所に次ぎ2番目である。それゆえに温暖化対策は自動車対策抜きには進まないのである。

 

 まだ法的規制に反対する企業が多い中、規制の必要性は徐々に認識され始めている。自動車業界のトップらが、自動車の燃費規制強化をめぐる公聴会に出席し、そこで排出量の義務的削減を受け入れる考えを明らかにしたのだ。もちろんこのニュースは全米を駆け巡ることになった。

 

 企業が何故規制導入を受け入れるようになったかというと、国内での自社の優位性を保ちたかったからである。他の企業よりも早く温室効果ガスの排出削減に取り組むことで、消費者に自分たちが環境に対してきちんと取り組んでいるということを示し、また国レベルのでの規制制定前から取り組んでいたことで業界でリーダー的役割を果たすことができる。更には、その規制制定の際に強い発言力を持って自分の有利な方向に運べるかもしれないなどといった様々なメリットが挙げられる。

 

これらの企業が率先して温暖化対策に取り組んでいる理由としては、経済面を強化したいという戦略があったからである。後々に国レベルでの温室効果ガス排出規制の法案が作成される可能性が高いことが分かっているから、先を見据えて対策に取り組むことは企業にとっての一種の投資なのである。

 

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[3]自動車大国に規制の波 脱温暖化社会へ 変わるアメリカ・4

 http://www.asahi.com/special/070110/TKY200704210185.html#top

 

3.       州レベルの独自の取り組み

 

 ニューメキシコ州では2005年に温室効果ガスの排出削減に関する行政命令が出ている。またシアトル市(ワシントン州)においても温室効果ガスの排出量を2012年までに7%削減すると2006年に公表している。複数の州の取り組みとしては2005年にニューヨーク、バーモント、ニューハンプシャー、メイン、コネチカット、ニュージャージー、デラウエアの北東部の7州によるもので、2009年以降、発電所における二酸化炭素の排出量に上限を設けることを定めている。また今年にはメリーランド州も参加予定で、範囲は更に広がると見られている。

 

 ここで特に注目したいのがカリフォルニア州である。全州の中で2番目、世界規模で見ても12番目に排出量の多いところである。カリフォルニア州では連邦政府の定める排出ガス規制の基準を超えて、独自の基準を設ける権利を持っている。因みに他の州にはこの権利は認められていない。何故カリフォルニア州だけが権利を持っているかというと、連邦規制が制定される前から独自の自動車の排ガス規制が行われ、連邦政府より早く取り組んできたからである。

 

 またブッシュ大統領らが懸念していた経済への悪影響はというと、カリフォルニア州への経済全体への影響は、州の生産高は2030年で−0.1%とかなり小さい。しかも個人の収入は同時期で0.3%増加するという試算が出ていたり、雇用が増加するという社会面でのメリットもある。つまりカリフォルニア州の行っている規制は公衆衛生と環境だけでなく、経済や消費者にもよいものなのである。

 

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[4]加州における自動車から温室効果ガス排出規制に関する訴訟問題について

 http://www.greenpeace.or.jp/press/2005/20050325_html

 

4.       共和党と民主党

 

 去年の11月に行われた中間選挙で民主党が優勢になった。ブッシュ政権が行ってきたイラク戦争に国民の疑問が挙がってきたというのが共和党敗北の主な要因だが、民主党が主導権を確保した事により温暖化対策にも影響を与えると思われる。ブッシュ大統領の就任期間が終わる2009年に新たな大統領が就任する事で、温室効果ガスの排出削減に関する国レベルでの法案成立の動きが期待されている。また、ブッシュ大統領も民主党の圧力に屈してか、地球温暖化問題を深刻なことだと主張を転換させるようになった。

 

[5]取り組み広がるアメリカの温暖化対策

 http://www.ecologyexpress.com/trend/2006/20061213trend.htm

 

5.       国民の意識

 

 産業界や様々な州の温暖化対策への動きから、国民はどんな事を感じ取っているのだろうか。

 

 日本でも同様であるように、ガソリンの価格高騰を受け燃費のよい自動車を購入するようになった。また、先ほどのカリフォルニア州の世論調査によると、8割以上の人々が積極的な温室効果ガスの排出規制を望んでいるという結果が出た。

 

 政治面で見れば、保守的で共和党に投票する傾向にあったハンターや釣りの愛好者が今回の中間選挙で民主党支持に移った。環境問題に対してアメリカが他の国を引っ張っていくべきだと考えているからである。同様にして、共和党の主要な支持基盤を構成していた福音主義派キリスト教徒も積極的な温暖化対策を望んで民主党支持へ変わっていった。

 

6.       考察とこれから

 

 アメリカの国レベルでの取り組み自体はまだまだであるが、州や市の地域レベルや産業界、国民一人ひとりの考え方や意識が、利益のためという思惑が多少含まれようとも、変わりつつあるということがわかった。しかし国民らのモチベーションが上がってきているにもかかわらず、国が動かないというのは良くない。これからも世界のトップを走りたいのであれば、経済や工業の発展だけでなく地球環境保護にも積極的に取り組んでいくべきであると考える。インドや中国が参加しないのは不公平であるから自分たちも参加しないという言い訳は見苦しい。そもそも地球温暖化の主な原因を生み出してきたのは環境を省みずに工業発展ばかりに走ってしまった我々先進国に責任があるのではないのだろうか。今工業化を遂げてつつある途上国が昔の我々と同じように環境破壊を進めていいのかというともちろんそれは駄目だが、私たちに工業化を止める権利はない。だから先進国が良い手本を見せればよいのではないか。様々な温暖化対策を練りだし、一人ひとりが実践し、地球を守っていく努力をしなければならない。

 

 先月ドイツのハイリゲンダムで行われたG8サミットでは、目を見張るような進歩はなかったが、温室効果ガスの排出規制を拒んできたブッシュ大統領が方向転換を示唆した。ほんの少しずつしか変われなくとも、それが様々な変化を起こし、最後には大きな変化をもたらすことができると思う。今後の動向にも注目していきたいと思う。